【2024年10月施行】
会社登記の代表取締役等住所非表示とは?
変更点・非公開のデメリット・手続きなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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2024年10月1日から、株式会社の登記事項証明書等において、代表取締役等の住所の一部を非表示とする措置(=代表取締役等住所非表示措置)の申出が認められるようになります。
会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)は、法務局への申請によって誰でも取得できるものです。代表取締役等住所非表示措置が行われれば、代表取締役等の住所が完全に公開されることはなくなり、プライバシーの保護につながります。
その反面、登記事項証明書の記載によって代表取締役等の住所を証明できなくなります。これに伴い、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類が増えたりするデメリットがある点に注意が必要です。代表取締役等住所非表示措置の申出は、登記手続きの際に、登記官に対して申出書と書類を提出して行います。
また、株式会社が代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出をすれば、当該措置を終了させることができます。この記事では、2024年10月から施行される代表取締役等住所非表示措置について、従来からの変更点や申出の手続きなどを解説します。
※この記事は、2024年6月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 改正商業登記規則…「商業登記規則等の一部を改正する省令」による変更後の「商業登記規則」
目次
会社登記における代表取締役等住所非表示措置とは
2024年10月1日から、株式会社の登記事項証明書(いわゆる「登記簿謄本」)等において、代表取締役等の住所の一部を非表示とする措置(=代表取締役等住所非表示措置)の申出が認められるようになります(改正商業登記規則31条の3)。
代表取締役等住所非表示措置が新設された理由|プライバシーの保護
代表取締役等住所非表示措置の申出が認められることとなったのは、株式会社の代表取締役等のプライバシーを保護するためです。
現行の商業登記規則では、株式会社の登記事項証明書において、代表取締役等の住所を番地まで全て記載するものとされています。
株式会社の登記事項証明書は、手数料を払えば誰でも取得できるところ、代表取締役等の住所が番地まで必ず記載される状況は、代表取締役等のプライバシーを強制的に暴露するものとして批判されていました。
こうした批判を受けて、株式会社の登記簿において、代表取締役等の住所の一部を非表示とすることを選択できるようにする改正が行われました。
代表取締役等住所非表示措置が行われれば、代表取締役等の住所が完全に公開されることはなくなり、プライバシーの保護につながります。
代表取締役等住所非表示措置の対象者|社長以外も?
代表取締役等住所非表示措置の対象者は、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人(=代表取締役等)です。
「社長」という肩書でなくても、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人のいずれかに該当すれば、代表取締役等住所非表示措置を申し出ることができます(例:社長と共同で代表取締役を務めるCOOなど)。
代表取締役等住所非表示措置後の住所表示
法務局において代表取締役等住所非表示措置を申し出ると、株式会社の登記事項証明書または登記事項要約書(=登記事項証明書等)において、代表取締役等の住所のうち行政区画(いわゆる市区町村)以外の部分が記載されなくなります。
- 代表取締役等住所非表示措置による住所表示の変化例
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【措置前】
東京都文京区湯島○丁目○番○号
代表取締役 ○○ ○○【措置後】
東京都文京区
代表取締役 ○○ ○○
なお、代表取締役等住所非表示措置が行われていても、株式会社の登記簿には代表取締役等の住所が記載された状態です。
あくまでも、誰でも閲覧できる登記事項証明書等上の住所の一部が非表示となるにとどまります。
公布日・施行日
改正商業登記規則の公布日と施行日は、以下のとおりです。
- 公布日・施行日
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公布日|2024年4月16日
施行日|2024年10月1日
代表取締役等住所非表示措置のメリット・デメリット
代表取締役等住所非表示措置には、代表取締役等のプライバシー保護に資するメリットがあります。
その反面、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類が増えたりする可能性がある点に注意が必要です。
代表取締役等住所非表示措置のメリット
従来は、代表取締役等が住所を知られたくなくても、必ず住所全体が株式会社の登記事項証明書等に記載されてしまうルールでした。
代表取締役等住所非表示措置が講じられれば、誰でも取得できる登記事項証明書等において、代表取締役等の住所が完全には表示されなくなり、プライバシーの保護につながります。
特に代表取締役等の知名度が高い場合は、非表示措置によるプライバシー保護のメリットは大きいといえるでしょう。
代表取締役等住所非表示措置のデメリット
代表取締役等住所非表示措置が講じられると、登記事項証明書等によって代表取締役等の住所を証明することができなくなります。
例えば、株式会社が当事者となる金融機関との融資取引や、不動産の売買取引などにおいては、登記事項証明書を代表取締役等の住所に関する証明書類として用いるのが一般的です。
代表取締役等住所非表示措置を申し出ると、これらの取引を行うに当たって必要な書類が増えるなど、一定の支障が生じる可能性があります。
代表取締役等住所非表示措置を申し出る際の手続き
代表取締役等住所非表示措置は、2024年10月1日以降に行う一定の登記手続きの際に申し出ることができます。申出に当たっては、会社の区分等に応じた書面を添付しなければなりません。
登記手続きの際に、併せて代表取締役等住所非表示措置を申し出る
代表取締役等住所非表示措置の申出は、以下のいずれかの登記を申請する場合に限ってすることができます(改正商業登記規則31条の3第1項)。
申出先は登記申請と同様、株式会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局です。
- 代表取締役等住所非表示措置の申出が認められる登記申請
