金融商品取引法(金商法)とは?
ルールの概要・禁止行為・罰則などを
分かりやすく解説!

この記事のまとめ

「金融商品取引法」(金商法)とは、資本市場の公正を確保して投資家を保護するため、有価証券(株券や国債など)およびデリバティブ取引(先物取引など)に関するルールを定めた法律です。

金融商品取引法における規制は、
・上場会社の開示(ディスクロージャー)規制
金融商品取引業者に対する規制
不公正取引(インサイダー取引・相場操縦など)規制
3つに大別されます。違反した場合は刑事罰行政処分の対象となるので、規制の内容を正しく理解しておきましょう。

この記事では金融商品取引法について、ルールの概要・禁止行為・罰則などを分かりやすく解説します。

ヒー

金融商品に有価証券? なんだか難しそうな法律です…。企業にとって重要な法律なのでしょうか?

ムートン

上場会社の開示担当者や、証券会社などの金融商品取引業者にとって特に注意すべき法律ですが、インサイダー取引などは個人にも関係があります。以下、ルールの内容を解説していきます。

※この記事は、2022年12月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

金融商品取引法(金商法)とは

金融商品取引法」(金商法)とは、資本市場の公正を確保して投資家を保護するため、有価証券(株券や国債など)およびデリバティブ取引(先物取引など)に関するルールを定めた法律です。

金融商品取引法成立の背景・目的|横断的な投資者保護法制(投資サービス法制)

金融商品取引法は、前身となる証券取引法に、以下の各法律などを統廃合する形で2007年9月に施行されました。

・金融先物取引法
・外国証券業者に関する法律
・有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律
・抵当証券業の規制等に関する法律

金融商品取引法が施行される以前は、投資性のある金融商品が多様化する中で、各金融商品についてバラバラに法規制が行われていました。これらの法規制を一本化し、対象の範囲を拡大して、統一的な規制を設けることにより、横断的な投資者保護法制投資サービス法制)を確立するために、金融商品取引法が施行されたのです。

金融商品取引法の規制対象

金融商品取引法によって規制される対象は、「有価証券」と「デリバティブ取引」の2つに大別されます。

有価証券

有価証券とは、以下の証券、証書、権利を指します(金融商品取引法2条1項・2項)。金融商品取引法はこの有価証券の発行・流通および取引全般(売買、代理、媒介、助言、運用等)を対象としています。

有価証券

(1)以下の証券、証書(原則として、有価証券が発行されていないものおよび電子記録債権も含む)
・国債証券
・地方債証券
・特別の法律により法人の発行する債券
・資産の流動化に関する法律に基づく特定社債券
・社債券
・特別の法律により設立された法人の発行する出資証券
・協同組織金融機関の優先出資に関する法律に規定する優先出資証券
・資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券等
・株券、新株予約権証券
・投資信託または外国投資信託の受益証券
・投資法人の投資証券等
・貸付信託の受益証券
・特定目的信託の受益証券
・受益証券発行信託の受益証券
・法人が資金調達のために発行する約束手形のうち、内閣府令で定めるもの
・抵当証券
・外国または外国の者が発行する証券、証書のうち、上記の各証券、証書の性質を有するもの
・外国の者が発行する、貸付債権信託の受益権またはこれに類する権利を表示するもののうち、内閣府令で定めるもの
・オプションを表示する証券、証書
・上記各証券、証書の預託を受けた者が、発行国以外の国において発行する証券、証書で当該預託を受けた証券、証書に係る権利を表示するもの
・譲渡性預金の預金証書のうち、外国法人が発行するもの
・学校債権のうち、内閣府令で定める事項を表示するもの

(2)以下の権利(=みなし有価証券)
・信託受益権((1)の証券、証書に表示されるべきものを除く)
・外国の者に対する権利で、信託受益権の性質を有するもの((1)の証券、証書に表示されるべきものを除く)
・合同会社の社員権(合名会社・合資会社の社員権も一部対象)
・外国法人の社員権で、合同会社等の社員権の性質を有するもの
・集団投資スキーム持分
・外国の法令に基づく権利であって、集団投資スキーム持分に類するもの
・学校法人等に対する貸付けに係る債権のうち、内閣府令所定の要件を満たすもの

ヒー

有価証券に、みなし有価証券、いっぱいありますね…。

ムートン

一つずつ見ていく必要はありません。さまざまな種類の証券や権利がある、と理解しておきましょう。

デリバティブ取引

デリバティブ取引」とは、以下のいずれかに該当する取引をいいます(金融商品取引法2条21項・22項・23項)。

デリバティブ取引

・先物・先渡取引
・オプション取引
・スワップ取引
・クレジット・デリバティブ(CDS取引など)

