【2025年4月等施行】
2024年の雇用保険法等改正とは?
改正内容や企業への影響などを
分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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2024年5月10日に「雇用保険法等の一部を改正する法律」が、同年6月5日には「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が、それぞれ国会で可決されました(前者は同年5月17日、後者は同年6月12日公布)。
今回の改正により、雇用保険制度は、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築、「人への投資」の強化等や共働き・共育ての推進等を目的として、以下の点が変更されました。
・雇用保険の適用拡大(2028年10月1日施行)
・教育訓練やリ・スキリング支援の充実(一部は2024年10月1日、2025年10月1日施行)
・育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保(一部は2024年5月17日)
・出生後休業支援給付の創設(2025年4月1日)
・育児時短就業給付の創設(2025年4月1日)
・その他雇用保険制度の見直し(一部は2024年5月17日施行)なお、施行日は、主に2025年4月1日が予定されていますが、制度ごとに若干差異があります。
この記事では、冒頭の改正法による各種制度改正のうち、雇用保険制度に係る改正部分について、分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年7月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
- 育児介護休業法施行規則…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則
目次
雇用保険制度とは
雇用保険制度は、雇用保険法(昭和49年法律第116号、昭和50年4月1日施行)に基づき発足した強制保険制度(労働者を雇用する事業は、原則として強制的に適用される)です。
数次にわたる改正を重ね、現在では、失業の予防、雇用状態の是正および雇用機会の増大、労働者の能力の開発および向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的として、失業・教育訓練・育児休業等の各種給付を実施するほか、雇用安定事業および能力開発事業を行っています。
雇用保険法をめぐる2024年改正の動き
2024年の雇用保険制度改正の動きとして、5月10日に「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第26号)が、6月5日には「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第47号)がそれぞれ国会で可決され、前者は同年5月17日、後者は同年6月12日に公布されました。
今回の雇用保険制度改正の趣旨は、以下のようにまとめることができます。
✅ 多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築
✅ 労働者の学び直しの支援(「人への投資」)強化等
✅ 共働き・共育ての推進等
雇用保険法等改正 | 子ども・子育て支援法等改正 |
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・雇用保険の適用範囲の拡大 ・教育訓練やリ・スキリング支援の充実 ・育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保等の措置 | ・こども未来戦略(令和5年12月22日閣議決定)の「加速化プラン」に盛り込まれた施策を着実に実行するため、共働き・共育ての推進に資する施策の実施に必要な措置 |
これには、女性や高齢者等の多様な人材の労働参加が進む中で、新型コロナウイルス感染症の影響等により、働くことに対する価値観やライフスタイルが多様になってきている状況の下、労働者がその希望と状況に応じて持てる能力を十分に発揮できるよう、多様な働き方を効果的に支え、労働者の主体的なキャリア形成を支援すること(令和6年法律第26号関係)、また、急速な少子化が進展する中で、社会全体で子育てを支援し、男女共に働きながら育児を担うことができる環境整備に向けて、特に男性の育児休業の取得促進や育児期を通じた柔軟な働き方を推進すること(令和6年法律第47号関係)が求められているという背景が存在します。
以下、それぞれの改正法の概要について解説します。
【2025年4月等施行】雇用保険法等改正法(令和6年法律第26号)の概要
多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネット構築、および「人への投資」強化等を目的とした本改正法の改正事項を大きく分けると、次の4つの項目となります。
1|雇用保険の適用拡大
2|教育訓練やリ・スキリング支援の充実
3|育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保
