商号とは?
屋号や商標との違い・商法・会社法のルールや 決める際の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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商号(英訳:Trade name、またはdoing business as name)とは、会社・個人事業主が営業を行うに当たって、自己を表示するために使用する名称です。株式会社や持分会社などの設立時に法人登記を行った会社の名前も商号に該当します。
商号については、商法と会社法でルールが定められています。主なルールは、使用できない文字や名称、いわゆる「名板貸し」の責任、商号の譲渡などです。商号を決める場合のほか、商号を貸したり譲渡したりする場合には、商法・会社法のルールを遵守しなければなりません。
また商号を決める際には、他社の商標権を侵害しないように気を付ける必要があります。「特許情報プラットフォーム」などを活用して、同業他社が同一・類似の商標を使用していないかを事前に確認しましょう。
この記事では、商号について、商法・会社法のルールや決める際の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年3月29日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
商号とは
「商号」とは、個人事業主や会社が営業を行うに当たって用いる名称です。
- 商号の例
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・○○商店
・ラーメン○○
・○○株式会社
など
屋号・会社名・商標との違い
「会社名」は株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の名称、「屋号」は個人事業主が営業を行うに当たって用いる名称です。
会社名と屋号は、いずれも商号に当たります。
「商標」は、人の知覚によって認識できる文字・図形・記号・立体的形状・色彩もしくはこれらの結合、または音であって、商品やサービス(役務)に使用されるものをいいます(商標法2条1項)。
商号は個人事業主や会社自身の名称ですが、商標は商品・サービスの名称等である点が異なります。また、商号は文字(一部の符号を含む)に限られますが、商標は文字以外のものもあります(図形・記号・立体的形状・色彩・音など)。
商号に関する商法・会社法のルール
商号については、商法と会社法でルールが定められています。主なものとして、以下のルールの内容を解説します。
- 商号についてのルール
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① 商号は登記できる|会社は登記必須
② 会社の種類(株式会社・合同会社など)を明示する必要がある
③ 誤認されるおそれのある文字・名称の使用は禁止
④ 公序良俗に反する名称は禁止
⑤ 同一所在地での同一商号は禁止
⑥ 名板貸しの責任
⑦ 商号の譲渡
商号は登記できる|会社は登記必須
商人(会社・外国会社を除く)は、その商号を登記することができます(商法11条2項)。商号の登記は、事業を行う地域の法務局・地方法務局の管轄です。
また、会社は商号を必ず登記しなければなりません(会社法911条3項2号)。外国会社が初めて日本における代表者を定め、登記が義務付けられる場合も、同様に商号の登記が必須とされています(会社法933条2項)。
商号の登記に使用できる符号
商号の登記に使用できる符号(ひらがな・カタカナ・漢字以外の文字や記号などのこと)は、法務大臣が告示によって指定するものに限られています(商業登記規則50条)。具体的には、以下の符号に限って使用できます。
- 商号の登記に使える符号
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① ローマ字(大文字・小文字)
② アラビヤ数字
③ 以下の符号
「&」(アンパサンド)
「’」(アポストロフィー)
「,」(コンマ)
「‐ 」(ハイフン)
「.」(ピリオド)
「・」(中点)
会社の種類(株式会社・合同会社など)を明示する必要がある
会社の商号中には、必ず会社の種類(株式会社・合名会社・合資会社・合同会社)を用いなければなりません(会社法6条2項)。
なお、商号中のどの位置に会社の種類を入れるかは自由です。
(例)
○○株式会社
株式会社○○
○○株式会社△△
誤認されるおそれのある文字・名称の使用は禁止
取引先や一般消費者などによる誤認を防ぐため、以下の文字・名称・商号の使用は禁止されています。
① 他の種類の会社と誤認されるおそれのある文字を商号中に使用すること(会社法6条3項)
② 会社でない者が、会社であると誤認されるおそれのある文字を商号中に使用すること(会社法7条)
③ 不正の目的をもって、他の商人・会社であると誤認されるおそれのある名称・商号を使用すること(商法12条1項、会社法8条1項)
不正の目的をもって他の商人・会社であると誤認されるおそれのある名称・商号を使用する行為(上記③)をした者は、「100万円以下の過料」に処されます(商法13条、会社法978条3号)。
また、当該使用行為によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある場合には、侵害の停止または予防を請求できます(商法12条2項、会社法8条2項)。
公序良俗に反する名称は禁止
公序良俗に反する名称は、商号として使用できません(民法90条)。
(例)
× 差別的な名称
× 非常に多くの人に不快感を与える名称
× 国家資格などを表す名称(○○士など)
× 行政組織などとの関連を誤認させるおそれのある名称
× 著名な故人や歴史上の人物名からなる名称
など
商号として申請された名称が公序良俗に反するかどうかは、法務局・地方法務局の登記官が個別に判断します(不服がある場合は、取消訴訟等で争うことが可能です)。
同一所在地での同一商号は禁止
営業所が同一の所在場所にある他人がすでに登記している商号について、後から商業登記を申請する個人事業主・会社が同一の商号を用いることはできません(商業登記法27条)。別個の事業主体が同一であると誤認されることを防ぐためです。
<OK例>
〇 同一商号だが、営業所の所在場所が異なる場合
→部屋番号のみが違う場合も可
〇 営業所の所在場所は同一だが、前株と後株の違いがある場合
→「○○株式会社」と「株式会社○○」は別の商号なのでOK
<NG例>
× 営業所の所在場所が同じで、読み方は違うが同じ文字の商号を用いている場合
→「株式会社日本(にほん)○○」と「株式会社日本(にっぽん)○○」は同一商号なのでNG
名板貸しの責任
自己の商号を使用して営業・事業を行うことを他人に許諾することは、俗に「名板貸し(ないたがし)」と呼ばれています。
名板貸しは、主に貸主のブランドや知名度を利用することで、借主の営業・事業がうまくいくように便宜を図る目的で行われます。実際の営業・事業については、貸主は関与せず借主のみが行うケースも多いです。
しかし、貸主がバックにいるものと信頼して取引に入った相手方にとっては、義務の履行を借主にしか請求できないとなると、倒産などによって不測の損害を受けるリスクが生じます。
それでは相手方に酷なので、名板貸しをした商人・会社は、当該商人・会社が営業・事業を行うものと誤認して借主と取引した者に対し、借主と連帯して取引上の債務を弁済する責任を負うものとされています(商法14条、会社法9条)。
商号の譲渡
商号は譲渡することも認められていますが、商法・会社法において一定のルールが設けられています。
商号を譲渡できる場合
商号を譲渡できるのは、以下のいずれかの場合に限られます(商法15条)。
① 営業とともに商号を譲渡する場合
(例)営業譲渡(事業譲渡)、合併など
② 営業を廃止する場合
(例)個人事業の廃業、会社の解散・清算など
商号を譲渡した者の競業避止義務
営業を譲渡した商人(=譲渡人)は、同一の市町村(特別区を含み、政令指定都市の場合は区・総合区。以下同じ)の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内において競業避止義務を負い、同一の営業を行うことが禁止されます。
競業避止義務の期間は、原則として譲渡日から20年間です(商法16条1項)。
ただし競業避止義務については、営業譲渡に関する契約等において特約を定めることが認められています。特約を定めれば、競業避止義務の排除・期間短縮という条件の緩和や、逆に最長30年までの期間延長が可能となります(同条1項・2項)。
なお、競業避止義務を負うか否かに関わらず、譲渡人は不正の競争の目的をもって、譲渡した営業と同一の営業を行ってはなりません(同条3項)。
商号を譲り受けた者の責任
営業譲渡を受けた商人・事業譲渡を受けた会社(=譲受人)が、譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、原則として、譲受人も譲渡人の営業・事業によって生じた債務を弁済する責任を負います(商法17条1項、会社法22条1項)。
この場合、譲渡人の債権者の譲受人に対する請求権は、譲渡日以降2年間に限って有効です(商法17条3項、会社法22条3項)。
例外として、営業譲渡・事業譲渡の後遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、上記の規定は適用されません(商法17条2項、会社法22条2項)。
また、営業譲渡・事業譲渡の後遅滞なく、譲受人および譲渡人からその旨を通知した第三者との関係でも、譲受人は譲渡人の債務を免責されます。
さらに、譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合でも、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をした場合には、譲渡人の債権者は譲受人に対して弁済を請求可能です(商法18条1項、会社法23条1項)。
この場合、譲渡人の債権者の譲受人に対する請求権は、広告日以降2年間に限って存続します(商法18条2項、会社法23条2項)。
商号を決める際に留意すべきポイント
個人事業主や会社が用いる商号は、顧客や取引先に与える印象を考慮して、明確な方針に基づいて決めるべきです。
また、誤認・混同のおそれや他社の商標権侵害に注意して、商号を決定する前に十分なリサーチを行いましょう。
商号を決める際の方針の例
商号を決めれば、事業や会社は顧客・取引先からその商号で認識されるようになります。そのため、事業や会社を象徴する言葉を商号に用いることが、顧客・取引先に与える印象の観点から望ましいです。
いずれにしても、何らかの目的をもって、明確な方針に基づいて商号を決めるのがよいでしょう。商号を決める際の方針としては、以下の例が考えられます。
- 商号を決める際の方針
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① 事業主の知名度を活かす
事業主に知名度がある場合には、その氏名や通称を商号に取り入れることで、知名度を活かした集客ができる可能性があります。② すでに知れ渡っている名称を継続使用する
個人事業を法人化する場合は、個人事業の段階から使用していた名称を引き続き使用すると、顧客離れを防げる可能性があります。③ 地域の名称を入れる
営業する地域の名称を商号に取り入れることで、地域密着のサービスをアピールでき、地元の顧客獲得につながる可能性があります。④ 事業内容を入れる
事業内容が一目でわかるような商号にすれば、関連する商品やサービスを求める潜在顧客・潜在取引先からの問い合わせが増える可能性があります。⑤ 好きな言葉を入れる
事業主の座右の銘や、好きな言葉・漢字などを商号に取り入れればモチベーションアップにつながるほか、社内や取引先に対してメッセージを伝えることができます。⑥ インパクトを重視する
他の会社が使わないようなユニークな言葉や、世間で注目度の高い概念・用語などを商号に取り入れることで、一般消費者を含めた幅広い人々の耳目を集められる可能性があります。
誤認のおそれ・商標権侵害に要注意
前述のとおり、不正の目的をもって、他の商人・会社であると誤認されるおそれのある名称・商号を使用することは禁止されています(商法12条1項、会社法8条1項)。
不正な目的がなく、たまたま他社と似たような商号を用いてしまった場合は、商法・会社法違反に当たりません。しかし、商号を「盗用」したのではないかと疑われるおそれがある上に、潜在顧客・潜在取引先・一般消費者などからの印象も悪くなる可能性が高いと思われます。
そのため、似たような商号を使用している別の事業者がいないかどうか、少なくとも同業の範囲では調べておくべきでしょう。
また、自社の事業と同一または類似の種類の商品・サービスについて、自社が使用を開始した商号と同一または類似の名称等が商標登録されている場合、商標権侵害の責任を問われる可能性があります。
商標権侵害が認定されると、商号変更を余儀なくされるほか、商標権者に対して損害賠償責任を負うことになりかねません。
商標登録の状況については、「特許情報プラットフォーム」を通じて検索できます。自社が使用を予定している商号について、商標権侵害を疑われる可能性がある商標が登録されていないか、あらかじめ調査することをお勧めします。
参考:特許情報プラットフォーム |
商号変更をする方法を解説
商号を変更する方法(手続き)と、商号変更時の注意点を解説します。
商号変更をする方法とは
会社の商号を変更する際には、以下の手続きを経る必要があります。
①変更後の商号を決める
取締役会などの意思決定機関において、変更後の商号を決定します。
②定款を変更する
商号は定款の絶対的記載事項であるため(会社法27条2号、576条1項2号)、商号の変更時には定款変更が必要です。定款の変更は、株主総会の特別決議によって行います(会社法466条、309条2項11号)。
③商号変更の登記申請を行う
会社の商号は登記事項であるため(会社法911条3項2号、912条2号、913条2号、914条2号)、商号を変更した場合は変更登記を申請する必要があります。
商号変更登記の申請先は、会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局です。オンラインでの申請もできます。
参考:
登記・供託オンライン申請システム
https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/
登記申請の期間は、定款における商号の変更時から2週間以内です(会社法915条1項)。
商号変更の注意点
会社の商号を変更する際には、株主や取引先などのステークホルダーに対して、変更後の商号がどのような印象を与えるかをよく考える必要があります。
・同業他社と混同されるおそれがある商号
・反社会的な印象を与えるなど、公序良俗に反する商号
・あまりにも読みにくい商号
など
また、明確な理由もなく何度も商号変更を繰り返すと、経営方針がぶれているような印象をステークホルダーに与えるおそれがあるので注意が必要です。
商号は会社の顔であり、会社の理念や事業内容が伝わるような商号を付けることが望ましいです。商号変更に当たっては、その必要性も含めて、どのような商号がふさわしいかを十分に検討しましょう。
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