秘密保持条項とは?
秘密保持の期間や例文(サンプル文)
・レビューポイントを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
-
秘密保持条項とは、契約の締結・遂行の過程で得た相手方の秘密情報について、秘密保持(守秘)義務を課す条項です。
秘密保持条項では、以下の2点を禁止する旨が定められています。
①秘密情報を、外部に漏えいすること(第三者開示の禁止)
②秘密情報を、目的外のことに利用をすること(目的外利用の禁止)秘密保持条項を作成・レビューする際は、情報の開示側・受領側それぞれの立場から、
①当事者(開示側・受領側)の範囲
②秘密情報の定義・範囲
③秘密情報の例外
④秘密保持義務の内容
⑤秘密保持義務の期間
を検討することがポイントです。今回は「秘密保持条項」について、書き方・レビューのポイントなどを解説します。
※この記事は、2022年10月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
秘密保持条項とは
秘密保持条項とは、契約の締結・遂行の過程で得た相手方の秘密情報について、外部への漏えいや目的外利用がないように秘密保持(守秘)義務を課す条項です。
- 秘密情報とは
-
秘密情報とは、企業が秘密にしておきたい情報を指します。似た用語に、
①機密情報
②企業秘密
③営業秘密 などがあります。このうち、①機密情報、②企業秘密は、秘密情報と同じ意味であり、法律で定義された用語ではなく、一般用語となります。
一方、③営業秘密は、不正競争防止法で定義された法律用語です。秘密情報が、営業秘密に該当する場合は、不正競争防止法による保護を受けることができます。
※営業秘密についてより詳しく知りたい方は、「不正競争防止法の営業秘密とは? 要件や事例などを分かりやすく解説!」を参照ください。
企業はさまざまな情報を保有していますが、中には、秘密にしておきたい情報(例えば、自社のノウハウや技術に関する情報など)もあります。しかし、取引を行う中では、そうした秘密情報を開示せざるを得ないときがあります。
秘密保持条項は、そうした場合に、秘密情報の利用に制限をかけ、保護するために定められます。
秘密保持条項を定める目的
秘密保持条項を定める目的は、取引の中で相手方に開示した自社の秘密情報を保護することにあります。
詳しくは「④秘密保持義務の内容」で解説しますが、上記目的を達成するため、秘密保持条項では、以下の2点を禁止します。
- 第三者開示|秘密情報を第三者に開示すること
- 目的外利用|秘密情報を、契約に定めた目的以外の目的で利用すること
秘密保持契約との違い
秘密保持契約とは、契約の締結・遂行の過程で得た相手方の秘密情報について、外部への漏えいや目的外利用がないように秘密保持(守秘)義務を課す契約です。
秘密保持契約は、以下のように呼ばれるときもあります。
- NDA:Non-Disclosure Agreement
- CA:Confidentiality Agreement
秘密保持条項と秘密保持契約は、いずれも、上述の目的(第三者開示の禁止、目的外利用の禁止)は共通しています。
しかし、その定め方として、秘密保持条項が契約書の条項の一部であるのに対して、秘密保持契約はそれ自体を独立した契約書として締結する点に違いがあります。
秘密保持条項と秘密保持契約の使い分けについては、明確なルールがあるわけではありません。
しかし実務上は、以下のような場合において、秘密保持契約が選択される例が多いです。
秘密保持条項の例文(サンプル文)
秘密保持条項の例文を紹介します。契約書の条文を作成・レビューする際の参考にしてください。
- 記載例(簡潔なパターン)
-
第●条(秘密保持)
1.甲および乙は、相手方から開示を受け、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上または営業上の情報、本契約の存在および内容その他一切の情報(以下、「秘密情報」という。)を、相手方の事前の書面による承諾を得ないで第三者に開示または漏えいしてはならず、本契約の遂行のためにのみ使用するものとし、他の目的に使用してはならないものとする。
2.前項の規定にかかわらず、情報を受領した者(以下「被開示者」という。)は、自己または関係会社の役職員もしくは弁護士、会計士または税理士等法律に基づき守秘義務を負う者に対して秘密情報を開示することが必要であると合理的に判断される場合には、前項と同様の義務を負わせることを条件に、被開示者の責任において必要最小限の範囲に限って秘密情報をそれらの者に対し開示することができる。
