就業規則の閲覧とは?
労働者に対する周知方法・
閲覧を求められた場合の対処法・
注意点などを解説!

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整備しておきたい 主要な社内規程まとめ
この記事のまとめ

就業規則を定めるべき使用者は、就業規則の内容を労働者に対して周知する義務を負います。就業規則の周知方法は労働基準法施行規則で定められており、具体的には以下の3つです。

① 常時各作業場の見やすい場所への掲示・備付け
② 労働者に対する書面の交付
③ データによる記録・確認用機器の設置

もし在職中の労働者から就業規則の閲覧を求められた場合、使用者は上記の周知義務に基づき、労働者に就業規則を閲覧させなければなりません。
これに対して、退職済みの労働者から就業規則の閲覧を求められた場合には、基本的に閲覧させる義務を負いません。ただし、退職済みの労働者であっても、労働基準監督署に申請すれば就業規則の閲覧が認められる可能性があります。

就業規則を周知する義務(閲覧させる義務)に違反した場合、労働基準監督官による行政指導のほか、刑事罰の対象となる可能性があります。労働者から就業規則の閲覧を求められた場合には、ペナルティを回避するためにも、速やかに閲覧させましょう。

この記事では、就業規則の閲覧について、労働者に対する就業規則の周知方法や、閲覧を求められた場合の対処法・注意点などを解説します。

ヒー

「就業規則ってどこで見られますか?」という質問が社員からありました。どのオフィスにも置いてあるはずですが、最新版になっているか心配です…。コピーを渡したほうがいいでしょうか?

ムートン

就業規則の周知はオフィスに掲示・備え付ける方法のほかに、個別に交付したり、イントラネットなどに載せる方法もあります。もちろん最新のものにする必要があるので、適切で自社に合う方法をとれるとよいですね。

※この記事は、2023年4月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

就業規則とは

就業規則」とは、事業場に所属する労働者に適用される統一的なルールを定めた社内規程です。一定規模以上の事業所では、就業規則を定めた上で労働者に周知することが義務付けられています。

就業規則を定めるべき使用者とは

就業規則を定める義務を負うのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者です(労働基準法89条)。

労働者の人数は、事業場単位で判断されます。したがって、会社全体では常時雇用する労働者が10人以上いる場合でも、事業場単位では10人未満である場合には、就業規則の作成義務を負いません。
ただし、事業場に適用される統一的なルールを定める観点から、就業規則を定めることが望ましいと考えられます。

就業規則は労働者への周知が必要

就業規則を定めた場合、使用者はその内容を労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項)。

就業規則の周知義務は、就業規則を定める義務の有無にかかわらず適用されます。したがって、事業場単位で常時雇用する労働者が10人未満の使用者が任意に就業規則を定めた場合も、労働者に対する周知が義務付けられます。

労働者に対する就業規則の周知方法

就業規則の労働者に対する周知は、以下のいずれかの方法によって行う必要があります(労働基準法施行規則52条の2)。

① 常時各作業場の見やすい場所への掲示・備付け
② 労働者に対する書面の交付
データによる記録・確認用機器の設置

常時各作業場の見やすい場所への掲示・備付け

就業規則の周知方法の1つ目は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける方法です。

例えばオフィスなどのうち、労働者が自由に出入りできる場所の壁に、就業規則を印刷したものを貼り付けるなどの方法が考えられます。

労働者に対する書面の交付|変更した場合は再交付が必要

就業規則の周知方法の2つ目は、労働者に対して就業規則の内容を記載した書面を交付する方法です。

この場合、就業規則を変更した際には、その都度労働者に対して書面を再交付しなければなりません。

データによる記録・確認用機器の設置|全員をアクセス可能に

就業規則の周知方法の3つ目は、就業規則の内容を記録媒体に記録した上で、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法です。

例えば、就業規則のデータをイントラネットに掲載する方法や、社内の共有フォルダに保存しておく方法などが考えられます。これらの場合、就業規則のデータには、事業場に所属する全ての労働者がアクセスできるようにしておかなければなりません。

労働者から就業規則の閲覧を求められた場合の対処法

労働者から就業規則の閲覧を求められた場合、使用者としての対応は、労働者が在職中退職済みかによって異なります。

在職中の場合|閲覧させる必要がある

在職中の労働者に対しては、使用者は就業規則の周知義務を負います。

したがって使用者は、在職中の労働者がいつでも就業規則を閲覧できる状態を確保しなければなりません。もし労働者が就業規則を閲覧できない状態になっている場合は、速やかに閲覧させる必要があります。

退職済みの場合|閲覧させる必要はない

退職済みの元労働者に対しては、在職中の労働者と異なり、使用者は就業規則を周知する義務を負いません。

したがって、退職済みの元労働者から就業規則の閲覧を請求されても、使用者として閲覧させる必要はありません。

退職した労働者も、労働基準監督署で就業規則を閲覧できる場合あり

使用者が就業規則を閲覧させる必要はないとしても、退職済みの元労働者は、労働基準監督署に開示要請を行うことにより、就業規則の開示を受けられる場合があります。

労働者が労働基準監督署に対して就業規則の閲覧を請求できるのは、以下の2つの要件を満たす場合です(基発354号平成13年4月10日)。

① 労働者が勤務する事業場において、労働基準法に基づく就業規則の周知義務が果たされていないこと
② 使用者に求めても就業規則を閲覧できる状況にないと判断されること

退職労働者については、在職中の状況について上記の要件をいずれも満たす場合には、労働基準監督署によって就業規則の閲覧等が認められます。
ただし、退職労働者に対する就業規則の開示は、当該退職労働者と事業場の間の権利義務関係に関わる規定に限定されます。

ヒー

どうして労働基準監督署で就業規則が閲覧できるんですか?

