残業代とは?
種類・割増率・計算方法・未払いのリスク・
注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

残業代」とは、所定労働時間を超える労働、休日労働または深夜労働をした労働者に対して、基本給とは別に使用者が支払うべき賃金(給与)です。労働基準法に基づき、一定の割増率を適用した残業代の支払いが使用者に義務付けられています。

残業代の金額は、以下の式を用いて計算します。

✅ 残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数


残業の種類ごとに金額を計算した後、各金額を合計すれば、残業代の総額を求めることができます。

残業代を適切に支払わないと、労働者から未払い残業代の請求を受けるおそれがあります。また、労働基準監督官の是正勧告を受けることがあるほか、刑事罰の対象にもなるので要注意です。

この記事では残業代について、種類・計算方法・未払いのリスク・注意点などを解説します。

ヒー

「土曜出勤と日曜出勤でどうして残業代が違うんですか?」という問い合わせがありました。ええと、なんで違うんでしたっけ?

ムートン

出勤や残業をした日が法定休日か法定外休日か、法定内残業か法定外残業かなどで、支払われる残業代の割増率は変わってきます。残業代に関するルールを確認していきましょう。

※この記事は、2024年1月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 法…労働基準法
  • 規則…労働基準法施行規則

残業代とは

残業代」とは、所定労働時間を超える労働休日労働または深夜労働をした労働者に対して、基本給とは別に使用者が支払うべき賃金(給与)です。

労働基準法では、労働者に対して労働時間に応じた賃金を保障すべきという考え方をとっています(法27条参照)。そのため、基本給に含まれている所定労働時間以外に労働をした労働者に対しては、使用者に残業代の支払いを義務付けています

また、深夜(午後10時~午前5時)の勤務については、生活リズムが不規則になることへの補償の意味合いで、使用者に深夜手当の支払いが義務付けられています。
深夜手当は、厳密には「残業代」ではない(=所定労働時間内)場合がありますが、本記事では深夜手当も全て「残業代」に含めて解説します。

残業代の種類と割増率|2023年4月から月60時間超残業の割増賃金率が50%以上に

残業をした労働者に対して、使用者は労働基準法に基づき、一定の割増率を適用した残業代を支払わなければなりません。

残業代の割増率は、その種類ごとに異なります。なお2023年4月から、中小企業においても月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられた点にご注意ください。

法定内残業手当|割増なし

所定労働時間を超えるものの、法定労働時間の範囲内である残業を「法定内残業」、法定内残業に対して支払われる残業代を「法定内残業手当」といいます。

所定労働時間と法定労働時間

所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
法定労働時間:原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間(法32条)

法定内残業手当については割増率が適用されず、通常の賃金と同等の金額を支払えば足ります

時間外手当|25%または50%割増

法定労働時間を超える残業を「時間外労働」(または「法定外残業」)、時間外労働に対して支払われる残業代を「時間外手当」といいます。

時間外手当のうち、月60時間以内の部分については25%以上月60時間を超える部分については50%以上の割増率が適用されます(法37条1項)。

休日手当|35%割増

法定休日(労働基準法によって付与が義務付けられた休日。法35条)における労働を「休日労働」、休日労働に対して支払われる残業代を「休日手当」といいます。

休日手当には、35%以上の割増率が適用されます(法37条1項、労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。

なお、法定休日以外の休日(=法定外休日)に働いた場合は、休日手当ではなく、法定内残業手当または時間外手当が発生します。

深夜手当|25%割増

午後10時から午前5時までに行われる労働を「深夜労働」、深夜労働に対して支払われる残業代(手当)を「深夜手当」といいます。

深夜手当には、25%以上の割増率が適用されます(法37条4項)。時間外手当・休日手当の割増率との重複適用も可能です(例:休日労働かつ深夜労働の場合、割増率は35%以上+25%以上=60%以上)。

残業代の計算方法

残業代の額は、以下の手順で計算します。

残業代の計算方法

① 1時間当たりの基礎賃金を求める
② 残業時間を種類ごとに集計する
③ 残業代の額を計算する

①1時間当たりの基礎賃金を求める

まずは、残業代の計算に用いる「時給」として、1時間当たりの基礎賃金を求めます。

1時間当たりの基礎賃金=給与計算期間中の基礎賃金÷給与計算期間に対応する所定労働時間

基礎賃金」とは、給与計算期間中に労働者に対して支給された全ての賃金から、以下の賃金を除いたものです(法37条5項、規則21条)。

基礎賃金から除く賃金

・法定内残業手当
・時間外手当
・休日手当
・深夜手当
・家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
・通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
・臨時に支払われた賃金
・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ムートン

