高度プロフェッショナル制度とは?
対象業務(職種)・メリット・デメリット・
導入手続き・注意点などを分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 労働法に関する研修資料 |
- この記事のまとめ
-
「高度プロフェッショナル制度」とは、高度な専門知識を有し、年収1,075万円以上を得る労働者を対象とする制度です。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、使用者から具体的な指示を受けることなく、裁量的に業務を行うことができます。その反面、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定が適用されないため、残業代は発生しなくなります。高度プロフェッショナル制度を導入すると、企業側にとっては労務管理の負担が軽減される点や、労働者の満足度が高まり定着しやすくなる点などのメリットが期待されます。
労働者側にとっても、自分のペースで働くことができるほか、業務を効率化すれば労働時間を短縮できるなどのメリットがあります。
その反面、企業側にとっては具体的な業務指示ができなくなる点、労働者側にとっては残業代が支払われなくなる点などが、高度プロフェッショナル制度のデメリットです。高度プロフェッショナル制度を導入する際には、労使委員会を設置して導入を決議する必要があります。そのほか、労働基準監督署長への届出、対象労働者の同意の取得、健康・福祉確保措置など、労働基準法所定の対応が必要です。
この記事では高度プロフェッショナル制度について、メリット・デメリット・導入手続き・注意点などを解説します。
※この記事は、2024年12月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
高度プロフェッショナル制度とは
「高度プロフェッショナル制度」とは、高度な専門知識を有し、年収1,075万円以上を得る労働者を対象とする制度です。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、使用者から具体的な指示を受けることなく、裁量的に業務を行うことができます。その反面、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定が適用されないため、残業代は発生しなくなります(労働基準法41条の2)。
高度プロフェッショナル制度の目的
高度プロフェッショナル制度の目的は、専門性の高い労働者に自由な働き方を認め、労働の生産性を高めることにあります。
専門性の高い業務については、労働時間と成果が必ずしも比例しないことが多いです。また、高度の専門性を有する労働者に対しては、知見に劣る上司などが適切な指示を行うことも難しいでしょう。
専門性の高い労働者には、自由な働き方を認めたほうが、生産性が高まる可能性があります。そこで、年収など一定の要件を満たす場合に限り、労使委員会の決議によって高度プロフェッショナル制度を導入・適用することが認められています。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、上司などから具体的な指示を受けることなく、幅広い裁量をもって働くことができるようになります。
高度プロフェッショナル制度によって適用が免除される規定
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者に対しては、労働基準法における以下の規定が適用されません。
- 労働時間に関する規定
- 休憩に関する規定
- 休日に関する規定
- 深夜の割増賃金に関する規定
これらの規定の適用が免除される結果、労働者は時間に縛られない自由な働き方ができるようになります。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者・対象業務(職種)
高度プロフェッショナル制度の対象となるのは、以下の要件を全て満たす労働者です。
- 高度プロフェッショナル制度の要件
-
① 以下のいずれかの業務に従事すること(業務に従事する時間に関し、使用者から具体的な指示を受けて行う業務を除く)
※労使委員会決議により、高度プロフェッショナル制度の対象とされている業務であることが必要(a) 金融工学等の知識を用いて行う、金融商品の開発の業務
例:アクチュアリー(b) 金融知識等を活用し、自らの投資判断に基づいて行う資産運用の業務、または有価証券の売買その他の取引の業務
例:アセットマネージャー、ファンドマネージャー(c) 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析・評価、またはこれに基づく投資助言の業務
例:証券アナリスト(d) 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査・分析、およびこれに基づく考案・助言の業務
例:コンサルタント(e) 新たな技術・商品・役務の研究開発の業務
例:企業の研究職② 書面の交付または電磁的記録の提供により、高度プロフェッショナル制度の適用に同意したこと
③ 使用者と労働者の合意に基づき、職務が明確に定められていること
④ 賃金の見込み額が年間1,075万円以上であること
