不正競争防止法とは?
基本を分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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不正競争防止法を解説!!
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争の実現を目指す法律です。もって、経済の健全な発展を目的としています。
この記事では、不正競争防止法の知識がない方にも基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2021年1月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- ・不競法…不正競争防止法(平成5年法律第47号)
目次
不正競争防止法とは?
不正競争防止法の目的
不競法は、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者に対し、 不正競争の防止・予防請求権を付与することにより、不正競争の防止を図るとともに、 その営業上の利益を侵害された者の損害賠償、差止請求、刑事罰などを整備することによって、 事業者間の公正な競争を確保すること」を目的としています。
不競法
不正競争防止法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(目的)
第1条
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、 不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
不競法が禁止している類型には、以下の不正競争行為と条約上の禁止行為があります。
なぜ不正競争防止法が制定されたのか
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保して市場経済を正常に機能させることを念頭に、さまざまな法律を補完する法律として制定された背景があります。
具体的には、不正競争防止法が以下の各法律を補完している関係にあると整理できます。
✅ 民法 →不正競争行為につき、民法では認められていない差止請求権を特別に定めています。 ✅ 知的財産法(特許法・意匠法・商標法・実用新案法・著作権法など) →各知的財産法の規制ではカバーされていない不正競争行為を、不正競争防止法によって規制することにより、網羅的な知的財産権の保護が図られています。 ✅ 刑法・刑事訴訟法 →詐欺・贈収賄・窃盗・横領の各罪の構成要件に該当しない行為であっても、事業者間の公正な競争を阻害する悪質な行為を処罰の対象としています。 また、法人処罰に係る公訴時効期間の延長や、営業秘密侵害罪に係る刑事訴訟手続の特例を定めています。 ✅ 独占禁止法・景品表示法 →公正かつ自由な競争秩序の維持を目的とする独占禁止法、一般消費者の利益保護を目的とする景品表示法とともに、競争秩序維持の一翼を担っています。 |
不正競争行為とは?事例と併せて解説
以下、不競法2条で定義される「不正競争」の各類型について、説明します。
周知な商品等表示の混同惹起
「周知な商品等表示の混同惹起」行為とは、他人の商品・営業の表示 (商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、 その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為をいいます(不競法2条1項1号)。
- 事例
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千葉地判平成8年4月17日
ソニー株式会社の有名な商品の表示である「ウォークマン」と同一の表示を看板等にしたり、 「有限会社ウォークマン」と言う商号として使用した行為が周知な商品等表示の混同惹起行為に該当すると判断された。
周知な商品等表示の混同惹起行為を行った場合には、 民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求(不競法3条、4条)、また刑事的措置として、懲役又は罰金の刑事罰(不競法21条)の対象となります。
著名な商品等表示の冒用
「著名な商品等表示の冒用行為」とは、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、 自己の商品・営業の表示として使用する行為をいいます(不競法2条1項2号)。
- 事例
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知財高判令和2年1月29日
任天堂株式会社の「MARIO KART」、「マリオ」等の表示と類似する 「MariCar」、「MARICAR」、「maricar」等の標章を営業上使用することが著名表示冒用行為に該当すると判断された。
著名な商品等表示の冒用行為を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求(不競法3条、4条)、 また刑事的措置として、懲役又は罰金の刑事罰(不競法21条)の対象となります。
なお、「周知な商品等表示の混同惹起行為」との違いがわかりにくいですが、その違いは、以下の通りです。
まず、「著名な商品等表示の冒用行為」につき、冒用されている商品等表示は、単に「広く認識」されているだけでは足りず、 「全国的に知られていること」が必要です。
また、「著名な商品等表示の冒用行為」については、「周知な商品等表示の混同惹起」と違い、混同惹起行為は特に必要ありませんが、 「自己の商品等表示として」不正行為を行う必要があります。
これらの違いをまとめると以下の通りです。
また、「商品等表示」は、商標も含む概念であるため、商標の冒用行為の場合は、商標法でも規制を受けます。
商標法との規制の違いは以下の通りです。
保護対象については、不競法の著名表示冒用行為の対象は商標に限らず、氏名、商号等の商品又は営業を表示するものが含まれるのに対し、 商標法上保護されるのは、商標に限られます。
商標として保護されるためには、特許庁による審査・登録を経て商標として権利化する必要がありますが、 商標として権利化せずとも、不競法上は商品等表示として保護される可能性があります。
また、商標と異なり、 商品や役務の範囲にも限定がありません。
これらの違いをまとめると以下の図のようになります。
他人の商品形態を模倣した商品の提供
「他人の商品形態を模倣した商品の提供行為」とは、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為をいいます(不競法2条1項3号)。
- 事例
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東京地判平成10月2月25日
裁判例では、株式会社バンダイのたまごっちの商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為が他人の商品形態を 模倣した商品の提供行為に該当すると判断されたています(東京地判平10.2.25)。
