商標法とは?
基本を分かりやすく解説!

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弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
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この記事のまとめ

商標法は、商品やサービスに付されるロゴやマーク(商標)を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用維持を図り産業の発達に貢献するとともに、需要者(顧客)の利益を保護することを目的とする法律です。

主に、商標の登録に関する要件・手続や、商標権の効力、商標権が侵害された場合の法律関係について規定しています。

この記事では、商標法の知識がない方にも基本から分かりやすく解説します。

(※この記事は、2022年11月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

商標法とは

商標法は、自己の商品・サービスと他社の商品・サービスとを区別するために使用するロゴやマーク(商標)を保護するための法律です。

商標の典型例としては、以下のようなものが挙げられます。

①企業を表す商標

(Toreru商標検索「カルビー」で検索)

②商品を表す商標

(Toreru商標検索「カルビー」で検索)

③役務(サービス)を表す商標

(Toreru商標検索「証券」で検索)

株式会社Toreruウェブサイト

商標権を取得するには、特許庁へ商標出願をして、審査にパスする必要があります。(商標権をもつ者のことを「商標権者」といいます。)

商標権者は、指定商品・役務(サービス)について登録された商標(以下、登録商標)の使用を独占できます。

指定商品・役務とは

指定商品・役務とは、商標登録出願時に、出願人が指定した、商品又は役務(サービス)のことです。

商標登録を行う際は、「●●の商品(サービス)に、●●という名称を使います」といった形で、当該商標を使用する商品・役務を指定する必要があり、この登録時に設定された「指定商品又は指定役務」の範囲内でのみ、商標権を行使できるのです。

例えば、「契約審査を効率化するクラウドサービスに、LegalForceという名称を使います」という形で商標登録していたとします。

この場合、他社が、契約審査を効率化するサービスに、「LegalForce」という名称を付けると、商標権の侵害になります。しかし、お茶という商品に「LegalForce」という名称を付けたとしても、商標権の侵害にはなりません。

商標権を侵害された場合は、使用の差止めや損害賠償等を請求することができます(商標法36条、民法709条)。

商標法の目的

商標法の目的は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」です(商標法1条)。

企業は、自社の商品・サービスをよりよいものとするため営業努力を重ね、顧客の信用を築き上げていきますが、商標は商品・サービスのいわば目印ですので、企業の築き上げた信用は商標に蓄積されていきます。

ヒー

スマートフォンの中でも、iPhoneが欲しい!

と考える人が多いのは、Apple社が自社のスマートフォンに、「iPhone」という名称を付けて販売し続ける中で、顧客が信頼を寄せるようになったためです。

そして、顧客も同様の商品・サービスが数多くある中で、商品・サービスに付された商標によって、どの商品・サービスの品質が良いか、信頼できるものか、といったことを確認することができます。

このような状況において、ある企業の商標を別の企業が無断で使用すると、商標の保有者はこれまでに積み上げてきた信用を別の企業に流用されてしまうことになりますし、仮に劣悪な商品・サービスに自社の商標を使用されてしまうと、これまでに積み上げてきた信用を失うことにもなりません。

また、顧客も、当該商標が付された商品・サービスは品質の良いものであると考えて購入等したにもかかわらず、その期待を裏切られてしまうことにもなりかねません。例えば、「Apple社のiPhoneが欲しいと思って買ったのに、実は、●●社のiPhoneで低品質なものだった」といったことが頻繁に起こってしまいます。

商標法は、このような事態を防ぐために、商標を保護することによって、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り産業の発展に貢献するとともに、需要者(顧客)の利益も保護することを目的としているのです。

商標法の保護対象となる「商標」とは

まずは、商標法の保護対象となる「商標」について説明します。

商標の定義

「商標」とは、「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」で、
①「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」
②「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの」
をいいます(商標法2条1項)。

ムートン

要約すると、商標とは「自己の商品・サービスと他社の商品・サービスとを区別するために使用するロゴやマーク」のことであるといえます。

商標の機能

商標には、主に以下の機能があるとされています。

自他商品・役務識別機能自己の商品・サービスと他者の商品・サービスを識別する機能です。商標の最も根幹的な機能といえます。
出所表示機能同じ商標が付された商品・サービスは、常に一定の製造者・販売者・提供者等により製造等されているものであることを示す機能です。
品質保証機能同じ商標が付された商品・サービスは、常に一定の品質を備えていることを保証する機能です。
宣伝広告機能商標が多く使用されることで、顧客に記憶され、商品・サービスの需要を喚起させる機能です。

