商標権が認められなかった場合の対応方法は?
拒絶査定不服審判などを分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ |
- この記事のまとめ
-
商標権が認められるためには、特許庁での審査にパスする必要があります。しかし、審査にパスしなかったからといって、権利化するチャンスがなくなったわけではありません。審査の結果に納得できない場合は、拒絶査定不服審判を請求することができます。また、審査の内容によっては、その他にも取り得る方法があります。
この記事では、商標権が認められなかった場合の対応方法について分かりやすく説明します。
※この記事は、2023年4月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
商標権を取得するためには、特許庁の審査にパスする必要がある
商標制度は、自社が提供する商品・サービスを、他社と区別するために使用されるロゴやマーク(商標)を登録し、保護する仕組みです。
商標権を取得するためには、特許庁へ商標出願(申請)をし、商標権を取得するための要件を満たすかどうかの審査(商標法14条)にパスする必要があります。
審査の結果、「商標登録することができない」と判断されると、拒絶査定が出されます(商標法15条)。
この場合、商標権を取得することはできません。
しかし、審査において商標権が認められなかった場合でも、権利化のチャンスがなくなったわけではありません。拒絶査定不服審判を請求することにより、商標権が取得できる可能性があります。
特許庁「2022年度初心者向け説明会テキストver5」(第89頁)
拒絶査定不服審判
拒絶査定不服審判とは、拒絶査定に対し不服があるときに請求することができる審判手続き(商標法44条)です。
拒絶査定不服審判の流れ
審判では、審理の慎重を期すため、3人または5人の審判官からなる合議体(商標法56条1項で準用する特許法136条1項)によって、拒絶査定が妥当であるか審理されます。妥当でないと判断された場合は、他の拒絶理由(商標権を取得できない理由)があるかどうか、権利付与の可否が判断されます。
なお、拒絶査定不服審判の平均審理期間(審判請求日から審決の発送日までの期間)は、9.2カ月となっています(特許行政年次報告書2022年版 第1部第1章 国内外の出願・登録状況と審査・審判の現状)。
拒絶査定不服審判の請求の対象
拒絶査定不服審判の請求の対象は、「拒絶をすべき旨の査定」(拒絶査定)です。
拒絶査定不服審判の当事者
拒絶査定不服審判を請求できるのは、拒絶査定を受けた商標出願人です(商標法44条1項)。
なお、商標出願を共同でした場合は、出願した者全員が共同して請求しなければなりません(商標法56条で準用する特許法132条3項)。
拒絶査定不服審判の請求ができる時期
拒絶査定不服審判の請求は、拒絶査定の謄本の送達があった日から3月以内にしなければなりません(商標法44条1項)。
拒絶査定不服審判の請求の手続き
審判請求をするためには、所定の方式要件(商標法56条で準用する特許法131条)を満たした審判請求書を提出する必要があります。
- 審判請求書の方式要件(商標法56条で準用する特許法131条1項)
-
✅ 一般的事項:審判事件の表示、審判請求人および代理人の住所・氏名など。
✅ 審判請求に係る商品および役務の区分の数
✅ 請求の趣旨:「原査定を取り消す。本願の商標は登録すべきものである、との審決を求める。」(通常はこのように表示)
✅ 請求の理由:拒絶査定までの経緯および拒絶査定の理由、拒絶査定を取り消すべき理由などを記載します。
✅ 手数料:15,000円+(区分数×40,000円)
特許庁ウェブサイトには、審判請求書の作成見本・作成要領や、「請求の理由」の記載例が掲載されています。
「『審判請求書』作成見本」
「拒絶査定不服審判請求書(様式 61 の 6)の作成要領」
「拒絶査定不服審判請求書の【請求の理由】欄の記載例について」
拒絶査定不服審判における補正
審判請求人(商標出願人)は、審判が行われている間、「指定商品もしくは指定役務または商標登録を受けようとする商標」について補正をすることができます(商標法68条の40第1項)。ただし、その補正が、要旨を変更するものであるときは、補正が却下されます(商標法55条の2第3項で準用する16条の2第1項)。