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い
高度プロフェッショナル制度と同じく、労働者に働き方の裁量を認める制度として「裁量労働制」があります。
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があります。それぞれの対象業務は以下のとおりで、高度プロフェッショナル制度の対象業務とは異なっています。
- 裁量労働制の対象業務
-
<専門業務型裁量労働制>
以下の20種類
① 新商品や新技術などの研究開発、または人文科学や自然科学に関する研究の業務
② 情報処理システムの分析または設計の業務
③ 記事や放送番組の取材や編集の業務
④ 新たなデザインの考案の業務
⑤ 放送番組や映画などのプロデューサーやディレクターの業務
⑥ コピーライターの業務
⑦ システムコンサルタントの業務
⑧ インテリアコーディネーターの業務
⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩ 証券アナリストの業務
⑪ 金融商品の開発の業務
⑫ 大学における教授研究の業務
⑬ M&Aアドバイザリー業務
⑭ 公認会計士の業務
⑮ 弁護士の業務
⑯ 建築士の業務
⑰ 不動産鑑定士の業務
⑱ 弁理士の業務
⑲ 税理士の業務
⑳ 中小企業診断士の業務<企画業務型裁量労働制>
事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務
また、裁量労働制には年収要件が設けられていない点や、深夜労働(午後10時から午前5時までに行われる労働)に対しては深夜手当が発生する点などが、高度プロフェッショナル制度とは異なります。
高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット
高度プロフェッショナル制度には、企業側と労働者側の双方にとって、メリットとデメリットの両面があります。
企業側のメリット・デメリット
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者には、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定が適用されません。企業側にとっては、労働時間を厳密に管理する必要がなくなり、労務管理の負担が軽減されるメリットがあります。
また、広い裁量が認められることによって労働者の満足度が高まり、人材の定着につながる点も、企業側にとってのメリットと言えるでしょう。
その反面、企業は高度プロフェッショナル制度が適用される労働者に対して、業務の進め方や時間配分などを具体的に指示することができません。そのため、対象労働者が担当する業務につき、進捗管理がしにくくなる点がデメリットとなります。
労働者側のメリット・デメリット
労働者側にとって、高度プロフェッショナル制度の最大のメリットは、労働時間に縛られず自分のペースで働くことができる点です。効率的に業務を行えば、労働時間を短縮できる可能性もあります。
その反面、高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、労働時間にかかわらず残業代(時間外手当・休日手当・深夜手当)を受け取ることができません。
また、法定労働時間の規制も適用されないので、仕事が終わらないと長時間働くことになり、健康上のリスクが高まってしまいます。
高度プロフェッショナル制度を導入する際の手続き
高度プロフェッショナル制度を導入する際には、以下の流れで手続きを行いましょう。
① 労使委員会を設置・決議する
② 労働基準監督署長に届け出る
③ 対象労働者の同意を得る
④ 健康・福祉確保措置などを講じる
労使委員会を設置・決議する
高度プロフェッショナル制度を導入する場合は、労使委員会を設置して決議をします。
労使委員会の委員の半数以上は、過半数労働組合または労働者の過半数代表者によって指名された者であることが必要です。ただし、労使各1名の計2名しかいない場合は、労使委員会として認められません。
労使委員会の設置に当たっては、以下の事項を定めた運営規程を作成する必要があります。
- 労使委員会の運営規程で定めるべき事項
-
(a) 労使委員会の招集に関する事項
(b) 労使委員会の定足数に関する事項
(c) 労使委員会の議事に関する事項
※議長の選出、決議の方法(d) その他労使委員会の運営について必要な事項
※使用者が労使委員会に対して開示すべき情報の範囲、開示手続、開示が行われる労使委員会の開催時期、労使委員会の調査事項の範囲(e) 労使委員会が労使協定に代えて決議を行うことができる規定の範囲
上記の要件を満たす労使委員会が、出席委員の5分の4以上の多数によって決議して、高度プロフェッショナル制度を導入します。労使委員会によって決議すべき事項は、以下のとおりです。
- 高度プロフェッショナル制度の労使委員会で決議すべき事項
-
(a) 対象業務
(b) 対象労働者の範囲
(c) 健康管理時間の把握
※健康管理時間=原則として、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計(d) 休日の確保
※年間104日以上、かつ4週間を通じて4日以上(e) 選択的措置