商標の種類(具体例)

商標には、以下の種類があります。

種類説明具体例
文字商標文字のみで構成される商標
図形商標図形のみで構成される商標
記号商標記号のみで構成される商標
立体商標立体的形状から構成される商標
結合商標文字・図形・記号・立体的形状・色彩のうち2つ以上を組み合わせた商標
動き商標文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標
ホログラム商標文字や図形等がホログラフィーその他の方法によって変化する商標
色彩商標輪郭がなく、単色又は複数色の色彩のみから構成される商標
音商標音楽・音声・自然音だけで構成される商標
位置商標図形等を商品等に付す位置が特定される商標

商標法における「使用」とは

商標法では、商標の「使用」という概念が重要です。商標の「使用」については、商標法2条3項各号で、以下のとおり定義されています。

類型具体例
商品についての使用①商品や商品の包装に標章を付する行為(1号)お菓子が入っている包装袋に商標を付す行為
②商品や商品の包装に標章を付したものを譲渡等する行為(2号)商標が付された包装袋に入っているお菓子を販売する行為
役務についての使用③役務の提供に当たり顧客が利用するものに標章を付する行為(3号)飲食サービスを提供するにあたり、食器に商標を付す行為
④標章を付した物を利用して役務を提供する行為(4号)商標を付した食器を利用して、飲食サービスを提供する行為
⑤役務を提供する道具に標章を付して展示する行為(5号)飲食サービスを提供するにあたり、商標が付された紙ナプキンをテーブルに置いておく行為
⑥役務の提供に当たり顧客のものに標章を付する行為(6号)クリーニングサービスの提供にあたり、クリーニングした顧客の衣類に商標を付したラベルを付ける行為
⑦標章を表示してインターネット等を通じた役務を提供する行為(7号)オンライン通信販売サービスを提供するにあたり、サービス提供サイトに商標を表示する行為
商品・役務についての使用⑧広告や取引書類に標章を付して展示・頒布し、インターネット等で提供する行為(8号)雑誌に自社の商標を表示した広告を掲載する行為
⑨商品・役務の譲渡・提供のために音の商標を発する行為(9号)店頭での商品の販売にあたり、音の商標を再生する行為

商標権を取得するための要件

次に、商標登録を受けるための要件について説明します。主な要件は、以下のとおりです。

✅自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標であること
✅識別性があること
✅公共の機関の標章と紛らわしい等公共性に反するものでないこと
✅他人の登録商標又は周知・著名商標等と紛らわしいものでないこと

以下それぞれ詳しく解説します。

自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標であること

商標登録を受けるためには、自己の業務に関係のある商品又は役務について、使用する商標である必要があります(商標法3条1項柱書)。

本要件を満たすには、いま現在使用している商標のみならず、将来使用する意思のある商標を含みますので、新商品の販売準備等の段階でも商標登録を受けることは可能です。

識別性があること

識別性とは、自己の商品・サービスと他者の商品・サービスを見分けることができる性質のことです。

商標法では、以下のとおり、識別性がない商標を商標法3条1項各号で定め、これらに該当する場合は、商標登録ができないと規定しています。

類型説明具体例
普通名称の商標(1号)・普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標は商標登録を受けることができません。
・誤って登録されても無効理由となりますし(商標法46条1項1号)、商標権の効力も及びません(商標法26条1項2号・3号)
・商品「パーソナルコンピューター」について、商標「パソコン」
・商品「スマートフォン」について、商標「スマホ」
慣用商標(2号)・慣用されている商標は商標登録を受けることができません。
・誤って登録されても無効理由となりますし(商標法46条1項1号)、商標権の効力も及びません(商標法26条1項2号・3号)
・商品「清酒」について、商標「正宗」
記述的表示の商標(3号)・商品の産地、販売地、品質、その他の特徴等又は役務の提供の場所、質、その他の特徴等のみを表示する商標は商標登録をすることができません。
・誤って登録されても無効理由となりますし(商標法46条1項1号)、商標権の効力も及びません(商標法26条1項2号・3号)
・商品「肉製品」について、「炭焼き」
・商品「和菓子」に商標「東京」
ありふれた氏・名称の商標(4号)・ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する商標は商標登録を受けることができません。
・誤って登録されても無効理由となります(商標法46条1項1号)。
・「佐藤商店」
・「田中屋」
極めて簡単でありふれた商標(5号)・極めて簡単で、かつ、ありふれた商標は商標登録を受けることができません。
・誤って登録されても無効理由となります(商標法46条1項1号)。
・「1」、「AB」
包括的規定(6号)・①~⑤以外にも、顧客が誰かの業務に係る商品・役務であることを認識できない商標は商標登録を受けることができません。
・誤って登録されても無効理由となりますし(商標法46条1項1号)、商標権の効力も及びません(商標法26条1項6号)。

