威力業務妨害罪とは?
偽計業務妨害罪との違い・構成要件・
親告罪か否か・時効・罰則などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「威力業務妨害罪」とは、威力を用いて他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
・威力:人の自由意思を制圧するに足る勢力をいい、直接的な暴行・脅迫よりも広い概念
・業務:職業その他社会生活上の地位に基づき、継続して行う事務・事業なお、「偽計」(=人の錯誤または不知を利用すること)を用いて業務を妨害する行為については「偽計業務妨害罪」が成立します。
実務上、威力業務妨害罪のほか、暴行罪・傷害罪・脅迫罪・強要罪・器物損壊罪などが別途成立することがあります。この場合、威力業務妨害罪と他の犯罪は1個の行為によって行われているため、「観念的競合」として取り扱われます。
この記事では威力業務妨害罪について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は2024年3月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
威力業務妨害罪とは|親告罪か否かも含め分かりやすく解説!
「威力業務妨害罪」とは、威力を用いて他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。(刑法234条)。
威力業務妨害罪に当たる行為の具体例
- 具体例
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・店舗の従業員に対して暴力を振るう行為
・殺害予告や爆破予告を行い、店舗に対応を強いる行為
・脅迫の電話をかけ続け、店舗に対応を強いる行為
・施設内で無許可のデモ活動をする行為
なお、威力業務妨害罪は親告罪ではないため、被害者等の告訴がなくても処罰されることがあります。
威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪の違い
威力業務妨害罪と同じく、他人の業務を妨害する行為として、刑法では「偽計業務妨害罪」が定められています(刑法233条)。
威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪の違いは、業務妨害のために用いる手段です。威力業務妨害罪では「威力」、偽計業務妨害罪では「偽計」を用いることが構成要件とされています。
威力:人の自由意思を制圧するに足る勢力
偽計:人の錯誤または不知を利用すること
威力業務妨害罪の法定刑(罰則)と公訴時効期間
威力業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
上記の法定刑に対応して、威力業務妨害罪の公訴時効期間は3年となります(刑事訴訟法250条2項6号)。
威力業務妨害罪の構成要件
威力業務妨害罪の構成要件は、以下の2点です。
構成要件1|威力を用いたこと
構成要件2|他人の業務を妨害したこと
構成要件1|威力を用いたこと
威力業務妨害罪の1つ目の構成要件は、「威力」を用いたことです。
「威力」とは
「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力をいいます。
暴行罪・傷害罪の暴行や脅迫罪の脅迫とは異なり、被害者に対する直接的な暴行や脅迫に限りません。一例として、以下のような行為も「威力」に当たります。
- 「威力」の例
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・デパート食堂の配膳部にヘビをまき散らす行為
・役員室内に侵入して団体交渉を強要する行為
・株主総会の議場で怒号する行為
・机の引き出しに猫の死骸を入れ、被害者に発見させる行為
・営業中の店舗の周りに板囲いを設置する行為
・店舗の客席でホルモンをコンロで焼いて悪臭を放つ行為
・貨車に積んだ石炭を落下させる行為
・配電盤のスイッチを切って機械の運転を止める行為
・動物園の柵を壊したり、ロープを切ったりして動物を逃走させる行為
・業務者のカバンを奪い取って隠す行為
など
構成要件2|他人の業務を妨害したこと
威力業務妨害罪の2つ目の構成要件は、他人の「業務」を「妨害」したことです。
「業務」とは
「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づき、継続して行う事務・事業をいいます(継続性については、不要とする学説もあります)。
趣味や学習などの個人的な活動や、料理・洗濯・掃除などの家庭生活上の活動は「業務」に当たりません。
業務自体が違法であっても、事実上平穏に行われているなどの点を考慮して刑法上の保護に値する場合には、その妨害行為について業務妨害罪が成立する余地があります。
なお、公務に関しては「公務執行妨害罪」が別途設けられています(刑法95条)。
公務執行妨害罪と業務妨害罪の区別については、判例上、妨害する公務の性質に応じて下表のとおり整理されています(最高裁昭和53年6月29日判決、最高裁昭和62年3月12日決定、最高裁平成12年2月17日決定)。
① 強制力を行使する権力的公務 (例)逮捕 | 公務執行妨害罪 ※業務妨害罪は成立しない |
② ①以外の公務 (例)議会における議事、税務調査、選挙事務 | 公務執行妨害罪および業務妨害罪 ※両方成立し得る |
「妨害」とは
「妨害」については、実際に妨害の結果(=具体的な損害・被害)が発生したことは不要であり、業務を妨害するに足りる行為がなされていればよいと解するのが判例の見解です(=危険犯、最高裁昭和28年1月30日判決等)。
ただし学説上は、実際に業務が妨害され、業務遂行に支障が生じたことを要求すべきであるとの見解が有力に主張されています。
威力業務妨害罪と同時に行われる他の犯罪との関係性
威力業務妨害罪においては、業務を妨害する手段として暴力的行為や脅迫的行為が行われるため、他の犯罪も同時に成立することがあります。
威力業務妨害罪と同時に行われることが多い犯罪の例
威力業務妨害罪と同時に行われることが多い犯罪としては、以下の例が挙げられます。
罪名 | 成立要件 | 法定刑 |
---|---|---|
暴行罪(刑法208条) | 暴行を行ったものの、被害者がケガをしなかった場合に成立 | 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
傷害罪(刑法204条) | 暴行によって被害者にケガをさせた場合に成立 | 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