例えば、指定商品もしくは指定役務を限定や削除(減縮補正)した後に、元に戻す補正をした場合は、要旨を変更する補正となり、認められません。
拒絶査定不服審判の請求についての審理
特許庁「審判制度の概要と運用」7.(1)拒絶査定不服審判
① 合議体が、拒絶査定の理由が妥当と判断した場合
合議体による審理においても、拒絶理由が解消せず、拒絶査定の理由が妥当と判断された場合は、審判の請求は成り立たない旨の審決(拒絶審決)がなされます。この場合は、依然として、商標権は認められません。
② 合議体が、拒絶理由がないと判断した場合
合議体による審理において、拒絶査定の拒絶理由によって、拒絶をすべきではないと判断された場合は、審判の請求を認める旨の審決(登録審決)がなされます(商標法55条の2第2項で準用する16条)。この場合は、所定の手続きを経て、商標権が発生します(商標法18条)。
③ 合議体が、新たな拒絶理由を発見した場合
合議体による審理において、拒絶査定とは異なる、新たな拒絶理由が発見された場合は、発見された新たな拒絶理由が通知されます(商標法55条の2第1項で準用する15条の2等)。この場合、審判の請求人は、新たな拒絶理由に対する意見の主張や補正を行うことができます。
この応答により、拒絶理由が解消すれば、登録審決がなされ、商標権が認められます。
拒絶審決後の手続き
拒絶査定不服審判で、商標権が認められなかった場合、後述するように、審決取消訴訟を提起することができます(商標法63条)。
拒絶査定不服審判関連統計
商標の拒絶査定不服審判の請求件数は、2021年は1,107件、2022年は1,532件であり、近年の商標出願件数が増加するのに伴って、審判請求件数も増加傾向にあります。
特許庁「ステータスレポート2023」 第1部第1章 我が国の知財動向
不服審判の請求成立率(拒絶査定を取り消した割合)も高い水準で推移しており、2020年は68.5%でした(出典:特許庁「審判制度ハンドブック」拒絶査定不服審判)。
このように、不服審判で拒絶査定が覆される場合が多いため、拒絶査定を受け取っても、すぐに諦めてしまうのではなく、審判請求する余地を検討することが実務上重要といえます。
年 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
請求成立件数 | 627 | 651 | 588 | 494 | 324 | 457 | 538 | 553 | 626 |
請求不成立件数(含却下) | 245 | 263 | 308 | 240 | 127 | 188 | 285 | 254 | 140 |
請求成立率 | 71.9% | 71.2% | 65.6% | 67.3% | 71.8% | 70.9% | 65.4% | 68.5% | 81.7% |
参考元|特許庁「特許行政年次報告書2022年版<統計・資料編>」第1章6(1)
審決取消訴訟とは
拒絶審決に不服がある場合、審判請求人は、知的財産高等裁判所に審決を取り消してもらうための訴訟(審決取消訴訟)を提起することができます(商標法63条1項)。
特許庁「審判制度の概要と運用」7.(1)拒絶査定不服審判
審決取消訴訟は、審決の送達のあった日から30日以内に提起しなければなりません(商標法63条2項で準用する特許法178条3項)。
また、審決取消訴訟の審理の対象となるのは、審決に違法があったかどうかです。拒絶査定不服審判では、権利付与の可否について判断されていましたが、審決取消訴訟では、権利付与については判断されません。
審決取消訴訟の提起に必要な書類、具体的な進行等は、知的財産高等裁判所ウェブサイトに詳しく解説されています。
その他の取り得る手段
拒絶査定への対応方法としては、拒絶査定不服審判を請求する他にも、拒絶査定の内容に応じて取り得る方法があります。
不使用取消審判
出願した商標がすでに他社に登録されてしまっている場合、商標登録を受けることができません(商標法4条1項11号)。しかし、その他社が登録している商標が、実際に使用されていない場合、その登録の取り消しを求める審判(不使用取消審判。商標法50条)を請求できます。
