アルコールハラスメント(アルハラ)とは?
意味・事例(事件)・アルハラ行為者や企業が
負う法的責任・対策などを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

アルコールハラスメント(アルハラ)」とは、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為・人権侵害をいいます。

具体的には、
・飲酒の強要
・イッキ飲ませ
・意図的な酔いつぶし
・飲めない人への配慮を欠くこと
・酔ったうえでの迷惑行為
などがアルハラに当たります。

なお、職場におけるアルハラは、パワハラにも該当し得ます。

アルハラをした者は、次のようなリスクを負います。
・被害者に与えた損害を賠償する責任を負う
・刑法上の犯罪に該当する場合、各種の罪に問われる(強要罪、傷害罪、保護責任者遺棄罪、傷害現場助勢罪など)

この記事ではアルハラについて、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

コロナで飲み会が減ったとはいえ、アルハラには引き続き注意しなければなりませんね。

ムートン

そうですね。アルハラを直接行ってなくとも、その現場に居合わせ被害者を放置した場合でも、罪に問われることもあります。自分の身を守るためにも、アルハラについて学んでおきましょう。

※この記事は、2023年11月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

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アルコールハラスメント(アルハラ)とは|意味を分かりやすく解説!

アルコールハラスメント(アルハラ)」とは、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為・人権侵害をいいます。飲み会文化が未だに色濃い職場では、アルハラが行われるリスクが高いと考えられます。

アルハラはパワハラにも当たることがある

職場におけるアルハラは、「パワーハラスメント(パワハラ)」にも該当することがあります。

パワハラとは、職場において行われる、以下の3つの要件を満たす行為です。

①優越的な関係を背景として行われること
②業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われること
③労働者の就業環境を害すること

例えば、上司が部下に対して飲酒を強要する行為は、アルハラであるのと同時にパワハラにも当たります。

アルハラをしやすい人の思考・特徴

アルハラをしやすい人は、アルコールに対する向き合い方について誤った考え方をしているケースが多いです。

ムートン

例えば以下のような考え方をしている人は、アルハラを犯すリスクが高いと考えられるので要注意です。

アルハラをしやすい人の思考・特徴

・練習すればお酒に強くなれるはずだ。
・飲み会では、少々吐いたり潰れたりする人が出るのは当たり前だ。
・先輩からお酒を勧められたら、断ってはいけない。
・みんなで酒を飲んでこそ、一体感が生まれる。
・飲み会では、みんなちょっとぐらい無茶をすべきだ。
・酔っているなら、多少の暴力や暴言は仕方がない。
・お酌は女性がすべきだ。
・未成年でも、少しくらい飲んだって平気だ。
・飲み会ではコールを振りたい。
・飲めないなんてかっこ悪い。

アルハラに該当する主な行為

特定非営利活動法人ASKが公開しているガイドラインでは、アルハラに該当する具体的な行為として以下の6つが挙げられています。

行為1|飲酒の強要
行為2|イッキ飲ませ
行為3|酔いつぶし
行為4|飲めない人への配慮を欠くこと
行為5|酔ったうえでの迷惑行為
行為6|20歳未満の人に飲酒をすすめること

行為1|飲酒の強要

飲酒強要すること(お酒を飲まざるを得ない状況に追い込むこと)は、アルハラに当たります。

飲酒の強要は、

  • 上下関係
  • 所属組織の伝統やしきたり
  • 通過儀礼

などを背景に、心理的な圧力をかけて行われます。

「男のくせに飲めないのか?(挑発)」「飲まないと出世できないぞ(不利益をほのめかす)」などの明確な言動がなくとも、暗黙の了解で「飲まないといけない状況」になっている場合でも、アルハラは成立します。

行為2|イッキ飲ませ

飲み会や会食などの場を盛り上げるために、イッキ飲み・早飲み競争・罰ゲームなどをさせることはアルハラに当たります。

行為3|酔いつぶし

以下のような行為は、アルハラの一種である酔いつぶしに当たり、急性アルコール中毒によって相手を生命の危険に晒すきわめて危険な行為です。

  • あらかじめ酔いつぶすための用意(吐くための袋やバケツ、つぶれ部屋、運び人など)をして飲み会を行う
  • 逃れられない状況(複数名で取り囲む、ゲームに勝つまで飲ませる、靴や携帯品を取り上げるなど)を設定して、何度も飲ませる
  • 大量または度の高いアルコールを早飲みさせる

