優越的地位の濫用とは?
独占禁止法上の規制内容・事例・違反時のペナルティなどを分かりやすく解説!
※この記事は、2022年5月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
- 下請法…下請代金支払遅延等防止法
目次
優越的地位の濫用とは
「優越的地位の濫用」とは、取引上優越的な地位にいることを利用して、相手方に対して正常な商慣習に照らし不当とされる要求等をする行為を意味します。
前提として、独占禁止法では「不公正な取引方法」が禁止されています(独占禁止法19条)。
「不公正な取引方法」は独占禁止法2条9項で定義されていますが、おおむね次の6つに分けられます。
①不当な差別的取扱い ②不当対価取引 ③不当な顧客誘引・取引強制 ④事業活動の不当拘束 ⑤取引上の地位の不当利用 ⑥競争者に対する不当な取引妨害・内部干渉 |
優越的地位の濫用はこのうち、⑤に該当します。
不公正な取引方法の全体像について知りたい方は、こちらの記事を参照ください。
優越的地位とは
「優越的地位」とは、自分の側は取引を打ち切っても問題ないものの、相手方は取引が打ち切られると非常に困るという、取引上の力関係で優位にある状態を意味します。
典型的には、事業規模の小さい下請事業者が、売上の大部分を事業規模の大きい親事業者からの発注に依存している場合に、親事業者が下請事業者に対して優越的地位にあると評価できます。
なお、公正取引委員会が公表している「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」では、優越的地位にあるかどうかを判断する際の考慮要素として、以下の各点を挙げています。
①劣位な側が、優位な側に対してどのくらい取引を依存しているか(取引依存度) ②優位な側が市場においてどのくらいの地位にあるか ③劣位な側が取引先変更をされてしまう可能性がどれくらいあるか ④その他、劣位な側が優位な側と取引することの必要性を示す具体的事実があるか |
なお、取引上の地位が優越しているかどうかは、①~④の事実を総合的に考慮して判断されるため、大企業と中小企業・大企業同士・中小企業同士のいずれの取引においても、取引上の地位が優越していると認められる場合があります。
優越的地位の濫用が禁止されている理由
取引当事者のいずれかが、相手方に対して優越的地位にある場合、優位な側から劣位な側に対して不当な要求が行われやすい状況と言えます。劣位な側にとっては、取引を打ち切られてしまっては困るため、優越的地位にある側の要求に対して、従わざるを得ないことが多いからです。
しかし、このような優越的地位にある側の要求は、相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、公正な取引を歪める可能性があります。
そこで、独占禁止法では優越的地位の濫用を禁止し、優位な側から劣位な側に対する不当な要求を排除しようとしているのです。
優越的地位の濫用の行為類型・事例
優越的地位の濫用の行為類型としては、独占禁止法2条9項5号において、以下の3つが定められています。各類型に対応する行為の具体例と併せて見ていきましょう。
①購入・利用を強制する行為(2条9項5号イ) ②経済上の利益の提供を要請する行為(2条9項5号ロ) ③相手方に不利益となる取引条件の設定等をする行為(2条9項5号ハ) |
①購入・利用を強制する行為
取引上の優越的地位を濫用して、継続して取引する相手方に対し、当該取引以外で商品やサービスを購入させることは禁止されています(独占禁止法2条9項5号イ)。
- 購入・利用強制の例
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✅ 金融機関が融資先企業に対して、金融商品の購入を要請し、購入しなければ融資条件上不利な取扱いをする旨を示唆した
✅ 総合スーパーが納入業者に対して、取引の継続に関する決定権を持つ役員の要請により、自社製品の購入を実質的に強制した
②経済上の利益の提供を要請する行為
取引上の優越的地位を濫用して、継続して取引する相手方に対し、自社のために金銭・サービスその他の経済上の利益を提供させることは禁止されています(独占禁止法2条9項5号ロ)。
- 経済上の利益の提供要請の例
