36協定の特別条項とは?
上限時間のルール・締結の手続き・
違反時の罰則などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

36協定の「特別条項」とは、繁忙期などで臨時的に労働させる必要がある場合に限り、労働者に「月45時間・1年360時間」(=限度時間)を超える時間外労働をさせることを認める労使協定の条項です。

特別条項を定めていないにもかかわらず、労働者に限度時間を超える時間外労働をさせることは労働基準法違反に当たります。

特別条項には、限度時間を超えて労働者を働かせることができる具体的な場合など、労働基準法施行規則で定められた内容を規定する必要があります。また、特別条項を締結したとしても、超過できない労働時間の上限がある点に要注意です。

この記事では36協定の特別条項について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

時間外労働・休日労働に関する規制って複雑な印象です。

ムートン

この記事では、そもそも時間外労働・休日労働とは何かといったところから解説しますので、少しずつ理解していきましょう。

※この記事は、2023年4月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

36協定の特別条項とは|働き方改革関連法を踏まえ解説!

36協定の「特別条項」とは、繁忙期などで臨時的に労働させる必要がある場合に限り、労働者に「月45時間・1年360時間」(=限度時間)を超える時間外労働をさせることを認める労使協定の条項です。

働き方改革関連法の一環として2019年4月より施行された改正・労働基準法により、36協定における時間外労働の限度時間(上限)が45時間とされたことに伴い、特別条項に関するルールも新設されました。

時間外労働・休日労働をさせるには「36協定」の締結が必要

前提として、労働基準法では「法定労働時間」と「休日」に関するルールが定められており、労働者に時間外労働・休日労働をさせるには「36協定」の締結が必要とされています。

時間外労働とは

「時間外労働」とは、法定労働時間(1日8時間・1週間40時間)を超える労働をいいます(労働基準法32条)。

なお、労働契約や就業規則などで定められる労働時間は「所定労働時間」で、法定労働時間とは異なります。所定労働時間を超え、法定労働時間の範囲内の労働は「法定内残業」と呼ばれ、時間外労働に当たりません。

【就業規則にて、所定労働時間「7時間」と定められていた場合】

休日労働とは

休日労働」とは、法定休日における労働をいいます。使用者は労働者に対して、少なくとも週1回(または4週間に4日以上)の休日を与えなければなりません(労働基準法35条)。この規定に基づいて、労働者に対して付与されるのが法定休日です。

日本では、週2日の休日が与えられることが多いですが、1日は法定休日・もう1日は法定外休日になります。法定休日に働いた場合は休日労働、法定外休日に働いた場合は時間外労働(または法定内残業)となります。

(例)
土曜・日曜が休日の場合
→いずれか一方のみが法定休日
※就業規則などの定めがあればそれに従い、定めがなければ土曜が法定休日となる(日曜から土曜を1週間として、最も後ろに位置する曜日が法定休日)

36協定とは

36協定」とは、労働者に対して

  • 法定労働時間を超えて労働させる場合
  • 法定休日に労働させる場合

などに、あらかじめ使用者と労働者の間で締結しなければならない労使協定です。

ムートン

労働基準法36条に基づき締結されることから、「36(サブロク)協定」と呼ばれます。

36協定を締結していないにもかかわらず、労働者に時間外労働・休日労働をさせることは労働基準法違反に当たります。

時間外労働の上限の原則|月45時間まで

36協定では、1日・1カ月・1年のそれぞれの期間について、

  • 時間外労働の上限時間
  • 休日労働の上限日数

のいずれかを定める必要があります(労働基準法36条2項4号)。

時間外労働の上限時間は自由に定めてよいわけではなく、「1カ月45時間・1年360時間」の上限を超えた定めとすることはできません(同条3項、4項)。

時間外労働の上限の例外|「特別条項」を定めると月45時間を超えることが可能に

ただし、36協定において「特別条項」を定めることにより、例外的に「1カ月45時間・1年360時間」を超えて時間外労働をさせることが可能となります(労働基準法36条5項)。