行為4|飲めない人への配慮を欠くこと

以下のような行為は、飲めない人への配慮を欠くものとしてアルハラに当たります。

①本人の体質・健康状態・意向を無視してする以下の行為
・しつこく飲み会に誘う
・飲酒をすすめる
・アルコールではないと偽って飲酒させる
・飲めないことを侮辱する

②飲めないことを理由としてする以下の行為
・仕事から外す
・仕事上の嫌がらせをする

③会席にアルコール以外の飲み物を用意しない

行為5|酔ったうえでの迷惑行為

酔った状態でする以下のような迷惑行為は、アルハラに当たります。

  • セクハラ行為をする
  • しつこく絡む
  • 長々と説教する
  • 根拠なく批判する
  • ケンカを売る
  • 暴言を吐く
  • 暴力を振るう
  • 度の過ぎた悪ふざけをする
  • 騒音を立てる
  • 嘔吐して汚す
  • 1人で盛り上がって酔いつぶれる

行為6|20歳未満の人に飲酒をすすめること

20歳未満の人が飲酒することは、法律によって禁止されています。したがって、20歳未満の人に飲酒をすすめることはアルハラに当たります。

アルハラの事例(事件)

アルハラが問題となった事例として、以下の3つを紹介します。

事例1|ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件
事例2|神戸学院大学事件
事例3|熊本大学医学部事件

事例1|ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件

ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件(東京高裁平成25年2月27日判決)は、上司から部下に対して、複数のパワハラが行われる中で、アルハラも併せて行われた事案です。

本事案では、従業員が上司からパワハラを受けたことが原因で精神疾患を発症し、休職した後に自然退職扱いとされました。その後、従業員は、パワハラについての損害賠償と自然退職後の賃金の支払いを求めて提訴しました。

東京高裁は、上司による複数の行為をパワハラと認定しましたが、その中には「アルハラ」も含まれていました。具体的には、「酒は飲めない」と断った従業員に対し、上司が「少しなら大丈夫だろう」「俺の酒は飲めないのか」などと飲酒を強要し、従業員が嘔吐してもなお「酒は吐けば飲めるんだ」と飲酒を強要し続けました。

東京高裁は他のパワハラ行為と併せて不法行為を認定し、被告側に対して150万円の損害賠償を命じました。

事例2|神戸学院大学事件

神戸学院大学事件は、2008年に行われた大学の部活動の春合宿において、アルハラが行われ、学生が死亡した事案です。

合宿中、上級生が下級生に対して焼酎の回し飲みを指示し、ペットボトル4リットルを13人で回し飲みした後、飲みきれなかった残りの500ミリリットルを飲み干した学生が意識を失いました。その後、その学生は、翌朝まで放置され、吐瀉物による窒息が原因で死亡しました。

学生の両親は、大学と学生20人を被告として、約1億円の損害賠償を求める訴訟を神戸地裁に提起しました。その後、神戸地裁において和解が成立し、大学は見舞金、学生は和解金を支払うことになりました。

事例3|熊本大学医学部事件

熊本大学医学部事件は、1999年に行われた大学部活動の新入生歓迎会において、医学部生が上級生との早飲み競争の末に高度の酩酊状態となり、吐瀉物の誤嚥によって窒息して死亡した事案です。

遺族は部長である大学教授と学生を被告として、損害賠償請求訴訟を提起しました。

本事案における新入生歓迎会は、例年新入生を酔い潰す伝統があり、上級生は酔い潰れた新入生の世話をする係や、泊まらせるための部屋、部屋に車で運ぶための運び役などをあらかじめ決めたうえで、新入生の貴重品を預かり、嘔吐に備えてビニール袋を用意するなどの準備をしていました。

一審の熊本地裁では、死因が急性アルコール中毒なのか急性膵炎なのか断定できないことを主な理由として、被告側の損害賠償責任を否定しました。

しかし控訴審の福岡高裁では、死因は断定できないものの、アルコールが死亡の結果に相応の影響を及ぼしたと考えるのが自然かつ合理的であるとしました。その上で、部長である大学教授やキャプテンらの上級生の安全配慮義務違反を認定し、総額1314万円余りの損害賠償を命じました。