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✅ ホームセンターが納入業者に対して、納入業者が販促に寄与すべき範囲を超える広告費用を負担させた
✅ 情報処理サービス業者がソフトウェアメーカーに対して、決算対策のための協賛金を負担させた
✅ ドラッグストアが納入業者に対して、交通費や宿泊費を負担することなく、一律の日当で従業員を派遣させた
✅ 家電量販店が家電メーカーに対して、オープンセールのために従業員を派遣させ、無償で家電メーカーの利益にならない作業をさせた
✅ 機械メーカーが、海外における金型の製造に用いる図面を、従来の発注先である金型メーカーに指示して無償提供させた
✅ 食料品メーカーが運送会社に対して、産業廃棄物を無償で回収させた
③相手方に不利益となる取引条件の設定等をする行為
取引上の優越的地位を濫用して、相手方に不利益となるように取引条件を設定(変更)すること・取引を実施することは禁止されています(独占禁止法2条9項5号ハ)。
- 相手方に不利益となる取引条件の設定等の例
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✅ 百貨店が、販売計画の一方的な変更を理由に、納品予定だった商品の受領を拒否した
✅ 衣料販売店が衣料メーカーに対して、在庫調整のために商品を返品した
✅ 輸送機メーカーが部品メーカーに対して、部品の使用時期を一方的に遅らせたことを理由に、代金の支払を遅延した
✅ 小売業者が納入業者に対して、実際の商品の売上が伸びなかったことを理由に、代金を一方的に減額した
✅ 食料品スーパーが卸売業者に対して、原材料等が値上がりしているにもかかわらず、従来と同一の対価を一方的に定めた
✅ 広告会社がデザイン会社に対して、一方的な変更後の仕様に合致していないことを理由として、納品をやり直させた
優越的地位の濫用は、独占禁止法上の「不公正な取引方法」に当たる
優越的地位の濫用は、独占禁止法における「不公正な取引方法」の一つとされています。事業者が不公正な取引方法を用いることは、例外なく一律禁止です(独占禁止法19条)。
不公正な取引方法に対するペナルティ
不公正な取引方法を用いた場合、制裁として公正取引委員会による「排除措置命令」や「課徴金納付命令」が発せられる可能性があるほか、排除措置命令に従わない場合は刑事罰が科されることもあります。
排除措置命令
「排除措置命令」とは、不公正な取引方法に該当する行為をやめさせる(排除する)ため、事業者に対して必要な措置を命ずることを意味します(独占禁止法20条1項)。具体的には、当該行為の差止めや、不公正な取引方法に当たる契約条項の削除などが命じられます。
排除措置命令に対しては、命令があったことを知った日から原則として6か月間、取消訴訟(行政処分等の取消しを求める訴訟)を提起することができます(行政事件訴訟法14条1項)。排除措置命令の取消訴訟は、東京地方裁判所の専属管轄となります(独占禁止法85条1号)。
課徴金納付命令
「課徴金納付命令」とは、一定の制裁金(課徴金)の納付を命ずる行政処分です。刑事罰である罰金や科料とは異なり、前科が付くことはありませんが、課徴金額は非常に高額となる場合もあります。
優越的地位の濫用に係る課徴金納付命令の内容は、違反行為期間における売上額の1%(100分の1)を国庫に納付するよう命じるというものです。ただし、課徴金額が100万円未満となる場合には、課徴金納付命令は行われません(独占禁止法20条の6)。
なお課徴金納付命令に対しても、排除措置命令と同様に、命令があったことを知った日から原則として6か月間、取消訴訟を提起することができます(行政事件訴訟法14条1項)。
排除措置命令に従わない場合は刑事罰が科される
排除措置命令に係る取消訴訟の提起が許される期間=出訴期間(6か月)が経過すると、排除措置命令は確定します。確定した排除措置命令に従わないと、「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科される可能性があります(独占禁止法90条3号)。
さらに、確定した排除措置命令への違反については、法人の両罰規定も設けられています(独占禁止法95条1項4号)。
違反行為をした者(代表者・代理人・使用人その他の従業者)が、確定した排除措置命令に従わない場合、法人にも「300万円以下の罰金」が科されます。
