【2022年6月1日等施行】
特定商取引法(特商法)改正とは?
改正点を分かりやすく解説!

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弁護士法人大江橋法律事務所弁護士
2010年慶應義塾大学法学部卒業、2012年慶應義塾大学法科大学院修了。2014年裁判官任官。 2021年依願退官し、弁護士登録(第一東京弁護士会)。 訴訟・紛争解決、一般企業法務を中心として、倒産、保険等や、一般民事・家事事件を含め幅広い分野を取り扱う。
この記事のまとめ

2021年6月9日に特定商取引法等を改正する法律が成立し、同月16日に公布されました。

主な改正点は、通販の「詐欺的な定期購入商法」対策、送り付け商法対策、クーリング・オフの通知の電子化対応、事業者が交付すべき契約書面等の電子化対応などです。

このうち送り付け商法対策については2021年7月6日に施行されており、事業者が交付すべき書面の電子化対応は2023年6月1日に施行されますが、その他の改正部分については2022年6月1日に施行されることとなりました。

本記事では、2022年6月1日施行の改正部分を中心に、2021年公布の特定商取引法改正の内容を解説します。

特定商取引法(特商法)とは

特定商取引法(正式名称:特定商取引に関する法律)とは、消費者と事業者との間の契約のうち、訪問販売等、特に消費者が悪徳商法等の被害に遭いやすい取引類型を対象に、一定の規制を定めることで、消費者を保護することなどを目的とした法律です。

対象となる取引類型は、以下の7つです。

  1. 訪問販売
  2. 通信販売
  3. 電話勧誘販売
  4. 連鎖販売取引
  5. 特定継続的役務提供
  6. 業務提供誘引販売取引
  7. 訪問購入

これらに当たる取引に関し、広告表示規制や書面の交付義務などの行政規制、クーリング・オフ・不実告知等があった際の取消権など民事上のルールを定めることで、消費者保護を図っています。

詳細は「特定商取引法とは?基本を解説!」をご参照ください。

2021年公布の改正特定商取引法とは?

2021年6月9日、「消費者被害の防⽌及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の⼀部を改正する法律」(令和3年法律第72号)が成立し、同月16日に公布されました。今回の法改正は、消費者が安心して商品やサービスの取引ができるよう、消費者被害の防止や取引の公正を図ることを目的としたものです。

この法律により、特定商取引法のほか、特定商品等の預託等取引契約に関する法律(改正により「預託等取引に関する法律」に改称)、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律などが改正されることとなりました。

本記事では、このうち特定商取引法の改正について解説します。

以下、上記法律による特定商取引法の改正を「2021年特定商取引法改正」又は「本改正」といい、改正後の特定商取引法(改正により変更がない部分を含みます。)を「特商法」と、改正前の特定商取引法を「旧特商法」といいます。

同様に、本改正に伴い、特定商取引に関する法律施行規則の一部を改正する命令(令和4年内閣府・経済産業省令第1号)によって、特定商取引に関する法律施行規則も改正されましたが、これによる改正後のもの(改正により変更がない部分を含みます。)を「特商規」と、その改正前のものを「旧特商規」といいます。

2021年公布の特定商取引法改正における主要な改正点

2021年公布の特定商取引法改正の内容は、大きく分けると次の3点となります。

公布日・施行日

2021年特定商取引法改正の根拠となる法令は、「消費者被害の防⽌及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の⼀部を改正する法律」(令和3年法律第72号)です。