2007年11月8日に最高裁が上告を棄却し、損害賠償を命じる福岡高裁の判決が確定しました。

アルハラの行為者・企業が負う法的責任

社内でアルハラが発生した場合、行為者および企業は以下の責任を負う可能性があります。

①行為者
・不法行為に基づく損害賠償責任
・各種の犯罪(強要罪、傷害罪、保護責任者遺棄罪、傷害現場助勢罪など)

②企業
・安全配慮義務違反
・使用者責任

アルハラに関する行為者の責任

アルハラをした行為者は、被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法709条)。特に被害者に重篤な健康障害が生じた場合や、被害者が死亡した場合には、数千万円から数億円の損害賠償が認められる可能性があります。

さらに、アルハラの行為者には以下の犯罪が成立することがあります。

強要罪(刑法223条1項、3年以下の懲役)
→脅迫または暴行による飲酒の強要があった場合

傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役または50万円以下の罰金)
→お酒を飲ませた被害者の生理的機能が害された場合

傷害致死罪(刑法205条、3年以上の有期懲役)
→お酒を飲ませた被害者が死亡した場合

保護責任者遺棄等罪(刑法218条、3カ月以上5年以下の懲役)
→酔いつぶれた人を保護する責任があるにもかかわらず、その人を遺棄し、または必要な保護をしなかった場合(死傷した場合は、傷害の罪と比較して重い刑により処断される)

現場助勢罪(刑法206条、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)
→イッキ飲みをはやし立てるなど、アルハラの現場において加勢した場合

アルハラに関する企業の責任

従業員の間でアルハラが行われた場合、企業は従業員が安全を確保しながら労働するために必要な配慮を欠いたものとして、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(労働契約法5条)。

また、業務の一環としてアルハラが行われた場合には、従業員の監督について相当の注意をしたなどの免責要件を満たさない限り、使用者責任に基づく損害賠償責任も負うことになります(民法715条1項)。

アルハラが発生した場合に企業が負うリスク

社内でアルハラが発生すると、企業は以下のリスクを負うことになってしまいます。

リスク1|従業員のモチベーション低下・離職率の上昇
リスク2|労災による従業員の離脱
リスク3|社会的な企業イメージの低下

リスク1|従業員のモチベーション低下・離職率の上昇

アルハラが横行する会社では、特にお酒が苦手な従業員は働きづらさを感じるようになるでしょう。その結果、従業員のモチベーションが低下し、離職率が上昇するおそれがあります。

リスク2|労災による従業員の離脱

アルハラによって酔い潰された従業員が健康被害を受けた場合は、しばらく仕事に復帰できない可能性があります。

また、業務上の原因による労災であると認定された場合は、会社も損害賠償責任を負うおそれがあるので要注意です。

リスク3|社会的な企業イメージの低下

飲酒の強要を含むアルハラの発生が報道されると、「従業員を守らない会社」「時代遅れの会社」といったイメージが付いてしまうでしょう。

ムートン

その結果、採用面接への志願者が減ったり、取引先から敬遠されたりするなどの不利益が生じるおそれがあります。

アルハラを防ぐために企業がとるべき対策

社内におけるアルハラを防ぐため、企業は以下の対策を講じることが求められます。

対策1|アルコールや飲み会に関する注意事項の明確化および周知・啓発
対策2|ハラスメント相談窓口の設置
対策3|アルハラ発生時における対応体制の整備

対策1|アルコールや飲み会に関する注意事項の明確化および周知・啓発

飲酒の強要を含むアルハラを禁止する旨の方針を就業規則その他の服務規律によって明確化し、従業員に対して周知・啓発しましょう。

周知・啓発の方法としては、社内報・パンフレット・ホームページの活用や、アルハラ防止研修の実施などが考えられます。

対策2|ハラスメント相談窓口の設置

アルハラを早期に発見して適切に対処するため、ハラスメント相談窓口を設置しましょう。

相談窓口の担当者が適切に相談へ対応できるように、人事部門との連携を整えたうえで、対応マニュアルの整備や研修を通じた能力向上を図ることが重要です。

対策3|アルハラ発生時における対応体制の整備

実際にアルハラが発生した場合において、適切に対応するための体制を整備しましょう。

具体的には、事実関係を確認する担当者や手続きの明確化、被害者をケアする仕組みの整備、再発防止策を策定・実施するための手続きや体制の整備などが求められます。

ムートン

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