他人の商品形態を模倣した商品の提供行為を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求(不競法3条、4条)、 また刑事的措置として、懲役又は罰金の刑事罰(不競法21条)の対象となります。
なお、商品形態を模倣する行為は、意匠法でも規制を受けますが、意匠法の規制とは以下の違いがあります。
まず、不競法が保護する対象には、商品の内部及び外部の形状、形状に結合した模様、色彩、光沢、質感が含まれますが、意匠法による「意匠」とは、 物品・建築物の形状、模様、色彩、及びそれらの結合、画像になります。
意匠として保護されるためには、特許庁による審査・登録を経て意匠として権利化する必要がありますが、 意匠として権利化せずとも、不競法上は商品形態として保護される可能性があります。
そして、不競法上の商品形態の保護期間は日本国内で最初に販売された日から3年以内とされていますが、意匠は、意匠出願日から最長25年とされています。
これらをまとめると以下の図のようになります。
営業秘密の侵害
「営業秘密の侵害」は、窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、若しくは第三者に開示する行為等をいいます(不競法2条1項4号乃至10号)。
営業秘密の侵害を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求(不競法3条、4条)、 また刑事的措置として、懲役又は罰金の刑事罰(不競法21条)の対象となります。
限定提供データの不正取得等
「限定提供データの不正取得等」は、窃取等の不正の手段によって限定提供データを取得し、自ら使し、若しくは第三者に開示する行為等をいいます(不競法2条1項11号乃至16号)。
限定提供データの不正取得等を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求の対象となります(不競法3条、4条)。なお、刑事的措置の対象ではありません。
技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
「技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供」とは、技術的制限手段により制限されているコンテンツの視聴や記録、プログラムの実行、 情報の処理を可能とする(技術的制限手段の効果を無効化する)装置、プログラム、指令符号、役務を提供等する行為 をいいます(不競法2条1項17号、18号)
- 事例
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東京地判平成10月2月25日
インターネットからダウンロードした違法コピーソフトを携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」 で起動させることができる機器を輸入・販売する行為が技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供に該当すると判断された。
技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供を行った場合には、民事的措置として、 当該行為の差止請求及び損害賠償請求(不競法3条、4条)、また刑事的措置として、懲役又は罰金の刑事罰(不競法21条)の対象となります。
ドメイン名の不正取得等
「ドメイン名の不正取得等の行為」とは、図利加害目的(不正の利益を得る目的または他人に損害を加える目的)で、 他人の商品・役務の表示(特定商品等表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有または そのドメイン名を使用する行為をいいます(不競法2条1項19号)。
- 事例
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大阪地判平成16年7月15日
著名な商品等表示である「maxell」と類似する「maxellgrp.com」というドメイン名を使用し、 ウェブサイトを開設して、その経営する飲食店の宣伝する行為がドメイン名の不正取得等の行為と判断された。
ドメイン名の不正取得等の行為を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求の対象と なります(不競法3条、4条)。なお、刑事的措置の対象ではありません。
商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
「商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示」は、商品、役務又はその広告等に、 その原産地、品質、内容等について誤認させるような表示をする行為、又はその表示をした商品を譲渡等する行為をいいます(不競法2条1項20号)。
- 事例
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富山地判平成18年11月10日
富山県氷見市内で製造もされず、その原材料が氷見市内で算出されてもいないうどんに「氷見うどん」等の表示を付して販売する行為が商品・ サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示に該当すると判断された。
商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示を行った場合には、 民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求(不競法3条、4条)、 また刑事的措置として、懲役又は罰金の刑事罰(不競法21条)の対象となります。
信用棄損行為
「信用棄損行為」とは、 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為をいいます(不競法2条1項21号)。
- 事例
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大阪地判平成27年3月26日
家具の考案について実用新案権を有する事業者が競争関係にある他の事業者の取引先に対し、 有効性に特段の問題もない権利であるかのようにして他の事業者の商品が実用新案権に抵触している旨などの通知をした行為が信用棄損行為に該当すると判断された。
信用棄損行為を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求の対象となります(不競法3条、4条)。なお、刑事的措置の対象ではありません。
代理人等の商標冒用
「代理人等の商標冒用」とは、 パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なく、その商標を使用等する行為をいいます(不競法2条1項22号)。
パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国において商標に関する権利を有する者の代理人・代表者、 またはその行為の前1年以内に代理人・代表者であった者が、正当な理由がないのに、その権利を有する者の承諾を得ないで、 その権利に係る商標と同一・類似の商標をその権利に係る商品・役務と同一・類似の商品若しくは役務に使用するなどの行為を 規制します。
代理人等の商標冒用を行った場合には、民事的措置として、当該行為の差止請求及び損害賠償請求の対象となります(不競法3条、4条)。 なお、刑事的措置の対象ではありません。
適用除外
不正競争に形式上該当するものであっても、以下の場合には差止請求権、損害賠償、罰則などの規定が適用されません(不競法19条1項)。
適用除外の類型(19条1項) | 適用されない不正競争の類型(2条1項) |
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商品及び営業の普通名称・慣用表示の使用(1号) | 1号、2号、20号、22号 |
自己の氏名の不正の目的でない使用(2号) | 1号、2号、22号 |
周知性獲得以前からの先使用(3号) | 1号 |
著名性獲得以前からの先使用 (4号) | 2号 |
日本国内で最初に販売された日から3年を経過した商品 (5号イ) | 3号 |
デッドコピー商品の善意取得者保護 (5号ロ) | 3号 |
営業秘密の善意取得者保護 (6号) | 4~9号 |
差止請求権が消滅したあとの営業秘密の使用により生産された製品の譲渡等 (7号) | 10号 |
限定提供データの善意取得者保護 (8号イ) | 11~16号 |
限定提供データと同一のオープンなデータ (8号ロ) | 11~16号 |
技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡行為等(9号) | 17号、18号 |
条約上の禁止行為
以下、条約上の禁止行為の各類型について、説明します。
外国国旗・紋章等の不正使用
外国の国旗・紋章等や外国政府等の印章・記号であって経済産業省令で定めるものを、商標として使用することを禁止する とともに、外国紋章を原産地を誤認させるような方法で使用することなどが禁止されています(不競法16条)。
外国国旗・紋章等の不正使用を行った場合には、刑事的措置として、懲役または罰金の刑事罰の対象となります (不競法21条2項7号、第22条第1項第3号)。
国際機関の標章の不正使用
国際機関の標章であって経済産業省令で定めるものを、当該国際機関と関係があると誤認させるような方法で、 商標として使用することが禁止されています(不競法17条)。
外国国旗・紋章等の不正使用を行った場合には、刑事的措置として、懲役または罰金の刑事罰の対象となります (第21条第2項第7号、第22条第1項第3号)。
外国公務員等への贈賄
外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して、営業上の不正の利益を得るために、贈賄等をすることが禁止されています(不競法18条)。
外国国旗・紋章等の不正使用を行った場合には、刑事的措置として、懲役または罰金の刑事罰の対象となります(第21条第2項第7号、第22条第1項第3号)。
不正競争防止法違反の効果
民事上の措置
不競法違反の効果としては、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求の民事上の措置があります。
差止請求(不競法3条)は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が、その営業上の利益を侵害する者 又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求すること及び侵害の行為を組成した物の廃棄等を請求することをいいます。
損害賠償請求(不競法4条)は、 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者に対して、損害賠償を請求することをいいます。
なお、「不正競争」による営業上の利益の侵害による損害は、 損害額を立証することが困難であることに鑑み、被害者の立証の負担を軽減するため、損害額の推定規定が定められています(不競法5条)。
また、信用回復措置請求(不競法14条)は、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対して、 謝罪広告の掲載といった信用回復措置を請求することをいいます。
不正競争による損害額の推定規定
不正競争によって生じた損害については、以下の3つの推定規定が設けられています。
販売商品の数量・単位利益に応じた推定
侵害者が侵害物件を第三者に譲渡(販売)した場合、被侵害者は以下の金額を損害として主張できます(不正競争防止法5条1項)。
損害額=譲渡数量×侵害がなければ被侵害者が販売できた物の単位数量当たりの利益 ※譲渡数量の全部又は一部を被侵害者が販売できない事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた金額を控除します。 |
侵害者の受けた利益に応じた推定
不正競争によって侵害者が利益を受けている旨の立証があれば、当該利益が被侵害者の損害額であると推定されます(不正競争防止法5条2項)。
つまり被侵害者は、侵害者の利益が自らの損失に対応していることを立証する必要がありません。
使用料に応じた推定
商品等表示・商品の形態・営業秘密・限定提供データ・ドメイン名・商標を無断使用するタイプの不正競争については、使用料相当額(相場)が被侵害者の損害額であると推定されます(不正競争防止法5条3項)。
なお、使用量相当額については、市場における取引や実務慣行の状況などを参考資料として、被侵害者が立証しなければなりません。
刑事上の措置
次に、不正競争防止法違反の効果として、刑事上の措置について説明します。
営業秘密の侵害に関しては、比較的罪が重く、10年以下の懲役又は2000万円以下の罰金(併科可) の刑が課せられます(不競法21条1項、3項)。
また、それ以外の侵害については、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(併科可)の刑が課せられます(不競法21条2項)。
そして、法人の業務に関して、以下の犯罪が行われた場合には、行為者が処罰(懲役・罰金)されるほか、その者が所属する法人もそれぞれ以下の処罰(罰金)の対象となります(不競法22条1項)。
行為者の処罰行為 | 法人の処罰(罰金) |
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不競法21条3項各号 | 10億円以下 |
不競法21条1項1号、2号、7号~9号 | 5億円以下 |
不競法21条2項各号 | 3億円以下 |
なお、営業秘密侵害罪により生じた財産などは、裁判所の判断により、犯人及び法人両罰が適用された法人から、 上限なく没収することができるとされています(不競法21条10項、11項)。