排除措置命令・課徴金納付命令を回避する方法
優越的地位の濫用に当たる行為に対しては、排除措置命令や課徴金納付命令が認められていますが、公正取引委員会は、いきなりこれらの命令を発するわけではありません。
実務上、是正の機会を与えるため、事業者に対して以下の事項を書面で通知する運用がなされています(独占禁止法48条の2)。
✅ 優越的地位の濫用に当たる行為の概要 ✅ 違反する疑いのある法令の条項 ✅ 排除措置計画の認定の申請ができる旨 |
排除措置命令・課徴金納付命令を回避したい場合は、上記の通知を受けて「排除措置計画」を作成し、通知日から60日以内に公正取引委員会の認定を受ける必要があります(独占禁止法48条の3第1項)。排除措置計画には、排除措置の内容や実施期限などを記載しなければなりません。
排除措置が優越的地位の濫用を排除するために十分であり、かつ確実に実施されると見込まれる場合には、公正取引委員会は排除措置計画を認定します(同条第3項)。排除措置計画の認定が行われた場合、排除措置命令・課徴金納付命令は発出されません(独占禁止法48条の4)。
行政処分を行うことなく、公正取引委員会と事業者の間の合意によって、独占禁止法違反の問題を自主的に解決する上記の手続は、「確約手続」と呼ばれています。
優越的地位の濫用に関する公正取引委員会の調査手続
公正取引委員会は、優越的地位の濫用が行われている事実があると考えた場合、職権をもって適当な措置をとることができると同時に(独占禁止法45条4項)、事件について必要な調査を行うことができます。調査の際には、公正取引委員会は以下の処分を行うことが認められます(独占禁止法47条)。
✅ 事件関係人・参考人に出頭を命じて審尋し、意見や報告を求めること ✅ 鑑定人(特別の学識経験を有する第三者)に出頭を命じて、鑑定をさせること ✅ 帳簿書類等の提出を命じ、預かること ✅ 事件関係人の営業所等、必要な場所へ立入検査を行うこと |
上記の各調査を行った後、公正取引委員会は前述の確約手続を経て、排除措置計画の認定がなされない場合には、排除措置命令や課徴金納付命令の検討へと移ります。
なお、排除措置命令を発しようとする場合、公正取引委員会は、名宛人となる事業者の意見を聴取しなければなりません(独占禁止法49条)。名宛人となる事業者には、意見聴取期日における陳述に加えて、陳述書や証拠の提出などが認められています。
上記の慎重な手続を経て、優越的地位の濫用を犯した事業者に対する処分内容が決定されることになっています。
優越的地位の濫用と同時に問題となる「下請法違反」
優越的地位の濫用に当たる行為の大部分は、下請法違反に当たる行為と重なります。したがって、優越的地位の濫用が問題となる場合、同時に下請法違反も問題になる可能性が高いです。
下請法違反を取り締まる監督官庁は、独占禁止法違反と同じく、公正取引委員会です。事業者は、優越的地位の濫用に加えて、下請法違反に関する報告・検査を要請された場合、公正取引委員会の指示に従って協力しましょう。
もし下請法に基づく報告要求を拒否し、虚偽報告を行い、又は検査を拒否・妨害・忌避した場合には、違反者と所属会社の両方に「50万円以下の罰金」が科される可能性があるので要注意です(下請法11条、12条)。
下請法の基本については、以下の関連記事で解説しています。
優越的地位の濫用に関する主な相談先
自社の行為が優越的地位の濫用に当たらないかの確認や、取引先から受けている優越的地位の濫用行為への対処などについては、以下の窓口にて相談を受け付けています。
公正取引委員会
公正取引委員会では、独占禁止法・下請法に関する相談等を受け付けています。特に、これから行おうとする行為が独占禁止法に違反しないかについて、書面回答を得られる「事前相談制度」を設けている点が大きな特徴です。
商工会議所・商工会
公正取引委員会と連携する、地域の商工会議所・商工会でも、独占禁止法・下請法に関して相談することができます。商工会議所や商工会への相談内容は、公正取引委員会へと取り次がれます。
近くに公正取引委員会の窓口がない場合には、地域の商工会議所及び商工会に相談してみましょう。
この記事のまとめ
優越的地位の濫用の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!