働き方改革関連法とは?
9つの対策ポイントを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

「働き方改革関連法」のポイントを解説!

政府は近年「働き方改革」を進めており、その一環として、2018年7月6日に「働き方改革関連法」(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)」)が公布され、順次施行されています。

企業の労務にとっては、影響の大きい、重要な法改正となっています。

この記事では、「働き方改革関連法」で、どのような法改正がなされたのか、まとめて解説していきます。

ヒー

先生、「働き方改革」のために法改正などが進んでいるようですが、「働き方改革関連法」って一体何でしょうか?

ムートン

「働き方改革関連法」の正式名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といいます。働き方改革を進めるための、各種労働関連法の改正を進める法律ですよ。この法律によって、労働基準法、労働安全衛生法、労働者派遣法など様々な法律が改正されます。

※この記事は、2021年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 旧労働契約法…平成30年法律第71号による改正前(2020年4月1日施行前)の労働契約法(平成19年法律第128号)
  • パートタイム・有期雇用労働法…平成30年法律第71号による改正後(2020年4月1日施行後)の短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年第76号)
  • 労働基準法…平成30年法律第71号による改正後の労働基準法(昭和22年法律第49号)
  • 労働安全衛生法…平成30年法律第71号による改正後の労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
  • 労働者派遣法…平成30年第71号による改正後の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)

働き方改革関連法とは?

改正の目的

日本が直面している「少子高齢化による労働人口の減少」「長時間労働の慢性化」「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金格差」「有給取得率の低迷」「育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化(共働きの増加・高齢化による介護の必要性の増加など)」「企業におけるダイバーシティの実現の必要性」などの問題から、政府は近年、働き方改革を推進しています。

その一環として、ワークライフバランス実現のための長時間労働の抑制、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保(非正規雇用労働者の保護)、などを目的として関連法(労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、労働者派遣法など)を改正するのが、今回の「働き方改革関連法」による改正となります。

法案提出時の理由としては、以下のとおり説明されています。

労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を推進するため、 時間外労働の限度時間の設定、高度な専門的知識等を要する業務に就き、かつ、一定額以上の年収を有する労働者に適用される労働時間制度の創設、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者と通常の労働者との間の不合理な待遇の相違の禁止、国による労働に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針の策定等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律 理由

公布日・施行日

改正の根拠となる法令名は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)です。

この法令によって、以下の法令が改正されます。施行日は改正点によって異なります。

働き方改革関連法によって改正される法令

労働基準法
じん肺法
雇用対策法
労働安全衛生法
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
労働時間などの設定の改善に関する特別措置法
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
労働契約法
健康保険法
職業安定法
生活保護法
出入国管理及び難民認定法
駐留軍関係離職者等臨時措置法
障害者の雇用の促進等に関する法律
住民基本台帳法
職業能力開発促進法
農村地域への産業の導入の促進等に関する法律
雇用保険法
漁業経営の改善及び再建整備に関する特別措置法
国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法
本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法
沖縄振興特別措置法
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律
地方公務員法
厚生年金保険法
社会保険労務士法
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
建設労働者の雇用の改善等に関する法律
港湾労働法
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
地方公務員の育児休業等に関する法律
独立行政法人通則法
公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律
厚生労働省設置法

ヒー

こんな沢山の法律が改正されるんですね…!

ムートン

そうですね。中でも主な法律である、労働基準法、労働安全衛生法などの改正を押さえておきましょう。

公布日は次のとおりです。

公布日

公布日| 2018年7月6日

主な改正点の施行日は次のとおりです。

高知労働局「働くひとに、」9頁

改正の概要

働き方改革関連法の概要は、大きく分けて次の9つのポイントとなります。

改正ポイント(9つ)

ポイント1
時間外労働の上限規制

ポイント2
「勤務時間インターバル制度」の導入促進

ポイント3
年次有給休暇の確実な取得(時季指定)

ポイント4
労働時間状況の客観的な把握

ポイント5
「フレックスタイム制」の拡充

ポイント6
「高度プロフェッショナル制度」の導入

ポイント7
月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ

ポイント8
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

ポイント9
産業医の権限強化

改正のポイント

9つのポイントについて、一つ一つ解説します。

ポイント1 時間外労働の上限規制

労働基準法の改正などにより、時間外労働の上限規制が定められました。

大企業は2019年4月1日から施行しており、中小企業は2020年4月1日から施行されています。

また、建設事業、自動車運転の業務、医師など一部の事業・業務については、上限規制の適用は2024年3月31日まで5年間猶予されます。更に、新技術・新商品などの研究開発業務については、上限規制の適用が除外されます。