なお、上記のうち、③記述的表示の商標、④ありふれた氏・名称の商標、⑤極めて簡単でありふれた商標については、使用された結果顧客が誰かの業務に係る商品・役務であることを認識(全国的な認識が必要とされます。)することができるようになっていれば商標登録を受けることができます(商標法3条2項)。

ムートン

過去には、例えば、コカ・コーラの瓶の立体商標やチキンラーメンの文字商標が3条2項にあたると判断され、商標登録に成功しました。

公共の機関の標章と紛らわしい等公共性に反するものでないこと

商標法4条1項各号は、商標登録を受けることができない商標について定めますが、このうち、公益的理由から商標登録を受けることができないとされている商標は以下のとおりです。

類型
国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標(1号)
外国、国際機関の紋章、標章(マーク)等であって経済産業大臣が指定するもの、白地赤十字の標章又は赤十字の名称と同一又は類似の商標等(2~5号)
国、地方公共団体、公益事業等を表示する著名な標章と同一又は類似の商標(6号)
公序良俗を害するおそれがある商標(7号)
博覧会の賞と同一・類似の標章を有する商標(9号)
商品の品質の誤認を生じさせるおそれのある商標(16号)
商品等が当然に備える特徴のみからなる商標(18号)

他人の登録商標又は周知・著名商標等と紛らわしいものでないこと

また、商標法4条1項各号が定める商標登録を受けることができない商標のうち、私益的理由から商標登録を受けることができないとされている商標は以下のとおりです。

類型説明
他人の肖像・氏名・著名な芸名等を含む商標(8号)・他人の肖像・氏名・名称、著名な雅号・芸名・筆名を含む商標は商標登録を受けることができません。
・他人の承諾を得ている場合は商標登録を受けることができます。
他人の周知商標と同一・類似の商標(10号)・他人の周知商標(世間に広く知られている商標)と同一・類似の商標で、同一・類似の商品・役務に使用する商標は商標登録を受けることができません。
既に登録済の商標と同一・類似の商標(11号)・既に登録済の商標と同一・類似の商標で、同一・類似の商品・役務に使用する商標は商標登録を受けることができません。
他人の登録防護標章と同一の商標(12号)・他人の登録防護標章と同一の商標で、同一・類似の商品・役務に使用する商標は商標登録を受けることができません。
※防護標章について、「防護標章制度」参照。
登録品種の名称と同一・類似の商標(14号)・種苗法18条1項の規定により品種登録を受けた品種の名称と同一・類似の商標で、その品種の種苗と同一・類似の商品・役務に使用する商標は商標登録を受けることができません。
顧客が、商品の生産者・販売者等を混同するおそれがある商標(15号)・顧客が、他人の商品・役務と混同を生じるおそれのある商標は商標登録を受けることができません。
・本号では、商標や商品・役務の類似が要件とされていない点が特徴で、10~14号を包括する役割を担っています(15号かっこ書)。
ぶどう酒・蒸留酒の産地を表示する商標(17号)・ぶどう酒・蒸留酒の産地を表示する商標で、当該産地以外を産地とするぶどう酒・蒸留酒に使用する商標は商標登録を受けることができません。
他人の著名商標を不正の目的で使用する商標(19号)・他人の商品・役務を表示するものとして日本国内・外国で著名な商標を不正の目的で使用する商標は商標登録を受けることができません。
・本号は他の類型に該当しないときにはじめて適用されます(19号かっこ書)。

出願から商標権取得までの流れ

それでは、次に商標権を取得するまでの流れについて説明します。

商標審査の流れ

特許庁における審査の流れの全体像は以下のとおりです。

特許庁ウェブサイト「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」

①事前調査

商標を出願する前には、事前調査を行うことが望ましいです。事前調査を行う際には、工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供する、「J-PlatPat」を活用することができます。