なお、デリバティブ取引は以下の3つに分類されます。

デリバティブ取引の種類

(1)市場デリバティブ取引
金融商品市場において、市場開設者の定める基準・方法に従い行うデリバティブ取引

(2)店頭デリバティブ取引
金融商品市場・外国金融商品市場によらないで行うデリバティブ取引

(3)外国市場デリバティブ取引
外国金融商品市場において行う取引のうち、市場デリバティブ取引と類似のもの

ヒー

デリバティブ取引は、全然イメージが沸かないです…。

ムートン

デリバティブ取引も、専門的な知識が必要です。ここでは、「金融商品取引法」とは「有価証券」と「デリバティブ取引」の2つを対象とする法律、という理解だけで十分です。

金融商品取引法における規制の3つのポイント

金融商品取引法では、大きく分けて以下の3つの規制が設けられています。

①上場会社の開示(ディスクロージャー)規制
②金融商品取引業者の業規制
③不公正取引(インサイダー取引・相場操縦など)規制

ムートン

以下では、一つずつ詳細に解説していきます。

①上場会社の開示(ディスクロージャー)規制

金融商品取引法に基づく規制の1つ目の柱は、上場会社の開示ディスクロージャー)規制です

開示の対象となる書類

上場会社には、主に以下の書類の開示が義務付けられています。

上場会社が開示すべき書類

有価証券届出書
→募集(新規発行証券の取得勧誘)または売出し(既発行証券の取得勧誘)の対象とする有価証券については、募集・売出しを行う前に金融庁への届出が必要です(金融商品取引法4条・5条)。

目論見書
→有価証券の募集または売出しを行うに当たって作成し、事前または同時に勧誘先へ交付する必要があります(同法13条・15条)。

有価証券報告書
→有価証券の発行状況等に関する報告書を、事業年度ごとに金融庁へ提出する必要があります(同法24条)。

内部統制報告書
→財務計算書類等の適正性を確保するための体制整備に関する報告書を、事業年度ごとに金融庁へ提出する必要があります(同法24条の4の4)。

半期報告書
→有価証券の発行状況等に関して、有価証券報告書よりも簡易的な報告書を、6カ月ごとに金融庁へ提出する必要があります(同法24条の5第1項)。

臨時報告書
→有価証券の募集または売出しを外国で行う場合などには、臨時の報告書を金融庁へ提出する必要があります(同法24条の5第5項)。

自己株券買付状況報告書
→自己株式の取得などを決議した際に、買付状況に関する報告書を金融庁へ提出する必要があります(同法24条の6)。

親会社等状況報告書
→上場会社の親会社は、自社に関する株主の状況などに関する報告書を、事業年度ごとに金融庁へ提出する必要があります(同法24条の7)。

粉飾決算

有価証券報告書等に記載する財務諸表について虚偽記載を行った場合(粉飾決算)、行為者は有価証券の取得によって損害を被った人に対して損害賠償責任を負います(金融商品取引法24条の4)。

さらに、粉飾決算をした者は「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」に処されるほか(同法197条1項1号)、法人・団体にも「7億円以下の罰金」が科されます(同法207条1項1号)。

②金融商品取引業者に対する規制|販売・勧誘に関するルールと禁止行為

金融商品取引法に基づく規制の2つ目の柱は、金融商品取引業者に対する規制業規制)です

金融商品取引業者とは

金融商品取引業者」とは、以下のいずれかの行為を業として行う者を指します。

金融商品取引業に当たる行為

(1)第一種金融商品取引業
・有価証券(みなし有価証券を除く)の売買、媒介、取次ぎ、代理、募集、私募、売出し
・店頭デリバティブ取引またはその媒介、取次ぎ、代理
・有価証券の元引受け
など

(2)第二種金融商品取引業
・投資信託、集団投資スキーム持分の募集、私募
・みなし有価証券の売買、媒介、取次ぎ、代理
など

(3)投資助言・代理業
・投資判断に関する助言(投資顧問契約)
・投資顧問契約または投資一任契約の締結の代理、媒介

(4)投資運用業
・投資法人、投資信託の財産運用
・投資判断の一任を受けた上での資産運用(投資一任契約)
・集団投資スキームのアセットマネージャー業務

無登録での金融商品取引業は禁止

金融商品取引業に当たる業務を行うためには、当該業務について金融庁の登録を受けなければなりません(金融商品取引法29条)。

無登録で金融商品取引業を行った者には「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」が科され、または併科されます(同法197条の2第10号の4)。さらに、法人・団体に対しても「5億円以下の罰金」が科されます(同法207条1項2号)。

販売・勧誘に関するルール

有価証券またはデリバティブ取引について、金融商品取引業者が販売勧誘を行う際には、さまざまな行為規制が適用されます。主な行為規制の内容は、以下のとおりです。

・広告に関する規制
・契約締結前、契約締結時に書面を交付する義務
・不公正な勧誘行為の禁止
・適合性の原則
・損失補填の禁止

広告に関する規制

金融商品取引業者が広告を行う際には、法令で定められる事項を表示しなければなりません(金融商品取引法37条1項)。具体的には、金融商品取引業者の商号や登録番号のほか、損失リスクに関する事項などの表示が義務付けられています。

また、取引による利益の見込みなどにつき、著しく事実に相違する表示をし、または著しく人を誤認させるような表示をしてはなりません(同条2項)。

契約締結前・契約締結時に書面を交付する義務

金融商品取引業者が顧客との間で契約を締結する場合は、原則として契約締結前の段階で、法令で定められる事項を記載した書面交付しなければなりません(金融商品取引法37条の3)。