時間外労働の上限規制の内容は以下のとおりです。

  • 時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とする。
  • 臨時的な特別な事情がある場合でも、①年720時間、②複数月平均80時間(2か月~6か月平均が全て80時間を限度とする)、③単月100時間未満(休日労働を含む)、を限度とする。
  • 臨時的な特別な事情がある場合でも、時間外労働が月45時間を超えるのは6か月が限度とする。

時間外労働の上限規制については、厚生労働省のウェブサイトでも詳しく解説されています。

ポイント2 「勤務時間インターバル制度」の導入促進

労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)の改正によって、「勤務時間インターバル制度」の導入の促進を目指し、事業主の努力義務が明文化されました。

具体的には、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努める必要があります(労働時間等設定改善法2条1項)。

第2条
1 事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
2~4 (略)

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

実際に「勤務時間インターバル制度」を導入する際は、厚生労働省の公開している「勤務時間インターバル制度導入・運用マニュアル」が参考になります。

ポイント3 年次有給休暇の確実な取得(時季指定)

労働基準法の改正により、年次有給休暇の確実な取得(時季指定)が定められました。

使用者は、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、5日分、毎年、時季を指定して与えなければなりません(労働基準法39条7項)。

ただし、労働者が自ら請求して有給を取得した場合、又は労使協定で定めた計画年休によって有給を取得した場合は、その取得分の日数はこの「5日」から除かれます(同法39条8項)。

(年次有給休暇)
第39条
1~6 (略)
7 使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち5日については、基準日(継続勤務した期間を6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第1項から第3項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
8 前項の規定にかかわらず、第5項又は第6項の規定により第1項から第3項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。
9~10 (略)

労働基準法 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

年次有給休暇の確実な取得(時季指定)については、厚生労働省のウェブサイトでも詳しく解説されています。

ムートン

毎年、従業員に5日分の有給を取得してもらうように、または自ら有給を積極的に与えるように、使用者は注意する必要がありますね。

ポイント4 労働時間状況の客観的な把握

労働安全衛生法の改正によって、労働時間状況の客観的な把握、が定められました。

使用者は、産業医による面接指導(労働安全衛生法66条の8第1項、66条の8の2第1項)などを行うために、厚生労働省令で定める方法で、労働者の労働時間の状況を把握しなくてはいけません(同法66条の8の3)。

厚生労働省令で定める方法

「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」(労働安全衛生規則52条の7の3第1項)

*この労働時間の記録を作成し、3年保存するために、必要な措置を講じなければなりません(同2項)

ポイント5 「フレックスタイム制」の拡充

労働基準法の改正により、「フレックスタイム制」の拡充、が定められました。

フレックスタイム制の「清算期間」の上限が1か月から3か月に延長されました(労働基準法32条の3第1項2号)。

これにより、2か月、3か月という期間の総労働時間の範囲内で、労働者が各々の都合に応じた柔軟な労働時間の調整をすることが可能となります。

1か月を超える清算期間を設定する場合の注意点は以下となります。

  • 1か月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えた場合は、時間外労働となります(労働基準法32条の3第2項)。
  • 清算期間が1か月を超える場合は、労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります(同法32条の3第4項、32条の2第2項)。

「フレックスタイム制」を導入する際は、厚生労働省の公開している「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」が参考になります。

ポイント6 「高度プロフェッショナル制度」の導入

労働基準法の改正により、「高度プロフェッショナル制度」(特定高度専門業務・成果型労働制)が新設されました(労働基準法41条の2)。

「高度プロフェッショナル制度」とは

職務の範囲が明確で一定の年収(1000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、以下を要件として、労働時間、休日・深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。

✅職務の範囲が明確で一定の年収(1000万円以上)を有する労働者を対象(労働基準法41条の2第1項2号)

✅高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合(同1号)

✅年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること(同3号~5号)

✅本人の同意(同法41条の2第1項柱書)

✅労働基準法41条の2第1項各号に掲げる事項について労使委員会の決議(5分の4以上の議決)(同法41条の2第1項柱書)

✅行政官庁への届出(同法41条の2第1項柱書)

第41条の2
1 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第1号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第3号から第5号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。
① 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)
② この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
③ 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第5号ロ及びニ並びに第6号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
④ 対象業務に従事する対象労働者に対し、1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。
⑤ 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ 労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
ロ 健康管理時間を1箇月又は3箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ 1年に1回以上の継続した2週間(労働者が請求した場合においては、1年に2回以上の継続した1週間)(使用者が当該期間において、第39条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。
ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。
⑥ 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。
⑦ 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続
⑧ 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
⑨ 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
⑩ 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
2~5 (略)

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「高度プロフェッショナル制度」を導入する際は、厚生労働省の公開している「高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」「高度プロフェッショナル制度 届出にあたって」が参考になります。

ヒー

実際に「高度プロフェッショナル制度」が適用されうるのは、どんな業務なのでしょうか?

ムートン

例えば、いわゆるファンドマネージャーやトレーダーの業務、企業の事業展開に関する戦略企画を考案するコンサルティング業務などが挙げられます。

ポイント7 月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率について、大企業は50%以上とされていましたが、中小企業についても大企業と同じく、50%以上とする必要があるとされました(2023年4月1日から)。

ポイント8 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

労働者派遣法の改正、パートタイム・有期雇用労働法(短期時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の改正などによって、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、が定められました。

これは、いわゆる「同一労働・同一賃金」と言われるものです。正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものとなっています。

「同一労働・同一賃金」とは

①正規雇用労働者と、非正規雇用労働者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合の差別的取扱いの禁止(パートタイム・有期雇用労働法9条)=均等待遇
②正規雇用労働者と、非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を禁止
(パートタイム・有期雇用労働法8条など)=均衡待遇

均等待遇とは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は、差別的取り扱いは禁止するというものです。

均衡待遇とは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が異なる場合でも、不合理な待遇差は禁止するというものです。

具体的な改正の内容は、以下のとおりです。

  • 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
  • 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  • 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

不合理な待遇差を解消するための規定の整備

まず、これまで均等待遇規定については短時間労働者についてのみ定められており、有期雇用労働者については規定がありませんでしたが、有期雇用労働者についても均等待遇規定の対象となりました。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

また、均衡待遇規定について、これまでは旧労働契約法20条に規定されていましたが、パートタイム・有期雇用労働法8条に移管され、「不合理な待遇差」にあたるか否かの判断において、当該待遇の性質、目的に照らして適切と認められるものを考慮して判断することが明文化されました。

これは、旧労働契約法20条下での判例で示されてきた基準ですが、それが明文化されたものといえます。

(不合理な待遇の禁止)
第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

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不合理な待遇差を解消するための規定の整備として、派遣労働者についても不合理な待遇差を解消するため、労働者派遣法が改正されました。

この改正前は、派遣労働者と派遣先労働者の待遇差について、均等待遇規定、均衡待遇規定ともに存在せず、配慮義務規定があるのみでした。

この労働者派遣法の改正については、以下の記事で解説しています。

労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

まず、これまで待遇内容や待遇の決定に際しての考慮事項について、短時間労働者・派遣労働者は説明義務規定が存在しましたが、有期雇用労働者は規定が存在しませんでした。

今回、パートタイム・有期雇用労働法の改正によって、有期雇用労働者についても、待遇内容や待遇の決定に際しての考慮事項について、説明義務規定ができました(パートタイム・有期雇用労働法6条、14条1項)。

また、これまで、説明義務の対象は本人の待遇に関する事項に限定されていましたが、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、使用者は求めに応じて正規雇用労働者との待遇差の内容・理由などの説明義務を負うことになりました(パートタイム・有期雇用労働法14条2項、労働者派遣法31条の2第4項)。

更に、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者が待遇差の内容・理由などについて説明を求めた場合に、当該求めをしたことを理由とした不利益取扱いが禁止されました(パートタイム・有期雇用労働法14条3項、労働者派遣法31条の2第5項)。

(労働条件に関する文書の交付等)
第6条
1 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第14条第1項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。
2 事業主は、前項の規定に基づき特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。

(事業主が講ずる措置の内容等の説明)
第14条
1 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、第8条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
2 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
3 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

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(待遇に関する事項等の説明)
第31条の2
1~3 (略)
4 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者から求めがあつたときは、当該派遣労働者に対し、当該派遣労働者と第26条第8項に規定する比較対象労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第30条の3から第30条の6までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たつて考慮した事項を説明しなければならない。
5 派遣元事業主は、派遣労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

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行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

公正な待遇の確保のための規定に関して、行政による履行確保措置(報告徴収、助言、指導等)及び裁判外紛争手続(調停などの行政ADR)が整備されました。

まず、行政による履行確保措置について、これまで短時間労働者・派遣労働者については規定が存在しましたが、有期雇用労働者については規定が存在しませんでした。

改正によって、有期雇用労働者についても、行政による履行確保措置の規定ができました。具体的には、事業主に対する報告徴収、助言、指導等の根拠規定ができました。

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)
第18条
1 厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2 厚生労働大臣は、第6条第1項、第9条、第11条第1項、第12条から第14条まで及び第16条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 前2項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

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また、行政による裁判外紛争手続について、これまで短時間労働者についてのみ規定が存在しましたが、有期雇用労働者及び派遣労働者については規定が存在しませんでした。
また、短時間労働者についても、均衡待遇規定に関する紛争は対象外とされてきました。

改正によって、有期雇用労働者・派遣労働者についても、行政による裁判外紛争手続の根拠規定ができました

同時に、均衡待遇規定に関する紛争についても、行政による裁判外紛争手続きの対象となりました

(苦情の自主的解決)
第22条
事業主は、第6条第1項、第8条、第九条、第11条第1項及び第12条から第14条までに定める事項に関し、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めるものとする。

(紛争の解決の促進に関する特例)
第23条
前条の事項についての短時間・有期雇用労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)第4条、第条5及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第27条までに定めるところによる。

(紛争の解決の援助)
第24条
1 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
2 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(調停の委任)
第25条
1 都道府県労働局長は、第23条に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
2 前条第2項の規定は、短時間・有期雇用労働者が前項の申請をした場合について準用する。

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雇用形態に関わらない公正な待遇の確保(同一労働・同一賃金)については、厚生労働省のウェブサイトでも詳しく解説されています。

その他(施行日など)

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に関する改正については、大企業は2020年4月1日から施行されており、中小企業は2021年4月1日から施行されています。ただし、労働者派遣法の改正については、中小企業も2020年4月1日から施行されています。

なお、同一労働・同一賃金については、2020年10月に最高裁の判決が出ており、注目されました。

この判決自体は、働き方改革関連法が施行される前の、旧労働契約法20条についての判断となりますが、実質的にはパートタイム・有期雇用労働法8条の今後の解釈にも影響してくると考えられます。

同一労働・同一賃金に関する最高裁判決については、以下の記事で解説しています。

ムートン

企業としては、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差について、待遇の性質や目的に照らして不合理なものとなっていないか、待遇差の理由について説明を求められたときにしっかりと説明できるか、などを改めて確認する必要がありそうです。

ポイント9 産業医の権限強化

労働安全衛生法及び労働安全衛生規則の改正により、事業者の産業医に対する権限付与や情報提供、産業医から受けた勧告内容等の記録・保存に関する義務内容が具体化されました。この改正は、産業医の権限を強化することにより、医学的・専門的知見を活用して労働者の健康確保効果を高めることが意図されています。

事業者が産業医に付与すべき権限の内容

事業者は産業医に対して、労働者の健康管理に関する各種事項を行う権限を付与しなければなりませんが、産業医の権限には以下のものが含まれることが明記されました(労働安全衛生規則14条の4)。

  • 事業者又は総括安全衛生管理者(事業場における労働災害防止のため指揮・統括管理を行う者)に対して意見を述べること
  • 労働者の健康管理に関する事項を実施するために必要な情報を、労働者から収集すること
  • 労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合において、労働者に対して必要な措置をとるように、事業者に対して指示すること

事業者の産業医に対する情報提供義務

事業者は産業医に対して、労働者の健康管理等を適切に行うため、以下の情報を提供しなければならない旨が明記されました(労働安全衛生法13条4項、労働安全衛生規則14条の2第1項)。

  • 健康診断
  • 長時間労働者に対する面接指導
  • ストレスチェックに基づく面接指導実施後に講じた措置、講じる予定の措置(措置を講じない場合はその旨及び理由)
  • 時間外労働・休日労働の合計時間が1か月当たり80時間を超えた労働者の氏名、超過時間数
  • 1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた高度プロフェッショナル制度対象労働者の氏名、超過時間数
  • その他、労働者の業務に関する情報であって、産業医が労働者の健康管理等を行うために必要と認めるもの

産業医は、労働者の健康を確保するために必要と認めるときは、事業者に対して勧告をする権限を有します(労働安全衛生法13条5項)。

今回の改正では、産業医が勧告をする際に事業者の意見を求めるべき旨(労働安全衛生規則14条の3第1項)、及び産業医の勧告内容を事業者が3年間記録・保存しなければならない旨(同条2項)が明記されました。この改正は、産業医による勧告の質を高め、かつ事業者の産業医の勧告に対するより良い理解を促すことを目的としています。

参考文献

厚生労働省ウェブサイト 「働き方改革」の実現に向けて

厚生労働省ウェブサイト「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について

厚生労働省ウェブサイト 「同一労働同一賃金特集ページ」

厚生労働省ウェブサイト 「働き方改革特設サイト 支援のご案内」

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