代理とは?
民法上のルール・法的効果・
代理権の逸脱と濫用などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

代理」とは、本人に代わって別の者が意思表示をし、その効果を本人に帰属させることをいいます。法律の規定に基づく「法定代理」と、本人の授権に基づく「任意代理」の2種類があります。

代理権の範囲内で本人のためになされた代理人の行為は、その効果が本人に帰属します。

その一方で、代理権の逸脱または濫用に当たる場合は「無権代理」となり、原則として本人が追認しなければ、本人にその効果が帰属しません。無権代理の場合は、無権代理人が相手方に対して債務を履行し、または損害を賠償する責任を負います。

ただし、無権代理について本人に何らかの帰責性がある場合は、「表見代理」によって本人に法律行為の効果が帰属することがあります。「代理権授与の表示による表見代理」「権限外の行為の表見代理」「代理権消滅後の表見代理」の3種類があり、重畳適用も認められています。

この記事では代理について、法的効果・代理権の逸脱と濫用・無権代理時の取り扱いなどを解説します。

ヒー

代理にも色々なパターンがあるのですね。

ムートン

そうです。代理行為は、代理人が行った法律行為の効果が本人に帰属するという、非常に強力な効果を持ちます。代理の種類、要件、効果など、この記事できちんと理解しましょう。

※この記事は、2023年6月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

民法上の代理とは

代理」とは、本人に代わって別の者が意思表示をし、その効果を本人に帰属させることをいいます

例えば、18歳未満の未成年者が何らかの契約を締結する際には、親権者の名前で契約書などにサインするのが一般的です。契約締結の意思表示をしたのは親権者ですが、契約の効果は未成年者本人に帰属します。これが「代理」です。

何らかの事情によって本人が意思表示できない場合や、本人以外の第三者が意思表示をした方が適切または便利な場合などに、代理が活用されることがあります。

代理には、「法定代理」と「任意代理」の2種類があります。

法定代理とは

法定代理とは、法律の規定に基づく代理です。法定代理人は、特に本人からの授権がなくても、法律の規定に基づき代理権を行使できます。

法定代理人の例は、以下のとおりです。

・親権者
・未成年後見人
・成年後見人
・保佐人
・補助人
・不在者財産管理人
・相続財産清算人
など

任意代理とは

任意代理とは、本人の授権に基づく代理です。任意代理人は、委任状を受け取る、委任契約書を締結するなどの方法によって、本人から代理権を授権されます。

任意代理の典型例は、弁護士などの専門家が本人に代わって事務を取り扱う場合です。弁護士などの専門家は、本人との間で委任契約書を締結し、その範囲内で本人のために意思表示等を行います。
また、本人から委任状を受け取った親族などが、本人に代わって行政上の手続き(届け出・申請など)を行うことも、任意代理の一種です。

復代理人とは

復代理人」とは、代理人が固有の権限によって選任した、本人の代理人です

復代理人は「代理人の代理人」ではなく、あくまでも本人の代理人として行動します。復代理人は権限内の行為について本人を代表し、その行為の効果は本人に直接帰属します(民法106条1項)
その一方で、本人は復代理人が選任されたことを知らないケースが多いです。

復代理人を選任できる要件と、復代理人の行為について代理人が負う責任は、法定代理人と任意代理人で以下のとおり異なります。

①法定代理人
自己の責任で自由に復代理人を選任できます(民法105条)。
法定代理人は復代理人の行為につき、本人に対して全面的に責任を負うのが原則です。ただし、やむを得ない事由によって復代理人を選任したときは、法定代理人は復代理人の選任・監督についての責任のみを負います。

②任意代理人
本人の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときに限り復代理人を選任できます(民法106条)。
任意代理人は復代理人の行為につき、本人に対して全面的に責任を負います。法定代理人とは異なり、やむを得ない事由がある場合の責任軽減は定められていません。

代理権の消滅事由

代理権は、以下のいずれかの事由によって消滅します(民法111条)。

  • 本人の死亡
  • 代理人の死亡
  • 代理人が破産手続開始の決定を受けたこと
  • 代理人が後見開始の審判を受けたこと
  • 委任の終了(任意代理に限る)

代理の法的効果|本人に法律行為の効果が帰属する

以下の要件を満たす代理人の意思表示は、本人に対して直接効力を生じます(民法99条1項)。

① 代理権の範囲内であること
② 意思表示の相手方に対して、本人のためにすることを示したこと(顕名〔けんめい〕といいます)

例えば、Xの代理人Aが、Yに対して「Xの代理人として、あなたに土地Lの売買契約の締結を申し込みます」と伝え、Yが承諾したとします。
この場合、土地Lに関する売買契約の締結が、XがYに対して授与した代理権の範囲内であれば、Xに売買契約の効果が帰属します。