施行日は、改正点によって異なるため、注意する必要があります。

本記事執筆(2022年3月)時点における、主な改正点の概要と施行日をまとめると次のとおりとなります(下記表中の条文の記載は全て改正後のものです。)。

概要施行日
1送り付け商法対策
これまで消費者に14日間の保管義務があったところを、商品の送付を受けたら直ちに処分することができるようになりました(59条、59条の2)。
2021年7月6日(施行済み)
2クーリング・オフの通知の電子化
これまでクーリング・オフの通知は書面によることが必要でしたが、本改正によりこの通知が電子メール等の電磁的方法によることが可能になりました(9条1項、2項等)。
2022年6月1日
3通信販売における規制強化
法律で規定する広告表示事項が追加・拡大されました(11条)。また、誇大広告等の禁止(12条)の対象に、役務提供契約における申込みの撤回・解除に関する事項が含まれていませんでしたが、改正法ではこれを含むこととなりました。 そのほか、申込みの撤回・解除を妨げるための不実告知を禁止する旨が規定されました(13条の2)。 さらに、事業者が定める書式やウェブサイト等より売買契約・役務提供契約の申込みをする場合(特定申込み)における、その書面やウェブサイト等の表示義務が定められました(12条の6)。また、特定申込みをした者について、意思表示の取消権が新設されました(15条の4)。
4行政処分の強化
立入検査権限の拡充、処分対象者の拡大といった、行政処分の実効性を強化する改正が行われました(8条の2、66条等)。
5海外執行当局への情報提供
海外執行当局への情報提供の制度が新設されました(69条の3)。
6事業者が交付すべき契約書面等の電子化
従来、事業者が消費者に対して書面にて交付すべきとされていたものについて、電磁的方法(電子メールの送付等)による交付も可能となります(4条2項、5条3項等)。
2023年6月1日

以下では、まず2022年6月1日から施行される改正点(上記表のうち2~5)について説明し、それに続いて今後施行される予定の部分(上記表のうち6)と、既に施行されている部分(上記表のうち1)をみていきます。

改正点1|クーリング・オフの通知の電子化対応

通知方法

クーリング・オフとは、契約の申込みや契約締結から一定期間内であれば、無条件で、契約の申込みの撤回・解除ができるという制度で、通信販売以外の全ての取引類型に適用されるものです。

旧特商法では、このクーリング・オフの通知について、申込者等は「書面により」売買契約等の申込みの撤回等を行うことができると規定されていました(旧特商法9条1項、24条1項等)。そのため、クーリング・オフの通知は書面による方法(解除通知書の郵送など)に限られていました。

この規定が、「書面又は電磁的記録」により売買契約等の申込みの撤回等を行うことができると改正されました(特商法9条1項、24条1項等)。これにより、クーリング・オフの通知について、電子メールの送付などの電磁的方法で行うことが可能となりました。

特商法は、電磁的方法に関して、特定の具体的な方法に制限する旨を規定していないため、電子メールの送付のほか、アプリ上のメッセージ機能やウェブサイトにおけるフォームを用いた通知、解除通知書のデータを記録したUSBメモリの送付など、電磁的記録によるといえるものであれば広くこの通知方法に含まれることになります。また、FAXによる通知も可能となります。

事業者としては、これまでは書面による通知のみに対処すればよかったものが、電磁的方法で行われる通知に対しても適切に対処する必要が生じることとなります。クーリング・オフの通知があったにもかかわらず適切に処理されず、消費者からの代金の返還に応じないなどといったことがあれば、事業者の信用に関わる問題にもなりかねません。

事業者としては、電磁的方法によってもクーリング・オフの通知が行われ得ることを前提に、その通知があった場合に適切に対応できるような体制を構築しておくことが求められます。具体的には、以下のような対策が考えられます。

クーリング・オフの行使期間の制限

クーリング・オフには行使期間に制限があり、消費者が事業者から法定書面を受領してから8日間(連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引については20日間)とされています。

本改正によってもその期間に変更はありませんが、行使期間の起算日については、一部留意すべき点があります。具体的には、契約書面等の電子化(後記「改正点5|事業者が交付すべき書面の電子化」参照)に関する改正部分が施行された後、消費者が電磁的記録により契約書面等の交付を受けた場合には、消費者が使用する電子ファイルへの記録がされた時にその書面が到達したこととされ、到達日がクーリング・オフの行使期間の起算日となります。