ただし特別条項には、法令所定の事項(後述)を定める必要があり、限度時間を超える時間外労働は、特別条項の規定の範囲内に限って認められる点に注意が必要です。

36協定の特別条項の内容

36協定に特別条項を定める場合、以下の内容を定める必要があります(労働基準法36条2項5号、労働基準法施行規則17条1項4号~7号)。

①1カ月の時間外労働+休日労働の合計時間数|100時間未満
②1年の時間外労働の時間数|720時間以内
③限度時間の超過が認められる回数|6回以内
④限度時間の超過が認められる場合|具体的に
⑤限度時間を超過した労働者に対する健康福祉確保措置
⑥限度時間を超過した労働に係る割増賃金率

1カ月の時間外労働+休日労働の合計時間数|100時間未満

特別条項では、1カ月間における時間外労働の時間数と、休日労働の時間数の合計の上限を定める必要があります(内訳を定めることも可能です)。

このとき、1カ月の時間外労働と休日労働の合計時間数の上限は、100時間未満としなければなりません。

1年の時間外労働の時間数|720時間以内

特別条項では、1年間における時間外労働の時間数の上限を定める必要があります。1カ月単位の上限時間とは異なり、1年単位の上限時間は時間外労働のみが対象です(休日労働は除外されます)。

1年間における時間外労働の時間数の上限は、720時間以内としなければなりません。

限度時間の超過が認められる回数|6回以内

時間外労働について「1カ月45時間」の限度時間の超過が認められるのは、1年間で6カ月(6回)以内に限られます。

特別条項では、6回以内で限度時間の超過を認める回数を定めなければなりません。

限度時間の超過が認められる場合|具体的に

特別条項では、時間外労働の限度時間を超えて労働させることができる場合を、できる限り具体的に定めなければなりません。

(例)
・突発的な仕様変更
・製品トラブルや大規模なクレームへの対応
・機械トラブルへの対応
・○月に想定される繁忙期への対応
など

限度時間を超過した労働者に対する健康福祉確保措置

特別条項では、限度時間を超える時間外労働をさせる労働者について、健康および福祉を確保するために使用者が講じる措置(健康福祉確保措置)を定める必要があります。

(例)
・医師による面接指導の実施
・11時間以上の勤務間インターバルの設定
・時短対策会議の開催
・深夜労働の回数制限
・代替休暇制度
・健康診断の実施
・年次有給休暇の連続取得促進
・健康問題に関する相談窓口の設置
・必要に応じた配置転換措置
など

限度時間を超過した労働に係る割増賃金率

特別条項では、「1カ月45時間・1年360時間」の限度時間を超える時間外労働について適用される割増賃金率を定める必要があります。

労働基準法上は、月60時間までの部分については25%以上、月60時間を超える部分については50%以上の割増賃金率を設定することが義務付けられています。

ただし、月45時間超60時間以内の部分についても、25%を超える割増賃金率を設定することが望ましいです。

限度時間を超過する場合の手続き

特別条項では、限度時間を超えて労働者を働かせる際の手続きについて定める必要があります。

(例)
・労働組合(または労働者代表者)に対する申し入れ
・上司と労働者本人の事前調整
など

特別条項でも超えられない時間外労働・休日労働の上限時間

特別条項を定めたとしても、以下の上限を超えて労働者に時間外労働・休日労働をさせることはできません(労働基準法36条6項1号、3号)。

・坑内労働など、健康上特に有害な業務に従事する労働者の時間外労働の時間数
→1日当たり2時間以内

・2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間における時間外労働、休日労働の合計時間数
→それぞれ1カ月当たり平均80時間以内

特別条項付き36協定を締結する際の手続き|注意点も併せて解説!

