捨印とは?メリット・デメリット・
押し方・契約書の訂正方法・
注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

捨印」とは、契約書などの文書に誤記などの不備があった際に、原本を保有する当事者の側だけで訂正の手続きを完了できるように押しておく印鑑です。原本を保有する側は、相手方にあらかじめ捨印を押してもらえば、その捨印を訂正印として利用して、単独で契約書を訂正できます。

捨印を押す側にとっては、軽微な訂正などを相手方に一任できて手間が省けるメリットがあります。その一方で、捨印を契約書の改ざんなどに悪用されるリスクがある点には注意が必要です。

したがって、捨印を押す際には悪用されないようにすることが大切です。相手方が信頼できる場合にのみ捨印を押す、捨印の目的を事前に確認する、捨印を押した契約書の写しを保管する、捨印であることを明記するなどの対応をとりましょう。

この記事では捨印について、メリット・デメリット・押し方・契約書の訂正方法・注意点などを解説します。

ヒー

契約書の締結で、「こちらの捨印欄にも押印をお願いします」と言われることがありますが、捨印って何のためにあるのでしょう?

ムートン

捨印は軽微な訂正のために使うものですが、悪用される場合がないとは言えません。押す判断は慎重にすべきです。「捨印」のポイントをご案内します。

※この記事は、2024年1月29日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

捨印とは

捨印」とは、契約書などの文書に誤記などの不備があった際に、原本を保有する当事者の側だけで訂正の手続きを完了できるように押しておく印鑑です。

捨印が活用される場面

例えば事業者が顧客と締結する契約書のひな形には、捨印欄が設けられていることがよくあります。もし必要事項の記載漏れなどがあった場合には、顧客を訪問したり、原本を郵送で送って訂正してもらったりすることなく、事業者の側で訂正の手続きを完了できるようにするためです。

また、事業者ではない人同士が締結する契約書でも、訂正などの手間を省くために捨印を押すケースがあります。ただし、捨印が契約書の改ざんなどに悪用されるケースもあるため、相手方を信頼できるかどうか見極めることが大切です。

捨印を押す義務はない|押さない・拒否することも可能

捨印を押さなかったとしても、契約書の有効性や内容に何らかの影響が生じることはありません。契約を有効に成立させるためには、調印欄に署名・押印等を行えば十分です。

したがって、相手方から捨印を押すことを求められたとしても、拒否して構いません。特に相手方が信頼できない場合には、捨印を押すことを拒否して、訂正などが必要な場合は自分で訂正すると伝えましょう。

捨印のメリット・デメリット

捨印のメリットは、契約書の訂正などの手間が省ける点です。その一方で、捨印は意図しない内容の改ざんに悪用されるリスクがあります。

捨印のメリット

捨印を押しておけば、その捨印を利用して、原本を保管する当事者の側だけで訂正の手続きを完了できます

本来であれば、契約書の訂正は締結と同様に、当事者双方が確認した上で署名・押印などによって行わなければなりません。しかし、あらかじめ捨印が押してあれば、それを訂正に関する押印として取り扱うことができます。
したがって、相手方を訪問したり、契約書の原本を返送したりすることが不要となり、契約書の訂正の手間が省ける点が捨印のメリットです。

捨印のデメリット

捨印を利用して契約書が訂正された場合、捨印を押した側は訂正内容を確認しないのが一般的です。つまり、契約の相手方を信頼して訂正を一任するわけですが、自分が意図しない形で相手方が契約書を改ざんしてしまうリスクもあります。

相手方が不正に利益を得ようという意図を持っている場合には、契約書に捨印を押してしまうと意図しない改ざんが行われ、後に契約トラブルが発生するリスクが高まる点に注意が必要です。

捨印を押してよい書面・押してはいけない書面

契約書に捨印を押してよいかどうかは、契約の相手方が信頼できるかどうかによって判断しましょう。もっとも、慎重を期すのであれば捨印は一切押さずに、訂正はすべて自分自身で行うことが望ましいです。

