中国ビジネスでの留意すべき
法務上のポイントを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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中国について、景気減速がメディアで取り上げられることもありますが、約14億人もの市場を有し、地理的にも非常に近い中国は、多くの日本企業にとって強いビジネス上の繋がりがある国といえます。
そこで、本記事では、中国ビジネスを検討・開始・展開するうえで把握しておいた方がよい基礎的な法的知識として、中国に拠点を置く場合の会社形態や、越境EC・ライセンス契約の留意点、その他のコンプライアンスに関する留意点などをご紹介いたします。
※この記事は、2024年4月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事でいう「中国」とは、香港・マカオ・台湾は除く、中華人民共和国をいい、いわゆるメインランドチャイナを指します。
目次
中国ビジネスとは|留意すべき法務上のポイント
中国は、安価で豊富な労働力を求めて世界中の企業が生産拠点を設けていた「世界の工場」としての地位から、約14億人の市場を有する「世界の市場」へと変貌を遂げています。
既に多くの日本企業が中国へ進出しており、外務省による2022年の調査結果(「海外進出日系企業拠点数調査」2023年7月11日)によれば、中国における日系企業の拠点数は31,324とされており、他の地域と比較しても(米国:8,673、ドイツ:1,918、インド:4,901、ベトナム:2,373、シンガポール:1,084、韓国:809など)、その経済的な繋がりは強いといえます。
また、中国へ拠点を置かずとも、中国企業と貿易取引を行う日本企業や、中国消費者に向けての商品輸出(越境ECなど)などの方法を通じた中国ビジネスも存在します。
このようにさまざまな形態があり得る中国ビジネスにおいて、どのようなビジネス展開があり得るのか、どのようなビジネススキームを採用するのかを検討するに当たっては、それらに関連する法規制を把握しておく必要があります。
本記事では、中国ビジネスを展開するうえで把握しておいた方がよい基礎的な法的知識として、中国に拠点を置く場合の会社形態や、越境EC・ライセンス契約の留意点、その他のコンプライアンスに関する留意点などをご紹介いたします。
中国ビジネスを開始する方法
中国ビジネスを開始する方法として、大きく、①中国に拠点を置く方法と、②中国に拠点を設けずに契約を通じてビジネスを展開する方法があり、以下の図のような方法が含まれます(なお、以下は一つのイメージであり、厳密にはさらに細分化することが可能です)。
中国でのビジネス拠点の設立とは
現地法人の新規設立について|独資企業と合弁企業の選択
これまで、中国ビジネスを本格的に行うためには、中国で現地法人を新規に設立することが一般的でした。現地法人を設立する方法としては、上記のとおり、主には有限会社の形態のうち、独資企業または合弁企業を選択することとなります。
✅ 出資者が日本企業などの外国企業のみである場合 → 独資企業
✅ 現地の中国企業との共同出資によって設立された場合 → 合弁企業
実際上、独資企業と合弁企業のいずれも事例として多く存在しています。なお、日系企業の事例は少ないですが、他の会社形態として、株式会社やパートナーシップ企業などの会社形態もあります。
中国における企業設立の手続その他の留意点については、JETRO(日本貿易振興機構)が公表している情報も参考になります。
参考: JETROウェブサイト「中国 外国企業の会社設立手続き・必要書類」(最終更新日:2024年02月05日) |
ビジネスリソースの観点からのポイント|合弁企業のメリット・デメリット
進出する日本企業に中国ビジネスを展開するにあたっての十分なリソースがなく、中国企業側のリソース(資金、資産(土地・建物・設備)、営業力・販売ネットワーク、採用・人事管理など)を活用する場合には、合弁企業が選択されることが多いです。
最近の傾向としては、日本企業と中国企業がそれぞれの強みを活かしながらビジネスを世界的に展開するために中国で合弁企業を設立するようなケースもあります。合弁企業のデメリットとしては、資本の比率によって、企業運営の実権を中国側出資者に握られてしまうリスクや、技術情報の流出・商業機密の漏えいが生じるリスクなどがあります。このようなリスクをコントロールすることができれば、中国企業側のリソースを活用してスピーディな業務拡大が可能になるなどのメリットがあります。
他方で、これらのリスクを避けるため、日本企業が独自のリソースによって中国で事業展開できる場合には、独資企業を選択することが一般的な傾向です。
このような状況からすれば、合弁企業の設立を選択する場合には、中国側出資者がパートナーとして信頼できるか否かを事前に確かめることはもちろん、設立に際しては、出資比率や企業設立後の事業運営に関するルール(定款や合弁契約の内容)について専門家に相談するなどして、慎重に検討する必要があるといえます。
