販売仲介契約とは?
販売代理店契約との違い・締結のメリット・
規定すべき事項などを解説!
- この記事のまとめ
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「販売仲介契約」とは、メーカーが仲介業者に対して、自社商品の販売の仲介を委託する内容の契約です。
販売代理店契約では、代理店が商品の買い取りまたはメーカーの代理を行いますが、販売仲介契約の場合、仲介業者はあくまでも、商品の売買契約の成立に向けた事実上の行為(顧客の紹介・商品の提案など)をするにとどまります。
販売仲介契約を締結することにより、メーカーは仲介業者の流通網を活用でき、さらに販促にかかる労力と人員を削減できるメリットがあります。また、販売代理店契約に比べて、販売仲介契約の手数料は低く抑えられるのが一般的です。
販売仲介契約を締結する際には、必要な条項が網羅されているか、自社にとって不当に不利益な条項が含まれていないかを慎重に確認しましょう。
この記事では、販売仲介契約について、販売代理店契約との違い・締結のメリット・規定すべき事項などを解説します。
※この記事は、2023年1月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
販売仲介契約とは
「販売仲介契約」とは、メーカーが仲介業者に対して、自社商品の販売の仲介を委託する内容の契約です。
メーカーが自ら商品の売却先を探すのが困難な場合や、一挙に大量の商品を販売したい場合などに、仲介業者の流通網や人員を活用する目的で、販売仲介契約を締結することがあります。
販売仲介契約と販売代理店契約の違い
販売仲介契約と同様に、メーカーが商品を販売するために、他業者の流通網や人員などを活用する契約として「販売代理店契約」があります。しかし、販売仲介契約と販売代理店契約では、メーカーの相手方となる仲介業者(または販売代理店)の役割に違いがあります。
販売仲介契約の場合、仲介業者はあくまでも、顧客の紹介や商品の提案など、売買契約の成立に向けた事実上の行為をするにとどまります。
これに対して販売代理店契約では、販売代理店が商品を買い取って販売するか、またはメーカーの代理人として販売を行うのが大きな特徴です。
2種類の販売代理店契約|ディストリビューター方式・エージェント方式
販売代理店契約には、「ディストリビューター方式」と「エージェント方式」の2種類があります。
(1) ディストリビューター方式
販売代理店がメーカーから商品を買い取り、自ら顧客に対して販売する方式です。「販売店契約」と呼ばれることもあります。
(2) エージェント方式
メーカーと顧客の間で商品の売買契約を成立させるため、販売代理店がメーカーの代理人として行動する方式です。
「仲介」と「代理」の違い
販売仲介契約と、エージェント方式の販売代理店契約は、いずれもメーカーが顧客に対して、売主として直接商品を販売する点で共通しています。ただし、販売仲介契約において仲介業者が行うのは「仲介」であるのに対し、エージェント方式の販売代理契約において販売代理店が行うのは「代理」です。
仲介と代理は、法律上以下のとおり区別されています。
(1) 仲介
当事者間における契約の成立に向けて、事実上尽力することを意味します。契約の締結は、あくまでも当事者本人が行います。
日本では、仲介業者が売主・買主双方の仲介を行うことも認められています(いわゆる「両手仲介」)。
(2) 代理
代理権に基づき、当事者の代わりに契約などの法律行為をすることを意味します。契約の締結は代理人が行い、その効果は当事者本人に帰属します。
仲介とは異なり、売主・買主双方の代理人として売買契約を締結することは、「双方代理」として原則禁止されています(民法108条1項)。
販売仲介契約を締結するメリット
メーカーが商品を販売するに当たり、仲介業者との間で販売仲介契約を締結することの主なメリットは、以下のとおりです。
✅ 仲介業者の流通網を活用できる
✅ 販促にかかる労力と人員を削減できる
✅ 販売代理店契約よりも手数料が安く済む
仲介業者の流通網を活用できる
仲介業者は、商品販売を専門的に取り扱う業者として、地域・業種などの観点から広範囲の流通網を確保していることが多いです。