捨印を押してよい書面

確固たる社会的な信頼を得ている大企業と締結する契約書には、捨印を押してもおおむね問題ないと考えられます。
捨印を悪用して契約書の改ざんなどを行えば、すぐに通報されて大きな問題となり、社会的な信頼を失ってしまいます。このようなリスクを冒して、大企業側が捨印を悪用しようとする可能性は低いでしょう。

また、司法書士に不動産の登記手続きを依頼するケースなどのように、法令によって規制された有資格者に業務を依頼する場合も、捨印を押すことに大きな問題はないと考えられます。むしろ、行政機関に対する申請などを行う際には、申請書の補正などに備えて、捨印を押しておいた方が便宜です。

そのほかにも、相手方が確実に信頼できると考えている場合には、訂正手続きの便宜の観点から捨印を押すことも考えられます。ただし、本当に一点の曇りもなく相手方を信頼できるのかどうか、捨印を押す前に再度確認しましょう。

捨印を押してはいけない書面

相手方が信頼に値しない場合には、契約書に捨印を押してはいけません。
例えば相手方が個人の場合や、事業者であっても社会的な知名度が低い場合などには、捨印を押さない方がよいでしょう。このような相手方には、大企業や士業専門家などとは異なり、捨印の悪用について十分な抑止力が働かないからです。

また、捨印を押すかどうかは契約当事者の任意であるはずなのに、捨印が必須であるかのような説明をしてくる相手方は、信頼に値しないと考えられます。
捨印について、相手方から不適切な説明を受けた場合には、決して捨印を押してはいけません。また、相手方が何らかの不正な意図を有している可能性も想定して、取引の中止についても検討すべきでしょう。

捨印の押し方・場所

捨印は、ひな形において捨印欄が設けられている場合は、その捨印欄に押します。捨印欄がない場合は、契約書のページ上部の空欄部分に押すのが一般的です。他の場所に押しても構いませんが、捨印であることが分かりやすい位置に押しましょう。

契約書が複数ページにわたる場合は、訂正が生じる可能性があるページすべてに捨印を押します。ページごとにバラバラの位置に押すのではなく、すべてページ上部の空欄部分など同じ位置に押すようにしましょう。

捨印を使った契約書の訂正方法

捨印を使って契約書を訂正する際の手順は、以下のとおりです。

契約書の既存の文言を変更する場合

既存の文言を変更する訂正の仕方

① 変更する文言の上から、ボールペンなどで二重線を引きます。
(例)
…の支払期日は、2024年5月31日とします。

② 二重線によって削除した文言の付近に、訂正後の文言をボールペンなどで追記します。
(例)
            6月30日
…の支払期日は、2024年5月31日とします。

③訂正をしたページに押された捨印の左側に、削除した文字数追記した文字数をそれぞれ記載します。
(例)
削除5文字、加入5文字(捨印)

<捨印のイメージ>

なお、削除・加入の文字数は、文字の種別(ひらがな・カタカナ・漢字・英数字・記号など)にかかわらず1文字ずつカウントします。削除のみの場合および追記のみの場合も同様です。

契約書の既存の文言を削除する場合

既存の文言を削除する訂正の仕方

① 削除する文言の上から、ボールペンなどで二重線を引きます。
(例)
または甲が指定する者は……

② 文言を削除したページに押された捨印の左側に、削除した文字数を記載します。
(例)
削除10文字(捨印)

契約書に文言を追記する場合

既存の文言に追記する訂正の仕方

① 挿入する箇所が分かるように、文言をボールペンなどで追記します。
(例)
…の支払期日は、2024年5月31日とします。ただし、甲は乙に対して、支払期日の10日前までに書面で通知することにより、支払期日を2024年8月31日に変更できるものとします。
※太字部分を追記

②追記をしたページに押された捨印の左側に、追記した文字数を記載します。
(例)
加入65文字(捨印)