外資規制の観点からのポイント|ネガティブリストの把握と対応
また、別の観点として、中国の外資規制があります。中国では、外資企業(出資者が外国企業)によるビジネス参入を禁止または制限する業種をまとめたネガティブリストが公表されており、このうちの「制限類」に該当する場合には、独資企業の形態によるビジネス参入が禁止され、合弁企業を選択せざるを得ない場合もあります。
(例)
・出版
・電気通信(コールセンターなどは除く)
・教育
・医療分野
など
上記のような業種は、制限類に該当する可能性があるため、これらの事業領域を対象にして現地法人を設立しようとする際には会社形態に留意する必要があります。
参考: JETROウェブサイト「中国 外資に関する規制」(最終更新日:2024年01月22日) |
駐在員事務所とは
中国市場における製品や市場の調査・展示・宣伝などを主な目的にする場合には、駐在員事務所を設立する方法もあります。
駐在員事務所ができるのは非営利活動であり、営利活動は禁止されています。
事例としては、日本企業が初期段階の市場調査を行うためにまずは駐在員事務所を設立し、その後に現地法人を設立するケースのほか、日本の自治体や地方銀行などが中国へ拠点を置く方法として利用されています。
契約を通じた中国ビジネスとは
現地に拠点を置かずとも、契約を通じて中国ビジネスを行うことも可能です。この場合には、中国に拠点を置く場合に比べて、初期投資による資金や人的リソースの負担が少なくなることが多く、リスクを抑えて中国ビジネスを開始することができる方法といえ、筆者としては、今後より注目を集める中国ビジネスの展開方法になるのではないかと考えています。
以下では、契約を通じたビジネスの例として、越境ECと、ライセンスやフランチャイズの方法による中国ビジネスについて、簡単に説明します。
越境ECとは
近時、メディアなどでも取り上げられることが多くなった中国向けの越境ECとは、日本企業が越境EC専用のプラットフォーム(主に天猫国際や京東国際などの中国系ECプラットフォーム)を通じて中国消費者に対して直接的に商品を輸出するBtoC取引をいいます。
日本の市場で流通している商品をそのまま(中国語ラベルなどを貼付せずに)輸出でき、比較的簡易に中国消費者へ向けて販売することができますし、中国の税制上も個人輸入扱いとなるため関税が優遇されるなど、事業者と中国消費者の双方にとってメリットのある国際間取引であるため、中国ビジネスを開始するための手段として近時のトレンドの一つといえます。
越境ECとして輸出される商品としては、化粧品、食品・飲料(健康食品、日本酒などを含む)、日用品(カラーコンタクトなど)、マタニティ・ベビー用品、アパレル、ペット用品などのジャンルが多いといわれています。
参考: JETRO「中国EC市場と活用方法(2021年6月)」8頁 |
ライセンス契約・フランチャイズ契約とは
また、アニメ・漫画のキャラクターや、技術・ノウハウなどの知的財産権(IP)のライセンスやフランチャイズを通じて、日本企業が中国企業との契約によって中国ビジネスを展開することも考えられます。例えば、中国で化粧品・アパレル・玩具などを製造する中国企業が、日本のアニメキャラクターを使ったコラボ商品を開発して中国で販売するようなビジネスが考えられます。
参考: JETROビジネス短信「中国ライセンス博覧会2023にジェトロブース設置」(2023年11月10日) |
このうちフランチャイズについては、以下のようなスキームが考えられます。
- フランチャイズ契約の種類
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① 日本企業がフランチャイザーとして直接現地で加盟店を募集して、フランチャイザー契約を締結する
② 日本企業が中国企業に対してマスターフランチャイズ権を付与し、その中国企業(サブフランチャイザー)が他の中国国内の企業に対してサブフランチャイズを行う
なお、中国における日系ブランドのフランチャイズとしては、コンビニチェーンや飲食店チェーンなどが挙げられます。
契約を通じた中国ビジネスの注意点
越境ECやライセンス取引などに共通する問題として、ブランド保護にかかる知的財産権対策が挙げられます。
すなわち、これらの契約を通じた中国ビジネスでは、日本企業の有するブランド力(商標)や特許技術などが活用されるところ、知的財産権は原則として国ごとに独立しているため、商標や特許の出願・登録は日本とは別に行う必要があります。
この点に関して、全く関係のない中国企業が悪意をもって、いち早く中国で商標を登録してしまうような事例も少なからず発生しており、将来の中国ビジネス展開を見据えた場合には、中国における知的財産権の保護対策は早期に検討すべき問題といえます。また、商標、著作権、特許権、ノウハウなどのライセンスを行う場合には、契約書において慎重にこれらの取り扱いに関する事項を定めるべきです。
そのほか、後述しますが、中国消費者などの個人情報を取得する場合には、中国の個人情報保護法などにも留意する必要があります。
中国企業に関する事前の情報収集
話は変わりますが、合弁会社のパートナー候補となる中国企業や、貿易取引の相手方となる中国企業については、事前の情報収集による信用調査などを行うことが重要です。
この点に関し、中国では、会社の代表者、資本金、会社設立日、経営範囲、株主情報、役員(董事、監事、総経理など)に関する情報、従業員数などの情報が、中国政府が運営する「国家企業情報信用公示システム」にて公表されており、無料で取得することができます。また、中国の裁判例についても、一定数が公表されています。
これらの公表情報を通じて、例えば、企業を代表する権限を有する者(会社の意思決定権限を有する者)は誰なのか、その企業を支配している者(株主)は誰なのか、設立されたばかりの会社なのか、それとも長年にわたって存続している会社なのか、信用不安がうかがわれるような訴訟が提起されていないか等を確認することができるため、早期の情報収集をお勧めします。
もちろん、有料の企業情報調査サービスを存在しますが、上記のような公表情報を元に基礎的な情報収集することによって防ぐことができるトラブルもあります。過去に筆者がご相談を受けた事案では、「中国のある地方政府と強いコネクションを有している」とか「中国の大企業グループに所属している企業である」などの口頭による説明をもって、取引を開始したものの、その後、信用力が悪化して、契約が履行されずにトラブルとなった事案もありました。
公表情報を通じて、株主の変更、頻繁に行われる役員変更、資本金の減少(減資)、従業員減少などの情報を定期的にチェックしていれば、もう少し早く信用力の悪化に気付くことができた事案でした。
企業管理に関する基本的なルール|日本の親会社によるグループ管理の観点から
中国企業のコンプライアンスに関する基本的なルールとして、中国の会社法、労働法、個人情報保護法等について簡単にご説明します。中国に子会社などの拠点を設置する日本企業としては、これらの基本的なルールを把握しておくことによって、より実効的なグループ管理が可能になると考えられます。
中国の会社法
中国の日系企業は、ほとんどが「有限会社」という会社形態です。この中国の有限会社と日本の株式会社(非公開会社)の機関設定を比較すると、概ね下記のとおりです。
なお、以下では、2024年7月1日に施行される中国の新会社法を前提に説明を行います。
日本の株式会社 (非公開会社) | 中国の有限会社 (多くの日系中国企業の会社形態) | |
---|---|---|
会社の最高権力機関 | 株主総会 | 株主会 |
業務執行の意思決定機関 | 取締役会 | 董事会 ただし、小規模の会社では1名の董事(執行董事)のみでも代替可能 |
日常業務における現場の責任者 | ― | 総経理 |
業務執行を監査する機関 | 監査役(会) | 監事(会) ただし、小規模の会社では設置しないことも可能であり、董事により構成される監査委員会での代替も可能 |
株式譲渡に関する制限 | 株式を譲渡するために取締役会の承諾が必要 | 持分を譲渡する際に、他の株主が優先的購入権を有する |
資本金の払込み | 会社の資本金は設立時に払込みが必要 | 会社の設立から5年以内に出資の履行が必要 |
両者で共通する点もありますが、異なる点として、まず、会社を代表する権限を有する者について、日本の株式会社の場合には代表取締役であるものの、中国の有限会社では、董事会を主宰する董事長のほか、その他の一般の董事でも、総経理でも、法定代表者となることができます(中国会社法10条)。この点は、取引先となる中国企業と交渉する際の意思決定権者が誰であるかを見極めるためにも重要な情報となります。
また、中国では、従業員が300名以上の場合、董事会または監事会の構成員の中に、従業員代表を含めることが必要になります(中国会社法68条・78条)。そのため、300名以上の従業員を有する日系企業では、従業員代表の選出方法や董事会(または監事会)の運営方法などを検討することが必要になります。
さらに、日本では株式会社の設立登記時には資本金が払い込まれている必要がありますが、中国では会社設立から5年以内に払い込めばよいとされています(中国会社法47条)。仮にある株主がこの5年以内の払込義務を履行しない場合には、当該株主は失権する旨も定められています(同法52条)。
そのため、設立されたばかりの会社では、実際に資本金が払い込まれていない可能性もあり、登記上の資本金の金額だけで信用力を容易に判断することはできません。また、このような資本金の払込みルールがやや特殊であることから、中国企業と共同して合弁会社を設立するに当たっては、法令上のルールを踏まえて、定款を作成したり、合弁契約書などを締結することが必要になります。
中国の労働法
