36協定(サブロク協定)とは?
時間外労働の上限・特別条項の要件
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この記事のまとめ

36協定(サブロク協定)」とは、労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に、労使間であらかじめ締結しなければならない協定です。

36協定は、労働者の健康や生活環境、ワークライフバランスなどを守るための重要な協定のため、労働者保護の観点から労働基準法でさまざまな規定がおかれています。

この記事では、
・労働基準法に定められている労働時間や休日についてのルール
・36協定が必要な場合や36協定の効力
・36協定や特別条項付き36協定に定めるべき事項
などを、詳しく解説します。

ヒー

36協定の「36(サブロク)」って何ですか?

ムートン

労基法「36」条を根拠とするため、そう呼ばれています。「時間外・休日労働に関する協定」と呼ばれることもあります。36協定は、企業にとっても労働者にとっても非常に重要なものなので、しっかり理解しておきましょう。

※この記事は、2023年4月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 労基法…労働基準法
  • 労基法規則…労働基準法施行規則

36協定とは

36協定とは、時間外労働休日労働をさせる場合に、あらかじめ使用者と労働者の間で締結しなければならない「時間外・休日労働に関する協定をいいます。

時間外労働とは労基法で定められた労働時間(以下「法定労働時間」)を超えて労働させること
休日労働とは労基法により労働者に与えなければならない休日(以下「法定休日」)に労働させること
ムートン

いわゆる「労使協定」の一種ですね。

この「時間外・休日労働に関する協定」は労基法36条に基づき締結されることから、通称「36協定(サブロク協定)」と呼ばれます。

(時間外及び休日の労働)
第36条 
1 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
2~11 (略)

「労働基準法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

特別条項付き36協定とは

ヒー

36協定を結んだら、使用者は労働者に無限に時間外労働や休日労働をさせることができるのでしょうか。

ムートン

労働者保護の観点から、きちんと上限が設けられていますよ。

36協定を結ぶことにより認められる時間外労働の上限は、原則月45時間・年360時間です。

しかし、労基法36条5項に基づき、36協定の中に時間外労働時間の延長に関する特別条項(以下「特別条項」)を設ければ、臨時的かつ特別な事情がある場合に限り、この原則を超えて時間外労働をさせることができます

この、特別条項が規定されている36協定を特別条項付き36協定と呼びます。ただし、特別条項も無限に時間外労働をさせられるといったものではなく、労基法により、時間数の上限や使用できる月数など利用する際の条件が定められています(詳しくは「時間外労働の上限」にて解説します)。

(時間外及び休日の労働)
第36条 
1~4 (略)
5第1項の協定においては、第2項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第2項第4号に関して協定した時間を含め100時間未満の範囲内に限る。)並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第1項の協定に、併せて第2項第2号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が1箇月について45時間(第32条の4第1項第2号の対象期間として3箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、1箇月について42時間)を超えることができる月数(1年について6箇月以内に限る。)を定めなければならない。
6~11 (略)

「労働基準法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

労働時間制度(時間外労働・休日労働)の原則

労基法で定められている法定労働時間と法定休日の日数は、原則として以下のとおりです。(労基法32条、35条)

  • 法定労働時間・・・休憩時間を除き、1日8時間、1週40時間以内
  • 法定休日・・・毎週少なくとも1回、または、4週間で4日以上

ただし、次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場では、特例措置として、週44時間まで労働させることができます。(労基法施行規則25条の2)

商業卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業映画の映写、演劇、その他興業の事業
保健衛生業病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

労働時間制度の例外|変形労働時間制・フレックスタイム制など

なお、例外的に、「変形労働時間制」や「フレックスタイム制」をとることができます。

変形労働時間制とは

繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑や特殊性に応じて、労働者と使用者が互いに工夫しながら労働時間の配分を行うことができる制度

フレックスタイム制とは

一定の期間(例:1カ月)をあらかじめ定め、この総労働時間の範囲内で、労働者が⽇々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることのできる制度

また、農業、畜産、水産業の従事者などの労基法41条に定められた者やいわゆる高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者(労基法41条の2)には、労働時間の制限は適用されません。

