就業規則とは?
労働基準法のルール・
変更の手続きなどを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

就業規則」とは、賃金・労働時間などの労働条件や、職場内の規律などについて定めた規則集です。

就業規則は、対象となる労働者に一律に適用されるため、労働者保護の観点から労働基準法でさまざまな規定がおかれています。

この記事では、
・労働基準法に定められているルール
・就業規則を定めたり変更したりする際の手続き
・就業規則に定めるべき事項
などを、詳しく解説します。

ヒー

就業規則の変更をしなければならないのですが、どのように進めたらいいのでしょうか。

ムートン

就業規則を変更する際の手続きは、労働基準法で定められています。この記事で分かりやすく解説していきますね。

※この記事は、2023年2月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・労基法…労働基準法
・労基法規則…労働基準法施行規則

就業規則とは|労働基準法のルールを踏まえ分かりやすく解説!

就業規則」とは、賃金・労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などについて定めた規則集であり、社内規程の一種です。

就業規則は、使用者側(企業側)が定めるものですが、使用者側に有利なかたちで一方的に定めることができないよう、労基法89条から93条で、就業規則で定めるべき事項、作成手続きや効力などが定められています。

就業規則の効力

「就業規則」は、使用者側が定めるものですが、労働者の権利を不当に制限するものであってはなりません。

そこで、就業規則では、

  • 法令
  • 対象となる事業場に適用される「労働協約」

に反する内容を定めることはできません。(労基法92条1項)

ヒー

反する内容って、例えばどんなものがありますか?

ムートン

「1日の労働時間を10時間」と定めることが挙げられますね。労基法では、一日の労働時間を原則8時間として上限を定めているので、例外として認められる場合を除き、これに反する内容は無効です。

(法令及び労働協約との関係)
第92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 (略)

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法令」には、法律だけでなく、政令や省令も含みます。労働者の権利を守るために労働条件の最低基準を定めている労基法がその中心となります。

労働協約」とは、使用者と労働組合の間で書面により結ばれる、労働条件などに関する取り決めをいいます。(労働組合法14条)一般的に、使用者と労働者個人では対等な交渉ができず、使用者有利の労働条件になる可能性が高いです。こうした事態を防止するため、労働組合法は、労働組合が使用者と対等に交渉を行い、労働協約で正当な労働条件を定められるよう配慮しています。

ムートン

このように、法令や労働協約には、労働者の権利を守るための規定が設けられていることから、労基法で、就業規則はこれらの規定に反してはならないとすることで労働者の保護を図っています。

就業規則のうち、法令や労働協約に反した部分は、無効となります。

他方で、使用者と労働者個人で結ばれる労働契約で、就業規則よりも不利な労働条件が定められる場合もあります。

そこで、そのような不利な労働条件から労働者を守るため、労働契約で就業規則に定める基準に達しない労働条件が定められた場合、その労働条件は無効とし、無効となった部分は就業規則に定める基準が適用されます。(労基法93条、労働契約法12条)

その結果、労働者には、就業規則に定められる基準以上の労働条件が保証されることとなります。

<労働基準法>
(労働契約との関係)
第92条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成19年法律第128号)第12条の定めるところによる。

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<労働契約法>
(就業規則違反の労働契約)
第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

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【就業規則と法令・労働協約・労働契約の適用関係まとめ】

就業規則が必要な会社(作成義務を負う者)

労基法により、常時10人以上の労働者を使用している事業場では、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません。(労基法89条)

届け出先は、所轄労働基準監督署です。

(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(1)~(10) (略)

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常時」とは、「常態として」を意味し、一時的に10人未満となることがあっても、常態として10人以上の労働者を使用している場合も当てはまります。なお、労働者の中には、パートタイム労働者やアルバイト・契約社員なども含まれますが、派遣社員は含まれません。

ヒー

どうして派遣社員は含まれないんですか?

