特許の分割出願・特許出願の分割とは?
メリット・分割出願が可能な時期などを
分かりやすく解説!

この記事のまとめ

「特許出願の分割」とは、特許庁に出願中の特許出願(原出願)を、後から2以上の出願に分割することを意味します。特許出願の分割により、分割された後の出願を「分割出願」と言います。

原出願の一部が特許要件を満たさない場合などに、特許出願の分割をすると、原出願の出願順位を維持したまま一部の発明の特許権を取得できるなどのメリットがあります。

特許出願の分割に関する要件を踏まえて、状況に応じて効果的に活用しましょう。

この記事では特許の「分割出願」について、特許出願の分割のメリットや活用例、要件、手続などを解説します。

ヒー

特許出願を分割できると、どんなメリットがあるのか、いまいち理解できていません。

ムートン

この記事で分割出願の定義やメリットについて、学んでいきましょう!

特許の基本については、以下の記事で解説しています。

※この記事は、2022年5月10日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

特許の分割出願・特許出願の分割とは

特許庁に出願中の特許出願(原出願)に複数の発明が記載されている場合に、後から2つ以上の出願に分割することを「特許出願の分割」と言い、分割された後の出願を「分割出願」と言います(特許法44条1項)。

また、原出願を「親出願」、分割出願を「子出願」と呼ぶ場合もあります。

ヒー

特許出願の分割って、なぜ認められているんですか?

ムートン

特許制度の目的である「産業の発展を促すこと」につながるからです。
例えば、一度に2個の発明についての特許を申請し、そのうち1個だけ特許の要件を満たさなかったとします。そういうとき、特許出願を分割できれば、特許要件を満たした発明については先に特許権を得られるよう進めることができるので、特許制度の目的に資すると考えられています。

特許出願の分割の効果

特許出願の分割が行われた場合、分割出願は原出願とは別の新たな出願として取り扱われますが、出願日は原出願がなされたときにしたものとみなされます。(特許法44条2項)

そのため、特許出願の分割をしたとしても、特許出願の順位を維持する効果があります。

分割出願をさらに分割することも可能

分割出願を原出願として、さらに特許出願の分割を行うことも認められます(「孫出願」)。

この場合、孫出願は親出願・子出願のときにしたものとみなされます(特許法44条2項)。

用語の整理

✅原出願(親出願)…特許庁にもともと出願していた特許出願
✅分割出願(子出願)…親出願を分割した特許出願
✅分割出願(孫出願)…子出願をさらに分割した特許出願

特許の分割出願が可能な時期

特許出願の分割は、以下のいずれかの期間内に行う必要があります(特許法44条1項)。

特許出願の分割を行うメリット

特許出願の分割を行うメリットとしては、以下の点などが挙げられます。

それぞれ詳しく解説します。

原出願の出願順位を維持できる

分割出願について、原出願の出願順位を維持できる点は、特許出願の分割を行うことの大きなメリットと言えます。なぜなら、特許法ではいわゆる先願主義が採用されているためです(特許法39条1項)。

ヒー

先願主義って何でしたっけ…?

ムートン

先願主義とは、同一の発明について複数の特許出願があった場合に、最も先に出願されたものにのみ特許権を与えるという考え方です。

つまり、特許出願のタイミングは早ければ早いほど、同じ発明について特許権を取得しようとする競合他社に対して有利になり、先願主義のメリットは、特許出願の分割が行われた場合にも引き継がれます。

何らかの事情で、原出願を分割しなければならないケースはよくありますが、出願が分割された時点を基準として先願の判断が行われるとすれば、分割出願によって出願順位が後退する結果となり、先願主義のメリットが失われてしまいます。

そこで、特許出願の分割が行われた場合にも、分割出願の出願日を原出願の時点とみなし、出願順位の維持が認められることになっています(特許法44条2項)。

したがって、全く新しい特許出願をし直すよりも、原出願の分割を行った方が、先願主義との関係で有利に働き、特許権を取得しやすくなるメリットがあります。

原出願が公開されていても、分割出願が新規性・進歩性の要件を満たせる

特許出願の内容は、出願の日から1年6か月を経過すると公開されます(特許法64条1項)。これを「出願公開」と言います。

出願公開が行われた発明は広く公に知られた情報となるため、それに関連する発明は、特許要件である以下2つの条件を満たさなくなる可能性が高いです。

具体的には、原出願に関係のある発明の一部のみを再度特許出願をするケースにおいて、再出願の段階で原出願が既に公開されている場合、再出願は新規性・進歩性を満たさず、特許権が認められなくなってしまいます。

これに対して、特許出願の分割を行った場合、新規性・進歩性の判断の基準時は、分割出願のときではなく原出願のときとなります(特許法44条2項)。

したがって、原出願の時点で新規性・進歩性を満たしていれば、原出願の公開後に特許出願の分割を行った場合でも、分割出願について特許権が認められるのです。

特許出願の分割が行われる場面の具体例

上記で解説したメリットを踏まえて、実際に特許出願の分割が行われることの多い場面の具体例を見てみましょう。

一部の発明について早期に特許権を取得したい場合

特許出願をした複数の発明のうち、一部について早期に特許権を取得する目的で、特許出願の分割が行われるケースがあります。

一般的に、特許出願をする際は、複数の発明をまとめて申請することが多いです。

複数の発明をまとめて申請すると、一部の発明については特許が認められたが、その他の発明については特許が認められなかったというケースが発生することがあります。

そうしたときに、①特許権が認められた発明、②特許権が認められなかった発明、に分けて特許出願を分割すると、①については早期に特許権を取得できる一方で、②については出願順位を維持しつつ、改めて権利化を目指すことができます。

このように、特許権が認められそうな発明を早期に権利化する目的で、特許出願の分割が行われる場合があります。

原出願が「発明の単一性」の要件を満たしていない場合

前述のとおり、特許出願をする際は、複数の発明を一度にまとめて申請する場合がありますが、その際は、「発明の単一性」の要件を満たしていなければなりません(特許法37条)。

発明の単一性とは

一つの特許出願の中で複数の発明について特許を受けようとする場合、その複数の発明の間に技術的な関連性や共通性があること(特許法施行規則25条の8第1項)

発明の単一性の要件を満たしていない場合、そのままでは特許が認められないません。そのため、特許出願の分割を行い、発明の単一性の要件を満たすように変更します。

発明の単一性が認められた発明については、原出願の出願順位を維持した上で特許審査を受けることができます。

特許出願の分割ができる場合の要件

特許出願の分割を行うためには、以下の形式的要件・実体的要件を満たす必要があります。

特許出願の分割の形式的要件

特許出願の分割ができる者は、原出願の特許出願人とされています(特許法44条1項)。したがって、原出願と分割出願の間では、特許出願の分割時点で特許出願人が同じでなければなりません。

また「特許の分割出願が可能な時期」にて解説したとおり、特許出願の分割ができる期間は限られているため、期間内に行われた特許出願の分割のみが効力を認められます。

特許出願の分割の実体的要件

特許出願の分割においては、分割出願が原出願に包含されていることを前提としています。

<包含されている状態のイメージ>

したがって、原出願に含まれない新規の発明などを含む場合は、分割出願として取り扱われません。

なお、原出願と分割出願の間の包含関係の有無は、明細書の記載を基準に判断されます。分割出願の明細書との比較対象となる原出願の明細書は、原出願当初のもの及び分割直前のものの両方です。

特許出願の分割を行う場合の手続

特許出願の分割は、以下の手続によって行います。

流れに沿って解説していきます。

①特許出願の分割の申立て

まずは特許庁に対して、特許出願の分割を申し立てます。

分割出願については、原出願とは別の出願として取り扱われますので、以下の特許出願の必要書類を提出し直さなければなりません(特許法36条1項、2項)。

さらに、特許出願の分割に係る上申書を提出して、以下の事項についての説明をすることが求められます。

②分割の可否に関する審査

審査官は、特許出願の分割の形式的要件が満たされているかどうかを確認した上で、原出願と分割出願の包含関係に関する実体的要件の審査を行います。

審査項目は、主に分割出願の請求項(当該発明のどの点について特許権を請求するか記載した項目)について、原出願にはない新規事項が追加されていないかどうかという点です。

実体的要件が満たされていないと判断した場合でも、すぐに拒絶査定が行われるわけではなく、特許出願人に対して理由を示した上で補正(審査に係る書類の内容を補充したり、訂正したりすること)の機会が与えられます(特許法50条)。補正の結果、特許出願の分割の実体的要件が満たされれば、特許出願の分割が認められます。

③分割出願に係る実体的審査

特許出願の分割が認められた場合、分割出願について特許をすべきかどうかの実体的審査が行われます。審査官は、主に以下の特許要件を満たしているかどうかについて、出願書類の内容を精査した上で判断します。

特許要件を満たしていない、またはその他の拒絶理由(特許法49条各号)が存在すると判断される場合には、特許出願の分割の可否に関する審査と同様に、特許出願人に対して補正の機会が与えられます(特許法50条)。

④査定謄本の送達・特許権の設定登録

補正を経て、特許出願が特許要件を全て満たしており、その他の拒絶理由が存在しない場合には、審査官は特許をすべき旨の査定を行います(特許法51条)。

これに対して、いずれかの拒絶理由が存在する場合には、審査官は特許出願を拒絶すべき旨の査定を行います(特許法49条)。

査定の結果・理由が記載された査定謄本は、特許庁長官から特許出願人に対して送付されます(特許法52条1項、2項)。特許をすべき旨の査定が行われた場合には、その後特許権の設定登録が行われ、特許権が与えられます(特許法66条1項)。

この記事のまとめ

特許の分割出願・特許出願の分割の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

特許庁「発明の単一性(特許法第37条)」

特許庁「特許出願の分割(特許法第44条)」

特許庁「特許・実用新案審査ハンドブック」

奥田百子著『なるほど図解特許法のしくみ〈第4版〉』中央経済社、2017年