ダンピング(不当廉売)とは?
具体例・問題点・罰則・
違反事例などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「ダンピング(不当廉売)」とは、正当な理由がないのに、原価を著しく下回る対価で商品やサービスを継続的に供給する行為であって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいいます。
ダンピングは、企業努力または正常な競争過程とは無関係に他社から顧客を奪い、公正な競争秩序に影響を及ぼすおそれがある行為です。そのためダンピングは、独占禁止法によって「不公正な取引方法」として禁止されています。
なお、正当な理由のある値下げについては、不公正な取引方法であるダンピングに該当しません。独占禁止法に違反してダンピングを行うと、排除措置命令・課徴金納付命令・差止請求・損害賠償請求の対象となります。
この記事ではダンピングについて、その問題点・独占禁止法違反の要件・罰則・違反事例などを解説します。
※この記事は、2023年7月31日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 独占禁止法・独禁法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
- 一般指定…昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号
目次
ダンピング(不当廉売)とは
「ダンピング(不当廉売)」とは、正当な理由がないのに、原価を著しく下回る対価で商品やサービスを継続的に供給する行為であって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいいます。
ダンピングの種類と具体例
ダンピングは、一般に以下の3種類に分類されます。
① 散発的ダンピング
② 略奪的ダンピング
③ 継続的ダンピング
散発的ダンピング
「散発的ダンピング」とは、過剰生産により売れ残った商品を、国外の沿革市場において投げ売りすることをいいます。自国の市場を損なうことがなく、当局(日本では公正取引委員会)の処分を回避しやすいことからしばしば行われています。
(例)
想定よりも売れ行きが悪かった夏物の洋服の在庫を、発展途上国に輸送して安値で大量に売却した。
略奪的ダンピング
「略奪的ダンピング」とは、競合他社を排除する目的で行われるダンピングです。競合他社が追随できないように、原価を大幅に下回る価格を設定して一挙に市場シェアを奪い、シェアが定着した頃合いを見計らって価格を平常化することで利益を狙います。
(例)
日本市場に新規参入した外資系衣類メーカーが、原価を大幅に下回る価格で衣服を販売し、日本におけるシェアを急速に獲得した。
継続的ダンピング
「継続的ダンピング」とは、市場における相場価格よりも安い価格で、長期間にわたって継続的に商品を販売することをいいます。正常な企業努力との区別が難しい場合があるため、慎重な検討を要します。
(例)
日本市場に新規参入した外資系衣類メーカーが、長期間にわたって相場を下回る価格で衣服を販売し、日本におけるシェアを大幅に拡大した。
ダンピングの問題点(禁止されている理由)
ダンピングは、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得しようとする行為です。もしダンピングが行われれば、営利を目的とする他の企業は、価格面で全く太刀打ちできません。
その結果、ダンピングを行う企業と同等以上に効率的な他の企業が、事業活動を継続できなくなってしまう可能性があります。このような事態は、良質・廉価な商品を求める顧客にとって望ましくありません。
そのため、正当な理由のないダンピングは、独占禁止法により「不公正な取引方法」として禁止されています。
不当廉売関税(ダンピング防止税)制度とは
関税定率法8条では、日本国内の産業をダンピングから保護するため、不当廉売関税(ダンピング防止税)制度が定められています。
輸入貨物に対して不当廉売関税を課すことができるのは、以下の要件を全て満たす場合です。
① 輸入貨物が不当廉売されたこと
※不当廉売:同種の貨物の通常の商取引における価格、その他これに準ずる価格(=正常価格)より低い価格で輸出のために販売すること
② 不当廉売された貨物の輸入により、当該貨物と同種の貨物を生産する日本の産業※に実質的な損害を与え、もしくは与えるおそれがあること、または当該産業の確立を実質的に妨げる事実があること
※当該輸入貨物と同種の貨物の本邦における総生産高に占める生産高の割合が、相当の割合以上である日本の生産者に限る(不当廉売関税に関する政令4条1項)
③ 当該産業を保護するために、不当廉売関税が必要と認められること
ダンピングは「不公正な取引方法」|独占禁止法違反に当たる
独占禁止法では、事業者に対して「不公正な取引方法」を用いることを禁止しています(同法19条)。正当な理由のないダンピングは、不公正な取引方法として独占禁止法違反に当たります。
不公正な取引方法とは
「不公正な取引方法」とは、市場における公正な競争を阻害するおそれがあるものとして、独占禁止法2条9項で定められた行為です。
独占禁止法では、事業者が不公正な取引方法を用いることを一律禁止しています(同法19条)。
不公正な取引方法に当たるダンピングの要件
ダンピングは、独占禁止法2条9項3号および同項6号・一般指定6項の規定により、不公正な取引方法に該当する可能性があります。
独占禁止法 第2条
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
1~8 略
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
一~二 略
三 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
四、五 略
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ 略
ロ 不当な対価をもって取引すること。
ハ~ヘ 略
不公正な取引方法(一般指定)
不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)
(不当廉売)
6 法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。
「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは(価格・費用基準)