脅迫罪(刑法222条) | 本人または親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告知して、被害者を脅迫した場合に成立 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
強要罪(刑法223条) | 本人または親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告知し、または暴行を用いて、被害者に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した場合に成立 | 3年以下の懲役 |
器物損壊罪(刑法261条) | 他人の物を損壊し、または他人の動物を傷害した場合に成立 | 3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料 |
騒乱罪(刑法106条) | 多衆(多人数)で集合して暴行または脅迫をした場合に成立 | ・首謀者:1年以上10年以下の懲役または禁錮 ・他人を指揮し、または他人に率先して勢いを助けた者:6カ月以上7年以下の懲役または禁錮 ・付和随行した者:10万円以下の罰金 |
威力業務妨害罪と他の犯罪は「観念的競合」
1個の行為が同時に複数の罪を構成する場合、「観念的競合」として取り扱われます(刑法54条1項前段)。
- 観念的競合の例
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・爆破予告をして店舗オーナーを脅迫することにより、営業を妨害した。
→脅迫罪と威力業務妨害罪の観念的競合
→3年以下の懲役または50万円以下の罰金(威力業務妨害罪の法定刑)・暴行によって店舗オーナーを負傷させ、営業を妨害した。
→傷害罪と威力業務妨害罪の観念的競合
→15年以下の懲役または50万円以下の罰金(傷害罪の法定刑)
威力業務妨害罪で逮捕された場合の流れ
威力業務妨害罪で逮捕された場合、以下の流れで刑事手続きが進行します。
流れ1|逮捕~勾留請求
流れ2|起訴前勾留~起訴・不起訴
流れ3|起訴後勾留~公判手続き
流れ4|公判手続き・判決
流れ5|上訴・刑の執行
流れ1|逮捕~勾留請求
逮捕の期間は最長72時間です(刑事訴訟法205条2項)。
検察官は、罪証隠滅や逃亡のおそれの有無などを考慮して、被疑者の身柄拘束を続けるべきか否かを判断します。身柄拘束の継続が必要と検察官が判断した場合には、逮捕期間中において、裁判官に対して勾留請求を行います(同条1項)。
流れ2|起訴前勾留~起訴・不起訴
検察官の勾留請求を受けた裁判官が、罪証隠滅または逃亡のおそれ、および身柄拘束を継続する必要性があると判断した場合には、勾留状が発せられます。
勾留状が発せられた場合には、逮捕から最長20日間の起訴前勾留に移行し、被疑者の身柄は引き続き拘束されます(刑事訴訟法208条)。
検察官は、起訴前勾留の期間中に、被疑者を起訴するか否かを判断します。
また、100万円以下の罰金または科料を求刑する場合に限り、被疑者に異議がないことを条件として略式起訴が選択されることがあります(同法461条)。
不起訴となった場合には、その時点で被疑者の身柄が解放されます。
略式起訴となった場合は、簡易裁判所が略式命令を発し、それが被告人に告知された時点で勾留が終了し、身柄が解放されます(同法345条)。
流れ3|起訴後勾留
正式起訴された被疑者は、起訴後勾留に移行して引き続き身柄が拘束されます。起訴後勾留の期間は当初2カ月間で、1カ月毎に更新が認められています(刑事訴訟法60条2項)。
起訴後勾留の期間中は、弁護人と相談しながら公判手続きの準備を整えます。被告人側の方針は、大きく分けて罪を認めて情状酌量を求めるか、または罪を否認して争うかの2通りです。
なお、起訴後勾留への移行後は、裁判所に対する保釈請求が認められます(同法89条、90条)。保釈が認められれば、保釈保証金を預けることを条件として、一時的に身柄が解放されます。
流れ4|公判手続き・判決
起訴後勾留に移行してからしばらくすると、裁判所において公判手続きが行われます。被告人側は事前に決めた方針に従い、
- 検察官の犯罪立証に対して反論する
- 情状に関して被告人に有利な証拠を提出する
などの対応を行います。
公判手続きの審理が熟した段階で、裁判所が判決を言い渡します。判決では、無罪であればその旨、有罪であれば量刑が示されます。
量刑など一定の要件を満たす有罪判決には、刑の全部または一部につき執行猶予が付されることがあります(刑法25条、27条の2)。
流れ5|上訴・刑の執行
一審判決に不服がある場合は、高等裁判所に対する控訴が認められています。控訴審判決に不服がある場合は、最高裁判所への上告が可能です。
控訴・上告の手続きを経て、判決が確定します。また、控訴・上告の期間(=判決言渡日の翌日から起算して14日間)が経過した場合にも、判決は確定します。
有罪判決が確定した場合は、原則として刑が執行されます。ただし、執行猶予が付されている場合には、その条件に従って刑の執行が猶予されます。
威力業務妨害を受けた場合の対応
自社の店舗・施設などにおいて威力業務妨害を受けた場合には、以下の対応を検討しましょう。
① 被害届または告訴状の提出
② 損害賠償請求
被害届または告訴状の提出
威力業務妨害の被害を受けた場合には、速やかに警察署へ被害届を提出しましょう。現場検証や犯人に関する情報の調査など、犯人検挙につながる捜査を行ってもらえます。
被害届の代わりに、警察署に対して告訴状を提出することも考えられます(刑事訴訟法230条)。
告訴状には、単に被害を申告するだけでなく、犯人の処罰を求める意思表示が含まれます。
損害賠償請求
威力業務妨害によって何らかの損害を被った場合には、犯人(加害者)に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます(民法709条)。
威力業務妨害と相当因果関係のある損害は、幅広く損害賠償の対象となります。自社に生じた損害を漏れなく集計した上で、犯人に対する損害賠償請求を行いましょう。
- 損害賠償の対象となる損害の例
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・店舗や施設が被った営業上の損害(売上の減少、対応にかかる人件費の増加など)
・壊された設備等の修理代、買替費用
・暴力を受けてケガをした人の治療費
・脅迫による精神的ダメージの慰謝料
など
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