4|その他雇用保険制度の見直し
1|雇用保険の適用拡大について
現行法では、雇用保険法の適用対象となる労働者は、以下のいずれにも該当しない必要があり、一般被保険者となるには、1週間の所定労働時間が「20時間以上」で、同一の事業主に継続して31日以上雇用される見込みがあることが必要です(雇用保険法4条1項・6条1号・2号)。
(雇用保険の適用対象とならない労働者)
① 1週間の所定労働時間が20時間未満である者
② 同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
③ 季節的に雇用される者(短期雇用特例被保険者に該当する者を除く)であって、4カ月以内の期間を定めて雇用される者または1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者
④ 昼間学生
⑤ 船員であって、漁船に乗り組むため雇用される者(1年を通じて船員として雇用される者を除く)
⑥ 国、都道府県、市町村等に雇用される者
今回の改正では、労働者の中で働き方や生計維持の在り方が多様化し、雇用のセーフティネットを拡げる必要があるため、1週間の所定労働時間が「10時間以上」の労働者まで適用対象が拡大されました。
なお、1週間の所定労働時間とは、「通常の週(祝日、夏季休暇等の特別休暇を含まない週)」に勤務すべき時間をいい、1週間の所定労働時間が変動し、通常の週の所定労働時間が一とおりでないときは、加重平均により算定された時間とし、所定労働時間が1カ月の単位で定められている場合には、当該時間を12分の52で除した時間を1週間の所定労働時間とします。
また、上記改正に伴い、被保険者期間の算定基準(雇用保険法14条1項・3項。賃金の支払の基礎となった日数が「11日以上」から「6日以上」へ、賃金の支払の基礎となった労働時間数が「80時間以上」から「40時間以上」へそれぞれ変更)、失業認定基準(労働した場合であっても失業日として認定する基準として、1日の労働時間を、「4時間未満」から「2時間未満」へ変更)等の基準が現行水準の2分の1へ変更されます。
2028年10月1日より施行が予定されており、これにより、週の所定労働時間が10時間以上の労働者で新たに雇用保険法の適用対象となる労働者は、現行の被保険者と同様に、各種給付(基本手当、教育訓練給付、育児休業給付等)を受け取ることができるようになります。
2|教育訓練やリ・スキリング支援の充実について
労働者が安心して再就職活動を行えるようにしたり、労働者の主体的なリ・スキリング等に対する支援をより一層強化・推進したりする観点から、給付制限期間の見直しや、教育訓練給付の拡充が行われました。
なお、教育訓練給付とは、労働者の主体的な能力開発を支援するため、一定の要件を満たす教育訓練を受講し、修了した場合(一部は受講中も可能)に、その受講費用の一部を給付金として支給するものをいいます(雇用保険法60条の2)。
以下、改正された内容を個別に見ていきます。
①自己都合退職者の給付制限期間の短縮等
現行法では、自己都合により退職した者が失業給付(基本手当)を受給する場合、待期期間(7日間。雇用保険法21条)満了の翌日から原則2カ月間(5年以内に2回を超える場合は3カ月)の給付制限期間が設けられていますが、ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練等を受講した場合には、当該給付制限が解除されます(同法33条1項)。
今回の改正では、労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点等から、給付制限を解除する事由として、現行のものに加えて、離職日前1年以内、または、離職日後に、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を行った場合が追加されました。すなわち、退職前または退職後に教育訓練を受講した場合には、自己都合退職であっても、給付制限が行われなくなりました。
また、本改正に伴い、通達により、上記給付制限期間が「2カ月間」から「1カ月間」に短縮されました。
施行は、2025年4月1日からとされています。
②教育訓練給付金の給付率の引上げ等
現行法では、教育訓練給付金の額は、一定の教育訓練の受講のために支払った費用の額の20%以上70%以下の範囲内で定めるとされています(雇用保険法60条の2第4項)。
その内訳は、雇用保険法施行規則により、専門実践教育訓練(中長期的なキャリア形成に資する専門的かつ実践的な教育訓練講座を対象)を受けた場合の本体給付が50%、同訓練を受け、かつ、資格取得等をした場合には追加給付が20%とされ、また、特定一般教育訓練(速やかな再就職および早期のキャリア形成に資する教育訓練講座を対象)を受けた場合の本体給付が40%(追加給付はなし)とされています(雇用保険法施行規則101条の2の7)。
今回の改正では、教育訓練給付金の給付率の上限が「70%」から「80%」に引き上げられることとなりました。
その内訳は、雇用保険法施行規則の改正により、現行の給付に加えて、専門実践教育訓練を受け、かつ賃金が上昇した場合には、更に10%の追加給付を、また、特定一般教育訓練を受けて、資格を取得し、かつ、就職等した場合には、10%の追加給付を支給されるというものです。
