入社・出向・退職手続きに必要な契約書とは?
人事労務で必要な書類を解説!

この記事のまとめ

人事労務で必要な契約書を解説!

この記事では、従業員の入社から退職までに、どのような契約書類が必要となるかについて解説します。

※この記事は、2020年10月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

労務・人事の業務とは?

「労務」とは、企業において従業員が働く環境を整備する業務のことを言います。労務には、勤怠管理や、安全衛生管理、 就業規則などの社内規程の管理、給与計算など、様々な業務が含まれます。一方、「人事」とは、企業において人材を管理する 業務のことを言います。人事には、企業に必要な人材の採用や、従業員の育成・評価、人事異動などの業務が含まれます。

「労務」と「人事」とは企業で働く人に関する業務、という点で共通しており、厳密な区別はなく、企業によっては同じ部署で 「労務」と「人事」の両方が行われる場合もあります。

労務・人事とは?

・労務
企業において従業員が働く環境を整備する業務  
例│勤怠管理、安全衛生管理、就業規則などの社内規程の管理、給与計算など

・人事
企業において人材を管理する業務  
例│企業に必要な人材の採用、従業員の育成・評価、人事異動など

労務・人事で必要な契約書類とは?

労務や人事では、従業員との間で様々な書類を取り交わす必要があります。中には、法律上、必ず作成しなければならないと定められているものもあります。 ここでは、従業員の「入職」「出向」「解雇」「退職」の4つの段階で、 どういった契約書類が必要になるのかを説明していきます。

入社前に必要な契約書類

従業員が入職する時には、「雇用契約書兼労働条件通知書」、「入社時の誓約書」「就業規則」を準備しておく必要があります。 以下、それぞれ解説します。

雇用契約書兼労働条件通知書

従業員を雇い入れるためには、まず従業員との間で雇用契約を締結する必要があります。 雇用契約は、労働者が企業で働き、それに対して企業が労働者に賃金を払うことを労働者と企業とが合意することによって成立します(民法623条)。 雇用契約は企業と労働者との合意によって成立するため、法律上、必ずしも書面で雇用契約を締結する必要はありません。

しかしながら、従業員と労働者との間でそもそも雇用契約が締結されたのか、という点や、どういう条件で雇用契約が締結されたのか、 という点についてトラブルを避けるためには、労働条件などを明確に記載した雇用契約書を作成する必要があります。雇用契約書を作成して、 企業と労働者の双方が署名又は記名捺印を行うことで、企業と労働者との間で雇用契約が成立したことの証拠とすることができます。

次に、労働者を雇い入れるためには、労働者に対して労働条件を通知する必要があります。 労働条件を通知する際は、法律上、書面で通知しなければならない、と定められているため、 雇用契約とは異なり、原則として必ず労働者に対して、労働条件通知書を交付しなければなりません。 ただし、例外的に、労働者が希望した場合にはFAXや電子メールなどの方法で 通知することも認められています(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条4項)。

法律上、以下の事項に関して必ず労働者に通知しなければならない、と定められています(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項1号~4号)。

労働者に通知すべき事項

・労働契約の期間
・期間の定めのある労働契約で、期間満了後に契約を更新する場合があるときには、労働契約を更新する場合の基準に関する事項
・就業の場所
・従事する業務の内容
・始業及び終業の時間
・所定労働時間を超える労働の有無
・休憩時間、休日、休暇
・交代制勤務が発生する場合はそのルール
・賃金の決定方法・計算方法・支払方法・締切日・支払日
・昇給に関する事項
・退職に関する事項

なお、2024年4月1日以降は、改正により以下の事項が追加されます

2024年4月1日以降、労働者に通知すべき事項

・就業場所・業務の変更の範囲

有期雇用の労働者に対しては、以下の内容も明示する必要があります。

2024年4月1日以降、有期雇用労働者に通知すべき事項

・更新上限の有無と内容
・無期転換の申込機会(無期転換申込権が発生する更新のタイミングごと)
・無期転換後の労働条件(同上)

さらに、以下の事項に関しては、以下の事項に該当する定めをする場合には、必ず通知しなければなりません (労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項4号の2~11号)。

該当する定めをする場合に、労働者に通知すべき事項

・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定方法・計算方法・支払方法・支払日
・賞与や各種手当
・食費や作業用品について労働者の費用負担が発生するもの
・安全衛生に関するもの
・職業訓練に関するもの
・災害補償及び業務の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・休職に関する事項

また、パートタイム労働者に関しては、上記事項のほか、以下の事項についても書面等により、通知しなければなりません (労働基準法15条1項、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 (パートタイム労働法)6条1項、パートタイム労働法施行規則2条1項)。