なお、代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、原則として本人への効果帰属が認められず、代理人が自己のためにしたものとみなされます(民法100条本文)。ただし相手方が、代理人が本人のために意思表示をすることを知り、または知ることができたときは、例外的に本人への効果帰属が認められます(同条但し書き)。

代理権の範囲

代理人の法律行為によって本人に効果が帰属するのは、原則としてその法律行為が代理権の範囲内である場合のみです。代理権の範囲の決定方法は、法定代理と任意代理で異なります。

法定代理における代理権の範囲

法定代理人の代理権の範囲は、法律によって決まっています。

一例として、未成年者の法定代理人である親権者には、子の財産を管理し、かつその財産に関する法律行為について子を代表する権限が与えられている一方で(民法824条本文)、以下の制限が設けられています。

・親権者が子に許可した営業については、法定代理権の範囲外(民法6条1項)
・子の行為(労働など)を目的とする債務を生ずべき場合は、本人の同意が必要(民法824条但し書き)
・親権者と子の利益が相反する行為については、特別代理人の選任が必要(民法826条1項)
・子が第三者から無償で譲り受けた財産は、親権者の管理に属しない(民法830条1項)
など

任意代理における代理権の範囲

任意代理権の範囲は、本人の授権行為によって定められます。具体的には、委任状委任契約書の規定に従って任意代理権の範囲が決まります。

なお、権限の定めがない任意代理人は、以下の行為にのみをする権限を有します(民法103条)。

① 保存行為
② 代理の目的である物・権利の性質を変えない範囲内において、その利用・改良を目的とする行為

代理権の濫用と逸脱

代理による法律行為の本人への効果帰属が認められない場合には、代理権の「逸脱」と「濫用」の2パターンがあります。

ムートン

代理権の逸脱と濫用はいずれも「無権代理」であり、原則として本人に法律行為の効果が帰属しない一方で、無権代理人の責任が発生します。こちらについては後述します。

代理権の濫用とは

代理権の濫用とは、代理人が自己または第三者の利益を図る目的で、本人のためにすることを示した上で、代理権の範囲内で意思表示をすることをいいます。形式的には権限内の行為であるものの、その目的が不当であることから代理権の「濫用」と呼ばれています。

例えば、未成年者の法定代理人(親権者)が、未成年者の名義で第三者から金銭を借り入れることは、法定代理権の範囲内の行為です。しかし、借り入れた金銭を法定代理人が自分で費消する目的があった場合には、法定代理権の濫用に当たります。

代理権の逸脱とは

代理権の逸脱とは、代理人が本人のためにすることを示した上で、代理権の範囲外である意思表示をすることをいいます。例えば、不動産の所有権移転登記手続きを委任された代理人が、その不動産を第三者へ売却することは代理権の逸脱に当たります。

自己契約・双方代理・利益相反行為も、原則として代理権の逸脱に該当します(民法108条)。

① 自己契約
相手方の代理人として、自分との間でする法律行為(契約など)
※債務の履行および本人があらかじめ許諾した行為は認められる



② 双方代理
当事者双方の代理人としてする法律行為
※債務の履行および本人があらかじめ許諾した行為は認められる



③ 利益相反行為
自己契約・双方代理のほか、代理人と本人の利益が相反する行為
※本人があらかじめ許諾した行為は認められる

無権代理の場合の取り扱い

無権代理行為は、追認がない限り本人に対して効力を生じません。また、無権代理行為をした代理人は、その行為について法的責任を負います。

無権代理行為は、本人が追認しなければ無効

代理権がないにもかかわらず代理人として行った法律行為や、代理権の逸脱・濫用に当たる法律行為は「無権代理」であり、本人が追認しなければその効力を生じません(民法113条1項)

追認または追認拒絶の意思表示は、無権代理行為の相手方に対して行う必要があります。相手方以外の者に対する追認または追認拒絶は、原則として相手方に対抗できません(相手方がその事実を知った時を除く。同条2項)。

無権代理行為の相手方は、本人に対して相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうか確答すべき旨の催告ができます。期間内に確答がない場合、本人は無権代理行為の追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。

無権代理による契約を本人が追認しない間は、相手方がその契約を取り消すことができます。ただし、契約締結時において無権代理であることを相手方が知っていた場合は、例外的に契約取消しが認められません(民法115条)。

本人が追認した場合は有効|ただし第三者の利益を害することはできない

無権代理による契約が本人によって追認された場合、別段の意思表示がない限り、締結時に遡って契約が発効します。ただし、第三者の権利を害することはできません(民法116条)。

例えばXが所有する不動産Rについて、X代理人を称するAが無権代理により、Yとの間で売買契約を締結したとします。この売買契約をXが追認した場合、締結時に遡って売買契約が有効となり、Yが不動産Rの所有権を取得するのが原則です。