36協定が必要な場合

法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や、休⽇労働をさせる場合には、36協定を締結したうえで所轄の労働基準監督署長へ届ける必要があります。

また、通常の36協定を結ぶことにより認められる時間外労働の上限を超えて労働させる場合には、特別条項付き36協定を締結したうえで所轄の労働基準監督署長へ届ける必要があります。

 36協定の効力

労基法で定められた要件を満たした36協定や特別条項付き36協定を締結し、その内容を所轄の労働基準監督署長へ届け出た場合、締結した36協定で認められた範囲内であれば、時間外労働や休日労働をさせても労基法違反にはなりません。

なお、36協定を労使間で締結しても、労働基準監督署への届け出をしていない場合には、36協定内の時間外労働や休日労働であっても労基法違反となってしまうことに注意が必要です。

また、36協定に基づき時間外労働や休日労働をさせた場合、労基法で定められた割増賃料を支払う必要があります。(労基法37条)

36協定違反の罰則

以下に該当する場合には、労基法に違反したとして、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。(労基法119条)

  • 36協定を締結せずに時間外労働や休日労働をさせた場合
  • 36協定により認められる範囲を超えて時間外労働や休日労働をさせた場合
  • 36協定を締結したが届け出をしないまま、時間外労働や休日労働をさせた場合
  • 36協定を締結し、届け出もしたが、法定の割増賃金を支払うことなく時間外労働や休日労働をさせた場合

また、36協定を締結し届け出たが、労働者に周知しなかった場合、30万円以下の罰金が科されます。(労基法120条)

なお、36協定に違反した場合、厚生労働省が発表する「労働基準関係法令違反に係る公表事案」により企業名が公表されることがあります。

36協定締結時のポイント

締結単位

36協定の締結・届け出は、原則として事業場単位で行います。

事業場」とは、営業所・支店・工場・店舗など、場所的・組織的にある程度の独立性をもって事業がおこなわれるものをいいます。

なお、出先機関の規模が小さく独立性が認めにくい場合には、直近上位の組織に紐づけし、一括して締結・届け出をすることができます。

締結当事者

36協定の締結当事者は、使用者(会社)とその事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(以下「過半数組合」)です。

過半数組合がない場合には、その事業場の過半数を代表するもの(以下「過半数代表者」)と締結します。

過半数代表者の選出については、以下の二つの要件を満たす必要があります。(労基法施行規則6条の2)

  • 労基法41条2号に規定する管理監督者でないこと
  • 36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにしたうえで、投票・挙手などにより選出されたものであって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと

なお、「使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」という要件は、働き方改革関連法による2019年4月改正で追加されたものです。

従業員の親睦団体の代表が自動的に過半数代表者に就任するという方法で作成された36協定を無効とした判例もありますので(「トーコロ事件」最高裁平13.6.22判決)、会社が選任手続きに関与する場合には注意が必要です。

時間外労働の上限

時間外労働の上限は原則として

⽉45時間・年360時間(以下「限度時間」)
※ただし、変形労働時間制(期間3カ月超)の場合、月42時間・年320時間

であり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。(労基法36条4項)

また、特別条項の有無にかかわらず、

  • 1年を通して常に、時間外労働と休⽇労働の合計は、⽉100時間未満
  • 2〜6カ⽉平均80時間以内

でなければなりません。(労基法36条6項2号、3号)

例えば時間外労働が45時間以内に収まっていても、時間外労働が44時間、休⽇労働が56時間のように合計が⽉100時間以上になると労基法違反となります。

さらに、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下の基準を守らなければなりません。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働が⽉45時間(期間3カ月超の変形労働時間制の場合42時間)を超えることができるのは、年6カ⽉が限度

これらの規定に違反した場合、6カ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科されます。

なお、工作物の建設等の事業、自動車の運転の業務、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業については、これらの上限規定の一部または全部の適用が2024年3月末まで猶予され、また、2024年4月以降も一部適用されません。

また新技術・新商品などの研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。(労基法36条11項)