商標制度は、自社が提供する商品・サービスを、他社と区別するために使用される商標について商標権者に独占的な使用を認める制度です。しかし、実際に使用されていない商標にまで独占権を与えておくことは、国民一般の利益を不当に損ね、かつ、その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標選択の余地を狭めることになるため、このような不使用商標の商標登録については、審判請求により取り消すことができるとされています。
不使用取消審判は、他社の登録商標を取り消すことにより、自社の商標登録が可能になる場合に活用できます。
不使用取消審判の流れ
日本国内において、継続して3年以上、指定商品・指定役務に登録商標が使用されていない場合に、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができます(商標法50条1項)。取り消しの審決が確定したとき、その商標権は審判請求が登録された日に消滅したものとみなされます(商標法54条2項)。
不使用取消審判の請求に対し、登録商標の使用状況については、請求人は証明する必要はありません。商標権者(被請求人)が商標法の要件を満たす「使用」をしていたことを裏付ける客観的な証拠を提出する必要があります。使用の立証については、6つの要件があります。
①いつ | 審判請求の登録前(予告登録前)、3年以内の期間(いわゆる「要証期間」)の使用であること |
②どこで | 日本国内における使用であること |
③誰が | 商標権者、専用使用権者または通常使用権者のいずれかによる使用であること |
④どの商品・役務に | 請求に係る指定商品・指定役務のいずれかについての使用であること |
⑤どの商標を | 登録商標(社会通念上同一と認められる商標も含む)の使用であること |
⑥どのように使用 | 商標の使用について規定した商標法2条3項各号のいずれかの使用であること |
請求人は、商標権者が提出した証拠に対して反論することができます。審判では、商標法の要件を満たす「使用」であるかどうかが争点になることが多く、法的な反論が必要になるため、専門家に依頼して審判を進めるのがよいでしょう。
特許庁「審判制度の概要と運用」7.(6)商標登録取消審判
取消審判関連統計
取消審判の請求件数は、概ね1,000件程度で推移しており、取消審判の平均審理期間は、8.7カ月(2021年)となっています(特許行政年次報告書2022年版 第2部 第1章6.(5)、 同第2章1.(2))。
また、取消審判における請求成立率(取り消しの審決が出される割合)は、80%前後で推移しており、非常に高い割合で請求が認められています(特許庁「審判の動向」取消審判(商標)審理結果の動向)。
分割出願
1つの商標登録出願には、複数の商品または役務を指定することができます。商標登録出願の分割(分割出願)とは、複数の商品または役務を指定する商標登録出願から、1または2以上の指定商品または指定役務を取り出し、新たな商標登録出願とすることをいいます(商標法10条1項)。
例えば、拒絶理由通知を受けた商標登録出願の指定商品が複数であって、一部の指定商品のみに拒絶理由がある場合、拒絶理由がない残りの指定商品についても出願全体として拒絶され、商標登録を受けることはできません。このような場合、分割出願(商標法10条)により、指定商品を分けて出願することで、拒絶理由がない指定商品について確実に権利化を図るという方法が考えられます。
分割出願は、出願が審査に係属している間(拒絶査定や登録査定を受け取るまでの間)は、いつでも行うことができます(商標法10条1項)。また、拒絶査定を受け取った後であっても、拒絶査定不服審判を請求した場合は、分割出願を行うことができます。
新たな商標出願
拒絶理由を解消できないような場合、新しく商標を考えて、新たな商標出願を行うという方法があります。商標出願では、要旨を変更する補正は認められない(商標法16条の2)ため、商標出願をした後は、出願した商標を変更することはできません。
しかし、新しく出願するのであれば、商標自体を変更することができるため、新たな商標出願により登録される可能性は大きくなります。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ |