特許異議の申立てとは? 制度の概要・無効審判制度との違い・ 異議申立てのフローなどを解説!
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特許異議申立制度とは、特許掲載公報(特許権の取得を知らせる公報)の発行から6か月間は、特許付与の是非について再審査を求めることができる制度です。
誰でも異議申立てを行うことができる点が、特許異議申立制度の大きな特徴となっています。
特許権をもつ者(以下、特許権者)としては、特許掲載公報の発行から6か月間は、異議申立てによって特許権が消滅する可能性があるので油断できません。自社で取得した特許に対して異議申立てがなされた場合には、意見書を提出するなどで対抗していく必要があります。
今回は特許異議申立制度について、制度の概要・無効審判制度との違い・異議申立てのフローなどを解説します。
※この記事は、2022年6月6日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
特許異議の申立てとは
特許異議申立制度は、特許掲載公報(特許権の取得を知らせる公報)の発行から6か月間は、特許付与の是非について再審査を求めることができる制度です。
特許法113条に定義があります。
(特許異議の申立て)
「特許法」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第113条 何人も、特許掲載公報の発行の日から6月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、2以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。
(略)
特許異議申立制度の目的
特許異議申立制度は、特許付与後の一定期間、広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与する目的で設けられています。
特許庁の審査官も万能ではなく、新規性・進歩性などの要件を満たさない発明について、誤って特許を与えてしまうこともあり得ます。そこで、一般公衆からの異議申立てを認めることにより、不適切な特許の撤回・見直しを図ろうとするのが、特許異議申立制度の狙いです。
特許異議の申立制度の歴史的背景
日本では、1959年の特許法制定以来無効審判制度(「特許異議申立制度と無効審判制度の違い」にて後述)と特許異議申立制度が併存していました。
しかし、当時の特許異議申立制度では、異議を申立てた側が、申立て後に意見をする機会がなく、異議申立てが認められなかった場合には、無効審判制度を利用し、再び特許取得の阻止を図るケースが多くありました。
そこで、紛争の一回的解決(ある紛争をなるべく一回の手続で解決しよう、という考え方)などの観点から、2003年の法改正によって特許異議申立制度が廃止となり、無効審判制度に一本化されました。
しかし、口頭審理(=特許庁への出頭が必須)を原則とする無効審判制度は、当事者の手続負担が大きく、利用件数が伸び悩みました。また、多額の事業投資を行った後に無効審判制度を利用(=無効審判制度はいつでも利用可能)されてしまうと、投資が無駄になってしまうリスクがありました。
こうした実情を踏まえて、2014年の法改正により、特許異議申立制度が再導入されて現在に至ります。再導入された特許異議申立制度は、審理は全て書面審理により行われることとなっており、廃止される前の制度が抱えていた問題点が解消されています。
特許異議を申立てることができる者
特許異議の申立ては、個人・法人問わず、誰でも行うことができます(特許法113条)。(ただし、匿名での申立てはできません。)
「広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与する」という制度の趣旨から、特許権に関する利害関係の有無にかかわらず、すべての人に異議申立ての権利が認められています。
特許異議の申立てが可能な期間
特許異議の申立てが可能な期間は、特許掲載公報の発行日から6か月以内です(特許法113条)。
特許庁に出願された発明につき、特許権の設定登録がなされた場合、特許掲載公報(特許公報)が発行されます(特許法66条3項)。特許掲載公報は、独立行政法人工業所有権情報・研修館がリリースしている「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」などで確認できます。
特許異議の申立てに必要な書類
特許異議の申立ては、以下の事項を記載した特許異議申立書を、特許庁長官に提出して行います(特許法115条1項)。
- 特許異議申立人・代理人の氏名(名称)及び住所(居所)
- 特許異議の申立てに係る特許の表示(特許番号と請求項)
- 特許異議の申立ての理由・必要な証拠の表示
申立書の記載要領・記載例
特許異議申立書の記載要領・記載例は、以下の特許庁ウェブサイトに掲載されています。
専門的・技術的な記載内容が含まれますので、難しい場合には弁理士などに作成を依頼することもご検討ください。
特許異議申立ての手数料
特許異議申立ての手数料は、「16,500円+申し立てた請求項の数×2,400円」です。(手数料等は、改訂される場合がありますので、ご注意ください。)
「請求項」とは、特許を受けようとする発明を1つずつ区分して記載した項目を指します。特許出願時に提出する必要がある「明細書(の特許請求の範囲)」に以下のような形で記載されています。
<請求項のイメージ>
【書類名】 特許請求の範囲 【請求項1】●●に関する装置 【請求項2】●●に関する製造方法 【請求項3】●●に関する技術 |