ムートン

派遣社員の雇用主は人材派遣会社であり、直接雇用しているわけではないからですよ。

また、就業規則は、会社単位ではなく、事業場単位で定める必要があります。「事業場」とは、「一つの事業を行っている場所」を意味します。

同一の場所にあるものは、原則として一個の事業とされますが、場所的に分散しているものであっても、出張所・支所などで、規模などが著しく小さく、組織的関連や事務能力等を勘案して一つの事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一つの事業として取り扱われます。

なお、当初は作成義務がなくとも、事業の拡張などで常時10人以上の労働者を使用するに至った場合、遅滞なく就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります。(労基法規則49条1項)

常時10人未満の労働者しかいない事業場では、法律上、就業規則を定める義務はありません。

ムートン

ただし、後に述べるように、就業規則を定めるメリットがありますので、自社の状況にあった就業規則を定めておくとよいでしょう。

就業規則を作成しない場合の罰則

就業規則の作成・届出義務がある使用者が、その義務に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられます。(労基法120条1号)

また、労働条件や服務規律の実態が変更されたにもかかわらず、就業規則を変更しなかった場合、就業規則を変更しても届出を怠った場合も、同じく、30万円以下の罰金に処せられます。(労基法120条1号)

就業規則を作成するメリット・意義

就業規則を作成するメリット・意義は、特に以下の4点です。

  • 就業ルールが明確になり、トラブルの予防になる
  • 労使トラブルへの対応の指標となる
  • 業務命令・懲戒処分が可能になる
  • 採用活動に活用することができる
  • 助成金が受けられる可能性が広がる

就業ルールが明確になり、トラブルの予防になる

就業規則は、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などを定めた職場のルール集ですから、労働者は、就業規則を確認することにより、職場のルールを明確に知ることができ、トラブルの予防になります。

例えば、有給休暇や育児休業をとりたいとき、副業をはじめたいときなどに、あらかじめ就業規則を調べれば会社の規則上許される範囲がわかり、その範囲で行動できますので、後日トラブルとなることを防ぐことができます。

労使トラブルへの対応の指標となる

就業規則は、社内のルール集であり、いわば、事業場における法律のようなものです。
そのため、職場内で何らかのトラブルが起こった時、就業規則を指標としてトラブルに対応することができます。

また、仮にトラブルが訴訟に発展したような場合でも、就業規則は、労働者の労働条件の一部と解されますので、裁判官が判断する際の指標の一つとなります。

業務命令・懲戒処分が可能になる

出張、配置換え、時間外労働・休日労働などを業務命令として行わせたい場合、就業規則にこれらの内容についての明確な規定が置かれていなければ、使用者側は行わせることができません。

また、労働者が就業規則に違反する行為・企業秩序を乱すような行為を行ったとしても、就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類が規定されていなければ、使用者は懲戒処分(懲戒免職など)をできません。

そこで、就業規則に、業務命令や懲戒処分などの規定を置くことで、これらを行うことができるようになるというメリットがあります。

採用活動に活用できる

就業規則は、会社のルール集なので、社外の人間であっても、就業規則を見ることにより、その会社の就業ルールを知ることができます。

特に、就職を希望する者は、就業規則に定められた

  • 賃金規定
  • 退職規定
  • 産休・育休制度
  • 介護休業

などの労働条件の内容を確認・理解した上で、就職先を選ぶことができます。

その結果、労働条件に納得した人材が入社することとなり、人材の定着が図られます。

助成金が受けられる可能性が広がる

国や地方公共団体の制度として、企業に対するさまざまな助成金があります。このような助成金制度の中には、助成金を申請する条件として特定の就業規則の規定が必要となる場合があります。

例えば、65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)では、就業規則や労働協約を「定年を65歳以上に延長する」等の内容に変更することが必要ですし、中小企業両立支援助成金(代替要員確保コース)では、支給要件のひとつが、就業規則や労働協約に「育児休業取得者を、育児休業終了後、原職又は原職相当職に復帰させる旨の取扱い」が定められていることとなっています。