手当については以下の記事もご参照ください。

②残業時間を種類ごとに集計する

次に、残業の種類ごとに残業時間を整理しましょう。各種類の残業についての割増率を再掲します。

残業の種類割増率
法定内残業
時間外労働25%以上(月60時間を超える部分は50%以上)
休日労働35%以上
深夜労働25%以上
時間外労働かつ深夜労働50%以上(月60時間を超える部分は75%以上)
休日労働かつ深夜労働60%以上

③残業代の額を計算する

最後に、以下の式を用いて残業代を計算します。

残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数

(例)
1時間当たりの基礎賃金:3000円
法定内残業:20時間
時間外労働:30時間
休日労働:10時間

残業代
=3000円×(20時間+1.25×30時間+1.35×10時間)
=21万7000円

残業代に注意すべき労働時間制・労働形態

特殊な労働時間制で働く労働者、および労働時間・休日に関する規制が適用されない労働者については、残業代について通常の労働者とは異なるルールが適用されます。

具体的には、以下の労働時間制・労働形態については、残業代のルールが通常とは異なるので注意が必要です。

残業代のルールが通常とは異なる労働時間制・労働形態

① 変形労働時間制(法32条の2・32条の4・32条の5)
業務の繁閑などに応じて、日々の労働時間を弾力的に調整できる制度です。
残業代の計算に当たっては、日・週・対象期間ごとに時間外労働の時間数を計算し、それらを合算します。

② フレックスタイム制(法32条の3)
労働者の裁量によって始業と終業の時刻を決められる制度です。
労使協定で定められた清算期間ごとに、残業代を計算および精算します。

③ 事業場外みなし労働時間制(法38条の2)
事業場外で業務に従事する労働者につき、労働時間を算定し難いときに適用できる制度です。
実際の労働時間にかかわらず所定労働時間働いたものとみなされるため、残業代は原則として発生しません。ただし、事業場内での勤務が生じる場合には、残業代が発生することがあります。

④ 裁量労働制(専門業務型・企画業務型。法38条の3・38条の4)
業務の進め方や時間配分などを、労働者の広い裁量に委ねる制度です。
実際の労働時間にかかわらず、労使協定または労使委員会決議によって定められた「みなし労働時間」が適用されるため、残業代もみなし労働時間を基準に計算します。

⑤ 歩合給制
基本給とは別に、業績に応じた歩合給を支給する賃金形態です。
基本給部分は所定労働時間、歩合給部分は総労働時間を基準に残業代を計算するため、それぞれ計算式が異なります。

⑥ 農林・畜産・養蚕・水産事業の労働者(法41条1号)
農林事業(林業を除く)および畜産・養蚕・水産事業に従事する労働者は、労働時間・休日に関する規定が適用されないので、残業代が発生しません。

⑦ 管理監督者(法41条2号前段)
監督または管理の地位にある労働者(=管理監督者)には、労働時間・休日に関する規定が適用されないので、残業代が発生しません。
ただし、管理監督者に当たるのは、権限・裁量・待遇などから見て経営者と一体的な立場にある労働者のみです。いわゆる「管理職」が全て管理監督者に当たるわけではありません。

⑧ 機密事務取扱者(法41条2号後段)
経営者または管理監督者の活動と一体不可分の職務を行う労働者(=機密事務取扱者。秘書など)には、労働時間・休日に関する規定が適用されないので、残業代が発生しません。

⑨ 監視・断続的労働に従事する者で、使用者が労働基準監督署長の許可を受けたもの(法41条3号)
守衛、学校の用務員、団地の管理人、専属運転手など、手待ち時間が長く業務上の負荷が比較的軽い労働者については、使用者が労働基準監督署長の許可を得れば、労働時間・休日に関する規定が適用されなくなります。この場合、残業代は発生しません。

⑩ 高度プロフェッショナル制度(法41条の2)
高度の専門的知識等を必要とし、労働時間と成果の関連性が高くない業務に従事する労働者については、労使委員会決議によって高度プロフェッショナル制度を適用できます。この場合、労働時間・休日に関する規定が適用されないので、残業代が発生しません。
なお、高度プロフェッショナル制度を適用するためには、他にも一定以上の年収などの要件を満たす必要があります。