中国に現地法人を設立して中国ビジネスを行うとする場合には、従業員に関する適正な労務管理を実施するために、労働関係法令に対する理解も重要となります。ここでは、日本のルールとの違いを意識しながら、いくつかの論点を簡単にご説明します。
雇用形態と労働契約書の書面締結義務の重要性とリスク
日本では終身雇用制を背景に正社員は初めから無期の労働契約を締結することが一般的ですが、中国では、正社員でも、有期の労働契約を締結することが一般的です。なお、有期契約の期間に関する法令上の規制はありませんが、実務上は、1年~3年の事例が多いと思われます。
関連して、中国では、労働契約書の書面締結義務が厳格に定められており、この義務を履行しない場合には、毎月2倍の賃金の支払義務を課されたり、1年以上にわたって労働契約書を締結しない場合には無期の労働契約を締結したものとみなすなどのペナルティが定められています(中国の労働契約法14条・82条)。このようなペナルティは、初回の労働契約だけではなく、労働契約の更新時にも適用されるため留意が必要です。
異動・配転に関する会社側の裁量が狭い
日本では終身雇用制を背景に会社側に配転、転勤命令に関して会社には広範な裁量が認められる傾向がありますが、中国では、労働契約書に役職や業種を記載した場合には、限定合意と解釈され、これらの変更を会社側が求める場合には、労働者の個別合意が原則として必要になります。
このような原則的なルールがあるため、労働契約書の記載や就業規則において、配転、転勤命令に関する詳細なルールを定めたうえで、従業員への説明・周知の手続を実施しておくことが重要になります。
退職時に一定の金銭支払いが法律上強制される場合がある
日本では退職金の支払いは法律上の義務とされていませんが、中国では、会社側の意向で有期の労働契約を更新しない場合や、普通解雇(能力不足、 リストラによる解雇など)を行う場合には、勤続年数に応じて経済補償金を支払うことが法律上の義務とされています。
この経済補償金の計算方法は、原則として以下のように定められています。
経済補償金=1カ月当たりの賃金 × 勤続年数
(勤続6カ月未満は0.5、勤続6カ月以上1年未満は1としてカウントする)
1カ月当たりの基準賃金に残業代金を含めるか否かなどは、中国の地方によって司法上の取扱いが異なる可能性もあるため、慎重な検討が必要になります。
中国の個人情報保護法
中国の個人情報保護法は、2021年8月20日に成立しました。同法は、EUのGDPR(EU一般データ保護規則)を参考にして制定されたといわれており、日本の個人情報保護法に比べて、個人情報の取扱いが厳しく制限されている面もあります。
特に、日系企業との関係では、
① 域外適用(日本企業への直接的な法適用)
② 個人情報の中国国外への越境移転規制
③ データローカライゼーション(個人情報データの中国国内での保存義務)
などの面において留意が必要です。
このうち、②に関して、元々の規制では、日本企業が中国人の個人情報を取得する場面(例えば、中国子会社の現地スタッフの採用面接に日本本社の人事部がリモートで参加するような場面など)でも、
(ア)当該個人情報に関する本人の個別同意
(イ)越境移転をする側と受ける側(上記の例では中国子会社と日本本社)の間で中国政府が制定した書式に沿った越境移転契約書を締結すること
(ウ)越境移転の安全性に関する自己評価を行うこと
(エ)(イ)の契約書と(ウ)の自己評価報告書を中国の当局へ届出すること
が求められていました。
このような状況であったところ、近時(2024年3月22日)、この②の規制を緩和する規定が成立しました(「データ域外移転を規範化し、促進する規定」(原文:「促进和规范数据跨境流动规定」))上記事例との関係では、(イ)と(エ)の手続は不要になりましたが、今後も関連する法規制が改正される可能性はあるため、情報のキャッチアップが必要な分野といえます。
その他のコンプライアンス上の注意点
そのほかにも、中国消費者向けの販売・宣伝・販促活動等に関与する企業にとっては、広告法や不正競争防止法に留意する必要がありますし、日系企業の代理店を務める中国企業に商品を販売する場合には、再販売価格の拘束・限定を原則的に禁止する独占禁止法、化粧品の中国輸出や中国国内市場流通を図る場合には、化粧品監督管理条例(いわゆるNMPA規制)などの法令に留意する必要があります。
また、日本にはない中国独特の規制として、民間事業者間の不正なリベート(帳簿に記載されないリベートなど)を商業賄賂として規制するルールがあります。
商業賄賂の怖い面として、従業員が商業賄賂を受け取った場合に、会社側にも法的責任が発生してしまうリスクがあります。そのため、日系企業としては、万が一、従業員が商業賄賂に関与した場合において、会社側が関与していないことを中国の当局に説明するためにも、従業員に対して商業賄賂を禁止する旨を定めた宣誓書や社内規則の作成や、取引先との間の契約等において商業賄賂禁止条項を入れることなどの事前の対策を講じておくことが重要といえます。
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