商標とは?
商標権の効力・出願手続き・登録要件・
商標権侵害などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

商標」とは、自社の商品・サービスを他社のものと区別するために、事業者が使用するマークなどをいいます。具体的には文字・図形・記号・立体的形状・色彩やこれらの結合、および音が商標に該当する可能性があります。

商標については、設定の登録を受けることによって、商標権の保護を受けることができます。登録商標は指定商品・指定役務について独占的に使用でき、さらに他社による類似商標の使用なども排除可能です。
ブランド力の高い企業であれば、商標の使用を許諾してライセンス料収入を得ることもできます。また、商品・サービスの名称やロゴを商標登録しておけば、そのこと自体がブランドイメージの向上に寄与する側面があります。

商標登録の出願は、特許庁に対して行います。拒絶理由があると商標登録が認められないので、事前に拒絶理由の有無をチェックしましょう。

自社の商標権を侵害された場合には、差止請求・損害賠償請求・刑事告訴などによって対抗しましょう。

この記事では「商標」について、商標権の効力・出願手続き・登録要件・商標権侵害の要件や対抗手段などを解説します。

ヒー

商標って出願したほうがよいのでしょうか? 漠然と、「登録商標って、商品やサービスがよほど有名なものの話でしょ」、と考えている人が多いと思います。

ムートン

いえいえ、商標は商品やサービスの顔ですから、初期から保護を受けておくことは大切ですよ。以下で商標の基本を確認しておきましょう。

※この記事は、2023年4月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

「商標」とは

商標」とは、自社の商品・サービスを他社のものと区別するために、事業者が使用するマークなどです。

「商標」の定義

商標法上の「商標」とは、以下の3つを満たすものをいいます(商標法2条1項)。

① 人の知覚によって認識できるものであること

② 以下のいずれかに該当すること
 (a) 文字
 (b) 図形
 (c) 記号
 (d) 立体的形状
 (e) 色彩
 (f) (a)~(e)の結合
 (g) 音

③ 以下のいずれかに該当すること
 (a) 業として商品を生産・証明・譲渡する者が、その商品について使用をするもの
 (b) 業として役務を提供・証明する者が、その役務について使用をするもの((a)に当たるものを除く)

商標の具体例

商標に当たるものとしては、以下の例が挙げられます。

(例)
・商品名、サービス名
・商品やサービスのロゴ
・会社名
・キャッチコピー
・キャラクター
・CMのメロディー
など

実際にある商標の例

商標登録第6430289号

商標登録第5893980号

商標登録第5540074号

商標登録第5933289号
引用元|工業所有権情報・研修館ウェブサイト「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」

「商標権」とは

商標権」とは、登録された商標(登録商標)について認められる権利です。商標権者は、「指定商品」または「指定役務」について登録商標を使用する権利を専有します。

商標権を取得するには

商標権を取得するには、特許庁に出願をして設定登録を受ける必要があります(商標法18条1項)。著作権とは異なり、自然に発生するわけではありません。

特許庁の審査官は、商標権の登録拒絶理由がないかどうかを確認し、拒絶理由がなければ商標登録を認める査定を行います。商標登録の手続きについては、後述します。

登録商標の「指定商品」・「指定役務」とは

商標登録の出願をする際には、商標を使用する商品・役務(サービス)を「指定商品」または「指定役務」として指定する必要があります(商標法6条1項)。次の項目で解説するように、指定商品・指定役務は商標権の効力範囲を規定します。

指定商品・指定役務は、商標法施行令別表によって45種類に分類されています。各区分の詳細については、特許庁ウェブサイトをご参照ください。

商標権の効力

商標権の効力には「専用権」と「禁止権」の2種類があります。

「専用権」とは

専用権」とは、指定商品または指定役務について、登録商標を独占的に使用する権利です。

商標権者には、登録商標の専用権が認められています(商標法25条)。したがって、他人が商標権者の許諾を得ずに、指定商品または指定役務について登録商標と同一の商標を使用した場合は、商標権侵害に当たる可能性があります。

「禁止権」とは

禁止権」とは、登録商標と類似した商標の使用や、指定商品または指定役務と類似した商品・役務についての登録商標等の使用を排除する権利です。
紛らわしい方法で商標が使われて、他人の商品・サービスが商標権者のものであると誤認される事態を防ぐため、禁止権が認められています。

具体的には、以下の3つの使用行為を商標権者に無断で行った場合は、禁止権侵害に当たる可能性があります。

① 指定商品または指定役務について、登録商標に類似する商標を使用する行為
② 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について、登録商標を使用する行為
③ 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について、登録商標に類似する商標を使用する行為

商標権の有効期間

商標権の存続期間は、設定の登録の日から10年です(商標法19条1項)。

ただし特許権などとは異なり、商標権の存続期間は更新が認められています(同条2項)。
更新後の存続期間も、更新前と同様に10年です。更新時にも新規登録時と同様に、商標権の登録料を納付する必要があります(同法23条1項)。

商標登録のメリット

商品名・サービス名・ロゴなどを商標登録することには、主に以下のメリットがあります。

① 他社による同一・類似の商標の使用を排除できる
② 登録商標の使用許諾によりライセンス料収入を得られる
③ 商品・企業のブランドイメージが向上する

他社による同一・類似の商標の使用を排除できる

商標権に含まれる専用権と禁止権により、他社による登録商標と同一・類似の商標の使用を排除できます
その結果、自社の商品・サービスを他社のものから明確に差別化し、ユーザーや潜在ユーザーからの認知を獲得しやすくなります。

登録商標の使用許諾によりライセンス料収入を得られる

すでに企業として高いブランド力を備えている場合には、登録商標の使用を他社に許諾することにより、ライセンス料収入を得られるメリットがあります。

また、現在はまだ知名度が高くない企業でも、将来的に知名度を獲得していこうと考えている場合には、商品・サービスの名称などについて商標登録を行っておくのがよいでしょう。知名度の獲得に成功した際に、ブランド力を活かしたライセンスビジネスの可能性を拓くことができます。

商品・企業のブランドイメージが向上する

商品・サービスの名称などが商標登録されていると、特に一般消費者に対しては、その名称が特別なものであるような印象を与えることがあります。
その結果、商品・サービスや販売会社のブランドイメージが向上する可能性があります。

商標登録の出願手続き

商標登録を受けるには、特許庁(長官)に対して商標登録出願を行う必要があります(商標法5条)。

商標登録の出願先・必要書類

商標登録の出願先は特許庁長官で、出願に必要な書類は「商標登録願(願書)」です。

商標登録願(願書)の様式や書き方ガイドは、独立行政法人工業所有権情報・研修館のウェブサイトからダウンロードできます。

また、電子出願ソフトサポートサイトを活用すれば、電子出願の商標登録願(願書)を作成することができます。電子出願の場合、書類の電子化手数料が不要となる点や、審査期間が短縮される点などのメリットがあります。

商標登録の審査・要件とは

出願日から1年6カ月以内に商標登録の拒絶理由が発見されなければ、審査官は商標登録すべき旨の査定を行います(商標法16条)。実務上は、審査官が拒絶理由なしと判断した時点で商標登録の査定が行われます

商標登録の主な拒絶理由は、以下のとおりです(同法15条)。

① 自己と他人の商品・役務を区別することができないもの(同法3条)
(a) 商品または役務の普通名称のみを表示する商標
(例)アルミニウムの商品名としての「アルミニウム」「アルミ」

(b) 商品または役務について慣用されている商標
(例)清酒の商品名としての「正宗」

(c) 単に商品の産地、販売地、品質等または役務の提供の場所、質等のみを表示する商標
(例)菓子の商品名としての「東京」

(d) ありふれた氏または名称のみを表示する商標
(例)商品名としての「山田」

(e) 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
(例)仮名文字1字、数字、ありふれた輪郭(○・△・□など)、ローマ字2字以内の商品名

(f) その他何人かの業務に係る商品または役務であるかを認識することができない商標
(例)地模様のみからなるもの、標語(キャッチフレーズ)、現元号

※上記(c)~(e)に該当する商標のうち、使用された結果として需要者が何人かの業務に係る商品または役務であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができる(同条2項)。