メーカーとしては、自力で流通網を開拓するよりも、販売仲介契約を締結して仲介業者の流通網を活用する方が、迅速・効率的に商品展開を行えるメリットがあります。
販促にかかる労力と人員を削減できる
メーカーが自ら商品の販促活動を行う場合、そのために人員を確保しなければなりません。新しく人員を雇用すれば人件費が嵩みますし、既存の従業員を配置転換すると、メインとなる製造部門を含む他部門の空洞化を招きかねません。
販売仲介契約を締結すれば、商品の販売に関して仲介業者の人員を活用できます。その結果として、トータルでの人件費の節約や、メインとなる製造部門等の人員増強などにつながる可能性があります。
販売代理店契約よりも手数料が安く済む
販売仲介契約の場合、ディストリビューター方式またはエージェント方式による販売代理店契約よりも、仲介業者に支払う手数料(マージン)は安く設定されることが多いです。その一方で、販売代理店契約と同様に、仲介業者の発達した流通網を活用することができます。
販売仲介契約と販売代理店契約の両方が選択肢となる場合には、手数料の観点から販売仲介契約が選択されることがあります。
販売仲介契約に定めるべき主な条項
販売仲介契約に定めるべき主な条項は、以下のとおりです。
✅ 販売仲介の対象とする商品
✅ 販売地域の範囲
✅ 専任・非専任の区別
✅ 販促活動時の遵守事項
✅ 仲介手数料に関する事項
✅ 競合商品の販売に関するルール
✅ 契約期間
✅ 秘密保持
✅ 反社会的勢力の排除
✅ 契約の解除
✅ 損害賠償
販売仲介の対象とする商品
販売仲介契約における最も基本的な事項として、販売する商品の内容を特定して記載する必要があります。
他の商品と区別できる程度に、以下の事項などを具体的に記載しましょう。
・商品の名称
・商品の形状
・商品の機能
など
販売地域の範囲
販売仲介契約では、商品を販売する地域を具体的に記載するのが一般的です。
販売地域の範囲は、商品に対する需要の地域性やブランディング戦略、仲介業者に支払うコストなどを考慮して総合的に定める必要があります。
専任・非専任の区別
販売仲介契約は、仲介業者1社だけに仲介を依頼する「専任型」と、他の仲介業者に仲介を依頼することも認める「非専任型」の2つに大別されます。
専任型・非専任型の特徴は、それぞれ以下のとおりです。両者のメリット・デメリットを踏まえた上で、どちらの方式により販売仲介契約を締結するかを選択し、契約書に明記しましょう。
(1) 専任型
仲介業者としては、他業者に成約を奪われるリスクがないため、販促活動にコストをかけやすくなります。仲介業者に十分な能力と意欲があれば、販売数量の拡大や販売速度の向上につながるでしょう。
その一方で、契約期間中は原則として他の仲介業者に依頼できないため、仲介業者の能力や意欲に問題がある場合には、商品の販売機会を喪失する恐れがあります。
(2) 非専任型
依頼先の仲介業者が1社に限定されないため、複数の仲介業者の流通網や人員を活用できる点が大きなメリットです。
その反面、仲介業者は他業者と成約を取り合うことになるため、販促活動にコストをかける利点が薄くなり、熱心に販促を行ってもらえない可能性があります。
販促活動時の遵守事項
仲介業者に商品の販促活動を行わせるに当たり、メーカーとしては、仲介業者の勝手な行動によって会社や商品のブランドイメージが毀損される事態を回避しなければなりません。そのため、販促活動を行う際の遵守事項を、販売仲介契約に定めておきましょう。
定めるべき遵守事項は、販売する商品の種類や販売戦略などによって異なりますが、以下の例が挙げられます。個別の取引に応じて、どのような遵守事項を定めるべきかを慎重に検討しましょう。
・商標(社名・商品名・ロゴなど)の掲載位置
・顧客に対する商品紹介の方針、伝えるべき内容
・公序良俗に反するキャンペーン等の禁止
など
仲介手数料に関する事項
仲介手数料に関する事項は、販売仲介契約において定めるべき事項の中でも重要度が高く、疑義が生じないように定める必要があります。
仲介手数料の定め方には、以下のように様々なパターンがあります。各方式の特徴を踏まえて、取引の実情に合った方式を選択した上で、その内容を契約書へ明確に記載しましょう。
