共同研究契約とは?
基本を解説!

この記事のまとめ

共同研究契約の基本を解説!!

この記事では、企業間、または企業と大学間において協力して研究開発を行う場合に締結される、共同研究契約の基本を分かりやすく解説します。

(※この記事は、2022年11月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

共同研究契約とは?

ヒー

共同研究ってどんなときに行うのですか?

ムートン

企業が資金を、大学が技術力を提供する場合に行われることもありますし、企業間でお互いに得意な技術力を持ち合って行うこともありますよ。

共同研究開発とは、製品や技術を研究開発するにあたり、複数の当事者が共同して研究開発を行うことを言います。

共同研究開発においては、共同研究開発における役割分担、費用負担、研究成果の取扱いに関する事項などを定める必要があるため、共同研究契約を締結します。

自社が保有していない技術や知見が必要となる場合や、製品開発のスピードアップを図るために技術力を早期に確保する必要がある場合などに共同研究開発が行われます。

また、大学は、研究成果の社会的還元を行うことを目的とし、その組織の属性として、優れた研究者、技術力及び研究施設を有していますが、 企業に比較すると研究資金が少ない傾向にあります。
そこで、企業に資金を提供してもらい、大学が主に研究を担当するという共同研究開発を行うことがあります。
この場合、研究成果に関しては企業に単独帰属させる一方で、開発費用に関しては企業が負担するなどとを定めることも考えられます。

その他、ベンチャー企業についても、技術力やアイディアを有しているものの、資金力が乏しい傾向にあります。
そこで、大企業に資金を提供してもらい、共同研究開発を行うことがあります。

共同研究契約と関連する法律

共同研究契約では、研究成果に関する知的財産権の取扱いなどについて問題となることがあるため、特許法、著作権法などの知的財産権法が関連してきます。

共同研究契約の条項(記載例あり)

ヒー

実際に共同研究契約を作成したり、レビューする際には、どのような点に気を付ければいいのでしょうか?

ムートン

ここからは、共同研究契約の各条項について、文例を見ながら解説していきます。

共同研究契約を締結する場合に、契約書に定めるべきポイントを解説します。

役割分担

共同で研究をする際には、当事者間で、双方の役割について明確に定める必要があります
具体的な役割分担については、契約書に添付する別紙に定めることも多いです。

また、「双方が技術、知識を提供して協力して誠実に作業を行う」と定めて当事者が協力して研究開発を行うことを確認することも考えられます。

記載例

(役割分担)
1 甲及び乙は、本共同研究開発の円滑かつ適切な遂行のためには、双方の技術及び知識の提供と研究開発計画の早期かつ明確な確定が重要であり、 甲乙双方による共同作業及び各自の分担作業が必要とされることを認識し、甲乙双方による共同作業及び各自の分担作業を誠実に実施するとともに、 相手方の分担作業の実施に対して誠意をもって協力する。
2 甲及び乙による本共同研究開発の具体的な役割分担は別紙●のとおりとする。

研究責任者など

不適切な者が研究に参加することを防ぐために、研究に参加する研究者などをあらかじめ契約で特定しておくのが有益です。

また、研究員の追加・変更により、不適切な者が研究に参加することを防ぐために、研究員を追加・変更する場合に「相手方へ通知する」と定めるのが有益です。

更に、共同研究において相手方の施設に研究員を派遣する必要が生じる場合があります。こういった場合に備えて、 「自己の研究員を相手方の施設に派遣できる」と定めることが考えられます。

記載例

(研究責任者等)
1 甲及び乙は、本共同研究開発の方針及び内容を決定し、これを実施する参加研究員等として、それぞれ別紙に掲げる者を本共同研究開発に参加させる。
2 甲及び乙は、本共同研究開発に参加研究員等を追加し、又は参加研究員等の参加を終了させる場合には、双方で事前に協議し同意を得たうえで、 事前に相手方に通知する。この場合において、当該追加又は終了に係る事由の性質等により事前に通知することができなかったときは、事後において速やかに通知する。
3 甲及び乙は、自己の参加研究員等を相手方の施設に派遣し、本共同研究開発に従事させることができる。この場合において、甲及び乙は、 当該参加研究員等が相手方の指示及び規則その他の定めに従うために必要な措置をとり、自己の参加研究員等が相手方の施設において事故や災害に遭遇したときは、 事後の対応及び調査について、相手方に協力する。