パートタイム労働者に通知すべき事項

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・相談窓口の担当者の部署、役職、氏名

一般的に、雇用契約書には、労働条件通知書に記載される内容と同様の内容を記載することが多いため、 雇用契約書に労働条件通知書に記載しなければならない内容をすべて記載した上で、 労働条件通知書も兼ねるものとして、これを労働者に交付することが多いです。

入社時の誓約書

次に、従業員を雇い入れる際に、従業員に入社後に遵守してもらいたい事項について、誓約書を提出させる場合があります。 誓約書を提出させたからと言って、従業員が誓約書に記載している内容に違反した場合に直ちに解雇することができたり、 従業員に対して損害賠償を請求できたりする、というわけではありません。

しかしながら、企業と従業員の両当事者が誓約書に合意したことと、記載されている内容に社会的妥当性が認められる場合には、 誓約書は法的拘束力を有します。

また、企業としては、入社時に労働者に誓約書を提出させることで、労働者に遵守してもらいたい事項を認識してもらうことができるため、 トラブルの発生を防止するといったことも期待できます。

誓約書の内容としては、以下のような事項を記載することが考えられます。

誓約書に記載する事項

・就業規則を守ること
・秘密情報を保持すること
・企業の同意なく競業他社に就職したり、競業他社を設立したりしないこと

就業規則

就業規則とは賃金や労働時間などの一定の労働条件について事業場ごとに定めたもので、 常時10人以上の労働者を雇用している場合は、必ず、これを作成し、労働基準監督署に届出をしなければなりません(労働基準法89条)。

就業規則には以下の事項を必ず記載しなければなりません(労働基準法89条1号~3号)。

就業規則に定めるべき事項

・始業及び終業の時間
・休憩時間、休日、休暇
・交代制勤務が発生する場合はそのルール
・賃金の決定方法・計算方法・支払方法・締切日・支払日
・昇給に関する事項
・退職に関する事項

また、以下の事項は、以下の事項に該当する定めをする場合には、必ず定めなければなりません(労働基準法89条3号の2~10条)。

該当する定めをする場合に、就業規則に定めるべき事項

・退職手当に関する事項
・臨時の賃金、最低賃金に関する事項
・食費や作業用品について労働者の費用負担が発生するもの
・安全衛生に関するもの
・職業訓練に関するもの
・災害補償及び業務の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・労働者の全てに適用される定めに関する事項

さらに、就業規則は、必ず、以下のいずれかの方法で、従業員に周知させる必要があります(労働基準法106条1項、労働基準法施行規則52条の2)。

就業規則の周知方法

・常時作業場の見やすい場所に掲示、または備え付けること
・書面を労働者に交付すること
・磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

そこで、新たに従業員が入社する場合には、上記いずれかの方法で就業規則が周知されていることを案内し、内容を確認してもらうのが望ましいです。

出向に必要な契約書類

従業員を出向させる時には、「出向契約書」を作成します。以下、解説します。

出向とは?

「出向」とは、雇用する従業員を別の会社で働かせることを意味します。従前の雇用契約を維持するかどうかによって、「在籍出向」と「転籍出向」の2種類に大別されます。

在籍出向とは

「在籍出向」とは、従業員が元の会社との雇用関係を維持したまま、別の会社で働くことを意味します。雇用契約で出向があり得る旨が定められていて、その範囲内で合理的な必要性のある出向命令を受けた場合、従業員は原則として出向命令を拒否できません。

在籍出向は、一時的な人手の需要を満たすため、あるいは人件費を一時的に調整するために、協力関係又は資本関係がある会社の間で行われるケースが多いです。在籍出向の期間は1~2年程度が標準的で、出向終了後は元の会社に戻ることが予定されています。

在籍出向の場合、働く場所は変わるものの、従業員の雇用契約上の地位は維持されます。給料を出向元・出向先のどちらが払うかはケースバイケースですが、トータルでの待遇が引き下げられることは基本的にありません(待遇の引き下げには、従業員の同意が必要)。

なお、就業規則などの服務規程については、基本的には出向先のものに従うことになります。ただし、解雇などの雇用契約に関する事項については、雇用主である出向元の服務規程が適用されます。

転籍出向とは

「転籍出向」とは、従業員が元の会社との雇用関係を終了させたうえで、別の会社と新たに雇用契約を締結することを意味します。単に「転籍」と呼ばれることもあります。
在籍出向とは異なり、転籍出向は会社の一方的な命令によって行うことはできず、従業員の個別同意が必要です。

転籍出向は、人件費を減らしたいという転籍元の意向や、優秀な人材をヘッドハンティングしたいという転籍先の意向によって行われることがあります。また、転籍元が別会社を設立して新規事業を立ち上げる際に、転籍元から新会社へ従業員を転籍出向させるケースもあります。

転籍出向はいわゆる「完全移籍」であり、元の会社に戻ることはできません。したがって、従業員の雇用契約上の地位が変動することになります。転籍後の待遇についても、転籍先との雇用契約の内容に従って決まり、必ずしも従前の待遇が維持されるとは限りません。服務規程に関しても、転籍後は転籍先のものが全面的に適用されます。