「消費者が使用する電子ファイルへの記録がされた時」がいかなる状態を指すのかについては、その他の契約書面等の電子化に関する詳細と併せて、執筆時点現在(2022年3月)、「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」において検討されており、検討結果などを踏まえて制定される政省令等によって具体化されると思われます。

クーリング・オフの効力発生時期

旧特商法において、クーリング・オフの通知は発信主義(書面を発信した時点で効力を生じる)とされていました。この点については、本改正後も発信主義が維持され、書面又は電磁的記録を発信した時点で効力が生じることとなります(特商法9条2項、24条2項等)。

そのため、クーリング・オフの通知を受けた事業者としては、行使期間内に行われた有効なクーリング・オフかどうかを判断するに際し、書面による方法の通知の場合と同様、電磁的記録による場合も、クーリング・オフの通知が発信された日を確認する必要があります。

また、消費者との間で、消費者の発信したクーリング・オフの通知が事業者に到達したか否か、また、発信及び到達の日がいつか、などといった点に関してトラブルになる可能性があります。そこで、こうしたトラブルを防止する観点から、事業者は、電磁的記録によるクーリング・オフを受けた場合、消費者に対し、クーリング・オフを受け付けた旨を電子メール等で連絡することが望ましいでしょう。さらに、クーリング・オフの通知に当たる電子メールを保存しておく、ウェブサイト上のフォームの送受信ログを保管しておくなど、クーリング・オフの効力が争われる場合に備えて通知の情報を記録化し、それを一定期間保存しておくことも考えられます。

電磁的記録によるクーリング・オフについては、消費者庁から「特定商取引法における電磁的記録によるクーリング・オフに関するQ&A」が発出されていますので、こちらも併せてご参照ください。

改正点2|通信販売における規制強化(通信販売の「詐欺的な定期購入商法」対策等)

通信販売に関する規制強化に関する大きな改正点としては、広告において表示すべき事項が拡大されたことと、特定申込みに関する規制が新設されたことが挙げられます。そのほか、解除等に関する事項についての不実の告知の禁止義務の新設や、これらの改正を踏まえた適格消費者団体による差止請求の対象の拡大もなされています。

昨今、いわゆるサブスクリプション型サービスの普及などにより定期的な取引が広まっていますが、そのような中、実際は定期的な購入契約であるにもかかわらず、そのことを秘して契約を締結させるといった詐欺的な定期購入契約(以下画像のように、初回無料と強調しながら、定期購入であること・解約条件等については、非常に小さく表記したり、離れた位置に表記したりして、定期購入契約させるケース)が急増し、被害相談が増えています。

<通信販売の「詐欺的な定期購入商法」イメージ>

消費者庁取引対策課「令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会」3頁

こうした背景から、詐欺的な定期購入契約への対策をはじめとした通信販売における規制強化を目的として改正がなされました。

改正点の中には、定期購入契約に限らず通信販売一般に適用されるものも含まれていることから、通信販売による取引を実施する事業者は注意が必要です。

広告表示事項の追加・拡大等

これまでも通信販売の広告表示については一定の規制がありましたが(旧特商法11条)、本改正により広告に表示すべき事項が次のとおり追加・拡大されました。

契約の申込み期間に関する表示義務

本改正により、商品若しくは特定権利の売買契約・役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容について明示すべき義務が新設されました(特商法11条4号)

この申込みの期間に関する定めとは、例えば購入期限のカウントダウンや期間限定販売など、一定期間を経過すると消費者が商品自体を購入できなくなるものをいい、個数限定販売や、価格その他の取引条件(価格のほか、数量、支払条件、特典、アフターサービス、付属的利益等)について一定期間に限定して特別の定めが設けられている場合は該当しません。

この表示に当たっては、申込みの期間に関する定めがある旨と、その具体的な期間を、消費者にとって明確に認識できるようにする必要があります。

なお、旧特商法の下では、申込みの有効期限があるときはその期限を明示することとされており(旧特商法11条5号、旧特商規8条3号)、規則レベルで契約の申込み期間についての表示義務が定められていましたが、本改正により、これを法律上直接規定することとしました。法律の条文としては新設になりますが、その意味では実質的に大きな影響が生じるものではないと思われます。

