36協定違反に当たるケースとは?
違反時の罰則・企業のコンプライアンス
対策なども解説!

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この記事のまとめ

36協定」とは、労働者に時間外労働休日労働をさせる場合に、労使間であらかじめ締結しなければならない協定です。36協定に違反して従業員に時間外労働や休日労働をさせた場合、行政指導刑事罰の対象になります。

36協定違反を回避するためには、労働時間の管理を徹底し、バランスの良い業務の割り当てを行うことが大切です。また、従業員に対して36協定や労働基準法の内容を周知し、過度な時間外労働や休日労働を自主的に制限するよう促しましょう。

この記事では36協定違反に当たるケースの例や、違反時の罰則、36協定違反を回避するために企業が講ずべきコンプライアンス対策などを解説します。

ヒー

36協定を締結したとしても、守られないと意味がないですよね。

ムートン

そうですね。この記事では、よくある36協定違反の例とともに、企業としてとれる予防策も解説していきます。

※この記事は、2023年5月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

36協定とは

36協定」とは、労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に、労使間であらかじめ締結しなければならない協定です。

労働時間の上限は、原則として「1日8時間・週40時間」とされています(法定労働時間、労働基準法32条)。また、労働者には原則として、1週間に1日以上または4週間に4日以上の休日を与えなければなりません(法定休日、労働基準法35条1項・2項)。

法定労働時間を超える労働を「時間外労働」、法定休日における労働を「休日労働」といいます。労働者に時間外労働または休日労働をさせるには、36協定の締結および労働基準監督署への届け出が必要です(労働基準法36条1項)。

36協定に違反する行為の例

36協定に違反して労働者に時間外労働または休日労働をさせることは、労働基準法違反に当たります。

36協定違反に当たる行為の代表例は、以下のとおりです。

①36協定の上限時間を超えて時間外労働をさせる
②36協定の上限日数を超えて休日労働をさせる
③要件を満たさないのに特別条項を適用する
④労働基準法上の上限規制を超過する
⑤36協定の届け出をせずに時間外労働・休日労働をさせる

ムートン

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①36協定の上限時間を超えて時間外労働をさせる

36協定では、1日単位・1カ月単位・1年単位で、それぞれ時間外労働の上限時間を定める必要があります(労働基準法36条2項4号)。

各期間に対応する上限時間を超えて労働者に時間外労働をさせた場合は、労働基準法違反に当たります。

②36協定の上限日数を超えて休日労働をさせる

36協定では、時間外労働の上限時間に加えて、休日労働の上限日数についても、1日単位・1カ月単位・1年単位でそれぞれ定めなければなりません(労働基準法36条2項4号)。

各期間に対応する上限日数を超えて労働者に休日労働をさせた場合は、労働基準法違反に当たります。

③要件を満たさないのに特別条項を適用する

36協定を締結している場合でも、時間外労働の上限は原則として「月45時間・年360時間」までとされています(労働基準法36条3項、4項)。これを「限度時間」といいます。

限度時間を超える時間外労働が認められるのは、36協定で「特別条項」を定めた場合のみです。特別条項を定めると、臨時的な必要性が生じた場合に限り、労働者に限度時間を超える時間外労働をさせることができます。

ムートン

ただし特別条項を適用できるのは、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要があるものとして、特別条項において定められた具体的な要件に該当する場合のみです。

特別条項の要件を満たさないにもかかわらず、労働者に「月45時間・年360時間」を超える時間外労働をさせた場合は、労働基準法違反に当たります。

36協定の特別条項については、以下の記事で詳しく解説しているので参照ください。

④労働基準法上の上限規制を超過する

(特別条項付き)36協定を締結している場合でも、以下の限度を超えて労働者を働かせることはできません。

①時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満
②時間外労働は、年720時間以内
③1カ月当たりの時間外労働が45時間を超える月数は、1年につき6カ月以内
④坑内労働など健康上得に有害な業務についての時間外労働は、1日2時間以内
⑤2カ月間・3カ月間・4カ月間・5カ月間・6カ月間における時間外労働と休日労働の合計は、いずれも1カ月平均80時間以内

上記の限度を超えて労働者を働かせた場合は、労働基準法違反に当たります。

⑤36協定の届け出をせずに時間外労働・休日労働をさせる

36協定は、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出をして初めて効力を生じます。

労働基準監督署に届け出ていない36協定は無効です。したがって、36協定の届け出をせず労働者に時間外労働または休日労働をさせた場合は、労働基準法違反に当たります。

36協定違反が発覚するきっかけ(パターン)

会社による36協定違反は、以下のようなきっかけで発覚することが多いです。

①従業員による通報
②労基署による臨検監督
③労働災害の発生

①従業員による通報

労働者は、事業場において労働基準法違反の状態が生じている場合、その事実を労働基準監督署(または労働基準監督官)に申告できます(労働基準法104条1項)。

36協定違反も労働基準法違反に当たるため、労働基準監督署等への申告の対象です。労働者による申告をきっかけとして、労働基準監督官による臨検(後述)が行われた結果、36協定違反の事実が発覚することがあります。

なお、労働基準監督署等へ申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをすることは違法です(同条2項)。

②労基署による臨検監督

労働者による申告の有無にかかわらず、

  • 労働基準監督官は事業場などへの臨検(立ち入り調査)
  • 使用者に対する帳簿・書類の提出要求
  • 使用者・労働者に対する尋問

を行うことができます(労働基準法101条1項)。

36協定違反について労働者による申告が行われていなくても、たとえば残業代の未払いなど、別の労働基準法違反に関する申告をきっかけとして臨検等が行われ、結果的に36協定違反の事実も摘発される場合があります。

