雇用契約書とは?
記載事項や労働条件通知書との違いを解説!

この記事のまとめ

雇用契約書の定義や労働条件通知書との違いなどについて解説!

雇用契約書とは「労働者と雇用主との間の労働契約の内容を明らかにするための契約書」です。

雇用契約書と並んで、労働契約に関する書類として、労働条件通知書があります。雇用契約書は法律上、作成が義務付けられているものではありません。一方で、労働条件通知書は労働基準法により、労働者に対する書面交付等が義務付けられています。

この記事では雇用契約書とは何か、どういった法的効力があるのか、労働条件通知書との違い、作成すべき理由などを解説します。

(※この記事は、2021年12月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

目次

雇用契約書とは

雇用契約書とは「労働者と雇用主との間の労働契約の内容を明らかにするための契約書」です。

給与賃金)、就業場所時間業務内容昇給退職などの労働条件に関する重要事項を取り決めて書面化し、企業側と労働者側の双方が署名押印(又は記名押印)をして締結します。

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「署名押印」と「記名押印」は何が違うのでしょうか?

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「署名押印」と「記名押印」の違いは、「本人が氏名を手書き(署名)して印鑑を押したのか」「手書き以外の方法で氏名を表示(記名)して印鑑を押したのか」になります。

署名は「本人が氏名を手書きすること」を指し、「記名」は「署名以外の方法で氏名を表示すること(例:パソコンで氏名等を入力など)」を指します。

雇用契約書と労働条件通知書との違い

雇用契約書は労働条件通知書と混同されるケースが多いです。

労働条件通知書は「雇用契約を結ぶ際に、”事業主側から労働者に通知する義務のある事項”が記載されている書類」です。

以下で、雇用契約書と労働条件通知書の違いを詳しく解説します。

法律上の作成義務があるかどうか

雇用契約書には法律上の作成義務がありませんが、労働条件通知書には作成義務・労働者に対する書面交付等の義務があります(労働基準法15条1項、同法施行規則5条4項)。

(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

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第5条 (略)
③法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、第1項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
④法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
(1) ファクシミリを利用してする送信の方法
(2) 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

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記載事項が決まっているかどうか

雇用契約書は、記載する事項について法令等で定められていません
一方、労働条件通知書は、労働基準法と同法施行規則によって記載すべき事項が定められています。よって、法令によって定められた事項の記載がない労働条件通知書は違法になります。

双方の署名押印(又は記名押印)が必要かどうか

雇用契約書は、企業側と労働者側の当事者双方が署名押印(又は記名押印)して締結します。
一方、労働条件通知書は、企業側が作成して労働者へ交付するもので、労働者側は署名押印(又は記名押印)しません。

雇用契約書・労働条件通知書の交付方法・タイミング

雇用契約書(労働条件通知書)はいつ発行?

雇用契約書は、雇入れよりも前のタイミングで締結するのが通常です。実務上は、内定を出した後に入社手続きを行う時か、または実際に入社する時に雇用契約書を締結するケースが多いと思われます。
雇入れ後に労働条件を確認するなどの目的で雇用契約書を締結するケースがありますが、労働条件の適用時点が不明確になるため、基本的には避けるべきでしょう。

これに対して労働条件通知書は、労働契約(雇用契約)の締結に際して交付することが義務付けられています(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条4項)。

雇入れ前に雇用契約書を締結する際には、その時に労働条件通知書を労働者へ交付しなければなりません。ただし、労働条件通知書に記載すべき事項が網羅されていれば、雇用契約書が労働条件通知書を兼ねるものとすることも可能です。

雇入れ時点では雇用契約書を作成しない場合は、雇用契約が成立した時点(=雇用について合意した時点)で労働条件通知書を労働者へ交付する必要があります。

雇用契約書は労働条件通知書を兼ねることができる

雇用契約書は、労働条件通知書を兼ねることが可能です。雇用契約書に「労働条件通知書に記載しなければならない事項」を網羅し労働者と締結すれば、労働条件通知書を交付したのと同じ扱いになります。

雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる場合は、原則書面」で作成して労働者へ交付する必要があります。