役務提供契約についての申込みの撤回・解除の定めの表示義務

旧特商法では、売買契約の申込みの撤回・解除に関する事項が通信販売の広告に表示すべき事項として定められており(旧特商法11条4号)、役務提供契約の申込みの解除・撤回については広告表示義務の対象とされていませんでした。

しかし本改正により、役務提供契約に係る申込みの撤回・解除に関する事項についても、広告に明示しなければならないこととなりました(特商法11条5号)

通信販売にはクーリング・オフの制度がなく、類似の制度として法定返品制度(商品の引渡しがあった日から8日間が経過するまで、消費者から一方的に売買契約を解除できる制度)がありますが(特商法15条の3)、同制度は売買契約のみを対象としており、役務提供契約を対象としていません。

旧特商法は、この法定返品制度の制定に伴い、売買契約の申込みの解除・撤回のみを対象として広告表示義務を定めていましたが、本改正により、この広告表示義務が役務提供契約にまで拡大されます。

他方で、法定返品制度が役務提供契約を対象としないことについては変更されておらず、役務提供契約において法定返品制度に関する特約が定められることは想定されません。そのため、この改正により追加された表示事項は、法定返品制度以外の申込みの撤回・解除に関するルールとなります。

一般に、役務提供契約は、民法上、請負や(準)委任などの契約類型に該当し得ると考えられますが、例えば請負契約の場合、請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができるとされ(民法641条)、委任契約の場合、各当事者はいつでも契約を解除することができるとされています(民法651条1項。ただし、相手方に不利な時期に委任を解除した場合には、相手方の損害を賠償する必要があります(同条2項1号)。)。役務提供契約は、特約がない限り、こうした民法の規定に則った取扱いがされます。

そこで、本改正により後、通信販売によって締結される役務提供契約において、上記の民法の規定に則った取扱いがなされるのか、そうではなく何らかの特約による制限があるのか、特約による解除が認められているのか、どのような方法で解除すればよいのかなどといった点を広告に明示することになると考えられます。

例えば、1回の役務提供を行う契約であれば、申込みの撤回の可否やその方法等を、複数回又は一定期間の役務提供を行う契約であれば契約途中の解約に係る方法等を分かりやすく表示する必要があります。

定期役務提供契約に関する表示義務

旧特商法では、通信販売についての広告をする場合に、商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び金額、契約期間その他の販売条件を表示しなければならないとされていました(旧特商法11条5号、旧特商規8条7号)。

これが、本改正に合わせて特商規も改正されたことにより、特定権利の売買契約及び役務提供契約も対象となりました。(特商法11条6号、特商規8条7号)

これにより、通信販売によって締結されるサブスクリプション型のサービスを提供する契約の広告において、定期契約であること等の事項を明示しなければならないこととなります。

特定申込みに関する規制

本改正により、通信販売において、事業者所定の書面により、又はインターネット等を利用する方法により事業者が消費者から申込みを受ける場合が「特定申込み」と定義された上、特定申込みの場合のルールが新たに定められました。

上記の定義によれば、テレビ放映された広告を見た消費者が電話により契約の申込みを行う場合などは「特定申込み」に該当しないと考えられますが、申込用はがきや申込用紙が用いられる場合や、インターネット通販は「特定申込み」に該当することになりますので、通信販売を行う事業者の多くはこの「特定申込み」の規制について対応する必要があると考えられます。

表示規制等

事業者は、特定申込みを受ける際、その申込書面又は申込画面に、商品等の分量や、広告における表示事項(特商法11条各号)を記載しなければならないこととなりました(特商法12条の6第1項)。

旧特商法の下では申込書面や申込画面の表示内容の規制はなく、申込書面や申込画面における不当な記載等によって、意に反して申込みをさせようとする行為等について、主務大臣の事業者に対する指示の対象とすることで一定の規制を課していました(旧特商法14条1項2号、旧特商規16条1項)。

そのうちインターネット通販に対応する旧特商規16条1項1号・2号に関しては、「インターネット通販における「意に反して契約の申込みをさせようとする行為」に係るガイドライン」が発出されていますが、申込みの内容を確認することができる方法について示されているにとどまり、どのような事項を記載する必要があるのかという点についての明示的な指針ではありませんでした。

そこで、本改正によって、特定申込みを受ける事業者が、申込書面・申込画面において、商品等の分量、販売価格、代金の支払時期・方法、商品の引渡時期等を明示すべき旨定め、事業者が明示すべき事項が具体的に規定されました。

また、この表示義務に違反した場合に、業務改善の指示や業務停止命令といった行政処分(特商法14条、15条)のほか、罰則の対象とすることで(特商法70条2号、74条1項2号)、表示義務に係る規定の実効性が担保されています。

さらに、旧特商法では、意に反して契約の申込みをさせようとする行為については、上記のとおり、まずは主務大臣の指示の対象となるにすぎず、その指示に違反した場合に初めて罰則の対象とされていました(旧特商法14条1項2号、71条2号)。

これが、本改正により、意に反して契約の申込みをさせようとする行為を禁止する旨の事業者の義務が定められ(特商法12条の6第2項)、その義務に違反した場合には直ちに罰則の対象となることとして、不当な表示に対する規制が強化されました(特商法72条1項4号)

上記のとおり、通信販売を行う事業者の多くは、インターネット通販を用いるか、又は事業者が用意した書式を利用した申込みを受けていると思われることから、この表示規制に関する改正は通信販売を行う多くの事業者に影響があると予想されます。特商法の施行を機に、申込書面・申込画面において表示すべき事項が記載されているか、今一度ご確認いただくことをおすすめします。

なお、この表示義務について、「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」が発出されており、適正な表示の在り方についての参考になります。

特定申込みをした者の取消権

特定申込みを受ける事業者が、上記の表示規制について、不実の表示をしたこと・表示すべき事項を表示しなかったこと等により、消費者が誤認して特定申込みをした場合に、その申込みの意思表示を取り消すことができる旨の規定が新設されました(特商法15条の4)

取消権が発生するには、単に表示規制に違反していたことだけでは足りず、それにより消費者が誤認し、それによって申込みをしたことが必要とされていますが、事業者において上記の表示規制に対応できていなかった場合には、消費者からこの取消権を行使される可能性がありますので、注意が必要です。

なお、この取消権の行使期間は、追認をすることができるときから1年間又は契約締結時から5年間です(特商法15条の4第2項、9条の3第4項)。

不実の告知の禁止

本改正により、通信販売に係る売買契約等の申込みの撤回・解除を妨げるため、その撤回や解除に関する事項等につき、不実のこと(事実でないこと)を告げる行為が禁じられることとなりました(特商法13条の2)

これは、通信販売を行う事業者全般に新たに課せられた義務になります。通信販売以外の取引類型においては、クーリング・オフに関する事項について説明が適正に行われるようにするため、本改正以前から同種の義務が課せられていました(特商法6条1項5号等)。しかしながら、通信販売はクーリング・オフの対象外であったことから、旧特商法には、通信販売における同種義務の規定はありませんでした。

しかしながら、通信販売においても、法定返品制度(特商法15条の3)を含む契約の解除等に関する事項につき適正な説明が行われるべきことに変わりありません。そこで、本改正により、通信販売においても同種義務が課されることになりました。

この義務に違反した場合、事業者は、業務改善の指示や業務停止命令といった行政処分(特商法14条、15条)のほか、罰則の対象にもなります(特商法70条1号、3号、71条2号、74条)。

適格消費者団体による差止請求

本改正により、通信販売を行う事業者が、特定申込みにおける申込書面又は申込画面に表示すべき事項を表示せず、また誤認させるような表示をした場合や、解除等を妨げるために不実の記載をした場合について、適格消費者団体による差止請求の対象とされることとなりました(特商法58条の19)