③労働災害の発生

労働者が業務上の負傷・疾病(=労働災害など)により休業し、または死亡した場合、使用者は遅滞なく労働基準監督署長に対して「労働者死傷病報告書」を提出しなければなりません(労働安全衛生規則97条1項)。

労働災害の発生頻度があまりにも高い場合や、重大な労働災害が発生した場合などには、労働者の申告がなくても、労働基準監督官による臨検等が行われるケースがあります。

その結果、36協定に違反する長時間労働・休日労働の事実が発覚し、摘発されることがあります。

36協定に違反した場合の罰則(ペナルティ)

36協定に違反した会社は、以下に挙げるペナルティを負う可能性があります。

①労働基準監督官による行政指導
②刑事罰
③未払い残業代の支払い

①労働基準監督官による行政指導

労働基準監督官による臨検等が行われた結果、36協定違反の事実が発覚した場合には、使用者に対して是正勧告が行われるのが一般的です。

是正勧告を受けた使用者は、速やかに労働基準法違反の状態を是正した上で、その結果を労働基準監督官へ報告しなければなりません。

ムートン

是正勧告自体に法的拘束力はないものの、従わなければ刑事処分に発展する可能性があるので、指示に従って適切に違反の是正を行いましょう。

②刑事罰

36協定に違反して労働者に時間外労働または休日労働をさせることは、法定労働時間(労働基準法32条)または法定休日の付与義務(同法35条)に違反しています。

この場合、36協定違反に当たる時間外労働または休日労働を指示した者には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます(同法119条1号)。

また、指示者が所属する会社に対しても、両罰規定により「30万円以下の罰金」が科されます(同法121条1項)。

③未払い残業代の支払い

36協定違反に当たる時間外労働や休日労働の事実を隠すため、労働時間や労働日数を過少に申告させている企業があるようです。

この場合、労働者から未払い残業代を請求される可能性があります。時間外労働・休日労働には割増賃金を支払う必要があるため、企業にとっては痛い支出になるでしょう。

なお未払い残業代は、3年前まで遡って請求できます。また、労働者によって内容証明郵便の送付訴訟の提起がなされた場合は、その時点で時効の完成が猶予されます。

企業が36協定に違反しないための対策

社内において36協定違反の時間外労働・休日労働が行われないようにするためには、以下の対策を適切に講じましょう。

①労働時間の管理を徹底する
②持ち帰り残業・テレワークをする従業員に注意を払う
③労働者の業務状況を確認し、負担のバランスを図る
④36協定の内容を従業員に十分周知する
⑤労働基準法について従業員研修を行う

①労働時間の管理を徹底する

労働時間を適切に管理しないと、会社側が認識していないところで、36協定違反の状態が生じてしまう可能性があります。

労働時間を36協定の範囲内に収めるためには、勤怠管理システムなどを通じた客観的な管理が必要不可欠です。労働者の自己申告のみに頼るのではなく、自社のニーズを満たす機能を備えた勤怠管理システムを導入し、労働時間の管理・適正化を図りましょう。

②持ち帰り残業・テレワークをする従業員に注意を払う

労働時間を管理するに当たって注意すべきなのが、労働者の持ち帰り残業テレワークです。

持ち帰り残業の事実は、勤怠管理システムに記録されないケースがよく見られます。この場合、後から労働者に「実は残業をしていました」と主張されると、深刻な労使トラブルに発展する可能性が高いです。
会社としては、持ち帰り残業を許可制とするなど、残業の事実を正しく把握できるような体制を整えるべきでしょう。

テレワーク中の労働時間についても、勤怠管理システムを通じて適切に把握することが望ましいです。労働時間が算定し難い場合には、「事業場外みなし労働時間制」の適用も検討しましょう。

③労働者の業務状況を確認し、負担のバランスを図る

36協定違反の時間外労働・休日労働が発生してしまうことは、一部の労働者に業務負担が偏っていることの証左といえます。

ムートン

会社としては、労働者の間で適切に業務を配分し、一部の労働者だけに過度な負担がかからないように配慮すべきです。

そのためには、役員・管理職が現場の実態を正しく把握することが重要になります。勤怠管理システムを通じた労働時間の管理に加え、定期的に1on1ミーティングなどによるヒアリングを行い、労働者の業務状況をタイムリーに把握するよう努めましょう。

④36協定の内容を従業員に十分周知する

36協定違反の時間外労働・休日労働を防ぐためには、労働者側でも36協定のルールを意識してもらうことが大切です。

使用者は労働者に対し、36協定の内容を以下のいずれかの方法により周知する義務を負います(労働基準法106条1項、労働基準法施行規則52条の2)。

①常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け
②労働者に対する書面の交付
③データによる記録・確認用機器の設置

特に、イントラネットなどを通じてデータで36協定を閲覧させる場合は、定期的に閲覧を促すとともに、閲覧方法を分かりやすく説明するなどして、36協定の徹底的な周知を図りましょう。

⑤労働基準法について従業員研修を行う

36協定の取り扱いを含めた労働基準法のルールは、労働者側に正しく認識されていない場合も多いです。過度な長時間労働・休日労働を自発的に抑制してもらうためには、労働者に対して労働基準法のルールを周知することが欠かせません。

労働基準法について労働者側の理解を深めるためには、定期的に従業員研修を行うことが効果的です。弁護士・社会保険労務士などの専門家による研修や、eラーニングなどが考えられます。

問題になりやすい違反のケーススタディなどを交えて、労働基準法のルールをわかりやすくインプットしましょう。

ムートン

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