②商標出願(出願書類の作成・提出)

事前調査の結果、問題がなさそうであれば、商標出願に進みます。

商標出願の際には、「商標登録願(願書)」を作成し、特許庁へ提出します。「商標登録願」には、「商標登録を受けようとする商標」や、「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」を記載する必要があります。商標出願についても、弁理士に依頼することが多いです。

商標出願の出願書類の様式や、作成の方法については、以下の特許庁のウェブサイトに詳細な説明があります。

③方式審査

商標出願がされると、出願が法令で定める形式的な要件を満たしているかの審査(方式審査)が行われます。

方式審査の結果、不備がある場合には、補正(出願内容の補足や訂正)が命じられ(商標法77条2項、特許法17条3項)、これに対し、出願人が適切な補正をしないと出願手続が却下されます(商標法77条2項、特許法18条)。

方式審査の運用基準については、特許庁のウェブサイトに詳細な説明があります。

④実体審査

方式審査後、特許庁による実体審査に進みます。実体審査では、商標が登録を受けることができない商標ではないかなど拒絶理由(商標法では不合格のことを「拒絶」といいます。商標法15条各号)の有無について審査が行われます。なお、商標法では、特許法と異なり、審査請求制度は採用されておらず、出願されたものが全て審査されます。

審査請求制度とは

審査請求制度とは、方式審査が終わった後、実体審査に進むためには、出願人が3年以内に出願審査をしてくださいといった請求を行う必要がある制度のことです。

なお、実体審査の結果、拒絶理由が認められても、商標権の取得が永久にできないわけではありません。出願人は、意見書の提出や補正等の対応を行うことで(商標法15条の2・68条の40)、拒絶理由の解消ができれば、商標権を取得できます。

⑤登録査定

審査の結果、拒絶理由がないと判断された場合、登録査定がされます(商標法16条)。

一方、審査の結果、拒絶理由があると判断された場合は、拒絶査定がされます(商標法15条)。

⑥商標権の設定の登録(商標権が発生)

出願人が、商標査定の謄本の送達日から30日以内に登録料を納付すれば、商標権の設定の登録がされ、商標権が発生します(商標法18条1項、同法41条1項)。登録料が納付されないと、商標出願が却下されてしまいます(商標法77条2項、特許法18条)。

商標権の存続期間は、設定登録の日から10年ですが(商標法19条1項)、存続期間の更新が認められていますので(商標法19条2項)、更新を繰り返せば、商標権を半永久的に存続させることが可能です。

特許庁の判断を争うための方法

以上の特許庁の審査を経て商標権が発生しますが、特許庁の判断を争いたい(特許庁の判断に不服がある)場合には、どのような対応をとればいいでしょうか。以下3つの主な手続について説明します。

✅審判
✅商標登録の異議申立て
✅審決取消訴訟

審判

まず、特許庁の審査官が行った拒絶査定や商標登録といった判断は、同じ特許庁内の審判部でその妥当性等について判断してもらうができます。これが「審判」です。以下は主な審判手続の内容です。

拒絶査定不服審判

拒絶査定を受けた場合、謄本の送達日から3か月以内であれば、拒絶査定不服審判(拒絶査定が本当に適切に行われたかチェックをしてもらうこと)を請求することができます(商標法44条1項)。

無効審判

無効審判とは、ある登録商標について、利害関係を有する者が商標登録の無効を求めることができる審判です(商標法46条)。

無効理由は商標法46条1項各号に規定されており、商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、原則として商標権は初めから存在しなかったものとみなされます(特許法46条の2本文)。

なお、一定の無効理由については、一定の期間を過ぎると無効審判請求ができなくなりますので(商標法47条各項)、注意が必要です。

不使用取消審判

不使用取消審判とは、継続して3年以上、日本国内で、各指定商品・役務について登録商標が使用されていないときに、誰もが、その指定商品・役務に係る商標登録の取消しを求めることができる審判です(商標法50条)。

商標登録の異議申立て

商標登録の異議申立てとは、商標掲載公報発行の日から2か月間は、商標付与の是非について再審査を求めることができる制度です(商標法43条の2、43条の3第3項)。

異議申立ては、誰でも行うことができ、異議申立理由は商標法43条の2各号に規定されています。

一旦成立した商標権を遡って存在しなかったものとみなす制度である点で無効審判と共通しますが、無効審判と異なり利害関係のない第三者も申し立てることができる点等が異なります。