異議申立てを行う特許発明が1つであれば請求項1つ(18,900円)、2つであれば請求項2つ(21,300円)となります。
特許異議の申立てが認められるための要件
特許異議の申立てが認められるのは、以下のいずれかに該当する場合に限られます(特許法113条各号、114条2項)。
✅ 許容される範囲を超えて明細書・特許請求の範囲・図面の補正(内容変更)がなされた場合 ✅ 特許要件を満たさない発明について特許が付与された場合 ・日本国内に住所、居所を有しない外国人に対して特許権が付与された場合(一部例外あり) ・発明に新規性が認められない場合 ・発明に進歩性が認められない場合 ・発明が公序良俗に反する場合 ・先願主義に反して特許が付与された場合 ✅ 特許が条約に違反して付与された場合 ✅ 明細書・特許請求の範囲の記載が法定の要件を満たしてない場合 ✅ 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面の記載事項が、外国語書面における記載事項の範囲内にない場合 |
特許異議申立制度と無効審判制度の違い
特許異議申立制度と同様に、付与された特許権を事後的に無効化する制度として「無効審判制度」があります。
ただし、特許権異議申立制度と無効審判制度では、制度趣旨のほかさまざまな違いが存在します。
無効審判制度とは
特許権の無効審判制度とは、設定登録がされた(=特許が認められた)特許権について利害関係を有する者が、特許権の無効を求めて審判を申し立てる制度です。
例えば他社の特許権が存在するために、自社商品の製品化が困難となっている事業者が、特許要件を満たしていないことなどを理由として無効審判を請求するケースなどが想定されます。
特許異議申立制度と無効審判制度の比較表
特許異議申立制度 | 特許無効審判 | |
---|---|---|
制度趣旨 | 特許の早期安定化を図る | 特許の有効性に関する当事者間の紛争解決を図る |
手続 | 査定系手続(原則として特許庁と特許権者との間で進められる) | 当事者系手続(審判請求人と被請求人(特許権者)との間で進められる) |
申立て・請求人の適格 | 何人も(匿名は不可) | 利害関係人のみ |
申立て・請求の期間 | 特許掲載公報発行の日から6月以内(権利の消滅後は不可) | 設定登録後いつでも(権利の消滅後でも可能) |
申立て・請求及びその取下げ | 請求項ごとに可能 取消理由通知後の取下げは不可 | 請求項ごとに可能 答弁書提出後の取下げは相手方の承諾があれば可能 |
異議理由 無効理由 | ①公益的事由(新規性、進歩性、明細書の記載不備等) | ①公益的事由(新規性、進歩性、明細書の記載不備等) ②権利帰属に関する事由(冒認出願、共同出願違反) ③特許後の後発的事由(権利享有違反、条約違反) |
審理方式 | 書面審理(口頭審理は不可) | 原則口頭審理(書面審理も可) |
複数申立て・事件の扱い | 原則併合して審理 | 原則は併合せず、事件ごとに審理 |
決定・審決の予告 | 取消決定の前に、取消理由の通知(決定の予告) | 請求成立(無効審決)の前に、審決の予告 |
決定・審決 | 特許の取消し若しくは維持 又は申立て却下の決定 | 請求の成立若しくは不成立 又は却下の審決 |
不服申立て | 取消決定に対して、特許権者は、特許庁長官を被告として東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に出訴可能 維持決定及び申立て却下の決定に対する不服申立ては不可 | 審判請求人及び特許権者の双方とも、相手方を被告として、東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に出訴可能 |
料金 | 16,500円+(申し立てた請求項の数×2,400円) | 49,500円+(請求した請求項の数×5,500円) |
特許庁「特許異議申立制度の概要」
上記は特許庁の資料に掲載された、特許異議申立制度と無効審判制度の比較表です。特に注目すべき主要な相違点としては、以下のポイントが挙げられます。
- 申立人・請求人の適格
→特許異議は誰でも申し立てられますが、無効審判を申し立てられるのは利害関係人のみです(特許法123条2項)。 - 申立て・請求の期間
→特許異議の申立ては特許掲載公報の発行日から6か月以内に限定されていますが、無効審判は、特許権の設定登録後いつでも申し立てることができます。また、特許異議の申立てとは異なり、無効審判は特許権の消滅後でも請求可能です(特許法123条3項)。 - 審理方式
→特許異議の審理は、書面審理によって行われます(特許法118条1項)。これに対して無効審判の審理は、当事者参加の期日を設定したうえで、原則として口頭審理によって行われます(特許法145条1項)。
特許異議申立てのフロー
特許異議の申立ては、以下のフローに従って行います。
- 特許庁長官に対する異議申立て
- 方式調査・審理
- 申立書副本の送付
- 特許庁による本案審理
- 維持決定or取消理由の通知
- 特許権者による意見書の提出・訂正の請求
- 特許異議申立人による意見書の提出
- 取消決定
- 知財高裁に対する出訴
①特許庁長官に対する異議申立て
特許異議の申立ては、特許庁長官に特許異議申立書を提出して行います(特許法115条1項)。特許異議申立書の記載事項は以下のとおりで、特許庁ウェブサイトから記載要領・記載例などを確認できます。
- 特許異議申立人・代理人の氏名(名称)及び住所(居所)
- 特許異議の申立てに係る特許の表示(特許番号と請求項)
- 特許異議の申立ての理由・必要な証拠の表示
②特許庁による方式調査・審理