※後述(f) 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
※後述(g) 同意の撤回に関する手続き
(h) 苦情処理措置
※苦情処理窓口の設置など(i) 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしてはならないこと
(j) 決議の有効期間の定め、および当該決議は自動更新しないこと
(k) 委員会の開催頻度および開催時期
(l) 50人未満の事業所である場合は、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること
(m) 一定の事項に関する記録を、決議の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること
※後述
労働基準監督署長に届け出る
高度プロフェッショナル制度に関する労使委員会決議は、事業場を管轄する労働基準監督署長に届け出なければなりません。
届出書面の様式は、労働基準監督署の窓口で交付を受けられるほか、以下の厚生労働省ウェブサイトからもダウンロードできます。
対象労働者の同意を得る
高度プロフェッショナル制度を適用する労働者からは、個別に同意を得る必要があります。同意を得る方法は労使委員会決議に従います。
同意が得られなかった労働者には、高度プロフェッショナル制度を適用することができません。また、同意しなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取り扱いをすることは違法です。
労働者から同意を得るに当たって、使用者は労働者に対して、あらかじめ以下の事項を書面で明示する必要があります。
- 労働者に対してあらかじめ明示すべき事項
-
(a) 高度プロフェッショナル制度の概要
(b) 労使委員会の決議の内容
(c) 同意した場合に適用される賃金・評価制度
(d) 同意をしなかった場合の配置および処遇、同意をしなかったことに対する不利益な取り扱いをしてはならないこと
(e) 同意の撤回ができること、同意の撤回に対する不利益な取り扱いをしてはならないこと
その後、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定が適用されない旨、対象期間、見込まれる賃金の額を書面で明示した上で、労働者から同意書を取得します。
高度プロフェッショナル制度に関する同意書は、労使委員会決議の有効期間中、およびその満了後3年間保存する必要があります。
健康・福祉確保措置などを講じる
対象労働者の健康を確保するため、使用者は以下の措置を講じる必要があります。
- 対象労働者の健康を確保するための措置
-
(a) 健康管理時間の把握
※健康管理時間=原則として、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計(b) 休日の確保
※年間104日以上、かつ4週間を通じて4日以上(c) 選択的措置
※以下のいずれかから選択
・11時間以上の勤務間インターバルの確保+深夜業の回数制限(1カ月に4回以内)
・健康管理時間の上限措置(週40時間を超える健康管理時間が1カ月につき100時間以内、または3カ月につき240時間以内)
・1年に1回以上、連続2週間の休日の付与(本人が請求した場合は連続1週間×2回以上)
・臨時の健康診断(週40時間を超える健康管理時間が1カ月につき80時間超、または申出があった労働者が対象)(d) 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
・勤務間インターバルの確保
・深夜業の制限
・労働時間の制限
・年次有給休暇の取得促進
・医師による面接指導
・特別休暇の付与
・健康診断の実施
・健康問題に関する相談窓口の設置
・配置転換
・保健指導
など
高度プロフェッショナル制度の導入・運用に関する注意点
高度プロフェッショナル制度の導入および運用に関して、使用者は特に以下のポイントに注意しましょう。
- 記録の作成と3年間の保存が必要
- 6カ月ごとに労働基準監督署長への報告が必要
記録の作成と3年間の保存が必要
使用者は、高度プロフェッショナル制度の実施に関して、以下の事項に関する記録を作成した上で3年間保存しなければなりません。
- 記録を作成・保存すべき事項
-
・労働者の同意およびその撤回
・合意した職務の内容
・支払われる賃金の額
・健康管理時間
・健康確保措置として講じた措置
・苦情処理に関して講じた措置
・50人未満の事業所における医師の選任
労働基準監督署による調査の際に記録の提示を求められることがありますので、上記の事項に関する記録を確実に作成および保存しましょう。
6カ月ごとに労働基準監督署長への報告が必要
使用者は、高度プロフェッショナル制度が適用される労働者の健康を確保するための措置の状況を、決議の有効期間の始期から6カ月以内ごとに、所轄の労働基準監督署長に報告しなければなりません。
報告書の様式は、労働基準監督署の窓口で交付を受けられるほか、以下の厚生労働省ウェブサイトからもダウンロードできます。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 労働法に関する研修資料 |