審決取消訴訟

以上の特許庁の審判の結果(審決)や特許取消決定に不服がある場合には、知的財産高等裁判所に審決を取消してもらうための訴訟(審決取消訴訟)を提起することができます(商標法63条)。

商標権の効力

それでは、次に取得した商標権にはどのような効力が認められるかについて説明します。

商標権を取得すると、商標権者は、指定商品・役務について登録商標の使用をする権利を専有します(専有権、商標法25条)。

また、商標権者は、

①指定商品・役務について登録商標と類似する商標を使用する行為
②指定商品・役務に類似する指定商品・役務について登録商標と同一の商標を使用する行為
③指定商品・役務に類似する指定商品・役務について登録商標と類似する商標を使用する行為

に対して差止請求等を行うことができます(禁止権、商標法37条1号)。これらを表にまとめると、以下のとおりです。

商標が同一商標が類似商標が非類似
商品・役務が同一専用権禁止権×
商品・役務が類似禁止権禁止権×
商品・役務が非類似×××

以上のとおり、禁止権の効力は、登録商標の類似範囲にまで及びますので、商標権の効力を検討するにあたっては、「商標の類似」、「商品・役務の類似」といった概念がポイントです(なお、これらの概念は不登録事由等との関係でも重要です。)。

商標の類似

商標の類似は、対比される両商標が同一・類似の商品・役務に使用された場合に、出所の誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって判断されます。

この判断にあたっては、両商標の外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象等を、取引の実情も踏まえながら、全体的に考慮するものと考えられています。

商品・役務の類似

商品・役務の類似は、両商品・役務に同一・類似の商標が使用される場合に、出所の誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって判断されると考えられています。

なお、特許庁では、「類似商品・役務審査基準」を策定しており、商品・役務の類似性を検討するにあたって参考になりますが、この基準は法規範としての効力は有しませんので、実際の判断にあたっては、この基準で、類似群にある商品・役務が非類似と判断されたり、異なる類似群にある商品・役務が類似と判断されたりすることもあります。

商標権の効力が及ばない範囲

以上のとおり、商標権の効力は、同一・類似の指定商品・役務について、同一・類似の商標を使用する行為に及びますが、商標法26条1項各号では、商標権の効力が及ばない場合について、以下のとおり規定しています。

類型
自己の肖像・氏名・名称、著名な雅号・芸名・筆名等を普通に用いられる方法で表示する商標(1号)
当該商品・役務の普通名称、慣用商標、産地・品質その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する商標(2号~4号)。
商品等が当然に備えるべき立体的形状、色彩又は音(役務にあっては、役務の提供の用に供する物の立体的形状、色彩又は音)のみからなる商標(5号、商標法施行令1条)
顧客が誰かの業務に係る商品・役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(6号)

防護標章制度

防護標章制度は、著名な登録商標について、防護標章として登録を受けることで、同一の標章を他人が指定商品・役務と類似しない商品・役務に使用することを禁止することができる制度です(商標法64条)。

商標権者が標章を商品・役務に使用しない分野で、商品・役務の出所の混同を防止し、商標権者の業務上の信用を維持することを目的としています。

商標権の活用方法

それでは、次に商標権はどのように活用できるかについて説明します。

自己使用

まず、商標権者は登録商標を独占的に使用することができますので(商標法25条)、登録商標を使用した商品・サービスを販売・提供することで、収益を上げることができます。