② 公共の機関の標章と紛らわしいなど、公益性に反するもの(商標法4条1項1号~7号・9号・16号・18号)
(a) 国旗・菊花紋章・勲章または外国の国旗と同一・類似の商標
(例)米国の国旗

(b) 外国・国際機関の紋章・記章等のうち経済産業大臣が指定するもの、赤十字の名称・マークと同一・類似の商標等
(例)赤十字の標章

(c) 国・地方公共団体等を表示する著名な標章と同一・類似の商標
(例)都営地下鉄の標章

(d) 公の秩序・善良な風俗を害するおそれがある商標
(例)卑猥な名称、差別的な名称

(e) 商品の品質・サービスを誤認させるおそれのある商標
(例)ビールの商品名としての「○○ウイスキー」

(f) 博覧会の賞と同一・類似の商標
(例)商品名としての「○○品評会」

(g) 商品・商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標
(例)ルービックキューブの立体商標

③ 他社の登録商標または周知・著名商標等と紛らわしいもの(商標法4条1項8号・10号~12号・14号・15号・17号・19号)
(a) 他人の肖像・氏名・名称、著名な芸名・略称等を含む商標
(例)国家元首の写真やイラスト

(b) 他人の広く認識されている商標(周知商標)と同一・類似の商標であって、同一・類似の商品・役務に使用するもの

(c) 他人の登録商標と同一・類似の商標であって、指定商品・指定役務と同一・類似のもの

(d) 他人の商品・役務と混同を生ずるおそれのある商標

(e) 他人の周知商標と同一・類似であって、不正の目的により使用する商標

(f) 他人の登録防護標章と同一の商標

(g) 種苗法で登録された品種の名称と同一・類似の商標

(h) 真正な産地を表示しないぶどう酒・蒸留酒の産地の表示を含む商標

商標登録にかかる費用

商標登録には、以下の費用がかかります。

出願料3400円+区分数×8600円
商標登録料区分数×3万2900円
※分納の場合は区分数×1万7200円(前期・後期)

商標登録出願を弁理士に依頼する場合には、別途弁理士費用が必要です。

商標権侵害をされた場合

商標権侵害に関しては、商標法その他の法律によって対抗手段が設けられています。

商標権侵害の要件

商標権侵害が成立するのは、以下の3つの要件を満たす場合です。

① 商標登録されていること
保護を主張する商標は登録されている必要があります。

② 専用権または禁止権によって保護された使用行為であること
登録商標と同一または類似の商標を、指定商品・指定役務と同一または類似の商品・役務について使用していることが必要です。

③ 商標的使用に該当すること
需要者が特定の事業者の商品・役務であることを認識できる態様により使用されていない商標については、商標権侵害は成立しません(商標法26条1項)。

商標権を侵害された場合の対処法

自社の商標権を侵害された場合の対抗策としては、以下の例が挙げられます。

① 差止請求
侵害商標の使用差し止めや、侵害商標が用いられている商品の廃棄などを請求できます(商標法36条)

② 税関での輸入差止申立て
侵害商標が用いられている貨物の輸入差し止めを申し立てることができます(関税法69条の13)。

③ 損害賠償請求・不当利得返還請求
商標権侵害によって受けた損害の賠償を請求し、または侵害者が不当に得た利得の返還を請求できます(民法709条・703条・704条)。

④ 信用回復措置請求
故意または過失によって商標権を侵害した者に対し、業務上の信用を回復するのに必要な措置を請求できます(商標法39条、特許法106条)。

⑤ 刑事告訴
犯罪に当たる商標権侵害の行為については、侵害者を刑事告訴できます(刑事訴訟法230条)。

商標権侵害に対して科される罰則

商標権侵害に当たる行為のうち、

専用権侵害:10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(商標法78条)
禁止権侵害:5年以下の懲役または500万円以下の罰金(同法78条の2)

が科されます。

また、行為者が法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者である場合には、法人にも「3億円以下の罰金」が科されます(同法82条1項1号)。

ムートン

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参考文献

特許庁ウェブサイト「出願(商標)」

特許庁ウェブサイト「商標権の効力」

特許庁ウェブサイト「出願しても登録にならない商標」

特許庁ウェブサイト「産業財産権関係料金一覧」