また、法令に基づき行政官庁、裁判所から開示を求められた秘密情報についても、当該要請があった旨を遅滞なく相手方に書面にて通知を行った場合には、必要最小限の範囲で開示することができる。3.被開示者が次の各号の情報に該当することを証明できる場合には、当該情報は秘密情報の対象外とする。
⑴開示の時、既に公知であった情報または既に被開示者が保有していた情報
⑵開示後、被開示者の責めに帰すべき事由によらないで公知となった情報
⑶開示する権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
⑷被開示者が開示を受けた情報によらずに独自に開発・取得した情報
⑸開示者が秘密保持義務を課することなく第三者に開示した開示者の情報4.本条は、本契約終了後も3年間は引き続き効力を有するものとする。
なお、秘密保持条項は、上記の例のように双方が秘密保持義務を負う場合もあれば、一方だけが負う場合もあります。どちらにすべきかは、秘密情報を双方で開示しあうのか、一方だけ開示するのかによります。
秘密保持条項に定めるべき内容
秘密保持条項に定めるべき内容は、主に以下の5点です。
①当事者(開示側・受領側)の範囲
秘密保持条項においては、適切な者に秘密保持義務を負わせるために、情報の開示側と受領側が網羅されているかを確認することが重要です。
情報が開示されるパターンは、
- 当事者双方が情報を開示(受領)する場合
- 一方当事者のみが情報を開示(受領)する場合
- 親会社だけではなく子会社にも情報が開示される場合
などさまざまです。
例えば、子会社にも情報が開示されるのに、契約書では「親会社にしか秘密保持義務を課していなかった」となると、適切に秘密情報を保護できません。
そのため、契約書の作成・レビューの際は、誰が誰に対して情報を開示することが想定されているのかを具体的に検討した上で、情報の開示側と受領側が網羅して定められているかを確認しましょう。
②秘密情報の定義・範囲
秘密保持条項では、守秘の対象となる「秘密情報」を定義します。
しかし、秘密情報の定義が不明確な場合、秘密保持義務違反が生じているのか否かについて、当事者間で紛争が生じる可能性があります。
したがって、秘密保持条項では、秘密保持義務の対象となる「秘密情報」にいかなる情報が含まれるのかを明確に規定することが重要です。
「秘密情報」を広く定めるパターン
上記の記載例における「秘密情報」の定義は、経済産業省ウェブサイト「営業秘密~営業秘密を守り活用する~ (METI/経済産業省)」の「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上にむけて~」の「参考資料2 各種契約書等の参考例(令和4年5月改訂版)」に掲載されている秘密保持契約書のひな形(「業務提携・業務委託等の事前検討・交渉段階における秘密保持契約書の例」)における定義例です。
秘密情報の定義を、
として、取引に関するあらゆる情報が秘密保持の対象に含まれるよう、広く定められています。
情報の提供側からすれば、秘密情報の範囲について漏れが生じないよう広義に定めたほうが有益です。
したがって、上記の記載例のように、「その他一切の情報」などと包括的に定めることが考えられます。
「秘密情報」を狭く定めるパターン
反対に、情報の受領側からすれば、あらゆる情報が秘密保持義務の対象となってしまうと、秘密保持義務違反として損害賠償請求をされてしまうリスクが高まります。
また、全ての情報が重要なものとは限らないケースも多くあります。
したがって、秘密情報の定義を、
とするなど、限定して定めることが有益です。
③秘密情報の例外
秘密保持条項では、一般的に、以下の5つの情報は「秘密情報」に該当しない例外的な情報として定められます。
- 開示の時、既に公知であった情報または既に受領側が保有していた情報
- 開示後、受領側の責めに帰すべき事由によらないで公知となった情報
- 開示する権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
- 受領側が開示を受けた情報によらずに独自に開発・取得した情報
- 開示側が秘密保持義務を課すことなく、第三者に開示した開示者の情報
その際、例外に該当するか否かについて争いが生じないように、「受領側が証明できる場合には」といった記載を設けて立証責任を明確にする場合も多くあります。
④秘密保持義務の内容
秘密保持条項において定められる秘密保持義務として定められるのは、主に、以下の2点です。
- 第三者開示の禁止
- 目的外利用の禁止
契約書の作成・レビューの際は、上記2点が漏れなく記載されているか注意をしましょう。
秘密保持義務の例外
秘密保持条項では、秘密保持義務が生じない例外的なケースとして、主に以下の3点が記載されるのが一般的です。
- グループ会社・下請会社などへの開示
- 外部アドバイザーへの開示
- 法令等の要請による開示