その他の留意点

厚生労働省は、時間外労働や休日労働を適正なものとするために、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」を設け、時間外労働や休日労働を行わせる際に使用者が留意すべきことを定めています

指針により定められている主な留意点は以下のとおりです。

・時間外労働・休日労働は必要最⼩限にとどめる。(指針2条)

・使⽤者は、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負う。(指針3条)

・時間外労働・休日労働をさせることができる業務の種類を定めるにあたっては、対象業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にする。(指針4条)

・臨時的な特別の事情により、限度時間を超えて労働させる必要がある場合については、特別の事情をできる限り具体的に定めなければならず、この場合にも、時間外労働は、限度時間にできる限り近づけなければならない。(指針5条)

・1カ⽉未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間(※)を超えないように努める。(指針6条)
(※)1週間で15時間、2週間で27時間、4週間で43時間

・休日労働の日数および時間数をできる限り少なくするように努めなければならない。(指針7条)

・限度時間を超えて労働させる場合、労働者の健康・福祉を確保するための措置をとらなければならない。(指針8条)

・限度時間が適⽤除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保するよう努める。(指針9条)

36協定における協定事項

必須協定事項

36協定を締結するにあたっては、以下の事項を定めなければなりません。(必須協定事項。労基法36条2項、労基法規則17条1項)

  • 労働者の範囲
  • 対象期間
  • 時間外労働・休日労働をさせることができる場合
  • 時間外労働時間・休日労働日数
  • 有効期間
  • 1年の起算点
  • 時間外労働の上限を超えないこと
ムートン

以下で詳しくみていきましょう。

労働者の範囲

36協定では「労働者の範囲」を定める必要があります。(労基法36条2項1号)

「労働者の範囲」を定めるにあたっては、時間外労働・休日労働の対象となる「業務の種類」および「労働者数」を協定しますが、「その他の留意点」に記載したとおり、「業務の種類」を定めるにあたっては、対象業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にする必要があります。

対象期間

36協定では「対象期間」を定める必要があります。(労基法36条2項2号)

「対象期間」とは、36協定により労働時間を延長し、または休日に労働させることができる期間をいい、期間は1年間と決められています。

なお、事業が完了し、または業務が終了するまでの期間が1年未満である場合においても、対象期間は1年間とする必要があります。

時間外労働・休日労働をさせることができる場合

36協定では「時間外労働・休日労働をさせることができる場合」を定める必要があります。(労基法36条2項3号)

「時間外労働・休日労働をさせることができる場合」は、単に「業務多忙」といった抽象的な定め方は認められず、「受注の集中」「臨時の受注」「納期変更」「月末の決算事務」などのように、具体的に定めなければなりません

時間外労働時間・休日労働日数

36協定では「時間外労働時間」「休日労働日数」を定める必要があります。(労基法36条2項4号)

時間外労働時間については、原則、1日・1カ月・1年間の3つについて定めなければなりません。

1日の延長時間の限度については、原則、法令上の規制はありませんが、健康上特に有害な業務として法令で定める業務に従事する者の時間外労働の上限は1日2時間とされています。

健康上特に有害な業務に該当する主な業務は以下のとおりです。(労基法36条6項1号、労基法規則18条)

  • 坑内での労働
  • 多量の高熱物体取り扱い・著しく暑熱な場所の業務
  • 多量の低温物体取り扱い・著しく寒冷な場所の業務
  • エックス線などの有害放射線にさらされる業務
  • 土石などのじんあい・粉末を著しく飛散する場所の業務
  • 異常気圧下業務
  • さく岩機などの使用による身体の著しい振動業務
  • 重量物取り扱いなどの重激業務
  • ボイラー製造などの強烈な騒音発生場所の業務
  • 鉛・水銀などの有害物発散場所の業務

「1カ月」と「1年間」についての延長時間は、前述のとおり、⽉45時間・年360時間(ただし、期間3カ月超の変形労働時間制の場合、月42時間・年320時間)です。

休日労働の日数については、法令上の規制はありません
休日労働を定める場合には、休日労働する日の始業・終業時間もあわせて定めます

有効期間

36協定では「有効期間」を定める必要があります。(労基法36条2項5号、労基法規則17条1項1号)