施行は、2024年10月1日からとされています。
③教育訓練休暇給付金の創設
現行法では、労働者が、教育訓練に専念するために、自発的に休職などして仕事から離れる場合、その訓練期間中の生活費を支援する仕組みがありませんでした。
今回の改正では、労働者の主体的な能力開発(リ・スキリング)をより一層支援する観点から、離職者等を含め、労働者が生活費等への不安なく教育訓練に専念できるように、被保険者が教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、基本手当(失業保険)に相当する額の給付として、賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金が支給されることとなりました。
これにより、無給の休職(休暇)制度であっても、教育訓練休暇給付金が支給されることになるため、労働者のリ・スキリング促進のための制度設計が容易になるものと思われます。
対象者 | ・雇用保険被保険者 |
支給要件 | ・教育訓練のための休暇(無給)を取得すること ・被保険者期間が5年以上あること |
給付内容 | ・離職した場合に支給される基本手当の額と同じ ・給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかとする |
国庫負担 | ・給付に要する費用の1/4または1/40(基本手当と同じ) |
施行は、2025年10月1日からとされています。
3|育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保について
改正前の法律では、育児休業給付に関する国庫負担割合は、本来1/8であるところを(雇用保険法66条1項4号)、暫定措置として1/80とされていました(雇用保険法附則14条)。
また、現行の保険料率(雇用保険率のうち雇用保険法の規定による育児休業給付に要する費用に対応する部分の率)は0.4%とされていました。
今回の改正では、上記暫定措置を廃止して、国庫負担割合を現行の「1/80」から「1/8」に引き上げるとともに、当面の保険料率を現行の0.4%に据え置きつつ、今後の保険財政の悪化に備えて、本則料率を2025年度から0.5%に引き上げ、実際の料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整する(0.4%を維持する)ことができるようにされました。
施行は、国庫の負担割合に係る部分は2024年5月17日(公布日)、保険料率に係る部分は2025年4月1日からとされています。
4|その他雇用保険制度の見直しについて
現行法では、雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付(雇用機会が不足する地域における給付日数の延長)、教育訓練支援給付金は、2024年度末までの暫定措置とされていますが、今回の改正では、それらの暫定措置がいずれも2年間延長されます。ただし、教育訓練支援給付金の給付率は、基本手当日額の「80%」から「60%」に引き下げられました。
その他、介護休業給付に係る国庫負担割合を1/80とする暫定措置も2年間延長されています。
また、現行法では、就業促進手当として、就業手当、再就職手当、および就業促進定着手当が支給されており、就業促進定着手当は、基本手当支給残日数の40%相当額(再就職手当として支給残日数の70%が支給された場合は30%相当額)が上限とされています。
今回の改正では、支給実績が極めて少なく、人手不足の状況下においては安定した職業への就職を促進することが求められていることを踏まえ、就業手当は廃止されることになりました。また、人手不足が深刻化する中で賃金低下が見込まれる再就職にインセンティブを図る必要性が乏しい一方で、早期再就職を行った者への支援として一定の役割を果たしていることを踏まえ、就業促進定着手当自体は維持しつつ、その上限は一律に基本手当支給残日数の「20%」相当額に引き下げられました。
【2025年4月等施行】子ども・子育て支援法等改正法(令和6年法律第47号)の概要
こども未来戦略(令和5年12月22日閣議決定)の「加速化プラン」に盛り込まれた施策を着実に実行するため、子ども・子育て支援法等が改正されました。このうち、雇用保険制度に関する改正は次の2つの項目になります。
① 出生後休業支援給付の創設
② 育児時短就業給付の創設
出生後休業支援給付の創設|育児休業給付の手取りを実質10割に
現行法では、育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りで8割相当)、180日経過後は50%の育児休業給付(育児休業給付金および出生時育児休業給付金)が支給されるとされています(雇用保険法61条の7第6項)。
今回の改正では、若者世代が、希望どおりに結婚、妊娠・出産、子育てを選択できるようにしていくために共働き・共育てを推進する必要があり、特に男性の育児休業取得の更なる促進のため、子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が「14日以上」の育児休業を取得する場合には、「最大28日間」休業開始前賃金の13%相当額が「出生後休業支援給付金」として支給されることになり、現行の育児休業給付(67%)と併せて「給付率80%」へ引き上げられることとなりました。給付は非課税であり、育休中は一定の要件の下に社会保険料が免除されるため、「給付率80%」は、育休前の手取り額と比較しても、実質10割相当になります。