このように、助成金の中には、就業規則に必要な事項を設けることを要件としているものも多くありますので、就業規則を作成し、その中で必要な事項を規定することにより、助成金を受けられる可能性が広がります。

就業規則の効率的な作成方法

就業規則には、就業に関するさまざまなルールを定める必要がありますが、効率的に作成するには、以下2つの方法が考えられます。

  • 厚生労働省の「モデル就業規則」を活用する方法
  • 社労士・弁護士などの専門家に作成を依頼する方法

それぞれ詳しく解説します。

厚生労働省の「モデル就業規則」を活用する

厚生労働省では、「モデル就業規則」の規程例や解説を公開しています。

このモデル就業規則は、関係法令等の規定を踏まえ、就業規則の規程例を解説とともに示したものです。時代の要請にあわせ、副業などについても規定されています。

ただし、モデル例なので、解説を参考に、対象とする事業場の実態に合うかたちに変更する必要があります。

なお、厚生労働省ホームページには、入力フォームから必要項目を入力・印刷することで、労働基準監督署に届出が可能な「就業規則」を作成することができる「就業規則作成支援ツール」があります。これを活用することで、「モデル就業規則」の規程例や作成上の注意を参考にしながら就業規則を作成できます。

社労士・弁護士などの専門家に作成を依頼する

厚生労働省モデル就業規則は便利なものですが、それぞれの事業場の状況を踏まえたものではないのでそのまま使うことはできず、会社の規模や業務内容、雇用の人数などの事情を織り込んで、自社に合う内容にする必要があります。

また、就業規則は労働条件の一部を構成し、トラブルが発生したときなどの解決の指標にもなりますから、自社に不利益がないかたちで定める必要があります。

これらの点を踏まえ、自社に適した就業規則を作成するために、社会保険労務士や弁護士などの専門家に会社の実情や希望を伝え、オーダーメイドの就業規則を作成してもらうのも良いでしょう。

就業規則作成のポイント

就業規則を作成する際には、次の3点に注意する必要があります。

  • 対象となる労働者
  • 法令・労働協約の順守
  • 労働者の意見の聴取

対象となる労働者

就業規則は事業場で働く労働者の労働条件や服務規律などを定めるものですから、そこで働く全ての労働者に適用されるように定める必要があります。

なお、パートタイム労働者のように、その勤務の態様などから通常の労働者と異なった定めをする必要がある場合には、通常の労働者に適用される就業規則(以下「一般の就業規則」といいます)のほかに、パートタイム労働者などの一部の労働者のみに適用される別の就業規則を作成するかたちも可能です。

ただし、この場合には、一般の就業規則に

  • 別の就業規則の適用を受ける労働者は、一般の就業規則の適用を除外すること
  • 適用除外した労働者に適用される就業規則は、別に定めること

を明記する必要があります。

法令・労働協約の順守

就業規則は、その内容が労基法を中心とした法令や対象の事業場に適用される労働協約に反することができません。これらに反する就業規則は、その部分について無効となってしまうため、注意が必要です。

なお、所轄の労働基準監督署長は、法令または労働協約に牴触する就業規則については変更を命ずることができ、使用者が、この変更命令に従わない場合、30万円以下の罰則を科せられます。(労基法92条2項、120条3号)

(法令及び労働協約との関係)
第92条 (略)
2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。

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労働者の意見の聴取

就業規則により労働者が知らない間に労働条件が一方的に変更されたり、厳しい服務規律などが定められることのないように、就業規則を作成したり、変更したりする場合には、労働者の代表の意見を聴かなければなりません。(労基法90条)

(作成の手続)
第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 (略)

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労働者の代表とは、事業場ごとにみて、
①労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には、その労働組合
②労働組合がない場合や労働組合があってもその組合員の数が過半数を占めていない場合には、「労働者の過半数を代表する者
をいいます。

 就業規則の具体的な内容とは|作成時の注意点も併せて解説!