ここでいう「有効期間」は、締結する36協定自体の有効期間をいい、36協定により時間外労働・休日労働をさせることができる期間を定める「対象期間」とは異なる概念です。

ただ、実務上は、対象期間とあわせ、1年間とするのが一般的です。

1年の起算点

36協定では、時間外労働・休日労働をさせることができる対象期間(1年)の「起算点」を定める必要があります。(労基法36条2項5号、労基法規則17条1項1号)

なお、後述するように36協定の届け出には遡及効がありませんので、対象期間の起算点を定めていたとしても、起算点までに届け出を出していない場合、届け出をするまでは時間外労働・休日労働をさせることはできません。

時間外労働の上限を超えないこと

最後に、36協定において、「36協定で定めるところにより時間外・休日労働を行わせる場合であっても、時間外・休日労働時間の合計が1カ月100時間未満、かつ、2カ月から6カ月まで平均80時間以内とする労基法36条6項2号および3号を遵守し、この規定に定める上限を超えて労働させることはできない」ことを定めます。

なお、36協定届出書には、この規定の存否についてチェックボックスが設けられており、このチェックボックスにチェックがない場合には、届け出された36協定は法定要件を欠くため無効と取り扱われます。

特別条項

36協定を結ぶことで、原則月45時間・年360時間までなら時間外労働させることができるようになるのはこれまで解説してきたとおりです。

しかし、時期によっては、この月45時間・年360時間を超えて時間外労働をさせたい場面もでてくるかと思います。

そこで36協定に特別条項を定めることで、この限度時間を超えて労働させることができるようになります。

特別条項には、以下の規定を定める必要があります。(労基法36条5項、労基法規則17 条1項)

  • 特別条項を適用する場合の時間外労働時間の上限
  • 特別条項による労働をさせることができる月数
  • 特別条項による労働をさせることができる場合
  • 健康及び福祉を確保するための措置
  • 割増賃金の率
  • 特別条項による労働をさせる場合の手続き

<労基法規則>
第17条 法第36条第2項第5号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。ただし、第4号から第7号までの事項については、同条第1項の協定に同条第5項に規定する事項に関する定めをしない場合においては、この限りでない。
(1)~(3) (略)
(4)法第36条第3項の限度時間(以下この項において「限度時間」という。)を超えて労働させることができる場合
(5)限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置
(6)限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率
(7)限度時間を超えて労働させる場合における手続
2~3 (略)

「労働基準法施行規則」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
ムートン

以下、具体的にみていきましょう。

特別条項を適用する場合の時間外労働時間の上限

特別条項で定める時間外労働時間については、1カ月と1年間の2つについて定めなければなりません。(労基法36条5項)

1日の時間数について定めるかは任意です。

1カ月の時間外労働時間については、起算日を基準として法定労働時間を超える時間数と休日労働の時間数を合算した時間数の合計が月100時間未満とする必要があります

1年の時間外労働時間については、起算日を基準として、その時間数は年間720時間以内とする必要があります

特別条項による労働をさせることができる月数

特別条項では、「特別条項により労働させることができる月数」を記載する必要があります。(労基法36条5項)月数の上限は6カ月であり、これ以上に設定することはできません。

特別条項による労働をさせることができる場合

特別条項では「特別条項による労働をさせることができる場合」も定める必要があります。(労基法規則17条1項4号)

特別条項による時間外労働では、通常予見することのできない業務量の大幅な増加などに伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合に限り認められますので、そのような場合を「突発的な仕様変更」「納品トラブル・大規模なクレームへの対応」といったかたちで具体的に定めなければなりません

健康および福祉を確保するための措置

特別条項では、特別条項により時間外労働をさせる場合、従業員の健康・福祉を確保するために企業がとる措置も定める必要があります。(労基法規則17条1項5号)

以下のなかから1つ以上を選択したうえで、具体的な内容を記載します。

  • 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
  • 深夜(22時~5時)に労働させる回数を1カ月について一定回数以内とすること
  • 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
  • 労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
  • 労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  • 年次有給休暇について、まとまった日数連続して取得することを含め、その取得を促進すること
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  • 労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  • 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、または労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
  • その他
ムートン