ムートン

就業規則を定めたり変更したときは、労働基準監督署に届け出る必要があります。そのため、労働基準監督署は就業規則を保管しています。

第三者から就業規則の閲覧を求められた場合

会社との間で雇用関係がない第三者から就業規則の開示を求められた場合、それに応じる必要はありません。会社が就業規則の周知義務を負うのは、在職中の労働者に限られるためです。

就業規則を周知する義務(閲覧させる義務)に違反した場合のペナルティ

会社が労働者に対して就業規則を周知する義務(閲覧させる義務)に違反した場合、労働基準監督官による行政指導刑事罰の対象となる可能性があります。

労働基準監督官による行政指導

労働基準監督官による行政指導には、主に「指導票の交付」と「是正勧告」の2種類があります。

労働基準法違反に当たるとまではいえないものの、就業規則の周知方法等について改善が望ましいと判断された場合には、使用者に対して指導票が交付されます。使用者は指導内容に従い、合理的な期間内に改善措置を講じることが求められます。

就業規則が適切に周知されておらず、労働基準法違反に当たると判断された場合には、使用者に対して是正勧告が行われます。使用者は是正勧告に従い、違反状態を早急に解消する必要があります。

ムートン

指導票も是正勧告も、後日改善した内容の報告が求められます。報告書の作成などは、担当者にとって負担も大きく、周知方法については日ごろから適切に対応しておきましょう。

刑事罰

労働基準監督官の是正勧告に従わない使用者に対しては、刑事罰が科される可能性があります。労働基準監督官は、労働基準法違反に関する資料の検察官送致など、通常の刑事手続きにおける司法警察員の職務を行います(労働基準法102条)。

就業規則の周知義務に違反した場合の法定刑は「30万円以下の罰金」です(同法120条1号)。違反の行為者だけでなく、法人にも同等の罰金刑が科されます(同法121条)。

就業規則の閲覧に関する企業の注意点

就業規則の閲覧に関して、企業は以下の各点に留意の上でご対応ください。

就業規則の閲覧に関する企業の注意点

① 就業規則は全ての労働者に閲覧させる必要がある
② 就業規則の閲覧方法を分かりやすく周知すべき
③ 就業規則のデータが消失した場合の対処法

就業規則は全ての労働者に閲覧させる必要がある

就業規則の内容は、事業場に所属する全ての労働者に周知・閲覧させる必要があります。労働者の一部でも就業規則を閲覧できない状態にある場合には、労働基準法違反に当たる可能性があるので注意が必要です。

全ての労働者が就業規則を閲覧できるようにするため、周知方法に応じて以下のような対応を講じるようにしましょう。

① 作業場に掲示し、または備え付ける場合
→全ての労働者が自由に出入りできる場所を選択する

② 労働者に対して書面を交付する場合
→交付済みチェックリストを作成して、労働者に対する書面の交付漏れがないようにする

③ イントラネット・共有フォルダなどを通じて閲覧できるようにする場合
→事業場に所属する全ての労働者にアクセス権を設定する

など

就業規則の閲覧方法を分かりやすく周知すべき

特にイントラネット・共有フォルダなどを通じて就業規則を閲覧させる場合には、閲覧方法を労働者に対して分かりやすく周知することも大切です。就業規則へのアクセス方法があまりにも分かりにくいと、実質的に周知義務を果たしていないと判断される可能性があります。

労働者に対して、イントラネット・共有フォルダの閲覧方法を分かりやすく周知するためには、以下の対応をとることが考えられます。

✅ イントラネットのトップページに就業規則等へのアクセス方法を常時掲載する
✅ 就業規則のファイルへのアクセス方法を、定期的にメールや社内便などで周知する
✅ イントラネットへ就業規則を掲載する際のレイアウトを工夫する
など

就業規則のデータが消失した場合の対処法

就業規則のデータを紛失し、労働者に対して閲覧させることができなくなった場合、使用者としての周知義務を果たせなくなります。この場合、速やかに就業規則のデータを復旧しなければなりません。
弁護士社会保険労務士に就業規則の作成・変更に関する業務を依頼した場合、専門家の側で就業規則のデータを保存している可能性が高いので、確認してみましょう。

ムートン

上で述べたように、労働基準監督署に保管されている自社の就業規則を閲覧することも手続き上は可能ですが、最後の手段とすべきでしょう。

データ復旧のめどが立たない場合には、就業規則を再度作成する必要があります。就業規則の再作成(=変更)には、以下の手続きが必要です。

① 再作成される就業規則の内容につき、労働者側の意見を聴く(労働基準法90条1項)
② 取締役決定または取締役会決議により、再作成される就業規則の内容を決定する
③ 再作成された就業規則を、労働者に対して周知する(同法106条)
④ ①の意見を記した書面を添付して、労働基準監督署に就業規則の変更を届け出る(同法89条・90条2項)

ムートン

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