さらに、契約締結時にも書面を交付することが義務付けられています(同法37条の4)。

不公正な勧誘行為の禁止

金融商品取引業者は、顧客に対して不公正な方法を用いて契約の締結を勧誘してはなりません(金融商品取引法38条)。具体的には、以下のような方法を用いた勧誘が禁止されています。

・虚偽のことを告げる
・断定的判断を提供する
・信用格付業者以外の者が付与した信用格付を、必要な注意事項を告げないで提供する
・勧誘を求めていない顧客に対し、訪問しまたは電話をかける
・勧誘を受ける意思の有無を確認しない
・顧客が契約を締結しない意思を表示したにもかかわらず、勧誘を続ける
・正当な根拠を有しない価格情報等を提供する
など

適合性の原則

金融商品取引業者は、顧客の知識・経験・財産の状況・取引の目的に照らして、不適当と認められる勧誘を行ってはなりません(適合性の原則。金融商品取引法40条1号)。

例えば、投資未経験の人に対してあまりにもハイリスクの金融商品の取得を勧誘することは、適合性原則違反に当たります。

損失補填の禁止

投資助言・代理業または投資運用業を行う金融商品取引業者は、顧客に生じた損失補填することが禁止されます(金融商品取引法38条の2第2号・41条の2第5号・42条の2第6号)。

ただし、金融商品取引業者の責任によって生じた損害を賠償することは、金融商品取引法で禁止される損失補填に該当しません。

③不公正取引(インサイダー取引等)規制

金融商品取引法に基づく規制の3つ目の柱は、不公正取引(インサイダー取引等)規制です。具体的には、主に以下の行為が禁止されています。

・インサイダー取引
・相場操縦行為
・風説の流布等

インサイダー取引

会社に関する未公表の重要事実(または公開買付けの実施・中止に関する事実)を知った状態で、当該会社の株式を売買する行為等は「インサイダー取引」として禁止されています(金融商品取引法166条・167条)。
また、未公表の重要事実等を第三者に伝達する行為も禁止されています(同法167条の2)。

インサイダー取引規制に違反した者は、刑事罰課徴金納付命令の対象です。

相場操縦行為

有価証券の売買・デリバティブ取引の状況について他人に誤解を生じさせる目的、または相場価格のくぎ付け・固定・安定化の目的をもって取引やその申込みなどをすることは、相場操縦行為として禁止されています(金融商品取引法159条)。

例えば、約定させる気のない大量の注文(見せ板)を出す行為や、相場価格を維持するためにひたすら買い支える(または売り浴びせる)行為などが、相場操縦行為に当たります。

風説の流布等

有価証券の取引やデリバティブ取引などにつき、相場を変動させるために風説を流布し、偽計を用い、または暴行・脅迫をする行為は「風説の流布等」として禁止されています(金融商品取引法158条)。

例えば、インターネット上で根拠のない重要情報をみだりに投稿する行為などは、風説の流布に当たる可能性があります。

金融商品取引法に違反した場合の罰則(ペナルティ)

金融商品取引法に違反した場合、刑事罰業務改善命令等、または課徴金納付命令の対象になる可能性があります。

刑事罰

金融商品取引法違反の各行為をした場合、以下の刑事罰が科されるおそれがあります。

粉飾決算10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(同法197条1項1号)
※法人・団体にも7億円以下の罰金(同法207条1項1号)
無登録での金融商品取引業5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科(金融商品取引法197条の2第10号の4)
※法人・団体にも5億円以下の罰金(同法207条1項2号)
損失補填3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または併科(同法198条の3)
※法人・団体にも3億円以下の罰金(同法207条1項3号)
広告規制違反
契約締結前書面、契約締結時書面の交付義務違反
6カ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、または併科(同法205条10号~12号)
※法人・団体にも50万円以下の罰金(同法207条1項6号)
インサイダー取引等5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科(同法197条の2第13号~第15号)
※法人・団体にも5億円以下の罰金(同法207条1項2号)
相場操縦行為
風説の流布等
10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(同法197条1項)
※操縦等後の相場において取引を行った場合は10年以下の懲役および3000万円以下の罰金(同条2項)
※法人・団体にも7億円以下の罰金(同法207条1項1号)

業務改善命令等

金融庁は、金融商品取引法違反を犯した金融商品取引業者に対して、業務の改善に必要な措置を命じることができます(金融商品取引法51条)。

また、違反の態様が悪質な場合、金融庁は業務停止命令登録の取消しを行うことも可能です(同法52条)。

課徴金納付命令

開示書類の不提出や虚偽記載、インサイダー取引などの違反行為に関しては、金融庁から行為者に対して課徴金の納付が命じられることがあります(金融商品取引法172条以下)。

課徴金額は数億円から数百億円以上の巨額に及ぶケースもあり、違反を犯した事業者にとっては大打撃となる可能性が高いでしょう。

この記事のまとめ

金融商品取引法の記事は以上です。 最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!