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・株式会社の設立の登記
・本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記
・代表取締役または代表執行役の就任または住所変更による変更の登記
・清算人の登記
・代表清算人の就任または住所変更による変更の登記
代表取締役等住所非表示措置の申出に関する添付書類
代表取締役等住所非表示措置の申出に当たっては、以下の書類を添付する必要があります(改正商業登記規則31条の3第1項各号)。
- 代表取締役等住所非表示措置の申出に関する添付書類
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① 上場会社の場合
・株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面※既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は不要です。
② 上場会社以外の株式会社の場合
(a) 以下のいずれかの書面
・登記申請の資格者代理人(=弁護士または司法書士)が会社の本店所在地における実在を確認した結果を記載した書面
・会社が受取人として記載された書面が、その本店所在地に宛てて配達証明郵便またはそれに準ずるものとして送付されたことを証する書面(b) 代表取締役等の氏名・住所が記載されている市町村長等による証明書(住民票の写しなど)
(c) 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面など)
※既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は、(b)のみの添付で足ります。
※株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、(c)の添付は不要です。
代表取締役等住所非表示措置が終了するケース
以下のいずれかに該当した場合には、代表取締役等住所非表示措置が終了し、登記事項全部証明書等において代表取締役等の住所が全部表示されるようになります(改正商業登記規則31条の3第4項)。
なお登記官は、代表取締役等住所非表示措置を講じ、または終了させるに当たって必要があると認めるときは、代表取締役等に対して出頭を求め、質問をし、または文書の提示その他必要な情報の提供を求めることができるとされています(同条6項)。
① 株式会社から当該措置を希望しない旨の申出があったとき
② 株式会社が本店所在地において実在すると認められないとき
③ 上場会社でなくなったとき
④ 閉鎖された登記記録を復活すべき事由があると認められるとき
株式会社から当該措置を希望しない旨の申出があったとき
株式会社から、代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があったときは、登記官が当該措置を終了させます(改正商業登記規則31条の3第4項1号)。
株式会社が上記の申出をするときは、以下の対応をしなければなりません(同条5項)。
(a) 申出書に代表取締役等住所非表示措置を希望しない代表取締役等の氏名・住所を記載する
(b) 申出書または委任による代理人の権限を証する書面に、当該株式会社が登記所に提出している印鑑を押印する
株式会社が本店所在地において実在すると認められないとき
株式会社の本店が、その所在場所において実在すると認められないときは、登記官が代表取締役等住所非表示措置を終了させます(改正商業登記規則31条の3第4項2号)。
ただし、当該株式会社の登記記録が閉鎖された場合は、この限りではありません(同号但し書き)。
上場会社でなくなったとき
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社が上場会社である場合において、当該会社が上場会社でなくなったと認められるときは、登記官が代表取締役等住所非表示措置を終了させます(当該株式会社の登記記録が閉鎖された場合を除きます。改正商業登記規則31条の3第4項2号)。
この場合において、改めて代表取締役等住所非表示措置を申し出る際には、上場会社以外の株式会社に求められる添付書類を提出しなければなりません(前掲)。
閉鎖された登記記録を復活すべき事由があると認められるとき
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社の閉鎖された登記記録について、復活すべき事由があると認められるときは、登記官が代表取締役等住所非表示措置を終了させます(改正商業登記規則31条の3第4項3号)。
前述のとおり、株式会社が本店所在地において実在すると認められないとき、または上場会社でなくなったときでも、登記記録が閉鎖されている場合は、代表取締役等住所非表示措置を終了させないものとされています。
これらの場合においても、閉鎖された登記記録を復活すべき事由が生じたときは、その段階で登記官が代表取締役等住所非表示措置を終了させることになります。
ただし、閉鎖された登記記録を復活すべき事由がある旨を株式会社自身が申し出た場合には、例外的に代表取締役等住所非表示措置を終了させないものとされています(同号但し書き)。
注意点|代表取締役等住所非表示措置が行われていても、住所変更時は登記が必要
代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合でも、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、変更内容を登記しなければなりません。
代表取締役の住所は、株式会社に関する登記事項とされています(会社法911条3項14号)。登記事項について変更が生じた場合には、本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。
代表取締役等住所非表示措置が講じられても、代表取締役等の住所が登記事項であることに変わりはありません。登記事項証明書等には一部しか表示されなくなりますが、登記簿には住所全体が記載されています。
したがって、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等の住所が変わったときも、変更の登記を申請する必要があります。登記事項証明書等には記載されない、行政区画(市区町村)以外の部分だけが変わった場合も同様です。
住所変更に関する変更登記申請の期限は、住所変更があった日から2週間以内です。変更登記申請を怠ると「100万円以下の過料」の対象となるので(会社法976条1号)、期限に間に合うように変更登記申請を行いましょう。
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