研究開発費など

研究開発を進めるにあたり、設備・機器・原材料等を手配し、仕様の設計や評価を行うこと等に際して様々な費用が発生することになります。

円滑に共同開発を進めるためには、発生する予定の費用負担について予め合意しておくことが望ましいです。

この場合、研究開発費の負担者、研究開発費の使用使途を定めることが重要です。
また、研究開発においては、研究開発費が消化されずに余ることがあります。その際には、研究開発費の残額を返還する規定を定めることもあります。

更に、研究開発費を負担する者は、研究開発費の支出の適切性を確認するためにも、研究開発費を支出する者に対して、 支出実績に係る報告書の作成を要請できるようにすることが重要です。

記載例

(研究開発費等)
1 甲は、乙に対し、本共同研究開発の資金及び費用(以下「研究開発費」という。)として、本契約締結後●日以内に、乙の指定する銀行口座に金●●円を 振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
2 研究開発費の使途は別紙●に定めるとおりとする。
3 乙は、自己の規則の定めに従い、研究開発費の管理を行う。なお、本契約を終了する場合(甲の責に帰すべき事由により本契約が終了した場合を除く。)において、 甲が研究開発費の残額(乙が既に費消した額を控除した額をいう。)の返還を求める場合には、乙は当該残額を甲に返還する。なお、返還方法は第1項に準じる。
4 乙は、甲が研究開発費の支出実績に係る報告を求める場合には、所定の支出実績報告書を作成し、甲に提出する。
5 本共同研究開発の遂行に必要な旅行交通費、消耗品等に係る費用等はそれぞれ甲及び乙が自ら負担する。

設備など

共同研究開発を遂行するに際しては、当事者が研究開発に必要ないし有用な資材、原材料及び設備などを互いに提供することが望ましいです。

その場合には、提供した資材、原材料及び設備などにつき、研究開発を遂行する目的以外の目的での使用を禁止することが重要です。

記載例

(資材等の提供)
1 甲及び乙は、本共同研究開発を遂行するために必要な資材、原材料、設備等について、相手方に提供するものとする。
2 甲及び乙は、前項に基づいて相手方より提供を受けた資材、原材料及び設備等を、 相手方の書面による事前承諾を得ることなく本共同研究開発を遂行する目的以外の目的で使用してはならない。

第三者への委託

共同研究開発においては誰が研究開発に携わるかが重要であるため、一方当事者が無断で第三者に委託することを禁止することが多いです。

特に大学、スタートアップなど相手方の技術力に着目して研究を進めていく場合には再委託を禁止する必要性が高いです。

記載例

(第三者への委託)
1 甲及び乙は、相手方から事前の書面による承諾を得ることなくして、本共同研究開発の一部又は全部を第三者に委託することはできない。
2 前項に基づき事前に相手方の書面による承諾を得て本共同研究の全部又は一部を第三者に委託する場合、当該当事者は、 本契約に基づき自らが負うのと同等の義務を当該第三者に課す。
3 第三者への委託を行う当事者は、委託先の義務の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負う。
4 第1項の承諾がある場合でも、委託先がさらに第三者に再委託をすることはできない。

情報提供

共同研究開発を遂行するに際しては、当事者が研究開発に必要ないし有用な情報や資料を互いに開示・提供することが望ましいです。

この場合には、相手方から提供を受けた資料などを注意して管理・保管するよう定めることが重要です。

記載例

(情報提供)
1 甲及び乙は、各自が本共同研究開発の実施のために必要と判断し、かつ、第三者に対して秘密保持義務を負っていない情報及び資料 (以下「資料等」という。)を相互に提供又は開示する。
2 甲及び乙は、相手方から提供を受けた資料等(それに基づき新たに作成された資料等を含む。)を善良な管理者の注意をもって管理及び保管する。

進捗状況などの報告

共同研究開発では、開発ターゲットに向けて適切かつ効率的に研究開発を進めるため、進捗状況について当事者間で報告・連絡・相談することが重要です。

そのため、定期的に研究開発の進捗状況を互いに報告する取り決めを定めることが多いです。

また、研究開発の実施に伴い発明等を得た場合には速やかに報告することを定めるのが望ましいです。

記載例

(進捗状況等の報告)
1 甲及び乙は、本契約の有効期間中、四半期ごとに本共同研究開発の進捗状況を確認するための会議を開催する。
2 前項の規定にかかわらず、甲及び乙は、本共同研究開発の実施に伴い発明等を得た場合には、随時速やかに相手方に通知する。