ただし労働者側が希望すればメール・SNSなどでの交付も可能です。その場合、印刷などによって書面として出力できるような形で交付する必要があります(労働基準法施行規則5条4項)。

雇用契約書に記載すべき事項

上でも述べたとおり、法令で記載すべき事項について定めがあるのは、「雇用契約書」ではなく「労働条件通知書」です。しかし、実務上、雇用契約書と労働条件通知書を兼ねるケースも多く、その場合には労働条件通知書に記載が求められる事項を、雇用契約書にも記載しなければなりません。

労働条件通知書には、どのような場合でも必ず明示・記載しなければならない「絶対的記載事項」と、企業が該当する制度を設けている場合には明示しなければならない「相対的記載事項」があります。

以下、労働条件通知書に記載が求められる事項について解説します。

絶対的記載事項

必ず記載しなければならない絶対的記載事項は、以下のとおりです。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所
  • 従事する業務の内容
  • 始業時刻と終業時刻
  • 交代制のルール(労働者を2つ以上のグループに分ける場合)
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 休憩時間、休日、休暇
  • 賃金の決定、計算、支払方法、締切日、支払日
  • 退職や解雇に関する規定

なお、2024年4月1日以降は、改正により以下の事項が追加されます

  • 就業場所・業務の変更の範囲

有期雇用の労働者に対しては以下の内容も明示する必要があります。

  • 更新上限の有無と内容
  • 無期転換の申込機会(無期転換申込権が発生する更新のタイミングごと)
  • 無期転換後の労働条件(同上)

また、パートタイムやアルバイトなどの短時間労働者については、以下の内容も明示する必要があります。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 雇用管理についての相談窓口の担当部署名・担当者名等

相対的記載事項

相対的記載事項は以下のとおりです。「相対的」となっていますが、該当する制度などを設けているのであれば必ず明示する必要があります

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定・計算・支払の方法
  • 退職手当の支払時期
  • 臨時に支払われる賃金、賞与、精勤手当、奨励加給、能率手当について
  • 最低賃金額
  • 労働者に負担させる食費、作業用品など
  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練制度
  • 災害補償・業務外の傷病扶助制度
  • 表彰や制裁の制度
  • 休職に関する事項

雇用契約書作成の4つのポイント

雇用契約書を作成するときには、以下の4点に注意しましょう。

  • 必要な記載事項の項目を網羅する
  • 労働時間制を検討し明示する
  • 転勤や人事異動、職種変更の有無を明確にする
  • 試用期間を明記する

必要な記載事項の項目を網羅する

雇用契約書と労働条件通知書を兼ねる場合、必ず「絶対的記載事項」を網羅しなければなりません。さらに、該当する制度が存在する場合には、「相対的記載事項」の明示も必須となります。ただし、「相対的記載事項」は書面による交付までは必要ありません。

契約書の内容と絶対的記載事項・相対的記載事項を照らし合わせて、抜けがないことを確認してから労働者と契約を締結しましょう。

労働時間制を検討し明示する

従業員を雇用するときには、さまざまな労働時間制を適用できます。通常の労働時間制以外に変形労働時間制フレックスタイム制裁量労働制みなし労働時間制固定残業制などを導入する際には、雇用契約書へ明示しておく必要があります。

なお法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて労働させる場合には、労働者側(労働組合など)と労使協定36協定)を締結して、労働基準監督署へ提出しなければなりません。

転勤や人事異動、職種変更の有無を明確にする

労働者を雇用したら、在職中に転勤人事異動職種変更などを必要とする状況が起こりうるものです。雇用契約書では、そういった可能性もあることを明示しておく方がよいでしょう。

就業規則に転勤や人事異動などの記載があっても、雇用契約書で明示していないといざ転勤命令を出そうとしたときに効果が認められないリスクが発生します。

試用期間を明記する

本採用する前に試用期間を導入するなら、労働契約書に試用期間についても明記しておくべきです。

試用期間であっても雇用契約が成立するので、自由に本採用を拒否できるわけではありません。ただ試用期間後の本採用拒否の要件は、本採用後の解雇よりも若干ゆるくなっています。取扱いが異なるので試用期間は明示しておくべきです。

なお、就業規則上に試用期間の定めがある場合、それより長い試用期間を定める雇用契約書の規定は無効となるほか、就業規則に定めがあっても、あまりに長い試用期間も無効と判断されるリスクが高いです。そのため試用期間は、就業規則の定める範囲内で、3~6か月程度までとするのがよいでしょう。

雇用契約書の法的効力

雇用契約書を締結すると、労働者側も企業側も契約内容に拘束されます。ただし雇用契約書の内容が労働基準法に違反する場合、その内容は無効です(労働基準法13条)。

例えば「事業者は労働者に1日8時間を超える労働を行わせても割増賃金を支払わないこととする」といった内容を定めても無効になります。

また、就業規則の労働条件を下回る内容の記載も無効となります(労働契約法12条)。

なお、労働条件通知書を兼ねる雇用契約書に記載した労働条件の内容と、実際の労働条件が異なっていた場合は、労働者はすぐに雇用契約を解除することができます(労働基準法15条2項)。

(労働条件の明示)
第15条 (略)
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

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雇用契約書の不備によって生じるトラブルの例

雇用契約書を適切に作成しなければ、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。

雇用契約の内容が不明確になり、労使紛争が複雑化する

雇用契約書を作成していない場合・合意した労働条件が漏れなく記載されていない場合には、雇用契約の内容について、労使間で意見の相違が発生してしまうおそれがあります。

万が一、残業代などを巡って労使間でトラブルが発生した場合、雇用契約書が適切に締結されていないことが、紛争を複雑化させる要因になりかねません。

雇用契約の内容が無効となり、不測の損失を被る

例えば就業規則では「試用期間は3か月」と定めているにもかかわらず、雇用契約書に「試用期間は8か月」と定めても、その内容は無効になります。

雇用契約書で定めた内容が無効になってしまうと、使用者側としては、予定していたよりも多くの人件費を要したり、人事の計画に狂いが生じてしまったりするおそれがあります。

雇用契約書に記載していなかったために転勤させられない

就業規則で「従業員は転勤に応じる必要がある」と規定していても、雇用契約書で就業場所を限定する旨の記載があると、企業側は従業員へ転勤を命じることができません

雇用契約書を電子化する場合の注意点

雇用契約書とは別に労働条件通知書を従業員に交付する場合、雇用契約書の電子化は自由にできます。

一方、雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる場合、雇用契約書を電子化するには「従業員側の希望」が必要です。

採用時に口頭で同意を得ても、後で「希望していない」といわれるとトラブルになるリスクが発生します。電子化するなら必ず「雇用契約書が労働基準法15条1項・労働基準法施行規則5条4項に定める労働条件の明示書面(労働条件通知書)を兼ねることを確認した上で、本契約書兼同明示書面の交付をメール送信にて受けることを希望します」という内容の条項を雇用契約書に盛り込んだりして、証拠を残しましょう

従業員のタイプ別、雇用契約書作成時の注意点

従業員のタイプ別に、雇用契約書作成時の注意点を解説します。

正社員の場合

正社員とは、期間を定めない無期雇用契約の従業員をいいます。

正社員の場合、在職中に転勤人事異動業務内容の変更が生じる可能性が高くなります。採用の際にもそういった可能性があることを従業員に説明して了承を得た上で、雇用契約書へ反映させるべきです。

例えば地方や海外への転勤可能性があることや配置転換によって、他業務を命じる可能性があることを明示しましょう。

契約社員の場合

契約社員とは、期間に定めのある有期雇用契約の従業員をいいます。

雇用契約書には必ず「契約期間」と「更新の有無」を記載しましょう。更新するなら、更新の条件も書き入れておくべきです。更新予定がない場合にも、「更新しない」ことを明らかにしましょう。

契約を更新したら、新しく雇用契約書を作成する必要があります。

パート、アルバイトの場合

パートアルバイト労働者の場合、パートタイム労働法6条に基づいて、昇給退職金賞与の有無も書面で明示しなければなりません。短期間労働者向けの相談窓口に関する事項も法定記載事項となっているので、抜け漏れがないように注意しましょう。

雇用契約書(労働条件通知書)に記載された条件を変更したい場合

雇用契約書(労働条件通知書)に記載された労働条件を変更するには、以下の手続きをとる必要があります。

①労働者にとって有利な労働条件の変更
労働者にとって有利な労働条件の変更は、就業規則の変更によっても可能です。就業規則で雇用契約を上回る水準の労働条件を定めれば、自動的に就業規則所定の労働条件が適用されます(労働契約法12条)。

②労働者にとって不利益な労働条件の変更
労働者にとって不利益に労働条件を変更する場合は、原則として労働者との間で変更内容を合意する必要があります(労働契約法8条)。労働者に対して変更の理由と必要性を伝え、変更について納得を得られるように説明を尽くしましょう。

ただし、就業規則の変更が以下の事情に照らして合理的である場合には、変更後の就業規則を労働者に周知させることを条件として、例外的に労働条件の不利益変更が認められます(労働契約法9条、10条。ただし雇用契約において、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分を除く)。

雇用契約書や労働条件通知書を作成しない場合の罰則やリスク

雇用契約書の作成は法律上の義務ではないため、作成しなくても罰則はありません。

しかし、作成しないと労働者と企業側とのルールが明示されないので、後々にトラブルにつながるリスクが高まります。例えば業務内容や人事異動、昇給などについて、労働者が「採用時の説明と違う」といい出したとき、雇用契約書を作成していなかったためにトラブルが拡大するケースも考えられます。雇用契約書が作成されていれば、雇用契約書に基づいて解決ができるようになります。

労働条件通知書については作成と交付が義務付けられているので、定められた記載事項を書いて交付しないと30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。

雇用契約書のひな形(テンプレート)を利用する場合の注意点

雇用契約書を作成するとき「ひな形」や「テンプレート」を利用する企業もあるでしょう。しかし「ひな形」はあくまで一般的なものであり、そのまま適用すると問題が生じる可能性があります。ひな形を用いる場合でも、自社の状況や個々の雇用契約の内容に合わせて、法的な観点から修正を加えましょう。

実態に合わずトラブル解決の指針にならない

一般的な雇用契約書のひな形は、原則的な労働時間制度を適用する正社員を前提にしているものが多数となっています。そのため、フレックスタイム制固定残業制事業場外のみなし労働時間制などの他の労働時間制度を適用する場合にはアレンジしなければなりません。契約社員パートタイム労働者の場合、正社員用のひな形を適用すると必要な記載事項を漏らして違法となってしまう可能性もあります。

ひな形を利用するとしても、そのまま適用せずに自社や労働者の雇用形態に応じたものに修正して利用しましょう。

在宅勤務を認める従業員の場合

新型コロナウイルス感染症対策のために在宅勤務を導入する企業も増えています。在宅勤務を認める場合には、出社を前提とした「ひな形」を適用すると実態に適さないものとなる可能性が高いので、修正しなければなりません。

例えば就業場所としては、事業所のほかに「自宅」を認める必要がありますし、フレックスタイム制や事業場外のみなし労働時間制などの労働時間制を導入すべきケースもよくあります。

また以下のような項目を記載する必要があるでしょう。

  • 在宅勤務中の通信費や文房具などの費用負担
  • 在宅勤務者に出社を命じる可能性があるかどうか、ある場合には条件や交通費の負担 など

管理監督者の場合

中途採用などで管理職と雇用契約を締結するケースも考えられます。管理職が労働基準法上の「管理監督者」となる場合、通常一般のひな形を直接適用すると不都合が生じる可能性が高いので、アレンジしましょう。

例えば始業時刻や終業時刻、休憩時間等については、本人の裁量に委ねなければなりません。裁量の認められない労働者は、労働基準法の「管理監督者」と認められない可能性が高いからです。また管理監督者というためには、権限や義務内容に見合うだけの賃金を支給しなければなりません。

労働基準法上の管理監督者には、時間外労働や休日労働の割増賃金をはじめとして、労働時間の条件・休憩・休日に関するルールが適用されないので、その旨も明らかにしておきましょう。

この記事のまとめ

雇用契約書の記事は以上です。 最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

厚生労働省 「労働基準法施⾏規則」改正のお知らせ