ただし、例えばXがYとの売買契約を追認するより前に、Zに対して不動産Rを売却していたとします。この場合、無権代理行為の追認によって第三者を害することはできないため、YはZに対して不動産Rの所有権取得を対抗できません。

無権代理人の責任

無権代理によって契約を締結した代理人は、その行為について、相手方の選択に従い以下のいずれかの責任を負います(民法117条1項)。

① 契約の履行
無権代理によって締結された契約上の債務を、相手方に対して履行します。

② 損害賠償
契約の効力が本人に帰属しないことにより、相手方に生じた損害を賠償します。

ただし以下のいずれかに該当する場合には、例外的に無権代理人の責任が発生しません。

  • 無権代理であることを相手方が知っていたとき
  • 無権代理であることを相手方が過失により知らなかったとき(自己に代理権がないことを無権代理人が知っていた場合を除く)
  • 無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき

表見代理が成立する場合がある

無権代理行為の効果は、追認がない限り本人に帰属しないのが原則です。ただし例外的に、「表見代理」によって本人への効果帰属が認められることがあります。

3種類の表見代理|重畳適用も可能

表見代理」とは、代理権の外観を信頼した第三者を保護するため、無権代理行為の法的効果を本人に効果帰属させることをいいます

民法上、以下の3種類の表見代理が認められています。複数の表見代理を重複して適用すること(=重畳適用)も可能です。

① 代理権授与の表示による表見代理(民法109条)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した場合、その代理権の範囲内において、表見代理が成立します。ただし、当該第三者が無権代理であることを知り、または過失により知らなかったときは表見代理が成立しません。

② 権限外の行為の表見代理(民法110条)
代理人が権限外の行為をした場合において、第三者が代理権ありと信ずべき正当な理由があるときは、表見代理が成立します。

③ 代理権消滅後の表見代理(民法112条)
他人に代理権を与えた場合、代理権の消滅後であっても、消滅の事実を知らなかった第三者との関係では、その代理権の範囲内において表見代理が成立します。ただし、当該第三者が過失によって代理権の消滅を知らなかったときは、表見代理が成立しません。

白紙委任状に関する表見代理が問題となった裁判例

最高裁昭和39年5月23日判決では、代理権の逸脱によって締結された不動産の売買契約につき、代理権授与の表示による表見代理の成否が問題となりました。

本件では、抵当権設定登記手続きの委任を目的として、代理人Aが不動産Rの所有者Xから白紙委任状(委任事項や受任者など一部の記載がなく決定を他人に任せる内容の委任状)の交付を受けました。
しかしAは、その白紙委任状を担保目的で、第三者であるBに交付しました。Bは白紙委任状を用いて、Y社のために不動産Rへ根抵当権を設定し、さらにBのY社に対する債務の不履行を停止条件とする、不動産Rの代物弁済契約を締結しました。

Xは、根抵当権の不存在確認および根抵当権設定登記・仮登記の抹消、ならびに代物弁済契約上の権利の不存在確認を求めて本訴を提起しました。

最高裁は、白紙委任状がX→A→Bと転々流通していることの異常性を指摘して、表見代理の成立を否定しました。

その一方で、本人から直接交付を受けた者が白紙委任状を濫用した場合や、誰が行使しても差し支えない趣旨で本人が白紙委任状を交付した場合には、代理権授与の表示による表見代理が成立し得ることを示唆しています。

代理権についてのまとめ

代理権について、特に重要なポイントをまとめます。

代理の基本的な法的効果
代理権の範囲内で、本人のためにすることを示して行った代理人の意思表示は、本人に対して直接効力を生じます。

② 法定代理と任意代理

 (a)法定代理
 法律の規定に基づく代理です。親権者や後見人・保佐人・補助人などが挙げられます。

 (b)任意代理
 本人の授権に基づく代理です。委任状や委任契約書などに基づいて発生します。

③ 復代理人
代理人が固有の権限によって選任した、本人の代理人です。「代理人の代理人」ではなく、あくまでも本人の代理人として行動します。復代理人の行為の効果は、本人に直接帰属します。

④ 代理権の範囲
法定代理権の範囲は、法律で決まっています。任意代理権の範囲は、委任状や委任契約書などに基づいて決まります。

⑤ 代理権の逸脱・濫用
現行民法では、代理権の逸脱・濫用については、いずれも無権代理が問題となります。無権代理行為は原則として、本人が追認しなければ無効ですが、表見代理が成立する場合もあります。

 (a)代理権の逸脱
 代理人が本人のためにすることを示した上で、代理権の範囲外である意思表示をすることをいいます。

 (b)代理権の濫用
 代理人が自己または第三者の利益を図る目的で、本人のためにすることを示した上で、代理権の範囲内で意思表示をすることをいいます。

ムートン

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