研究成果の報告

研究開発が終了した場合には、お互いの研究成果の概要を把握するためにも、研究成果の概要を報告書として取りまとめた上で、報告させることが一般的です。

記載例

(研究成果の報告)
甲及び乙は、本契約終了後、●日以内に、自己の役職員等にその研究成果の概要を報告書としてとりまとめさせ、双方に提出させる。

研究結果の公表

研究成果については、論文や学会発表などによって公表することが想定されます。

もっとも、特許等の出願を行う前に新規の成果を公表されてしまうと、当該成果は公知となってしまい、 その後に特許出願をしたとしても新規性喪失によって特許を取得することができなくなってしまいます(特許法29条1項)。

そのため、研究成果の公表については、相手方に対して事前に通知し、相手方からの承諾を得ない限り公表できないとする取り決めをする場合が多いです。

そして、事前の通知の結果、研究成果の公表について通知を受けた相手方が利益を害されると判断した場合には、 公表内容の修正、公表時期、公表方法について協議することを定めることが有益です。

記載例

(研究成果の公表等)
1 甲及び乙は、本契約の有効期間中及び契約終了後においても、本共同研究開発によって得られた研究成果を公表しようとする場合 (以下、研究成果を公表しようとする者を「公表希望当事者」という。)には、その内容、時期及び方法等について、事前に相手方に対して通知する。
2 甲及び乙は、前項の場合において、公表内容が以下の各号のいずれかに該当する情報を含むときは、 当該情報を公表することについて相手方の書面による事前の承諾を得る。
(1)相手方の秘密情報
(2)相手方が単独で創製した研究成果
(3)本知的財産権又は本研究成果物であって、甲乙が共有するもの
3 前項各号の情報を含む公表に関して、公表希望当事者から第1項に基づく通知を受けた相手方は、通知された公表内容に自らの 将来期待される利益を害するおそれがあるものが含まれると判断したときは、当該通知受理後●日以内に公表内容の修正を書面等にて公表希望当事者に通知し、 公表希望当事者は、相手方と十分な協議をしなくてはならない。
4 前項の通知を受けた公表希望当事者は、相手方の同意なくこれを公表してはならない。ただし、 相手方が前項の通知受理後●日以内に公表内容の修正を書面等にて公表希望当事者に通知しなかった場合、公表に同意したものとみなす。
5 甲及び乙は、第2項第3号に該当するものについて、前項の規定により相手方から承諾を求められた場合には、正当な理由がない限り、これに同意する。
6 第2項第2号に該当するものの取り扱いについては、第●条の秘密保持の条項が準用される。

研究成果に係る権利帰属

研究成果の帰属のあり方としては、 相手方から提供された資料・情報等又は相手方の助言・援助等によらずに単独で発明した場合には、 発明した当事者の単独保有として、当事者双方の貢献により発明がなされた場合には、その成果は当事者間の共有に帰属させることが多いです

記載例

(研究成果に係る権利帰属)
1  研究成果である本知的財産権及び本研究成果物については、以下の各号に定めるところにより、甲若しくは乙の単独所有又は甲及び乙の共有とする。
(1)甲又は乙が、相手方から提供された資料・情報等又は相手方の助言・援助等によらずに単独で創製した発明等に係る本知的財産権は甲乙それぞれの単独所有とする。
(2)甲及び乙が共同で創製した発明等に係る本知的財産権は、甲乙双方の貢献度を踏まえて甲乙協議のうえ決定された持分において共有する (以下、共有する本知的財産権を「共有知的財産権」という。)。なお、金銭的な貢献は、本文にいう貢献度には含まれない。
(3)甲又は乙が単独で創製した本研究成果物は甲乙それぞれの単独所有とし、甲及び乙が共同で創製した本研究成果物は前項に準じた持分において甲乙の共有とする。
2  本知的財産権及び本研究成果物の帰属について疑義が生じた場合又は第三者との契約その他の特別の定めがある場合には、甲乙協議のうえ、その取扱いを定める。