ライセンス

次に、商標権者は、他者に登録商標の使用権を許諾等(ライセンス)することで対価を得ることも可能です。

ライセンスの方法は複数あり、以下、他者に許諾する権利としてどのようなものがあるかを説明します。

専用使用権

専用使用権は、商標権者の意思により設定される使用権で、ライセンス契約等で定めた範囲内で登録商標を独占的に使用することができる権利です(商標法30条)。

なお、専用使用権の設定は、登録しなければ効力が生じないことに注意が必要です(商標法30条4項、特許法98条1項2号)。

専用使用権が設定されると、専用使用権者は自ら差止請求権等を行使できるなど(商標法36条等)、後述の「通常使用権」と比較し強い権利を取得することができます。

一方、商標権者は、設定行為で定めた範囲内では自身も登録商標を使用することができなくなるなどの制限を受けます(商標法25条ただし書)。

通常使用権

通常使用権は、商標権者の意思により設定される使用権で、ライセンス契約等で定めた範囲内で登録商標を使用することができる権利です(商標法31条)。

通常使用権の効力発生のために登録することは必要なく、また柔軟に使用権の内容を設定することができるため、実務上もよく活用されています。

一般的には、通常使用権が設定されても、商標権者は、自ら登録商標を使用したり、他者に通常使用権を許諾したりすることも制限されません。

しかし、通常使用権でも、

✅商標権者から他の者には使用権の許諾をすることができない旨の合意をする(このような通常使用権を独占的通常使用権ということがあります。)
✅商標権者自身も登録商標を使用しない旨の合意をする(このような通常使用権を完全独占的通常使用権ということがあります。)

場合もあります。

また、(独占的通常使用権者については争いがありますが、)少なくとも、非独占的通常使用権者については、専用使用権者とは異なり、自ら差止請求権等を行使することはできないと考えられています。

法定通常使用権

商標権者の意思にかかわりなく発生する使用権に法定通常使用権があります。法定通常使用権とは、公益上の必要性や当事者間の衡平を図る観点から、法律上の規定によって発生する使用権です。

よく問題となるものとして、先使用による法定通常使用権(商標法32条)があります。これは、自己の未登録の商標について、後から他人が同じ内容で商標登録をしたとしても、既に自己の商標が一定の認知度を獲得していた場合は、自分たちもその商標を使用する権利を取得できるものです。

移転(譲渡)

商標権を移転(譲渡)して対価を得ることも可能です。指定商品・役務が2つ以上ある場合には、指定商品・役務ごとに分割して移転することも可能です(商標法24条の2)。

ただし、譲渡による商標権の移転は特許庁への設定登録をしなければ効力を有しない点に注意が必要です(商標法35条、特許法98条1項1号)。

担保権の設定

商標権を担保として資金調達をすることも可能です(商標法34条1項)。ただし、特許庁への設定登録が効力発生要件となっている点には注意が必要です(商標法34条4項、特許法98条1項3号)。

共有に係る商標権

商標権は以上のように活用することができますが、商標権が共有されている場合には、以下のとおり商標権の活用にあたり制限が生じる場合があります。

登録商標の使用共有者の同意なく自由に実施することが可能(商標法35条、特許法73条2項)
持分の譲渡・質権の設定、
専用使用権・通常使用権の設定
共有者の同意がなければ左記の行為をすることができない(商標法35条、特許法73条1項・3項)

商標権の侵害とは

以下では、どのような場合に商標権の侵害となるのか説明します。

商標権侵害

商標権の侵害(直接侵害)とは、「商標権の効力」記載の専用権・禁止権を侵害する行為ですので、登録商標と同一・類似の商標を、指定商品・役務と同一・類似の商品・役務について使用することをいいます。

間接侵害

商標権侵害」記載の商標権侵害行為(直接侵害)にはあたらないものの、このような行為の予備的な行為については、間接侵害として商標権の侵害にあたります(商標法37条2号~8号)。

例えば、「登録商標と、同一(類似)の商標が付いている物を、譲渡や輸出のために所持する行為(例:シャネルのロゴが付いた偽物のバックを輸出するために所持する)などが間接侵害にあたります。

抗弁

それでは、商標権者から侵害を疑われた者はどのような反論をすることができるでしょうか。以下では、主な抗弁(反論)について説明します。

商標権の効力の制限

まず、「商標権の効力が及ばない範囲」に記載の場合には、商標権の効力が及びませんので、侵害が疑われる者としては、商標法26条1項各号に該当することを反論として主張することができます。

商標的使用論

商標的使用論とは、商標権侵害となるためには、「自他商品・役務識別機能や出所表示機能を果たす使用(=商標的使用)でなければならない」とする考え方です。

商標の「使用」については、「商標の使用」に記載のとおり商標法2条3項各号に規定されています。

しかし、形式的には同項各号の行為にあたる場合でも、商標的使用に該当しない場合には、商標権侵害にあたりません

使用権

ライセンス」記載の各使用権が認められる場合には、抗弁として主張することができます。例えば、実務上、先使用の法定通常使用権(商標法32条)を抗弁として主張する場合があります。

無効の抗弁

登録商標が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、商標権者は相手方に対しその権利を行使することができません(商標法39条、特許法104条の3第1項)。

そのため、侵害が疑われる者としては、登録商標が無効とされるべきものであることを反論として主張することができます。

権利濫用の抗弁

侵害が疑われる者としては、相手方の商標権侵害に基づく差止請求権等の行使が、権利の濫用(民法1条3項)にあたるとして抗弁を行うことも可能です。

商標機能論

商標法では、商標権者等が登録商標を使用した商品を一旦流通に置いた場合、その後のその商品の譲渡等について権利侵害を否定する根拠として、一般的に、商標機能論が採用されています。

すなわち、真正商品が流通する場合、その商品に付される商標は真の商標権者を識別する機能を発揮するため、商標の機能を害するおそれがないとして、権利侵害が否定されます。商標機能論は、例えば、真正商品の流通過程で、商品が小分けにされる場合等に問題となります。

また、真正商品の並行輸入が商標権侵害となるかについても商標機能論を根拠に議論がされており、最高裁平成15年2月27日判決では、以下の3つの要件を満たす場合には、並行輸入が商標権侵害にならないと判示しています。

  1. 当該商標が外国の商標権者等により適法に付されたものであること
  2. 当該外国の商標権者と我が国の商標権者が同一人か、法律的・経済的に同一人と同視し得る関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであること
  3. 我が国の商標権者が直接・間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあり、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品が当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないこと

商標権侵害をされたときの対処法

それでは、自己の商標権が侵害された場合、どのような対応をとることができるでしょうか。以下説明します。

商標権侵害に対する民事上の救済措置

差止請求権

商標権者は、自己の商標権を侵害する者・侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止・予防の請求(差止請求)をすることができます(商標法36条1項)。

また、差止請求をするに際し、商標権を侵害している物の廃棄等、侵害の予防に必要な行為を請求することもできます(商標法36条2項)。

損害賠償請求権

商標権者は、商標権侵害によって損害を被った場合、損害賠償請求をすることもできます(民法709条)。

なお、商標権者の損害額に関する立証負担を軽減するために、商標法には損害額の算定規定が設けられています(商標法38条)。

信用回復措置請求権

商標権者は、商標権侵害により商標権者の業務上の信用を害した者に対して、商標権者の業務上の信用を回復するために必要な措置を請求することができます(商標法39条、特許法106条)。

不当利得返還請求権

商標権者は、無断で自己の商標権を使用する者に対し、不当利得返還請求(民法703条)をすることも可能です。

民事手続の特則

商標権侵害に関する民事裁判においては、通常の民事裁判と比較し、主に以下の特則が設けられています。

過失の推定(商標法39条、特許法103条)他人の商標権を侵害した者はその侵害について過失があったものと推定されます。
具体的態様の明示義務(商標法39条、特許法104条の2)商標権侵害訴訟において、侵害を疑われている側は、商標権者の主張を否認する場合、自己の行為の具体的態様を明らかにする必要があります。
書類の提出等(商標法39条、特許法105条)裁判所は、当事者に対し、侵害行為や侵害行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命じることができます。
損害計算のための鑑定(商標法39条、特許法105条の2の12)商標権侵害訴訟の当事者は、裁判所が侵害行為による損害の計算をするために鑑定を命じた場合には、鑑定人に対し、必要な事項を説明しなければなりません。
相当な損害額の認定(商標法39条、特許法105条の3)裁判所は、商標権侵害訴訟において、損害の発生は認められるものの、損害額の立証が極めて困難である場合、相当な損害額を認定することができます。
秘密保持命令(商標法39条、特許法105条の4)裁判所は、商標権侵害訴訟において、準備書面等に当事者の営業秘密が記載されている場合、当事者等に対し、秘密保持命令を発することができます。

商標権侵害に対する行政上の救済措置

商標権を侵害する物品は関税法上、輸出入してはならない物品とされています(関税法69条の2第1項3号・69条の11第1項9号)。このため、自己の商標権を侵害する物品が輸出入されている場合、関税法上の手続を経ることで、これらの行為を水際で差し止めることができます。

商標権侵害に対する刑事上の救済措置

商標権侵害は刑事罰の対象にもなっています(商標法78条・78条の2)。このため、自己の特許権を侵害された者は、警察等に刑事告訴(刑事訴訟法230条)や被害相談等をすることができます。

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知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ

参考文献

特許庁「2021年度知的財産権制度入門テキスト」

特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第21版]」(商標法)

茶園成樹著『商標法[第2版]』有斐閣、2018年