給与とは?
給料や賞与との違い・労働基準法の主なルール・
差し引かれる項目・
年末調整などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

給与」とは、労働の対価として使用者が労働者に支払う金銭です。「給料」や「賃金」と呼ばれることもあり、給与との間で特に意味の違いはありません。

給与(賃金)については、労働基準法において詳細なルールが定められています。一例としては、給与支払いの5原則、残業代(時間外労働手当・休日手当・深夜手当)、賃金台帳の作成・保存に関するものなどが挙げられます。使用者は給与の支払いに関して労働基準法のルールを遵守しなければなりません

使用者は、労働者に対して賃金を支払う際、源泉所得税や住民税、社会保険料などを差し引きます。また、毎年年末調整を行って税額を精算することも求められます。

この記事では給与について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

給料日は嬉しいですが、税金のことをあまり理解できていないので給与明細の読み方がよく分かりません。

ムートン

各種手当や時間外労働、税金、社会保険料などについてもしっかり理解することが大事です。

※この記事は、2023年10月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

給与(賃金)とは|所得・手取りとの違いを含め解説

給与」とは、労働の対価として使用者が労働者に支払う金銭です。

給与は税法上の「所得」に当たるため、税金や社会保険料の対象となります
また、給与の支給額から税金や社会保険料を控除した後の金額は、一般に「手取り」と呼ばれています。

給与に含まれるものの種類

例えば、以下の金銭はいずれも給与に当たります。

・基本給
・残業代(時間外労働手当、休日手当、深夜手当)
・役職手当
・出張手当
・危険手当
・単身赴任手当
・賞与
など

給与と給料・賃金・賞与の違い

「給与」は「給料」や「賃金」などと呼ばれることもあります。呼称が異なるだけで、給与・給料・賃金に意味の違いはありません。

賞与」は給与の一部です。毎月支給される基本給や残業代などとは異なり、賞与は半年に1回または1年に1回などのペースで、会社の業績や労働者の貢献度などに応じて支払われます。

給与と所得・手取りの違い

所得」とは、収入から必要経費を差し引いた額で、税金や社会保険料の課税(賦課)対象となります。給与については、額面から給与所得控除を差し引いた額が「給与所得」となります。

また、給与の支給額から税金や社会保険料を控除した後の金額は、「手取り」と呼ばれることがあります。「手取り」という言葉には、「労働者が実際に使える金額」という意味が込められています。

給与明細とは|記載される項目を併せて解説

給与明細」とは、労働者に支払う給与の明細を記載した文書です。会社は労働者に対して、給与明細を交付する義務を負います(所得税法231条1項)。

給与明細には、以下の事項を記載しなければなりません。

① 所得税法に基づく記載事項(所得税法施行規則100条1項)
・支払う給与等の額
・源泉徴収する所得税(=源泉所得税)の額
・年末調整によって還付する所得税の過納額

② 社会保険料・雇用保険料の控除に関する記載事項(厚生年金保険法84条3項、健康保険法167条3項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条1項)
・各保険料の控除額

住民税の特別徴収を行う場合は、特別徴収税額も給与明細に記載するのが一般的です。さらに、給与額の計算に用いた勤怠記録などを給与明細に記載することもあります。

なお、書面や電子メール等で労働者の承諾を得た場合には、給与明細を電子データで交付することもできます(所得税法231条2項)。

給与に関する労働基準法の主なルール

給与(賃金)については、労働基準法でルールが定められています。

給与に関する労働基準法の主なルールとして、以下の事項を解説します。

① 労働条件の明示義務
② 前借金相殺の禁止
③ 給与支払いの5原則
④ 給与の非常時払い
⑤ 休業手当
⑥ 出来高払制の保障給
⑦ 最低賃金
⑧ 時間外労働手当・休日手当・深夜手当
⑨ 有給休暇に関する賃金の支払い
⑩ 賃金台帳
⑪ 賃金請求権の消滅時効

労働条件の明示義務|賃金も明示の対象

使用者は労働契約を締結する際、労働者に対して労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条1項)。給与(賃金)も明示すべき労働条件の一つとされています。

なお、労働者に対して給与(賃金)を明示する際には原則として書面(=労働条件通知書)を交付する必要があります(労働基準法施行規則5条1項、4項)。
ただし労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メールなどで給与(賃金)を明示することも可能です。

前借金相殺の禁止

使用者は、前借金などの債権と給与(賃金)を相殺してはなりません(労働基準法17条)。労働者の生活を保障する観点から、実際に給与(賃金)が支給されることを確保する目的で、前借金相殺の禁止が定められています。

給与支払いの5原則

給与(賃金)の支払いについて、使用者は以下の5つの原則を遵守する必要があります(労働基準法24条)。

① 通貨払いの原則
給与(賃金)は原則として、円通貨で支払わなければなりません。ただし、銀行振込やデジタルマネーによる支払いなどの例外が認められています。

② 直接払いの原則
給与(賃金)は仲介者を介さず、労働者本人に直接支払わなければなりません。

③ 全額払いの原則
法令または労使協定に基づく控除を除き、給与(賃金)は全額を支払わなければなりません。弁償代などを天引きすることはできません。

④ 毎月1回以上払いの原則
給与(賃金)は毎月1回以上支払わなければなりません。

⑤ 一定期日払いの原則
給与(賃金)は一定の期日を定めて支払わなければなりません。

給与の非常時払い

使用者は、労働者が以下に挙げる非常の場合の費用に充てるために請求した場合は、支払期日前であっても、既往の労働に対する給与(賃金)を支払わなければなりません(労働基準法25条、労働基準法施行規則9条)。