知的財産権に関する出願

研究成果が一方当事者の単独に帰属する場合には、当該成果を保有する者が単独で出願するのが原則です。

また、研究成果が当事者双方の共有である場合には、出願は共有者全員が共同で行わなければなりません(特許法38条)。

したがって、研究成果が当事者双方の共有である場合には、共同者全員で出願を行うことを定めることが一般的です。

共同で出願する場合には、改めて、出願手続の分担や登録された知的財産権の帰属などを定めた共同出願契約を締結することがあります。

共同出願契約については、以下の関連記事をご覧ください。

記載例

(本知的財産権に関する出願等)
1  甲及び乙は、単独所有とされた本知的財産権について、単独でその出願等を行い、相手方はこれに必要な協力をする。 出願等及び権利保全の手続の費用は、乙の負担とする。
2  甲及び乙は、甲と乙の共有知的財産権について出願等をする場合には、出願等の内容及び出願国について協議し、共同で出願等を行う。
3  甲及び乙は、前項の規定により共同で出願等を行うにあたっては、共有知的財産権に係る双方の持分、管理費用 (特許庁等の登録機関及び甲乙に所属しない外部の弁護士、弁理士等に支払う、本知的財産権を取得し維持するための費用をいう。以下同じ。) の負担等必要な事項を定めた知的財産権持分契約を、別途締結する。

ノウハウの指定

特許とは、発明を公開する代わりに発明の実施を独占することができるという制度であり、研究成果を特許出願する場合、 まず権利として成立する前の段階で出願書類が公開されます。そのため、出願書類に自社のノウハウが記載されていると、 無償でノウハウを公開することにつながるおそれがあります。

したがって、研究成果のうち、自社の技術情報などで、 特許などの申請をせずに(公開せずに)ノウハウとして保護することが相当なものについて、契約で特定しておくのが望ましいです。

記載例

(ノウハウの指定等)
1 甲及び乙は、共有の研究成果のうちノウハウとして保護することが相当と考えるものについて、甲乙協議のうえ速やかにノウハウの指定をする。
2 前項の指定にあたっては、秘匿すべき期間を甲乙協議のうえ決定し、知的財産権持分契約においてその旨を明示する。

知的財産権の実施

研究成果が一方当事者に帰属する場合には、原則として、研究成果が帰属する当事者のみがその研究成果を自由に利用することができます。
また、研究成果を共有とする場合には、各当事者が、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないで、実施することができます(特許法73条2項)。

大学と企業の間の共同研究契約で、特許権を共有としたものの、大学が特許権の実施を想定していない場合などは、大学が特許権の維持費用は支払うものの実施による利益を得られないという問題が生じます。
この場合は、大学が実施しないことを条件に、企業が一定の補償をする、例えば実施による売上の数%を支払うなどの不実施補償を定めることがあります。

なお、大学との研究においては、研究成果に関し、企業の単独所有となった場合でも、「大学が、非営利の研究目的で、その研究成果を無償で実施できる」と定める場合もあります。

また、文例のように、単独所有とした特許権などについても、他方当事者が実施をするニーズがある場合は、他方当事者は非独占的な通常実施権の許諾を受けることができると定めることも考えられます。

記載例

(共有知的財産権に関する実施等)
甲及び乙は、相手方に対して金銭の支払い等をすることなく、共有知的財産権を実施等することができる。

(単独所有の本知的財産権の非独占的な通常実施権等の許諾)
甲又は乙は、単独で所有する本知的財産権について、相手方が非独占的な通常実施権等(再実施許諾権付きのものを含む。) を希望する場合には原則としてこれに応ずるものとし、条件等については別途協議により決定する。

持分の譲渡・第三者への実施の許諾

研究成果を共有とする場合、各共有者は、他の共有者の同意を得ない限り、特許権などに関して、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定できません(特許法73条1項)。

また、各共有者は、他の共有者の同意を得ない限り、その特許権について専用実施権を設定し、または、他人に通常実施権を許諾できません(特許法73条3項)。

したがって、共同研究開発契約においては、当事者が、研究成果を共有とした場合、その共有持分を譲渡・質権設定したり、実施権を第三者に設定する際には、一方当事者にその旨を通知し、 承諾を得ることを確認的に定めることが一般的です。