出向契約書の交付が必要

在籍出向・転籍出向のいずれであっても、出向契約書を締結して、出向後の従業員の労働条件などを定める必要があります。

出向契約書には、労働基準法によって明示が義務付けられている事項を中心に記載します(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条)。

労働基準法上明示が義務付けられている労働条件

<書面により明示すべき事項>
✅ 労働契約の期間に関する事項
✅ 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
✅ 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
✅ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
✅ 賃金(退職手当・臨時に支払われる賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
✅ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

<その他の明示すべき事項(定めがある場合のみ、書面でなくても可)>
✅ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項
✅ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与・精勤手当・勤続手当・奨励加給・能率手当、最低賃金額に関する事項
✅ 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
✅ 安全及び衛生に関する事項
✅ 職業訓練に関する事項
✅ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
✅ 表彰及び制裁に関する事項
✅ 休職に関する事項

上記のうち、少なくとも「書面により明示すべき事項」については、出向契約書へ必ず明記しておきましょう。

なお在籍出向の場合は、従業員・出向元企業・出向先企業の三者間で出向契約書を締結するのが一般的です。
これに対して転籍出向の場合は、三者間で出向契約書を締結する場合のほか、従業員と出向元企業の間で退職合意書、従業員と出向先企業の間で雇用契約書をそれぞれ締結する場合もあります。

解雇に必要な契約書類

従業員を解雇する時には、「解雇予告通知書」「解雇理由通知書」を作成します。以下、解説します。

解雇とは?

解雇とは、 使用者が労働契約を一方的に解約することをいいます。 解雇は、従業員の生活に大きな影響を与えるものであるため、労働法上の制限がかけられて、従業員の保護が図られています。

たとえば、従業員が就業規則に定める解雇事由に該当し、従業員を解雇したい場合には、原則として、 解雇する従業員に対して、少なくとも30日前までに解雇の予告をするか、 30日分以上の平均賃金を支払うかしなければなりません(労働基準法20条1項)。
ただし、例外的に天災等のやむを得ない事由がある場合や、従業員の帰責事由によって解雇する場合には、解雇予告する必要はありません。

解雇予告通知書

解雇を予告する場合は、法律上書面でしなければならないとは定められていません。そのため、口頭で行うこともできます。  しかし、口頭で解雇予告を行うと、そもそもきちんと解雇予告をしたのかという点や、30日以上前に解雇予告をしたのか、 という点が不明確になり、争いが生じかねません。
労働基準法のルールに則り、30日以上前に、解雇する従業員に対して解雇予告をした、ということを証拠として残すためには、 従業員に対して解雇予告通知書を交付する必要があります。

解雇理由通知書

従業員に対して、解雇の予告をした場合において、従業員が、退職日までに解雇の理由を証明する書面を請求したときは、企業は、 従業員に対して、必ずこれを交付しなければなりません(労働基準法22条2項)。

解雇予告通知書と異なり、解雇理由通知書は、従業員から請求があった場合には必ず書面で交付する必要があります。
解雇理由通知書には、具体的にその従業員が行ったこと(解雇事由に該当する事実)が、就業規則の何条に定められている 解雇事由に該当するのかということを記載する必要があります。これにより、解雇が正当であることを証明することができます。

合意退職に必要な契約書類

従業員が合意退職する時には、「合意退職書」を作成します。以下、解説します。

合意退職とは?

退職には、合意退職と自己都合退職とがあります。
合意退職とは、従業員と企業の双方が、従業員が退職することについて合意することを言います。 これに対し、自己都合退職とは、従業員が一方的に企業に対して、退職の意思表示をすることで雇用契約を終了させること を言います。

企業が勤務態度や能力に問題のある従業員を退職させたいと考える場合、解雇するという方法もありますが、 従業員を解雇させると、後で解雇が有効かどうかをめぐってトラブルが生じる恐れがあります。合意退職は、 これを防ぐために、企業が従業員に対して、退職勧奨をして、従業員に退職することを合意してもらうといった形で行われることが多いです。

退職合意書

合意退職は、企業と従業員とが退職について合意するのみで成立し、法律上、書面を作成する必要はありません。 しかし、後で退職について合意があったかどうかや、債権債務をめぐって争いが生じることを防ぐためには、書面で、 退職について合意があったことと、両当事者の間に債権債務が存在しないことを書面に記載して、証拠とする必要があります。

まとめ

これまで述べてきた通り、労務や人事では従業員の理解を得るために、様々な書類を取り交わす必要があります。 特に解雇や賃金の支払などに関しては、従業員との間で争いになり、訴訟にまで発展する場合もあります。

入職から退職に至るまで、それぞれの段階できちんと従業員の理解を得て、書面に残しておくことで、トラブルの発生を未然に防止しましょう!