給与の非常時払いの対象となる非常の場合

労働者またはその収入によって生計を維持する者について、以下のいずれかの事由が発生したこと
① 出産し、疾病にかかり、または災害を受けた場合
② 結婚し、または死亡した場合
③ やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合

休業手当

使用者の責に帰すべき事由によって休業する場合、使用者は労働者に対して、休業期間中の平均賃金の100分の60(=60%)以上の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法26条)。

出来高払制の保障給

出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じて一定額の給与(賃金)を保障しなければなりません(労働基準法27条)。完全出来高払制は認められないので注意が必要です。

労働時間に応じて保障すべき給与(賃金)の最低ラインは、最低賃金に従います(労働時間に応じた給与と出来高に応じた給与を合算して、最低賃金以上であればOK)。

最低賃金

給与(賃金)の最低基準は、最低賃金法で定めるものとされています(労働基準法28条)。

最低賃金法では「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類が定められています。特定最低賃金が定められている業種については、地域別最低賃金と比較して高い方の金額が適用されます。

① 地域別最低賃金
都道府県ごとに定められている最低賃金です。

② 特定最低賃金
都道府県および業種ごとに定められている最低賃金です。

時間外労働手当・休日手当・深夜手当

時間外労働・休日労働・深夜労働をした労働者に対しては、時間外労働手当・休日手当・深夜手当を支給しなければなりません(労働基準法37条)。

① 時間外労働
法定労働時間を超える労働です。法定労働時間は原則として、1日当たり8時間・1週間当たり40時間とされています(同法32条)。

② 休日労働
法定休日に行われる労働です。法定休日は1週間につき1日、または4週間を通じて4日とされています(同法35条)。

③ 深夜労働
午後10時から午前5時までに行われる労働です。

時間外労働手当・休日手当・深夜手当には、以下の割増率が適用されます。

時間外労働手当通常の賃金に対して+25%以上
※時間外労働が月60時間を超える場合、超過部分については通常の賃金に対して+50%以上
休日手当通常の賃金に対して+35%以上
深夜手当通常の賃金に対して+25%以上

有給休暇に関する賃金の支払い

労働者が有給休暇を取得した場合、その期間または時間については、原則として通常の給与(賃金)を支給しなければなりません(労働基準法39条9項本文)。

ただし例外的に、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(または事業場の労働者の過半数代表者)との間で労使協定を締結すれば、健康保険法に基づく標準報酬月額の日割額を支給することも認められています(同項ただし書)。

賃金台帳

使用者は、事業場ごとに賃金台帳を調製し、給与(賃金)の支払いのたびに、その計算の基礎となる事項や金額などを遅滞なく記載しなければなりません(労働基準法108条、労働基準法施行規則55条)。

賃金台帳は、5年間保存する必要があります(労働基準法109条)。

賃金請求権の消滅時効

給与(賃金)の請求権は、行使できる時から3年間で消滅します(労働基準法115条、附則143条3項)。

労働者が使用者に対して未払い残業代などを請求する際には、本来支払われるべき時期から3年以内に請求しなければなりません。

給与から手取り額を計算する方法|差し引かれる項目も併せて解説

給与には全額払いの原則(労働基準法24条1項)が適用されるため、会社が勝手に給与の一部を控除することは原則として認められません。

ただし法律により、以下の公租公課については給与からの控除が認められています。実際に支払われる給与額は、支給額面からこれらの公租公課を控除して計算します。

① 源泉所得税
② 住民税
③ 厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料
④ 雇用保険料

源泉所得税

会社が労働者に給与を支給する場合、支給額に応じて源泉徴収を行うことが義務付けられています(所得税法183条1項)。源泉所得税額は、給与から控除できます。

給与から源泉所得税を控除した場合、その金額を給与明細に記載しなければなりません(所得税法施行規則100条1項2号)。

住民税

住民税は、前年の所得に応じて6月から翌年5月にかけて支払います。一部の例外を除き、会社は労働者に支払う給与から、住民税を特別徴収しなければなりません(地方税法321条の5第1項)。
住民税の特別徴収を要する場合には、特別徴収税額を給与から控除できます。

住民税の特別徴収税額は、給与明細に記載されるのが一般的です。

厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料

給与からは、社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料)を控除することが認められています(厚生年金保険法84条1項、健康保険法167条1項)。

給与からこれらの保険料を控除する場合、会社は労働者に対して保険料の控除に関する計算書を作成し、控除額を労働者に通知しなければなりません(厚生年金保険法84条3項、健康保険法167条3項)。

一般的には、給与明細にこれらの控除額を記載することで、保険料の控除に関する計算書を兼ねるケースが多いです。

雇用保険料

雇用保険料についても、給与からの控除が認められています(労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条1項)。

給与から雇用保険料を控除する場合、会社は労働者に対して保険料の控除に関する計算書を作成し、控除額を労働者に通知しなければなりません(同)。
社会保険料と同様に、雇用保険料の控除額についても、給与明細に記載するのが一般的です。

給与の年末調整について

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している労働者については、会社は原則として年末調整」を行う必要があります。

年末調整の目的

年末調整の目的は、労働者から源泉徴収した所得税額を、実際の所得に合わせて精算することです。

毎年11月から12月ごろに、適用を受ける控除等について労働者から申告を受けた上で、会社がその年の正しい税額を計算して、源泉所得税額の過不足分を精算します。
労働者側では、給与以外の所得がない限り、確定申告が不要となります。

年末調整の対象外となる給与所得者

年末調整を行う日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している労働者は、原則として年末調整の対象となります。

ただし例外的に、以下のいずれかに該当する労働者は年末調整の対象外です。

① 1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2000万円を超える人
② 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税および復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人

ムートン

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