ただし、「グループ会社・下請会社などへの開示」については、該当する場面が想定されない場合には記載されない例も多くあります。
契約書の作成・レビューをする際、特に情報の受領側においては、上記3点のほかにも具体的に情報の開示が必要となる場面が想定されないかを検討し、想定される場合には明確に記載しましょう。
【グループ会社・下請会社などへの開示】
情報の受領側では、契約の締結や遂行に際して、自社だけではなくグループ会社や下請会社にもその情報を共有する必要が生じる場合があります。
このような場合、情報の受領側としては、情報の共有が必要なグループ会社や下請会社が秘密保持条項で網羅されているかを確認し、それらの者への情報提供は、第三者提供の禁止に該当しないことを明記しておく必要があります。
反対に、情報の提供側としては、不必要に広範囲への開示が行われることにならないかを検討し、「当該受領者にも同等の義務を負わせることを条件に」などと、当該情報の共有先にも同等の秘密保持義務を負わせる旨を定めることなどが考えられます。
【外部のアドバイザーへの情報開示】
契約の締結や遂行に際して、弁護士、会計士、税理士、コンサルタントなどの外部のアドバイザーに意見を求めるために、情報提供の必要が生じる場合があります。
このような場合にも秘密保持義務が生じてしまうと、情報の受領側にとっては不利益ですし、通常、上記のような場合に情報を共有することは情報の提供側においても想定されています。
そこで、秘密保持条項では、外部のアドバイザーへの情報開示を秘密保持義務の例外として定めるのが一般的です。
【法令等に基づく開示】
受領した秘密情報について、法令に基づき、行政庁や裁判所などから開示を求められるケースがあります。
具体的には、
- 裁判所からの開示要請(民事訴訟法226条など)
- 捜査機関による捜査協力(任意捜査、刑事訴訟法197条2項)
- 行政機関による行政調査(例として、公正取引委員会による調査。下請代金支払遅延等防止法6条)
- 弁護士会からの照会(弁護士法23条)
といった場面です。
このような場面において、情報開示をできるようになっていなかった場合、情報の受領側は、情報を開示して秘密保持義務違反となるか、情報を開示せずに法令違反となるかという不合理な2択を迫られてしまいます。
したがって、法令等に基づく情報の開示は、秘密保持義務の例外として規定しておくべきです。
反対に、情報の提供側としては、強制力のない要請のレベルでは開示を認めないようほうが有利です。そこで、開示相手や対象となる情報を明確に把握できるように手当てしておくことが考えられます。
具体的には、上記の記載例のように、
といった制限を設けることが考えられます。
⑤秘密保持の期間
秘密保持条項では秘密保持の期間(何年間、秘密保持義務を負うか)を検討することが重要です。
秘密保持の期間の設定方法としては、
- 無期限とする場合
- 期間を定める場合
の2パターンが考えられます。
しかし、受領側からすると、無期限に義務を負うことが適当ではない場合が多いため、期間を定めるケースが多いです。
期間を定める場合は、
- 始期(いつから秘密保持義務が課されるのか)
- 終期(秘密保持義務はいつなくなるのか)
を定める必要があります。
始期・終期ともに、特に定めをおかない場合は契約締結時・契約終了時となるのが原則です。
しかし、秘密保持義務の終期は、契約終了後も一定期間は存続するように定めるケースが実務上は多いです。
その場合の期間はケースバイケースですが、技術上の重要な情報であれば「5~10年」、それ以外の営業などの情報であれば「1~5年」が一つの目安になると思います。
いずれにせよ、開示される情報の性質・重要性を踏まえて、不当に長期の制約とならないよう設定することがポイントです。
【開示側】秘密保持条項のレビューポイント
情報の開示側における、秘密保持条項のレビューポイントは、主に以下の4点です。
- 秘密情報の定義・範囲について、開示予定の情報が網羅されているか
- 秘密保持義務の内容に、第三者開示の禁止・目的外利用の禁止の2点が記載されているか
- 秘密保持義務の例外が不当に広範囲になっていないか
- 秘密保持の期間は十分に設けられているか
【受領側】秘密保持条項のレビューポイント
情報の受領側における、秘密保持条項のレビューポイントは、主に以下の4点です。
- 情報の受領者は自社だけで十分か(親会社・子会社なども含めなくてよいか)
- 秘密情報の定義・範囲が明確か(不相当に広範囲になっていないか)
- 秘密保持義務が生じない例外ケースが網羅されているか
- 秘密保持の期間が不相当に長期となっていないか
この記事のまとめ
秘密保持条項の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!