特許異議の申立てが行われた場合、まず審判官によって、特許異議申立書の方式(記載事項・明確性・手数料の納付状況など)に関する審査(方式審査)が行われます。
申立書の記載について不備を指摘された場合には、補正を行うこともできますが、補正は原則として、異議申立書の要旨を変更するものであってはなりません(同条2項本文)。
ただし、以下の場合の、いずれか早い段階までは、理由及び証拠の追加・変更が認められます(同項但書)。
- 特許異議申立期間(6か月)が終了するまでの間
- 特許権を取消すという理由(以下、取消理由)の通知がだされるまでの間
③申立書副本の送付
方式審査・審理が完了したら、審判長が、異議申立てのあった特許について権利をもつ者(特許権者)に対して、特許異議申立書の副本(正本の写し)を送付します(特許法115条3項)。
特許権者は、特許異議申立書の内容を確認したうえで、特許権を取り消される可能性があるかを検討するなど、対応に必要な準備を行います。
④特許庁による本案審理
特許異議を認めるかどうかにつき、事案の詳細に踏み込んで実質的に審理する手続を「本案審理」と言います。
特許異議に関する本案審理は、3人又は5人の審判官の合議体が行います(特許法114条1項)。
単独の審判官ではなく複数の合議体によるのは、審理の公平性・独立性・的確性を十分に担保するためです。
本案審理は書面審理によって行われ、特許権者が出席する審理期日は原則として設定されません(特許法118条1項)。
ただし、合議体が必要と認めた場合は、証拠調べの一環として証人尋問が行われる場合もあります(特許法120条、150条1項)。また、合議体が特許権者又は特許異議申立人の意見を聴く必要があると認めた場合には、審尋が行われます(特許法120条の8、134条4項)。
⑤特許権維持決定or取消理由の通知
本案審理の結果、特許を取り消すべき理由がないと合議体が判断した場合には、その特許を維持すべき旨の決定を行います(特許法114条4項)。
維持決定に対しては、不服申立てが認められていないため(同条5項)、この時点で手続は終了です。維持決定の謄本は、特許庁長官から特許権者や特許異議申立人などに送達されます(特許法120条の6第2項)。
これに対して、合議体が特許を取り消すべき理由があると判断した場合、直ちに取消決定を行うのではなく、特許権者に対して取消理由を通知したうえで、意見書を提出する機会を与えなければなりません(特許法120条の5第1項)。
⑥特許権者による意見書の提出・訂正の請求
取消理由の通知を受けた特許権者は、審判長によって指定された期間内に意見書を提出することが認められます(特許法120条の5第1項)。特許権を取り消すべき理由がない旨の反論をする場合には、意見書の中でその根拠を主張することになります。
また特許権者は、特許権を存続させるために、特許出願の内容を訂正することも可能です(訂正の請求。同条2項)。なお訂正が認められるのは、以下のいずれかの事項を目的とする場合に限られます。
- 特許請求の範囲の減縮(縮小)
- 誤記又は誤訳の訂正
- 明瞭でない記載の釈明
- 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を、引用しない形に変更すること(従属項を独立項に変更すること)
⑦特許異議申立人による意見書の提出
特許権者によって意見書が提出された場合・(特許出願の)訂正の請求が行われた場合には、審判長は原則として、関連する書面の副本を特許異議申立人に送付し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければなりません(特許法120条の5第5項本文)。
特許異議申立人は、特許権者の意見書又は訂正の内容を踏まえて、依然として特許権が取り消されるべきであると考える理由を記載した意見書を提出することができます。
なお、特許異議申立人が意見書の提出を希望しないと申し出た場合、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情がある場合には、審判長による上記の対応は不要となります(同項但書)。
「特別の事情」の例としては、以下の場合が挙げられます。
- 訂正の請求が不適法であり、却下された場合
- 誤記の訂正など、訂正が軽微なものである場合
- 訂正が一部の請求項を削除したのみである場合
- 特許異議の対象になっていない請求項についてのみ訂正がなされた場合
など
⑧取消決定
合議体は、特許権者・特許異議申立人の意見書が出揃ったところで、改めて本案審理を行います。
特許権の取消事由がなくなったと判断すれば維持決定を行いますが、依然として取消事由があると判断した場合には、特許権の取消決定を行います(特許法114条2項)。取消決定の謄本は、特許庁長官から特許権者や特許異議申立人などに送達されます(特許法120条の6第2項)。
⑨知財高裁に対する出訴
特許権の取消決定に関しては、特許権者は知的財産高等裁判所(知財高裁)に訴えを提起することが認められています(特許法178条1項)。出訴期間(訴訟を提起できる期間)は、取消決定の謄本が送達された日から30日です(同条3項、4項)。
なお前述のとおり、維持決定に対する不服申立ては不可とされているため、訴えを提供することはできません(特許法114条5項)。
出訴期間が経過した場合・訴訟の判決が確定した場合には、取消決定が確定します。この場合、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます(特許法114条3項)。
この記事のまとめ
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