改正点3|行政処分の強化

本改正により、立入検査権限が拡充され(特商法66条)、業務停止命令・業務禁止命令の対象となる法人の役員等の範囲が拡大される(特商法8条の2等)など、行政処分の実効性の強化が図られました。

改正点4|外国執行当局に対する情報提供制度

本改正により、主務大臣が外国執行当局に、その職務の遂行に資すると認める情報の提供を行うことができることとされました(特商法69条の3)

これは、国際的な電子商取引の規模が拡大し、外国の販売業者等と日本の消費者のトラブルも増加している現状において、実効的な法執行を行うためには外国執行当局との情報交換がますます不可欠な要素となっていることから、外国執行当局との間で情報の提供を受けることができるようにするため、我が国からも外国執行当局に対する情報提供を行うことができるようにしたものになります。

改正点5|事業者が交付すべき書面の電子化(2023年6月1日施行)

新型コロナウィルス感染症の感染拡大を機にテレワーク、リモートワークが加速し、事業者間の取引においても電子契約が活用されるようになってきましたが、同様に消費者との関係でも、デジタル化のニーズは低いものではありません。

しかしながら、旧特商法では、事業者が消費者に対して交付すべき契約書面等については書面による交付が求められ、電磁的方法をとることができませんでした。

そこで、本改正により、事業者が交付すべき契約書面等について、電磁的方法によることが可能とされました(特商法4条2項等)。これにより、事業者は、消費者に対し、電子メールの送付等、電磁的方法によって契約書面等の交付を行うことができるようになりました。もっとも、電磁的方法による交付をする場合には、消費者の事前の承諾が必要とされています。

詳細は「【2023年6月1日施行】特定商取引法(特商法)改正とは?契約書面等の電子化を分かりやすく解説!」をご覧ください。

改正点6|送り付け商法対策(2021年7月6日施行済)

送り付け商法(ネガティブ・オプション)とは、事業者が、売買契約の申込みも締結もしていない消費者に対して一方的に商品を送り付け、消費者がそれを受領したことや、特段異議を述べなかったことなどをもって売買契約が成立したとして、消費者に対して一方的に代金を請求する商法のことをいいます。

旧特商法においては、一方的に商品を送り付けられた消費者は、その商品に係る売買契約の申込みや承諾の意思表示をしない場合であっても、受領した日から14日間(事業者に対して商品の引取りを請求した場合には、請求した日から7日間と受領した日から14日間のいずれか早い方まで)は、その商品を保管しなければなりませんでした(旧特商法59条1項)。

この保管義務について、本改正により、消費者は、一方的に商品を送り付けられた場合、受領後直ちにその商品を処分することができるようになりました(特商法59条、59条の2)

消費者庁が「売買契約に基づかないで送付された商品に関するQ&A」を公表していますので、ご参照ください。

この改正部分については、2021年7月6日から施行されています。

この記事のまとめ

2021年公布の特定商取引改正によって、通信販売を中心に、事業者にとっても消費者にとっても重要な点の変更が生じることとなります。

通信販売を行う事業者においては、広告や申込画面等の表示内容が本改正に対応しているのか、2022年6月1日の施行前に今一度ご確認いただき、施行後の取引が支障なく行われるように準備することが必要です。

また、クーリング・オフの通知の電子化対応及び事業者が交付すべき書面の電子化対応という点は、これまでの取引の手続に変更を生じ得るものであります。電子メールによるクーリング・オフ通知の送信先を定めて消費者に対する交付書面に明記するなどの修正対応が必要になることもありますので、こちらについてもあらかじめ対応を検討いただくことが望まれます。

消費者被害が後を絶たないことなどから、今後も消費者保護を図るべく事業者に課される義務が拡大されることが予想されます。事業者は、消費者との間の取引を支障なく行うために、本改正のように関係法令の改正について適時適切に対応することが求められます。本改正への対応を検討するに当たり、本記事が何らかのご参考になれば幸いです。

参考文献

消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法の改正について」