残業代を適切に支払わなかった場合のリスク

残業代を適切に支払わなかった場合、企業は以下のリスクを負うことになってしまいます。

① 未払い残業代を請求される|労働審判や訴訟に発展することも
② 労働基準監督官から是正勧告を受ける
③ 刑事罰を科される・公表される

未払い残業代を請求される|労働審判や訴訟に発展することも

未払いとなった残業代については、消滅時効(後述)が完成しない限り、労働者から請求される可能性があります。
交渉による精算が難しい場合には、労働審判や訴訟などの法的手続きに発展し、企業側としても対応に多くのコストを要するおそれがあるので注意が必要です。

労働基準監督官から是正勧告を受ける

残業代の未払いは労働基準法違反に当たるため、労働基準監督官による是正勧告の対象となります。
是正勧告を受けた場合は、指定された期限までに違反状態を是正した上で、労働基準監督署に報告しなければなりません。

刑事罰を科される・公表される

残業代を含む賃金の未払いは、刑事罰の対象とされています。法定刑は行為者法人の双方について「30万円以下の罰金」です(法120条1号・121条)。
悪質な残業代の未払いについては、是正勧告にとどまらず刑事罰を科されることがあり得るので注意が必要です。

なお、刑事罰を科すかどうかの審理は刑事裁判(公判手続きまたは略式手続き)で行われますが、それに先立って、労働基準監督官が検察官に対して事件を送致します。
検察官送致が行われた時点で、都道府県労働局のウェブサイトにおいて違反事実と企業名が公表されるので、企業のレピュテーションへの悪影響も懸念されます。

残業代に関する注意点

残業代の取り扱いについて、企業は特に以下の各点に注意しましょう。

① 法定外残業(時間外労働)・休日労働をさせるには「36協定」の締結が必要
② 残業代は1分単位で計算するのが原則|ただし例外あり
③ 残業時間の上限規制にも注意
④ 残業代請求権の時効期間は3年

時間外労働(法定外残業)・休日労働をさせるには「36協定」の締結が必要

労働者に時間外労働または休日労働をさせるには、あらかじめ労働者側との間で「36協定」を締結しなければなりません(法36条1項)。36協定では、時間外労働と休日労働の上限などのルールを定める必要があります。

36協定を締結していないにもかかわらず、時間外労働または休日労働をさせることは労働基準法違反に当たり、是正勧告や刑事罰の対象になるのでご注意ください。

ムートン

1日8時間労働を超える、いわゆる「残業」をさせるためには、「36協定」の締結が必要となります。

残業代は1分単位で計算するのが原則|ただし例外あり

残業代は、原則として1分単位で計算する必要があります。切り上げは労働者にとって有利なので問題ありませんが、切り捨ては原則として違法です。

ただし例外的に、以下のケースでは残業代(残業時間)の切り捨てが認められています(昭和63年3月14日基発第150号)。

① 1時間単位で、1円単位の端数を四捨五入する場合
OK:1時間当たりの基礎賃金が2530.4円→2530円とする
NG:1時間当たりの基礎賃金が2530.5円→2530円とする

② 1カ月単位で、1時間未満の端数を丸める場合
OK:1カ月の残業時間が15時間20分→15時間分の残業代を支払う
NG:1カ月の残業時間が15時間40分→15時間分の残業代を支払う

残業時間の上限規制にも注意

36協定を締結している場合でも、時間外労働の上限(=限度時間)は原則として1カ月当たり45時間です(法36条3項・4項)。

例外的に、36協定で特別条項を定めている場合には、限度時間を超える時間外労働を指示できます
ただし、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に必要な場合に限られるほか、以下の制限が適用される点に注意が必要です。

① 時間外労働と休日労働の合計は、1カ月当たり100時間未満
② 時間外労働は、1年当たり720時間以内
③ 1カ月当たりの時間外労働が45時間を超える月数は、1年につき6カ月以内
④ 坑内労働など健康上得に有害な業務についての時間外労働は、1日当たり2時間以内
⑤ 2カ月間・3カ月間・4カ月間・5カ月間・6カ月間における時間外労働と休日労働の合計は、いずれも1カ月平均80時間以内

残業代請求権の時効期間は3年

残業代請求権は、行使できる時から3年時効により消滅します(法115条、附則143条1項)。

言い換えれば、会社は過去3年間は遡って未払い残業代を請求される可能性があるので注意が必要です。また、内容証明郵便による請求や訴訟の提起などが行われた場合は、3年が経過しても残業代請求権が消滅しないことがあるのでご注意ください。

ムートン

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