「供給に要する費用」(独禁法2条9項3号)とは総販売原価を指し、一般的には、実際に要する製造原価または仕入原価に販売費と一般管理費を加えたものを意味します。
販売費と一般管理費については、複数の事業に跨って支出される場合もあり、その場合は合理的な基準(売上など)に従って按分します。
供給に要する費用を「著しく下回る対価」とは、廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用(=可変的性質を持つ費用)を下回る対価を意味します。
つまり、製造原価または仕入原価すら回収できないような価格を設定した場合は、供給に要する費用を著しく下回る対価で商品・サービスを提供していると推定されます(価格・費用基準)。
「継続して供給する」とは(継続性)
「継続して供給する」(継続性。独禁法2条9項3号)とは、相当期間にわたって繰り返し廉売を行い、または廉売を行う事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることを意味します。
毎日継続して廉売が行われていなくても、需要者の購買状況によっては、継続して廉売が行われていると判断される場合があります。
価格・費用基準を満たさなくても、一般指定6項に該当する場合あり
独占禁止法2条9項3号の価格・費用基準および継続性のいずれかまたは両方を満たさなくても、廉売対象商品の特性、廉売行為者の意図・目的、廉売の効果、市場全体の状況などを考慮し、公正な競争秩序に悪影響を与えるときは、一般指定6項により不公正な取引方法に該当することがあります。
一般指定6項の該当性が問題となるケースとしては、以下の例が挙げられます。
- 総販売原価を下回るものの、可変的性質を持つ費用以上の価格で商品やサービスを供給する場合
- 可変的性質を持つ費用を下回る価格で、単発的に商品やサービスを供給する場合
「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」とは
「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」(独禁法2条9項3号、一般指定6項)とは、主に競争関係にある事業者の事業活動が困難となる具体的な可能性が認められることを意味します。
このような可能性の有無は、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
・廉売行為者の事業の規模、態様
・廉売対象商品の数量
・廉売期間
・広告宣伝の状況
・廉売対象商品の特性
・廉売行為者の意図、目的
など
なお、廉売行為者と競争関係にない事業者であっても、廉売がその事業者の競争関係に影響を及ぼすときは、「他の事業者」に含まれる場合もあります(例:卸売・小売業者の廉売によって製造業者の競争関係に影響が及ぶ場合、製造業者が「他の事業者」に当たる)。
正当な理由がある値下げはダンピングに当たらない
廉売を正当化する特段の事情があれば、独占禁止法に違反する不公正な取引方法に当たりません。
例えば以下のようなケースでは、廉売を行う正当な理由があると考えられます。
・需給関係から、廉売対象商品の販売価格が低落している場合
・廉売相性商品の原材料の再調達価格が、取得原価より低くなっている場合において、商品や原材料の市況に対応して低い価格を設定した場合
・想定し難い原材料価格の高騰により、結果的に商品の価格が供給に要する費用を著しく下回った場合
など
ダンピングで独占禁止法違反をした場合の罰則(ペナルティ)
事業者がダンピングによって独占禁止法違反を犯した場合、以下のペナルティを受ける可能性があります。
① 排除措置命令
② 課徴金納付命令
③ 被害者による差止請求
④ 被害者に対する損害賠償
排除措置命令
公正取引委員会は、ダンピングなどの不公正な取引方法を用いた事業者に対して、当該行為の差止めや契約条項の削除など、違反行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(=排除措置命令。独禁法20条1項)。
排除措置命令を受けた事業者は、その内容に従って速やかに是正措置を講じなければなりません。なお、排除措置命令の対象事業者および内容は、公正取引委員会のウェブサイトで公表されます。
課徴金納付命令
公正取引委員会は、独占禁止法2条9項3号に該当するダンピングを行った事業者に対して、課徴金納付命令を行うことができます(同法20条の4)。課徴金額は、違反行為期間における売上額の3%です。また、ダンピングについては、課徴金減免制度(リーニエンシー)はありません。
なお、独占禁止法2条9項6号および一般指定6項に該当するダンピングについては、課徴金納付命令の対象外とされています。
被害者による差止請求
不公正な取引方法に当たるダンピングを行った場合、それによって著しい損害を受け、または受けるおそれがある者から、ダンピングの停止または予防を請求される可能性があります(独禁法24条)。
適法な差止請求を受けた場合は、故意または過失の有無を問わず、直ちにダンピングを停止し、再発防止を図らなければなりません。
被害者に対する損害賠償
ダンピングによって他人に損害を与えた場合、事業者は被害者に生じた損害を賠償しなければなりません(独禁法25条1項)。この場合の損害賠償責任は、故意または過失の有無を問わない(=無過失責任)とされています(同条2項)。
ただし、被害者が訴訟を通じて損害賠償を請求できるのは、公正取引委員会による排除措置命令が確定した後に限られます(独禁法26条1項)。
独占禁止法違反の可能性が高いダンピング事例
公正取引委員会のウェブサイトでは、ダンピング(不当廉売)に当たる可能性があるものとして、以下の事例を公表しています。
✅事例|システム製品の販売業者による不当廉売
本事例では、官公庁向けシステム製品の販売を行っている事業者Xが、システム製品Aの調査・研究業務について官公庁Yが実施する入札に参加する際の、入札価格の設定が問題となりました。
Xは、システム製品Aについて事前に調査・研究を行っていましたが、その費用を原価に算入せず入札価格を設定することを検討しており、その可否について公正取引委員会に照会を行いました。
公正取引委員会は、前述の価格・費用基準を引用して、可変的性質を持つ費用を下回る価格は「供給に要する費用を著しく下回る対価」と推定される旨を指摘しました。
そして、官公庁Yだけでなく他の事業者に対するサービス提供も想定しているとしても、官公庁Y向けにも事前の調査・研究費用のうち一定額を配賦すべきであることを示した上で、その費用を入札価格に全く反映させないことは不当廉売に当たる可能性があると回答しました。
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