自己都合退職とは?
会社都合退職との違い・2025年施行の改正内容・
企業側の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「自己都合退職」とは、労働者側の都合による退職をいいます。これに対して、会社側の都合による退職や、やむを得ない事情による退職は「会社都合退職」と呼ばれています。
自己都合退職のメリットは、どのような理由であっても辞められることです。
他方で、退職金が減額されることがある点や、雇用保険の基本手当(失業給付)の受給条件が不利になる点は、自己都合退職のデメリットといえます。自己都合退職をする労働者の退職金を減額する場合は、退職金規程などに基づいて行う必要があります。また、大幅な退職金の減額は無効となるおそれがある点にも注意を要します。
離職証明書における離職理由には「自己都合退職」と書くこともできますが、本当に自己都合退職に該当するかどうかは、離職に至る経緯などを踏まえて慎重に判断しましょう。
この記事では自己都合退職について、会社都合退職との違い・メリット・デメリット・企業側の注意点などを解説します。
※この記事は、2025年1月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
自己都合退職とは
「自己都合退職」とは、労働者側の都合による退職をいいます。
自己都合退職と会社都合退職の違い
労働者側の都合による自己都合退職に対して、会社側の都合による退職や、やむを得ない事情による退職は「会社都合退職」と呼ばれています。
自己都合退職と会社都合退職では、会社によっては退職金の取り扱いが異なる場合があります。
また、退職後に雇用保険の基本手当(失業給付)を受給する場合は、自己都合退職よりも会社都合退職の方が有利な条件で受給できることが多いです。
自己都合退職の具体例
自己都合退職に当たるものとしては、以下の例が挙げられます。
(例)
・転職先が決まったので、元々いた会社を退職した。
・自分で起業することにしたので、会社を退職した。
・家族を介護するために実家に帰るので、会社を退職した。
など
会社都合退職の具体例
会社都合退職として取り扱われるかどうかの基準は、場面によって異なります。
退職金の支給に関しては、会社が定める退職金規程などに従って、自己都合退職と会社都合退職が区別されます。
これに対して、雇用保険の基本手当の受給に関しては、「特定受給資格者」または「特定理由離職者」のいずれかに該当する場合が、いわゆる会社都合退職の扱いになります。
特定受給資格者とは
「特定受給資格者」とは、雇用主の倒産や事業の縮小・廃止、解雇などの理由によって離職した者をいいます(雇用保険法23条2項、雇用保険法施行規則34条~36条)。
- 特定受給資格者に当たるもの
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① 以下のいずれかの事由(=倒産等)によって離職した者
(a) 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始または特別清算開始の申立て(b) 手形交換所における取引停止事由の、金融機関に対する公表
(c) 事業所における大量雇用変動(1カ月に30人以上の離職)の届出
(d) 雇用される被保険者のうち、3分の1を超える者の離職
(e) 事業所の廃止(事業活動停止後、再開の見込みのない場合を含む)
(f) 事業所の移転により、通勤することが困難になった
② 以下のいずれかの事由(=解雇等)によって離職した者
(a) 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く)(b) 労働契約の締結時に明示された労働条件が、事実と著しく相違していた
(c) 退職手当を除く賃金の3分の1を超える額が、以下のいずれかの期間にわたって未払いとなった
・連続2カ月以上
・離職の直前6カ月間において3カ月以上(d) 賃金が85%未満に低下し、または低下することとなった(賃金の低下を予見し得なかった場合に限る)
(e) 離職の直前6カ月間において以下のいずれかの時間外労働が認められ、行政機関から危険または健康障害のおそれを指摘されたにもかかわらず、その防止措置が講じられなかった
・3カ月連続で45時間超
・1カ月で100時間超
・2~6カ月平均で月80時間超(f) 事業主が法令に違反し、以下のいずれかの行為をした
・妊娠中、出産後、子の養育中または家族の介護中の労働者を就業させ、またはその雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限した
・妊娠、出産、または上記の制度の利用申出もしくは利用などを理由として、不利益な取り扱いをした(g) 職種転換等に際して、事業主が職業生活の継続のために必要な配慮を行わなかった
(h) 3年以上有期労働契約が継続した後、雇い止めを受けた
(i) 有期労働契約が更新されることが明示されていたにもかかわらず、契約が更新されないこととなった((h)に該当する場合を除く)
(j) ハラスメントに関して、以下のいずれかの事由が生じた
・上司や同僚などから、故意の排斥、著しい冷遇または嫌がらせを受けた
・事業主がセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかった
・事業主がマタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメントによって労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかった(k) 事業主から、直接または間接に退職勧奨を受けた(従来から恒常的に設けられている早期退職優遇制度等に応募した場合を除く)
(l) 使用者の責めに帰すべき事由による休業が、連続3カ月以上となった
(m) 事業所の業務が法令に違反した
特定理由離職者とは
「特定理由離職者」とは、有期労働契約の不更新(=雇い止め)、その他のやむを得ない理由によって離職した者をいいます(雇用保険法13条3項、雇用保険法施行規則19条の2)。
- 特定理由離職者に当たるもの
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① 有期労働契約の期間が満了し、契約の更新がないことにより離職した者(更新を希望したにもかかわらず、事業主との合意が成立しなかった場合に限る)
② 以下の正当な理由のある自己都合により離職した者
(a) 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等(b) 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法に基づく受給期間延長措置を受けた
(c) 家庭の事情が急変した
(例)父母の死亡、疾病、負傷、扶養、親族の看護など(d) 配偶者または扶養すべき親族との別居生活を続けることが困難となった
(e) 以下のいずれかの理由により、通勤が不可能または困難となった
・結婚に伴う住所の変更
・育児に伴う保育所等の利用、または親族等への保育の依頼
・通勤困難な地への事業所移転
・自己の意思に反して、住所または居所の移転を余儀なくされた
・鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止または運行時間の変更等
・事業主の命による転勤または出向に伴う別居の回避
・配偶者の事業主の命による転勤もしくは出向、または配偶者の再就職に伴う別居の回避(f) 希望退職者の募集に応じた
自己都合退職のメリット|どんな理由でも辞められる
自己都合退職のメリットは、退職の理由を問われないことです。
無期雇用の正社員は、2週間前に会社に対して解約(退職)を申し入れれば、いつでも雇用契約を終了させて退職することができます(民法627条1項)。
この場合は自己都合退職扱いとなりますが、退職の理由は問われません。どのような理由であっても、2週間前の通知によって退職できます。
退職金や雇用保険の受給に関して多少不利になったとしても、「今すぐ会社を辞めたい」「退職する理由を話したくない」などと考えている場合は、自己都合退職をするメリットがあると考えられます。
自己都合退職のデメリット
自己都合退職のデメリットとしては、主に以下の2点が挙げられます。
- 退職金が減額されることがある
- 雇用保険の基本手当(失業給付)の受給条件が不利になる
退職金が減額されることがある
会社の退職金規程では、自己都合退職の退職金を、会社都合退職に比べて減額する旨を定めているケースがよくあります。
退職金の額には、労働者の会社に対する貢献度を反映すべきであるところ、自己都合退職の場合は会社都合退職よりも貢献度に劣るという考え方があるためです。
特に勤続年数が長い場合は、自己都合退職と会社都合退職を比べると、退職金の額に数百万円以上の差が出るケースも珍しくありません。
【2025年4月改正】雇用保険の基本手当(失業給付)の受給条件が不利になる
雇用保険の基本手当の受給に関しては、給付開始時期と給付日数について、特定受給資格者・特定理由離職者に当たる場合とそうでない場合で条件に差が設けられています。
自己都合退職の場合は、正当な理由がある場合(=特定理由離職者)でない限り、雇用保険の基本手当の受給条件が不利になってしまうのでご注意ください。
基本手当の受給開始時期の違い
特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合は、受給資格の決定日から7日間が経過すれば、雇用保険の基本手当を受給できます。
これに対して、特定受給資格者または特定理由離職者のいずれにも該当しない場合は、原則として受給資格の決定日から7日間と2カ月(=給付制限期間。5年以内に2回を超える場合は3カ月)が経過するまで、雇用保険の基本手当を受給できません。
正当な理由のない自己都合退職の場合は、基本手当の受給開始時期が遅れてしまう点に注意が必要です。ただし、ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練等を受講した場合には、給付制限が解除されます。
なお、2025年4月1日から適用される雇用保険法等の改正により、特定受給資格者または特定理由離職者のいずれにも該当しない場合の給付制限期間について、以下の変更が行われる予定です。
- 自己都合退職者の給付制限期間の短縮
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・離職日前1年以内、または離職日後に、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を受講した場合は、給付制限が解除されます。
・給付制限期間が原則として、2カ月間から1カ月間に短縮されます。
基本手当の給付日数の違い
被保険者期間1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
被保険者期間1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
---|---|---|---|---|---|
全年齢 | 90日 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
上の表のとおり、特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合に比べると、正当な理由のない自己都合退職の場合は、ほとんどのケースで基本手当の給付日数が短くなってしまいます。
自己都合退職をした労働者の退職金を減額する際の注意点
企業が自己都合退職をした労働者の退職金を減額しようとする際には、以下の2点に注意しましょう。
- 退職金の減額は、退職金規程などに基づく必要がある
- 大幅な退職金の減額は、無効となるおそれがある
退職金の減額は、退職金規程などに基づく必要がある
退職金支給の根拠となっている社内規程(退職金規程など)や労働契約に何ら根拠がないにもかかわらず、企業側が退職金を一方的に減額することは認められません。
自己都合退職を理由とする退職金の減額についても、退職金規程や労働契約の根拠が必要です。労働者側から反論された場合に、根拠を明確に説明できるようにしておきましょう。
大幅な退職金の減額は、無効となるおそれがある
自己都合退職であっても、これまでの労働者の会社に対する貢献がなかったことにはなりません。
労働者の貢献度を無視して、自己都合退職であることだけを理由に大幅な退職金の減額を行うと、公序良俗違反(民法90条)によって減額が無効と判断されるおそれがあります。
自己都合退職と会社都合退職の間に退職金額の差を設けるとしても、合理的な範囲内にとどめましょう。
離職証明書に記載する離職理由の具体例
労働者が退職する際には、雇用主である企業がハローワークに「雇用保険被保険者離職証明書」を提出しなければなりません。
離職証明書には、離職理由を記載する欄があります。
雇用主である企業は「具体的事情記載欄(事業主用)」に、離職に至った原因や経緯などの具体的事情を記載しなければなりません。自己都合退職の場合は、例えば以下のような記載をすることが考えられます。
・転職希望のため
・疾病のため
・一身上の都合による
・自己都合退職
など
ただし、本当に自己都合退職に該当するかどうかは、離職に至る経緯などを踏まえて慎重に判断しましょう。
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