特別条項が定められた36協定(=特別条項付き36協定)を締結する際の手続きの流れは、以下のとおりです。

1|労働組合などとの交渉
2|特別条項付き36協定の締結
3|就業規則の変更
4|労働者への周知
5|労働基準監督署への届け出|36協定は新様式で届け出る

1|労働組合などとの交渉

まずは特別条項付き36協定の内容について、労働組合(または労働者の過半数代表者)との間で交渉を行います。

労働者側の意見を傾聴した上で、労働者の健康にも十分配慮されたかたちの制度設計を心がけましょう。

2|特別条項付き36協定の締結

使用者・労働者の間で交渉がまとまったら、特別条項付き36協定を締結します。

特別条項付き36協定は、書面による締結が必須とされています(労働基準法36条1項)。調印は会社代表者と労働者側の代表者が行うのが原則ですが、他の者に委任することも可能です。

3|就業規則の変更

特別条項付き36協定は、労働時間・休日・賃金などに関係するため、その内容は就業規則の記載事項となります(労働基準法89条)。

したがって、各事業場において常時10人以上の労働者を使用する使用者は、締結した特別条項付き36協定の内容を就業規則に反映しなければなりません。

就業規則変更の効力発生日は、特別条項付き36協定の効力発生日に合わせる必要があります。

4|労働者への周知

締結された特別条項付き36協定および変更後の就業規則について、使用者はその内容を労働者に対して周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。

労働者に対する周知は、以下のいずれかの方法によって行う必要があります(労働基準法施行規則52条の2)。オフィス勤務またはテレワークが中心に会社であれば、社内ネットワーク(イントラネット)に特別条項付き36協定や就業規則を掲載するのが便利です。

①常時各作業場の見やすい場所へ掲示するまたは備え付ける
②書面を労働者に交付する
③磁気テープ・磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する

5|労働基準監督署への届け出(36協定は新様式で届け出る)

特別条項付き36協定を締結したら、効力発生日の前日までに労働基準監督署へ届け出る必要があります。

特別条項付き36協定の届け出は「様式第9号の2」によって行い、厚生労働省ウェブサイトからダウンロード可能です。

働き方改革関連法の施行に伴い、2019年4月から設けられた新様式ですので、それ以前に36協定を締結したことのある会社は、必ず「様式第9号の2」を用いるようにしてください。

また、各事業場において常時10人以上の労働者を使用する使用者は、特別条項付き36協定と併せて、その内容を反映した就業規則変更についても、労働基準監督署への届け出が必要です。

就業規則変更届には定型の申請書様式がありませんが、厚生労働省ウェブサイトに記載例が掲載されています。

特別条項付き36協定に関する違反行為への罰則

特別条項付き36協定の締結義務・内容・届け出義務に違反した場合には、労働基準監督官から行政指導を受ける可能性があるほか、悪質なケースでは刑事罰が科されるおそれがあるので要注意です。

特別条項を定めずに限度時間を超過した場合

特別条項を定めた36協定を締結することなく、「月45時間・年360時間」の限度時間を超える時間外労働をさせた場合は、法定労働時間の規制に対する違反に当たります(労働基準法32条)。

この場合、

  • 行為者には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」(同法119条1号)
  • 会社には「30万円以下の罰金」(同法121条1項)

が科されます。

特別条項違反の時間外労働・休日労働をさせた場合

限度時間を超えて労働者に時間外労働・休日労働をさせることができるのは、36協定の特別条項で定められたルールの範囲内に限られます。

特別条項違反の時間外労働・休日労働をさせることは、

  • 法定労働時間の規制(労働基準法32条)
  • 休日付与の規制(同法35条)

などに対する違反行為です。

これらの違反については、

  • 行為者に「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」(同法119条1号)
  • 会社に「30万円以下の罰金」(同法121条1項)

が科されます。

労働基準監督署への届け出を怠った場合

特別条項付き36協定を締結した場合、会社は労働基準監督署に対して届け出を行う義務があります。

届け出義務に違反した場合、行為者・会社のいずれも「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法120条1号、121条1項)。

ムートン

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参考文献

厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

厚生労働省ウェブサイト「労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について」