✅ 販売数量に比例して仲介手数料を定める
→大量生産商品などの販売に関して採用されることが多い方式です。
✅ 販売価格に比例して仲介手数料を定める
→不動産や美術品など、「1点もの」の商品の販売に関して採用されることが多い方式です。
✅ 契約期間に応じて、定額の仲介手数料を定める
→仲介業者の積極的な尽力には期待せず、広告掲載などを主な目的とする場合に採用されることが多い方式です。
など
競合商品の販売に関するルール
仲介業者は多数のメーカーと取引を行うため、競合商品を取り扱うケースもよくあります。
同じ仲介業者が複数の競合メーカーから販売仲介を受任する場合、利益相反の懸念が生じます。メーカーとしては、仲介業者に対して、競合他社の商品の取り扱いを禁止することが望ましいです。
ただし、仲介業者の立場からすれば、競合他社の商品を取り扱えないことは大きなデメリットです。そのため、競合商品の販売に関するルールについては、販売仲介契約の交渉において対立が生じる可能性があります。
契約期間
販売仲介契約の有効期間は、販売する商品の種類や、取引相手を見直す機会をどの程度求めるかなどに応じて、メーカーと仲介業者の協議により決定します。数カ月程度の短期間とする場合もあれば、2~3年以上の長期間とする場合もあります。
なお、当事者のいずれかから契約終了の申し出がない限りは、期間満了時に同一条件で自動更新する旨を定めることも考えられます(自動更新条項)。
秘密保持
販売仲介契約を締結するに当たり、メーカーと仲介業者の間では、会社や商品に関する秘密情報をやり取りする機会が多くなります。
そのため、以下の事項を含む秘密保持の規定を、販売仲介契約に定めましょう。
・秘密情報の定義
・第三者に対する秘密情報の開示・漏洩等を原則禁止する旨
・第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件
・秘密情報の目的外利用の禁止
・契約終了時の秘密情報の破棄・返還
・秘密情報の漏洩等が発生した際の対応
など
反社会的勢力の排除
販売仲介契約の相手方が反社会的勢力との関係を有する場合、取引を続けることはコンプライアンスの観点から問題があります。
もし相手方が反社会的勢力などに該当した場合には、すぐに販売仲介契約を終了させられるように、以下の事項を含む反社条項(暴排条項)を定めましょう。
・当事者(役員等を含む。以下同じ)が暴力団員等に該当しないことの表明、保証
・暴力的な言動等をしないことの表明、保証
・相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を無催告解除できる旨
・反社条項違反を理由に契約を解除された当事者は、相手方に対して損害賠償等を請求できない旨
・反社条項違反を理由に契約を解除した当事者は、相手方に対して損害全額の賠償を請求できる旨
など
契約の解除
相手方が契約違反を犯し、信頼関係や円滑な取引に重大な支障が生じた場合には、速やかに契約を解除できるようにしておく必要があります。
販売仲介契約では、一例として以下の解除事由を定めておくのがよいでしょう。そのほかにも、取引の実態や自社としての懸念事項に応じて、解除事由を追加することも検討すべきです。
・メーカーが手数料を期限どおりに支払わなかったこと
・仲介業者が販促活動時の遵守事項に違反したこと
・当事者が秘密保持義務に違反したこと
・当事者が反社会的勢力に該当すると判明したこと
など
損害賠償
契約違反が発生した場合における損害賠償のルールについても、販売仲介契約に定めておきましょう。
民法のルールを踏襲するのが標準的ですが、契約の規定によって損害賠償の範囲を変更することもあり得ます。
(1) 民法の原則どおりとする場合
→「相当因果関係の範囲内で損害を賠償する」など
(2) 民法の原則よりも範囲を広げる場合
→「一切の損害を賠償する」など
(3) 民法の原則よりも範囲を狭くする場合
→「直接発生した損害に限り賠償する」、損害賠償の上限額を定めるなど
この記事のまとめ
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