就業規則では、具体的には以下の内容を記載することになります。

  • 絶対的必要記載事項
  • 相対的必要記載事項
  • 任意記載事項

絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければならない事項です。

具体的には、以下の3項目となります。(労基法89条1号~3号)

  • 労働時間関係
  • 賃金関係
  • 退職関係

(作成及び届出の義務)
第89条 (略)
(1)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
(2)賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(3)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(3の2)~(10) (略)

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それぞれについて、具体的な内容をみていきましょう。

労働時間関係

労働時間については、

  • 始業および終業の時刻
  • 休憩時間
  • 休日
  • 休暇
  • 労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

を規定します。(労基法89条1号)

始業および終業の時刻については、「1日8時間とする」といった記載ではなく、具体的な時刻を定める必要があります。

休憩時間については、休憩時間の長さや休憩時間の与え方について、具体的に規定します。

休日については、その日数・与え方などを記載します。

休暇については、法律上付与が義務付けられている休暇だけでなく、使用者が制度として付与する休暇についても記載します。

就業時転換に関する事項については、交代期日・交替順序などを規定します。労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合には、規定する必要があります。

賃金関係

賃金については、一時金や退職手当などの臨時の賃金を除く賃金について

  • 賃金の決定・計算の方法
  • 賃金の支払いの方法
  • 賃金の締め切り・支払いの時期
  • 昇給に関する事項

を規定します。(労基法89条2号)

賃金の決定・計算・支払いの方法については、学歴、職歴、技能、職階性、出来高制などの賃金の決定要素と、これを用いて形成される賃金体系を規定する必要があります。

賃金の支払いの方法については、直接支給・銀行振り込みなど、支払いの方法について具体的に規定します。

賃金の締め切り・支払いの時期については、時給、週給、月給等の区別や締切日、支払日について規定します。

昇給に関する事項については、昇給の期間、昇給率、その他の昇給の条件について規定します。

退職関係

退職については、いわゆる「定年」や労働者の死亡・期間満了による自然退職、辞職、使用者と労働者の合意による退職などだけでなく、使用者の一方的意思表示による解雇も含まれ、使用者と労働者との労働契約が終了する事由すべてを記載する必要があります。(労基法89条3号)

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項とは、制度として実施する場合には、記載しなければならない事項です。

具体的には、以下の項目について、制度として実施する場合に記載しなければなりません。(労基法89条3号の2~10号)

  • 退職手当関係
  • 臨時の賃金等・最低賃金額関係
  • 費用負担関係
  • 安全衛生関係
  • 職業訓練関係
  • 災害補償・業務外の疾病扶助関係
  • 表彰・制裁関係
  • その他

(作成及び届出の義務)
第89条 (略)
(1)~(3) (略)
(3の2)退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
(4)臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
(5)労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
(6)安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
(7)職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
(8)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
(9)表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
(10)前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

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それぞれについて、具体的な内容をみていきましょう。

退職手当関係

労働者に退職手当を支給する場合、就業規則に規定を置く必要があります。(労基法89条3号の2)

退職手当」とは、支給条件が明確であり、退職を要件として在職中の労働全体に対する対価として支払われるものであり、退職一時金、退職年金や中小企業退職金共済制度などの社外積立退職金制度もこれに該当します。

退職手当の定めとして記載すべき事項は、

  • 適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定・計算・支払いの方法
  • 退職手当の支払いの時期

です。

臨時の賃金等・最低賃金額関係

臨時の賃金等(退職手当を除く)や最低賃金額を制度として定める場合、就業規則に規定を置く必要があります。(労基法89条4号)

臨時の賃金等」とは、絶対的必要記載事項とされている毎月支払われるべき賃金以外の賃金をいいます。例えば、賞与や精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当などが臨時の賃金等に該当します。

これらの賃金については法律上支払うことは義務付けられていませんが、その制度があるのであれば、

  • 支給条件
  • 支給時期

などについて、定めておく必要があります。

費用負担関係

労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合には、就業規則にこれらに関する事項を定めなければなりません。(労基法89条5号)

その他の負担」とは、社宅費、共済組合費等、労働契約によって労働者に経済的負担を課す場合をいいます。

記載すべき事項は、

  • 負担額
  • 負担方法

などです。

安全衛生関係

「安全及び衛生に関する制度」を実施する場合にもこれに関する事項を就業規則に記載する必要があります。(労基法89条6号)

安全及び衛生に関する制度」とは、労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則などに定められている事項のうち、対象となる事業場に必要な事項の細目や、これらの法令などに定められていなくても対象事業場の安全衛生上必要なものなどをいいます。

なお、安全に関する規定作成や衛生に関する規定作成は、安全委員会および衛生委員会の付議事項(審議が必要な事項)とされていますので(労働安全衛生法17条、18条、労働安全衛生規則21条、22条)、就業規則でこれらを定める際には、これらの委員会の審議を経る必要があります。

職業訓練関係

職業訓練に関する制度を実施する場合にも、これに関する事項を就業規則に記載する必要があります。(労基法89条7号)

職業訓練に関する事項とは、

  • 行うべき職業訓練の種類
  • 訓練の内容
  • 訓練期間
  • 訓練をうけることができるものの資格など
  • 職業訓練中の労働者に対し特別の権利義務を設定する場合にはそれに関する事項
  • 訓練修了者に対し特別の処遇をする場合には、それに関する事項

などをいいます。

災害補償・業務外の疾病扶助関係

災害補償や業務外の傷病扶助に関する制度を実施する場合にも、これに関する事項を就業規則に記載する必要があります。(労基法89条8号)

「災害補償」については、

  • 労基法の災害補償に関する規定(労基法75~88条)
  • 労基法や労働者災害補償保険法を上回る補償を行う場合の規定

などが考えられます。

また、「業務外の傷病扶助」については、

  • 対象となる事業場が健康保険法や厚生年金保険法の適用を受ける場合にはこれらの法律で定める給付等以外の扶助やこれらを補充する扶助に関する規定
  • これらの法律の適用を受けない場合には、使用者が自主的に行う扶助に関する規定

などが考えられます。

表彰・制裁関係

表彰や制裁に関する制度を実施する場合にも、その種類と程度に関する事項を就業規則に記載する必要があります。(労基法89条9号)

「表彰」については、表彰の事由・方法・時期・手続などを記載することが考えられます。

「制裁」については、その種類と程度を就業規則上で明確に定める必要があり、

  • 譴責(けんせき)
  • 減給
  • 出勤停止
  • 昇給の停止
  • 降格降職
  • 懲戒解雇

などの制裁の種類・程度、制裁事由について具体的に定めなければなりません。

特に、懲戒については、懲戒権を取得するために、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則に明記されている必要があります。

その他

その他、これまで解説してきたもの以外にも、対象となる事業場の労働者の全てに適用される制度を実施する場合には、就業規則に記載する必要があります。(労基法89条10号)

対象となる事業場の労働者の全てに適用される制度には、現実に労働者の全てに適用されている事項のほか、一定の範囲の労働者のみに適用される事項ではあるが労働者の全てが適用をうける可能性があるものも含まれます。

そこで、旅費に関する一般的な規定や、休職に関する規定、財産形成制度などの福利厚生に関する規定なども含まれます。

ただし、運動競技選手への制服貸与のような、労働者の労働条件に関係ない事項は含まれません。

任意記載事項

絶対的必要記載事項や相対的必要記載事項については、必ず定める必要がありますが、それ以外の事項については、法令や労働協約に反しない限り、就業規則に自由に定めることができます。

これを、任意的記載事項といいます。

ただし、記載した内容は、労働契約の中身となりますので、どのような内容をどの程度記載するかについては、慎重に検討し、規定する必要があります。

就業規則の作成・変更から届出までの手続き

届出が必要になる3つの書類|就業規則・就業規則(変更)届・意見書

一つの事業場で常時10人以上労働者を使用する使用者は、就業規則を定めたとき・変更したときは、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。(労基法89条)

その際必要となるのは、以下の書類です。

  • 作成または変更した就業規則
  • 就業規則(変更)届
  • 労働者の代表の意見書

就業規則(変更)届と意見書のひな形は、厚生労働省の以下のサイトからダウンロードできます。

就業規則を作成したいときの手続き

作成した就業規則を労働基準監督署長に届け出る場合、届出前に、作成した就業規則について、労働者の代表の意見を聴かなければなりません。

また、作成した後は、作成した就業規則の内容を従業員に周知する必要があります。

就業規則作成手続き全体の流れを図示すると以下のとおりとなります。

なお、一定の要件を満たせば、事業場ごとではなく、本社において一括して行う「本社一括届出」も可能です。

また、e-Govによる電子申請も可能です。

就業規則を変更したいときの手続き

就業規則を変更したときの手続きの流れも、基本的には、作成の際の手続きと同じです。ただし、不利益変更をしたい場合には、別に手続きが必要となります。

不利益変更をしたい場合の注意点

就業規則の不利益変更」とは、使用者が就業規則を変更する場合において、労働条件を従業員にとって不利な内容に変更することをいいます。

なお、年功序列制から職能制度を中心とした給与体系に変更するなど、変更の内容が、従業員にとって利益にも不利益にもなり得る可能性がある場合、従業員にとって不利益になる可能性がある以上は、就業規則の不利益変更に該当するとした裁判例(大阪高裁平成13年8月30日判決)もありますので、行おうとしている変更が不利益変更に当たるか判断する場合には注意が必要です。

会社が就業規則の不利益変更を行う場合、原則として、その就業規則の変更によって不利益を被る従業員について、全員の個別の合意がないと効力が生じません。(労働契約法9条)

ただし、就業規則の不利益変更に「合理性」がある場合には、個別の合意を得る必要はありません。(労働契約法10条)。

合理性の判断は、

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • その他の就業規則の変更に係る事情

を総合的に考慮して行われ、変更前の就業規則と比較してもなお、変更後の就業規則が合理的であることが必要です。

総合判断の結果、不利益変更に合理性が認められれば、個別の合意を得る必要はありませんが、変更後の就業規則を労働者に周知する必要があります。

<労働契約法>
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

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就業規則の周知

就業規則を新たに定めたり、変更したりした場合、その内容を従業員に周知する必要があります。

周知は、以下のいずれかの方法で行う必要があります。(労基法106条1項、労基法規則52条の2)

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示する方法
  • 各作業場に備え付ける方法
  • 書面で交付する方法
  • PCなどの機器・記録媒体にデジタルデータとして記録し、かつ、各作業場の労働者が内容をいつでも確認できる機器を設置する方法

使用者が就業規則の周知を怠った場合、30万円以下の罰則が科せられます。(労基法120条1号)

この記事のまとめ

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用している事業場では定めることが法律上義務付けられており、その内容は、労働条件の一部となります。

また、労基法により記載事項が定められており、決められた記載事項について会社の規模や業務内容、雇用の人数などの会社の実情に沿った規定をおく必要があります。

就業規則の規定ぶりによっては、会社側に予定外の義務が生じる可能性もありますので、厚生労働省のモデル就業規則などを参考に、必要に応じて専門家の助言を得ながら、自社の実態に即し、かつ、自社に予定外の不利益が生じないものを作成するとよいでしょう。

就業規則の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

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参考文献

厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和4年11月版

東京労働局「明るい職場づくりのための就業規則作成の手引き」平成27年3月(改)

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「就業規則を作成しましょう」

石嵜信憲編著『就業規則の法律実務 第5版』中央経済社、2020年