契約書に捨印を押す際の注意点

契約書に捨印を押す際には、捨印の悪用によって契約書が改ざんされないように注意しなければなりません。具体的には、以下の対応を行って捨印悪用のリスクを防ぎましょう。

① 相手が信頼できる場合のみ捨印を押す
② 捨印による訂正の範囲を事前に確認する
③ 捨印を押した契約書の原本または写しを保管する
④ 捨印であることを明記する

相手が信頼できる場合のみ捨印を押す

繰り返しになりますが、相手方が十分に信頼できる場合でない限り、契約書に捨印を押すべきではありません

捨印を押すとすれば、基本的には社会的な信頼が確立されている大企業や、法令によって規制されている士業専門家などとの契約に限定すべきでしょう。

個人や知名度の低い事業者と締結する契約では、捨印は押さない方が賢明です。特に訪問販売・電話勧誘販売やインターネット上での勧誘など、多数の消費者被害や詐欺被害が報告されている種類の取引では、捨印を求められても断りましょう

捨印を押すことは必須ではないので、改ざんが不安であれば、相手方の如何を問わず一切捨印を押さない方針をとることも考えられます。契約書の訂正などが必要となった場合には、多少手間がかかったとしても、訂正内容を自分で確認した上で押印などを行えば問題ありません。
特に取引金額が大きい場合など、取引(契約)の重要性が高い場合には、捨印を避けて慎重を期すことが望ましいでしょう。

捨印による訂正の範囲を事前に確認する

相手方が捨印を求めてきた場合は、どのような訂正に捨印を用いるのかを事前に確認しましょう。

捨印による訂正に当たっては、捨印を押した側は訂正内容を確認しないのが一般的です。したがって、捨印を用いて行うことができる訂正は、軽微な誤字・脱字などに限定するのが適切でしょう。
これに対して、契約内容を変更するような重要な訂正については、捨印を用いるのではなく、両当事者が内容を確認した上で署名・押印などを行うか、または別途変更契約書を締結することが望ましいです。

捨印を押すとしても、契約内容の変更に及ぶ訂正についてまで相手方に一任するものではない旨を明確化しておくべきです。捨印による訂正の範囲について、相手方との間で認識を共有した上で、以下のような内容を含む文書やメールなどを送っておくとよいでしょう。

(例)
捨印を用いた契約書の訂正については、軽微な誤字・脱字などに限定していただきたく存じます。
契約内容の変更に及ぶ訂正については、捨印を用いて行うのではなく、私(当社)においても内容を確認させていただけますようお願い申し上げます。

捨印を押した契約書の原本または写しを保管する

捨印によってどのような変更が行われたのかを明確化するため、捨印を押した状態の契約書の原本または写しを保管しておくべきです。

締結当時の契約書の内容を把握できるようにしておかないと、相手方がどのような形で捨印を用いて契約書を変更したのかが分かりません。例えば、捨印を用いて形式的な訂正のみを行ったように見えても、実は契約書の内容が大幅に差し替えられているようなケースも想定されます。

締結当時の契約書の原本または写しを保管しておけば、変更後の内容と比較することで、相手方がどのような変更を行ったのかを知ることができます。不正な改ざんが行われた場合には、その事実を立証する有力な証拠としても機能します。

なお、契約書の原本を複数作成して双方が保管する場合には、割印によって契約書の関連性・同一性を証明できます。また、いずれか一方が契約書の原本を保管し、他方が写しを保管する場合にも、原本と写しの間で割印を押すことが推奨されます。

割印については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。

捨印であることを明記する

捨印の悪用を防ぐためには、捨印である旨を明記することも効果的です。

捨印は、誤字・脱字などの軽微な訂正に用いられるものであって、契約内容の重要な変更については用いられないのが一般的です。したがって、捨印であることを明記すれば、その印鑑を用いた変更が軽微な訂正に限定されることを明確化できます。

相手方が捨印を用いて、契約内容の重要な部分を勝手に変更することを防ぐため、押した箇所の付近に捨印である旨を明記しておきましょう。

ムートン

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