汚職とは?
成立する犯罪・汚職事件の具体例・
民間企業の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「汚職」とは、公務員の職権や地位を濫用して不正な行為をすることをいいます。公務員の職務に対する信頼を保護するため、汚職に当たる行為は犯罪として処罰されます。
刑法に定められている汚職の罪は、「職権濫用罪」と「賄賂罪」の2つに大別されます。また、横領事件については「業務上横領罪」が適用されます。
汚職に関する犯罪の大半では、公務員が処罰の対象とされています。しかし、贈賄罪は公務員以外の者にも成立するほか、その他の犯罪についても、公務員でない者が共犯として処罰されることはあり得るので注意が必要です。
民間企業においては、公務員との関わり方などについて厳格な社内ルールを設け、汚職への関与を防止しましょう。この記事では、汚職について成立する犯罪や、民間企業が公務員と関わる際の注意点などを解説します。
※この記事は、2024年6月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
汚職とは
「汚職」とは、公務員の職権や地位を濫用して不正な行為をすることをいいます。公務員の職務に対する信頼を保護するため、汚職に当たる行為は犯罪として処罰されます。
汚職の罪の保護法益・処罰の目的
汚職の罪の保護法益は、公務員の職務の公正と、これに対する社会一般の信頼であると解されています。
公務員が職権や地位を濫用して私欲を満たしている状態では、国民は公務員を信頼して公務を任せることができません。そのため、公務員による不正行為は犯罪として厳しく処罰されます。
汚職の罪の対象となる「公務員」とは
刑法に定められた汚職の罪の対象となるのは「公務員」です。
公務員とは、国または地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいいます(刑法7条1項)。
「法令により公務に従事する議員、委員その他の職員」とは、いわゆる「みなし公務員」を想定したものです。
一例として、以下に挙げる者は「法令により公務に従事する職員」とされており、刑法上の汚職の罪による処罰の対象になり得ます。
- 法令により公務に従事する職員(みなし公務員)の例
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・日本郵便株式会社の従業員(郵便法74条)
・日本銀行の役職員(日本銀行法30条)
・国立大学法人の役職員(国立大学法人法26条)
・日本年金機構の役職員(日本年金機構法20条)
・公証人(公証人法5条)
など
汚職事件の具体例
公務員による汚職事件の大きな割合を占めるのが、横領事件と収賄事件です。
例えば、令和4年度中に発覚した地方公務員の汚職事件の件数は76件で、そのうち横領が46件、収賄が18件となっており、両者で8割超を占めています。
横領事件
汚職に当たる横領事件は、公務員が公金を自分のものにしたり、自分や身内のために使い込んだりするというものです。
公金は、市民が負担する公租公課を原資としています。公務員は市民から公金を預かる立場にあり、私利私欲のために公金を使い込むことは決して許されません。
公務員による横領行為は、業務上横領罪によって厳しく処罰されます。
収賄事件
収賄事件は、公務員が他人から賄賂を受け取って、贈賄者のために便宜を図ったり、またはその約束をしたりするものです。
公務員は、すべての市民のために働く立場にあります。特定の市民のためだけに便宜を図ることは、公務員の職務の公正を害する行為であり許されません。
公務員による収賄は、刑法上の賄賂罪によって厳しく処罰されます。
汚職について成立する犯罪のパターン1|職権濫用罪
刑法には「汚職の罪」が定められており、「職権濫用罪」と「賄賂罪」の2つに大別されます。
そのうち職権濫用罪は、公務員がその職権を濫用することにより、国民の権利・自由を侵害する犯罪です。
職権濫用罪としては、以下の犯罪が定められています。
① 公務員職権濫用罪
② 特別公務員職権濫用罪・同致死傷罪
③ 特別公務員暴行陵虐罪・同致死傷罪
公務員職権濫用罪
公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害したときは「公務員職権濫用罪」が成立します(刑法193条)。公務員職権濫用罪の法定刑は「2年以下の懲役または禁錮」です。
- 公務員職権濫用罪に当たる行為の例
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公務員が、その職務に関して「確認したいことがある」などと言って、好意を寄せている異性を喫茶店に呼び出した。
特別公務員職権濫用罪・同致死傷罪
裁判・検察・警察の職務を行う者、またはこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕または監禁したときは「特別公務員職権濫用罪」が成立します(刑法194条)。特別公務員職権濫用罪の法定刑は「6カ月以上10年以下の懲役または禁錮」です。
また、特別公務員職権濫用罪に当たる行為によって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して重い刑により処断されます(刑法196条)。
- 特別公務員職権濫用罪に当たる行為の例
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警察官が、逮捕状が発行されていない者を私怨によって逮捕した。
特別公務員暴行陵虐罪・同致死傷罪
裁判・検察・警察の職務を行う者、またはこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たって、被告人・被疑者その他の者に対して暴行・陵辱・加虐の行為をしたときは「特別公務員暴行陵虐罪」が成立します(刑法195条1項)。特別公務員暴行陵虐罪の法定刑は「7年以下の懲役または禁錮」です。
法令により拘禁された者を看守しまたは護送する者が、その拘禁された者に対して暴行・陵辱・加虐の行為をした場合にも、同様に特別公務員暴行陵虐罪が成立します(同条2項)。
また、特別公務員暴行陵虐罪に当たる行為によって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して重い刑により処断されます(刑法196条)。
- 特別公務員暴行陵虐罪に当たる行為の例
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警察官が、逮捕状に基づいて被疑者を逮捕する際、被疑者に対してわいせつな行為をした。
※不同意わいせつ罪(刑法176条1項)も成立し、観念的競合(刑法54条1項前段)となります。
汚職について成立する犯罪のパターン2|賄賂罪
賄賂罪は、公務員が賄賂を収受する行為、および公務員に対して賄賂を贈る行為を処罰するものです。
「賄賂」とは、公務員の職務行為の対価として授受等される不正な利益をいいます。
賄賂罪としては、以下の犯罪が定められています。
① 収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪
② 第三者供賄罪
③ 加重収賄罪
④ 事後収賄罪
⑤ あっせん収賄罪
⑥ 贈賄罪
収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪
公務員がその職務に関して賄賂を収受し、またはその要求・約束をしたとき(=収賄行為)は「収賄罪」が成立します(刑法197条1項前段)。収賄罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。
また、収賄行為に当たって何らかの請託(=一定の行為の依頼)を受けたときは「受託収賄罪」が成立します(同項後段)。受託収賄罪の法定刑は「7年以下の懲役」です。
さらに、公務員になろうとする者が収賄行為をし、その後公務員となった場合は「事前収賄罪」が成立します(同条2項)。事前収賄罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。
第三者供賄罪
公務員が、その職務に関して請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、またはその供与の要求・約束をしたときは「第三者供賄罪」が成立します(刑法197条の2)。第三者供賄罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。
- 第三者供賄罪に当たる行為の例
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公務員が知人との間で、近く行われる入札において便宜を図ることの見返りに、自分の親族に対して賄賂を供与する内容の約束をした。
加重収賄罪
収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪に当たる収賄行為等をした上で、実際に不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときは「加重収賄罪」が成立します(刑法197条の3第1項)。加重収賄罪の法定刑は「1年以上の有期懲役」です。
また、公務員がその職務上不正な行為をしたこと、または相当の行為をしなかったことに関して賄賂を収受し、もしくは第三者に賄賂を供与させ、またはそれらの要求・約束をした場合にも、同様に加重収賄罪が成立します。
- 加重収賄罪に当たる行為の例
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公務員が知人から金品を受け取り、その際に、近く行われる入札において便宜を図ってほしい旨の依頼を受け、実際に知人が経営する会社を不正な方法で落札者に選出した。
事後収賄罪
公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと、または相当の行為をしなかったことに関して賄賂を収受し、またはその要求・約束をしたときは「事後収賄罪」が成立します(刑法197条の3第3項)。事後収賄罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。
- 事後収賄罪に当たる行為の例
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公務員であった時に知人から頼まれて、その知人が経営する会社を不正な方法で落札者に選出し、公務員を辞めた後でその知人から金品を受け取った。
あっせん収賄罪
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、または相当の行為をさせないようにあっせんすること(またはあっせんしたこと)につき、その報酬として賄賂を収受し、またはその要求・約束をしたときは「あっせん収賄罪」が成立します(刑法197条の4)。あっせん収賄罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。
- あっせん収賄罪に当たる行為の例
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公務員が知人から頼まれて、近く行われる入札を担当する他の公務員に、その知人が経営する会社を落札者に選出するよう依頼した。その報酬として、公務員はその知人から金品を受け取った。
贈賄罪
上記の各賄賂罪に規定する賄賂を供与し、またはその申込み・約束をしたときは「贈賄罪」が成立します(刑法198条)。贈賄罪の法定刑は「3年以下の懲役または250万円以下の罰金」です。
- 贈賄罪に当たる行為の例
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公務員に対して、社交儀礼の範囲を超える金品を渡した。
汚職について成立する犯罪のパターン3|業務上横領罪
公務員が公金を横領した場合には「業務上横領罪」が成立します(刑法253条)。業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
- 業務上横領罪に当たる行為の例
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公務員が、業務委託先に対して支払うものとして預かった金銭を着服し、自分のために使い込んだ。
汚職に関して民間企業が注意すべきこと
汚職に関する犯罪の大半では、公務員が処罰の対象とされています。しかし、贈賄罪は公務員以外の者にも成立するほか、その他の犯罪についても、公務員でない者が共犯として処罰されることはあり得るので注意が必要です。
民間企業においては、汚職に関して以下のポイントに留意した対策を行いましょう。
① 公務員に対して金品を渡さない|贈賄罪に要注意
② 公務員に対して汚職を唆さない|共犯として処罰されるおそれあり
③ 公務員との交際について厳格な社内ルールを設ける
公務員に対して金品を渡さない|贈賄罪に要注意
公務員に対して金品を渡すと、贈賄罪によって処罰されるおそれがあります。
社交儀礼の範囲内であれば処罰を免れることもありますが、怪しまれるリスクを防ぐため、公務員に対しては一切金品を渡さないようにしましょう。
公務員に対して汚職を唆さない|共犯として処罰されるおそれあり
公務員に対して収賄などの汚職を唆すと、公務員でない者も教唆犯として処罰されるおそれがあります(刑法61条)。また、収賄や贈賄を助けた場合には、幇助犯として処罰されるおそれがあります(刑法62条)。
民間企業においても、自ら贈賄行為をしなければ処罰されないとは限りません。収賄・贈賄に何らかの形で関与すると、共犯として処罰されるおそれがあるので要注意です。
公務員との交際について厳格な社内ルールを設ける
民間企業の構成員が公務員と交際するに当たっては、刑法上の賄賂罪に該当しないように、通常の交際よりも慎重な対応が求められます。
役員や管理職だけでなく、一般の従業員に対しても、公務員との交際に関するコンプライアンス意識を浸透させなければなりません。厳格な社内ルールを設け、従業員研修などを通じてその内容を周知し、汚職への関与防止を徹底しましょう。
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