なお、配偶者が専業主婦(夫)である場合や、ひとり親家庭の場合などは、配偶者の育児休業の取得がなくても出生後休業支援給付金は支給(給付率の引上げ)されます。
施行は、2025年4月1日からとされています。
育児時短就業給付の創設|2歳までの育児時短勤務に給付金
現行法では、育児のために短時間勤務制度を選択し、その結果として賃金が低下した労働者に対する給付は行われていません。
今回の改正は、共働き・共育ての推進や、子の出生・育児休業後の労働者の育児とキャリア形成の両立支援の観点から、柔軟な働き方として時短勤務制度を選択できるようにするため、被保険者が2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合の新たな給付として、「育児時短就業給付」が創設されました。
育児時短就業給付の給付率は、休業するよりも時短勤務を、時短勤務よりも従前の所定労働時間で勤務することを推進する観点から、時短勤務中に支払われた賃金額の10%相当額とされています。
施行は、2025年4月1日からとされています。
施行日等
今回の各改正事項の施行日は、以下のとおりです。
施行日 | 改正内容 |
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公布日 (2024年5月17日) | ・育児休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の廃止 ・介護休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の令和8年度末までの継続 |
2024年10月1日 | ・教育訓練給付金の給付率引上げ(受講費用の最大70%→80%) |
2025年4月1日 | ・自己都合退職者が、教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除 ・就業促進手当の見直し(就業手当の廃止および就業促進定着手当の給付上限引下げ) ・育児休業給付に係る保険料率引上げ(0.4%→0.5%)および保険財政の状況に応じて保険料率引下げ(0.5%→0.4%)を可能とする弾力的な仕組みの導入 ・教育訓練支援給付金の給付率引下げ(基本手当の80%→60%)および当該暫定措置の令和8年度末までの継続 ・雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の令和8年度末までの継続 ・「出生後休業支援給付」・「育児時短就業給付」の創設(※1) ・子ども・子育て支援特別会計の創設(※1) ・高年齢雇用継続給付の給付率引下げ(15%→10%)(※2) |
2025年10月1日 | ・「教育訓練休暇給付金」の創設 |
2028年10月1日 | ・雇用保険の適用拡大(週所定労働時間「20時間以上」→「10時間以上」) |
(※2)雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)
参考元|厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律等の概要」
事業者の留意点|企業への影響と対応
今回の雇用保険制度の各種改正により、事業者は改正内容に適切に対応して、働き方の多様化等に応じていくことが求められていることから、各制度の施行日に注意しながら、準備を進めておくことが重要です。
特に、雇用保険の適用拡大については、2023年時点で週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者(パートタイマーやアルバイト等)の数は500万人以上いるとされています(総務省「労働力調査」)。
施行日までに更に増加することも想定されるため、施行前後は、人事労務担当者において、加入手続や求人票・労働条件通知書兼雇用契約書の雇用保険欄の記載の見直し、給付金の受給手続、離職票の発行などの事務手続が相当程度増加することが予想されます。
施行日(2028年10月)まではまだ一定期間あるものの、施行日前後で混乱しないよう、加入が想定される対象労働者の数やそれに応じた保険料負担の増加等を事前に調査・把握するとともに、社内整備を進めて準備しておく必要があります。
また、新設された出生後休業支援給付について、労働者から妊娠または出産等についての申出があった場合、現行の育児休業給付に加えて出生後休業支援給付に関する事項(給付金の支給要件等)も個別に周知し、育児休業の取得の有無や日数についてサポートすることが求められます(育児介護休業法21条1項、育児介護休業法施行規則69条の3第1項)。
参考文献
厚生労働省ウェブサイト「第202回労働政策審議会職業安定分科会資料」
こども家庭庁ウェブサイト「第5回 子ども・子育て支援等分科会」
こども家庭庁「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律の概要」
労働新聞社編『雇用保険制度の実務解説[改訂第12版]』(労働新聞社、2023年)