会社としては、長時間労働による従業員の負担に配慮するため、できるだけ複数の措置を講じるのが良いでしょう。

割増賃金の率

特別条項では、限度時間(月45時間・年360時間)を超える時間外労働をさせる場合の割増賃金の率を具体的に記載する必要があります。(労基法規則17条1項6号)

時間外労働に対する法定の割増率は25%ですが、これを超える割増賃料を定めるよう努めなければなりません。

特別条項による労働をさせる場合の手続き

特別条項では、特別条項による労働をさせる場合の手続きについても記載する必要があります。(労基法規則17条1項7号)

「労働者代表者に対する事前申し入れ」などといったかたちで具体的に定めます。

36協定の周知

36協定は、以下のいずれかの方法で対象となる労働者に周知する必要があります。(労基法106条1項、労基法規則52条の2)

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示する方法
  • 各作業場に備え付ける方法
  • 書面で交付する方法
  • PCなどの機器・記録媒体にデジタルデータとして記録し、かつ、各作業場の労働者が内容をいつでも確認できる機器を設置する方法

36協定の更新

36協定には必ず有効期間を定めなければならず、また、労働基準監督署へ届け出をして初めて時間外労働・休日労働させることが可能となるため、時間外労働・休日労働をさせるためには、有効期間が経過する前に36協定を再締結し、これを再度届け出なければなりません

36協定の内容に変更がなければ、再締結ではなく、同一内容で協定を更新することも可能です。

また、「有効期間満了の○カ月前までにいずれかの当事者から協定の改正または破棄の申し入れがなされない限り、有効期間を1年間延長する」といった自動更新条項も有効です。

ただし、更新の方法をとったとしても、更新した36協定について届け出が必要です。

36協定を労働基準監督署へ届け出るための手続き

36協定を届け出るまでの手続きの流れ

36協定締結までの手続きは、以下のとおりです。

36協定の届け出には遡及効はなく、届け出後に、届け出した36協定による時間外労働・休日労働が認められます

36協定の届け出は1年毎に行う必要がありますから、時間外労働・休日労働をさせられない期間が生じないよう、余裕をもったスケジューリングをするとよいでしょう。

36協定届出書の様式

厚生労働省では、36協定届出書について、種類別に各種の様式を用意しています。

厚労省が用意している様式は以下のとおりです。

  • 限度時間以内で時間外・休日労働を行わせる場合(一般条項)(様式第9号)
  • 限度時間を超えて時間外・休日労働を行わせる場合(特別条項)(様式第9号の2)
  • 新技術・新商品の研究開発業務に従事する労働者に時間外・休日労働を行わせる場合(様式第9号の3)
  • 適用猶予事業・業務に従事する労働者に時間外・休日労働を行わせる場合(様式第9号の4)
  • 適用猶予事業・業務において、事業場外労働に関する協定の内容を付記して届け出る場合(様式第9号の5)
  • 適用猶予事業・業務において、労使委員会の決議届として届け出る場合(様式第9号の6)
  • 適用猶予事業・業務において、労働時間等設定改善委員会の決議届として届け出る場合(様式第9号の7)

各様式は、厚生労働省の以下のサイトからダウンロードできます。

36協定届の記載事項

36協定届は、締結した36協定の内容にそって、記載していきます。

36協定・特別条項付き36協定のどちらとも、一般的な事項として以下の事項を記載します。

  • 労働保険番号・法人番号
  • 事業の種類、事業の名称、事業の所在地・電話番号
  • 協定の有効期間
  • 協定の成立年月日
  • 協定の当事者である労働組合(事業場の労働者の過半数で組織する労働組合)の名称又は労働者の過半数を代表する者の職名・氏名
  • 協定の当事者が労働者の過半数を代表する者の場合、その選出方法
  • 36協定届の作成日
  • 届け出る使用者の職名・氏名