特に、第三者に独占的実施権を設定する場合には、その他の第三者に実施権を設定できなくなることから、他の共有者の同意を要すると定めるのが一般的です。

他方、第三者に非独占的実施権を設定する場合には、その他の第三者にさらに通常実施権を設定することができることもあり、 この場合には原則として同意することを定めることも考えられます。

記載例

(第三者に対する実施等の許諾等)
1 甲及び乙は、第三者に対し、共有知的財産権について、その持分を譲渡しようとする場合、その持分を目的として質権を設定しようとする場合、 又は専用実施権等を設定し、若しくは通常実施権等を許諾しようとする場合には、事前にその旨を相手方に通知し書面により同意を得る。
2 甲及び乙は、相手方から前項の規定に基づき非独占的な通常実施権等を許諾したい旨の通知を受けた場合には、これに同意する。
3 甲及び乙は、共有知的財産権又は相手方が単独で所有する本知的財産権について、相手方から、第三者に対する専用実施権等の設定又は通常実施権等の許諾を目的として、 理由及び開示先を明示して、研究成果であって当該知的財産権の実施等のための技術情報(自己が単独で創製したものを除く。)を 当該第三者に開示又は提供したい旨の通知を受けたときは、これに同意する。
4 甲及び乙は、前項の規定に基づき第三者に技術情報を開示又は提供する場合、事前に当該第三者に対し秘密保持義務を課す。

共有の知的財産権の放棄

共有の知的財産権について、放棄した者の持分については、他の共有者に帰属すると解されます(民法255条の類推適用)。
自分が知らない内に相手方が共有持分を放棄する事態を防ぐためにも、「当事者は、放棄を行う前に、相手方に通知する」と定めるのが安全です

記載例

(共有の本知的財産権の放棄)
甲及び乙は、共有知的財産権の自己の持分を放棄する場合には、当該放棄を行う前に、その旨をあらかじめ相手方に通知する。 この場合において、相手方は、当該本知的財産権の取扱いについて協議を求めることができる。

共有の知的財産権の保全

共有となった知的財産権に関して、第三者から無効審判などを提起される、また、 知的財産権の実施などが第三者の知的財産権を侵害しているとして第三者から侵害訴訟を提起されることがあります

これは他の共有者の権利・利益に重大な影響を及ぼしうる事項ですので、このような場合は、当事者間で相互に協力すること、費用を分担することなどを定めるのが有益です。

記載例

(共有の本知的財産権の保全)
1 甲及び乙は、共同での出願等に係る本知的財産権の取得及び維持に関し、第三者から審判、訴訟等を提起された場合には、 当該本知的財産権の取得、維持のため相互に協力する。これに要する費用の負担は、甲乙協議によって定めるところによる。
2 甲及び乙は、共有の本知的財産権の実施等について、第三者からその権利侵害などを理由として訴訟等を提起された場合には、協議のうえ対処する。

第三者による権利侵害

共同開発は、当事者の知見を合わせて研究成果の創出に向けて取り組むものであるため、研究成果に関する共有の知的財産権につき、 第三者により侵害行為を受けた場合には、当事者双方で協力して処理・解決することが通常です。
したがって、共有の知的財産権につき第三者による侵害があった場合には、協議して対応することを確認的に定めることが考えられます。

記載例

(第三者による権利侵害)
甲及び乙は、共有知的財産権を第三者が侵害した場合には、協議のうえ対処する。

参加研究員の退職後の取扱い

研究開発に携わった会社の役職員などは、研究開発や研究成果に関する秘密情報を見聞きしています。 したがって、これらの役職員などが、退職した後において、研究の内容を第三者に漏洩したり、研究成果を公表しないように定めることが重要です。

記載例

(役職員等の退職後の取扱い)
甲及び乙は、自己の役職員等が、自己に所属しなくなった後も、第●条(秘密保持)、第●条(個人情報)及び第●条(研究成果の公表等)の規定を遵守させるよう義務づける。

共同研究開発契約書のひな形

共同研究開発契約のひな形については、以下のひな形が参考になります。

経済産業省「モデル契約書_共同研究開発契約書」
*「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」のモデル契約書の1つ

まとめ

共同研究契約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

阿部・井窪・片山法律事務所「契約書作成の実務と書式」(有斐閣)

鮫島正洋「技術法務のススメ」(日本加除出版)

中島憲三「共同研究・開発の契約と実務」(民事法研究会)

重冨貴光ほか「共同研究開発契約の法務」(中央経済社)