詐欺・強迫とは?
民法96条のルール・具体例・
取り消しの要件などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「詐欺」とは相手方を騙して意思表示をさせること、「強迫」とは暴行や脅迫によって相手方を畏怖させて意思表示をさせることです。
詐欺・強迫による意思表示は、いずれも表意者における意思の形成過程に問題(瑕疵)があるため、表意者は意思表示を取り消すことができます。ただし、詐欺取り消しについては善意無過失の第三者に対抗できないなど、取消権が制限されることがあります。
この記事では詐欺・強迫について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年3月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
詐欺・強迫とは|民法96条をベースに分かりやすく解説!
「詐欺」とは相手方を騙して意思表示をさせること、「強迫」とは暴行や脅迫によって相手方を畏怖させて意思表示をさせることです。
詐欺・強迫に基づく意思表示は取り消す(いったん発生した法律行為の効力を、当初に遡って消滅させる)ことができます(民法96条1項)。
詐欺とは
「詐欺」とは、相手方を騙して意思表示をさせることをいいます。
- 詐欺に当たる行為の例
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・本物だと偽って、偽物の美術品を買うように勧誘した。
・重要な欠陥を隠して、不動産を買うように勧誘した。
強迫とは
「強迫」とは、暴行や脅迫によって相手方を畏怖させて意思表示をさせることをいいます。
- 強迫に当たる行為の例
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・買わなければ家族を痛い目に遭わせると脅して、不動産を購入させた。
・暴力を振るいながら「帰りたいなら契約してからだ」と脅して、高価な美術品の購入契約を締結させた。
詐欺の要件
要件1|欺罔行為(騙す行為)
要件2|錯誤に陥って意思表示をしたこと
要件1|欺罔行為(騙す行為)が行われたこと
「欺罔行為」とは、他人を騙す行為です。
欺罔行為が第三者によってなされた場合も、詐欺に基づく取り消しは認められます。
【第三者によってなされた場合とは】
ただし、第三者による詐欺の場合は、意思表示を取り消せる場合が制限されています(後述)。
要件2|錯誤に陥って意思表示をしたこと
詐欺に基づく取り消しは、欺罔行為によって表意者が錯誤に陥り、その状態で意思表示をした場合に限って行うことができます。
- 意思表示とは
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一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為
欺罔行為は行われたものの、表意者は錯誤に陥ることなく、自ら適切に判断して意思表示をした場合には、詐欺取り消しは認められません。
強迫の要件
強迫に基づく取り消しは、以下の2つの要件を満たす場合に認められます。
要件1|畏怖させる行為
要件2|相手方が畏怖して意思表示をしたこと
要件1|畏怖させる行為があったこと
強迫取り消しの対象となるのは、暴行や脅迫によって促された意思表示です。
暴行や脅迫が、第三者によってなされた場合も、強迫に基づく取り消しは認められます。
要件2|相手方が畏怖して意思表示をしたこと
強迫に基づく取り消しは、暴行や脅迫によって表意者が畏怖し、その状態で意思表示をした場合に限って行うことができます。
暴行や脅迫は行われたものの、表意者は畏怖することなく、自ら適切に判断して意思表示をした場合には、強迫取り消しは認められません。
詐欺取り消し・強迫取り消しについて
詐欺または強迫に基づく意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
詐欺・強迫の取り消しにつき、民法のルールを踏まえて以下の事項を解説します。
① 詐欺取り消し・強迫取り消しの効果
② 詐欺が第三者による場合の取り消しの可否
③ 詐欺取り消し・強迫取り消しは第三者に対抗できるか?
④ 詐欺取り消し・強迫取り消しの手続き
⑤ 詐欺・強迫によって取り消せる行為の追認
⑥ 詐欺取り消し・強迫取り消しの期間制限(時効)
詐欺取り消し・強迫取り消しの効果
詐欺または強迫によって取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。
詐欺・強迫の取り消しによって無効となった行為(契約など)に基づき、債務の履行として給付を受けた者は、原状回復を行わなければなりません(民法121条の2)。
(例)
不動産Xを購入する売買契約を、詐欺に基づき取り消した場合
→相手方に不動産Xを返還し(抹消登記手続きを含む)、支払い済みの手付金や売買代金などを返してもらう
詐欺が第三者による場合の取り消しの可否
第三者の詐欺によって行った意思表示は、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限って取り消すことができます(民法96条2項)。
(例)
AがBに騙されて、Cに対して不動産Xを売却する旨の売買契約を締結した場合
→BのAに対する詐欺につき、Cがその事実を知り、または知ることができたときに限り、AはCとの売買契約を取り消すことができる
詐欺取り消し・強迫取り消しは第三者に対抗できるか?
詐欺による意思表示の取り消しは、取り消しの前に法律関係に入った、善意でかつ過失がない第三者に対抗できません(民法96条3項)。
(例1)
(a) AがBに騙されて、Bに対して不動産Xを売却した。
(b) BがCに対して不動産Xを売却した。
(c) (b)の後、Aが詐欺に基づきAB間の不動産売買契約を取り消した。
→Cが詐欺について善意無過失の場合、Aは詐欺取り消しをCに対抗できないため、Cが不動産Xの所有権を得る
これに対して、取り消しの後に法律関係に入った第三者との関係では、対抗要件の先後によって優劣が決まります(民法177条、178条)。
(例2)
(a) AがBに騙されて、Bに対して不動産Xを売却した。
(b) Aが詐欺に基づきAB間の不動産売買契約を取り消した。
(c) (b)の後、BがCに対して不動産Xを売却した。
→AとCのうち、所有権登記を先に備えた方が不動産Xの所有権を得る
詐欺とは異なり、強迫による意思表示の取り消しは、常に取り消しの前に法律関係に入った第三者に対抗できます。
(例3)
(a) AがBに脅されて、Bに対して不動産Xを売却した。
(b) BがCに対して不動産Xを売却した。
(c) (b)の後、Aが強迫に基づきAB間の不動産売買契約を取り消した。
→Cの主観的態様にかかわらず、Aが不動産Xの所有権を確保できる
一方、取り消しの後に法律関係に入った第三者との関係では、強迫についても詐欺と同様に、対抗要件の先後によって優劣が決まります。
(例4)
(a) AがBに脅されて、Bに対して不動産Xを売却した。
(b) Aが強迫に基づきAB間の不動産売買契約を取り消した。
(c) (b)の後、BがCに対して不動産Xを売却した。
→AとCのうち、所有権登記を先に備えた方が不動産Xの所有権を得る
詐欺取り消し・強迫取り消しの手続き
詐欺または強迫に基づく取り消しは、相手方に対する意思表示によって行います(民法123条)。内容証明郵便など、意思表示をしたことの証拠が残る方法で行うのが一般的です。
詐欺・強迫によって取り消せる行為の追認
詐欺または強迫によって取り消せる行為は、取消権者が追認すれば確定的に有効となります。追認も取り消しと同様に、相手方に対する意思表示によって行います(民法123条)。
なお、追認ができるようになった時点以降、取り消すことができる行為について以下の事実が生じたときは、追認したものとみなされます。ただし、異議をとどめたときはこの限りではありません(民法125条)。
① 全部または一部の履行
② 履行の請求
③ 更改
④ 担保の供与
⑤ 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡
⑥ 強制執行
詐欺取り消し・強迫取り消しの期間制限(時効)
詐欺または強迫に基づく取消権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効によって消滅します(民法126条)。
① 追認できる時から5年
② 行為(意思表示)の時から20年
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