また、チェックボックスとして以下の2つが設けられおり、チェックを入れる必要があります。

  • 上記協定の当事者である労働組合が事業場の全ての労働者の過半数で組織する労働組合である又は上記協定の当事者である労働者の過半数を代表する者が事業場の全ての労働者の過半数を代表する者であること。
  • 上記労働者の過半数を代表する者が、労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でなく、かつ、同法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。

なお、届出者欄について、2021年4月1日以降、押印が不要となっています。

ただし、36協定届出書が36協定書を兼ねる場合には、労働者代表と使用者側双方について、署名または記名押印が必要です。

一般条項

一般条項に関する記載事項は以下のとおりです。

・時間外労働についての事項
  時間外労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者数、所定労働時間、延長することができる時間数

・休日労働についての事項
  休日労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者数、所定休日(任意)、労働させることができる法定休日の日数、労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻

また、「上記で定める時間数にかかわらず、時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1箇月について100時間未満でなければならず、かつ2箇月から6箇月までを平均して80時間を超過しないこと。」のチェックボックスがあり、チェックが必要です。

特別条項

特別条項に関する記載事項は以下のとおりです。

  • 臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合
  • 業務の種類・労働者数
  • 延長することができる時間数
  • 限度時間を超えて労働させることができる月数
  • 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
  • 限度時間を超えて労働させる場合における手続き
  • 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置

また、一般条項と同じく「上記で定める時間数にかかわらず、時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1箇月について100時間未満でなければならず、かつ2箇月から6箇月までを平均して80時間を超過しないこと。」のチェックボックスがあり、チェックが必要です。

届け出の方法

36協定届出書の届け出は、事業場ごとに、各事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対し行います。(労基法36条1項、労基法規則16条1項)

ただし、本社と事業所の協定の内容が同一であるときには、一定の要件を満たせば本社で一括して届け出ることができます

なお、36協定の届け出は、持参・郵送のほかにe-Govによる電子申請が可能です。

36協定に違反しないための対策

36協定が適法に締結・届け出されていたとしても、締結された36協定の中身が実際に遵守されなければ、36協定に違反した時間外労働・休日労働をさせたこととなり、36協定違反の罰則を科されます。

そこで、使用者は、締結された36協定に従った時間外労働・休日労働がなされているかについて、特に以下の観点に注意しながら、継続的にチェックしていくとよいでしょう。

・時間外労働・休日労働時間の管理を徹底し、36協定違反の労働が行われていないか、一定期間後毎に確認する。

・使用者は従業員の健康と福祉を確保する義務があることを認識し、36協定に定められた措置が適切に実施されているか、適宜確認する。

・時間外労働・休日労働を行わせることができる場合にのみ行わせているか、時間外労働・休日労働を行わせるための手続きが適切に行われているかを適宜、具体的に確認する。

・時間外労働・休日労働を行わせた場合の割増賃料が正しく支払われているかを、勤怠管理記録などに従い確認する。
※なお、割り増し賃料に対する法規制は、時間外労働・休日労働に関するものほかに、深夜労働についてのものもありますので、併せて確認する必要があります。

おわりに

36協定は、労働者の健康や生活環境、ワークライフバランスなどを守るための重要な協定のため、労基法に多くの規定が置かれおり、これらの規定に違反することなく締結する必要があります。

また、36協定の内容自体に法律違反があったり、36協定に反した時間外労働・休日労働をさせてしまったりした場合には、罰則が科されるほか、厚生労働省が発表する「労働基準関係法令違反に係る公表事案」により企業名が公表され、社会的制裁を受ける可能性もあります。

36協定がこのように重要なものであることをよく認識し、必要に応じ、弁護士、社会保険労務士などの専門家に相談のうえ、会社の実情にあった内容で締結するとともに、36協定に沿った労働環境となるよう、継続的に必要なチェックをするとよいでしょう。

ムートン

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参考文献

厚生労働省告示第323号「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべ き事項等に関する指針」

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」

基発0907第1号平成30年9月7日「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」

神内伸浩著『これ1冊でぜんぶわかる!労働時間制度と36協定 第2版』労務行政、2021年