公序良俗とは?
民法のルール・違反の具体例・リスク・
無効を回避するための注意点などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「公序良俗(こうじょりょうぞく)」とは、「公の秩序(おおやけのちつじょ)」と「善良の風俗(ぜんりょうのふうぞく)」をまとめた総称(略称)です。
「公の秩序」は国家・社会の秩序または一般的利益を、「善良の風俗」は社会の一般的道徳観念を指します。ただし、両者は厳密に区別されておらず、「公序良俗」という表現が社会的妥当性を指すものとして用いられています。公序良俗に反する法律行為は無効です。例えば暴利行為(高利貸し)、愛人契約(妾契約)、差別的な内容の契約、犯罪を内容とする契約、一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約などは、公序良俗違反によって無効であると考えられます。
契約書の条項が公序良俗に違反している場合、その条項は無効となります。一部の契約条項が無効になると、取引について予期せぬルールが適用されてしまいます。
また、契約における重要な条項が公序良俗違反に当たる場合は、契約全体が無効となり、取引の中止に追い込まれることもあり得るので要注意です。この記事では公序良俗について、違反する契約の具体例や違反時のリスク、契約条項の無効を回避するための注意点などを解説します。
※この記事は、2023年12月25日時点の法令等に基づいて作成されています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 特定商取引法…特定商取引に関する法律
- 独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
- 下請法…下請代金支払遅延等防止法
目次
公序良俗とは
「公序良俗(こうじょりょうぞく)」とは、「公の秩序(おおやけのちつじょ)」と「善良の風俗(ぜんりょうのふうぞく)」をまとめた総称(略称)です。
「公の秩序」とは、国家・社会の秩序または一般的利益をいいます。「善良の風俗」とは、社会の一般的道徳観念を指します。
ただし、公の秩序と善良の風俗は厳密に区別されているわけではなく、「公序良俗」という表現が社会的妥当性を指すものとして用いられています。
公序良俗に反する法律行為は無効
公序良俗に反する法律行為は無効とされています(民法90条)。社会的に見てあまりにも妥当性を欠く法律行為を無効とし、法による保護を与えないようにするためです。
民法
民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
公序良俗に関する民法の規定は、その内容が非常に抽象的であるため、どのような行為が公序良俗に反するのかが必ずしも明確ではありません。このように、解釈の余地が大きい漠然とした要件を持つ規定は「一般条項」と呼ばれています。
公序良俗のような一般条項は、訴訟等において乱発的に適用すると、当事者の予測可能性を害する懸念があります。その一方で、具体的な取引における個別の事情を汲み取り、法的に妥当な解決を実現する観点から、一般条項によって結論を導かざるを得ないケースもあるのが実情です。
実務上は、可能な限り法律上の具体的な規定による解決を目指しつつ、それでは社会的妥当性が確保されない場合に、公序良俗などの一般条項による解決が行われています。
公序良俗に反する法律行為の具体例
公序良俗に反する法律行為としては、以下の例が挙げられます。
- 公序良俗に反する法律行為の例
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① 暴利行為(高利貸しなど)
② 一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約
③ 愛人契約(妾契約)
④ 差別的な内容の契約
⑤ 自由を極度に制限する契約
⑥ 犯罪を内容とする契約
⑦ 取締規定に違反する契約
暴利行為(高利貸しなど)
他人の無思慮や困窮に乗じて不当な利益を得る行為(=暴利行為)は、公序良俗違反に当たるものの典型例です。例えば、利息制限法の上限を大きく超える金利を設定した金銭の貸し付けは、公序良俗違反として無効になります。
一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約
一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約条項は、公序良俗違反によって無効となる可能性があります。例えば、不相当に高すぎる違約金を設定する条項などは、公序良俗違反と判断されやすいです。
またいわゆる「悪徳商法」と呼ばれる、消費者の無知などに付け込んで、著しく不利な条件で商品やサービスを買わせる取引も、公序良俗違反によって無効となることがあります。
悪徳商法については、消費者契約法や特定商取引法で契約の無効・取り消しに関するルールが定められていますが、法律の規定に直接抵触しない脱法的な悪徳商法もさまざま見られるところです。脱法的な悪徳商法については、取引の社会的妥当性を確保するために、公序良俗の規定に基づいて無効とする余地が残されています。
愛人契約(妾契約)
婚姻秩序や性道徳に反する契約は、公序良俗違反によって無効となります。
例えば愛人契約(妾契約)のように、婚姻外で性的関係を持つことを内容とする契約は、公序良俗に反するため無効です。また、売春などの違法行為を内容とする契約も、公序良俗に反し無効となります。
さらに、愛人(妾)の関係を維持する目的でなされた贈与や遺贈も、公序良俗に反し無効であると解されています。
ただし、贈与や遺贈の目的が愛人(妾)の関係を維持するためであったのか、それとも別の目的であったのかの区別は曖昧なケースが多いです。例えば、愛人が自分に生計を頼っている状況で、愛人の生活を保全するための贈与について、公序良俗に反しないと判断した裁判例があります(最高裁昭和61年11月20日判決)。
差別的な内容の契約
日本国憲法14条で定められている「法の下の平等」の趣旨に反する差別的な内容の契約は、公序良俗違反によって無効となります。
日本国憲法は国家権力を制約する法規範であって、私人間の法律関係には直接適用されません。
ただし、憲法による人権保障の実効化を図る観点から、憲法の趣旨を考慮して私法の一般規定を解釈することで、私人間の法律関係にも憲法を間接的に適用できると解されています(=間接適用説)。
公序良俗の規定も私法の一般規定であり、不当に差別的な内容の契約を無効化することで、憲法による人権保障の実効化に寄与しています。
自由を極度に制限する契約
当事者の自由を極度に制限する契約も、日本国憲法の趣旨に照らして、公序良俗に反するものとして無効となります。
伝統的に問題となることが多かったのは、いわゆる「人身売買」の契約です。例えば、親が借金をする代わりに子どもに強制労働や売春をさせることに同意するなどの事例が、かつてはよく見られました。
近年ではこのような人身売買の契約は減っていますが、もしこのような契約が行われれば、公序良俗違反によって無効となります。
犯罪を内容とする契約
犯罪をすることを条件として金銭を交付する内容の契約は、公序良俗に違反するため無効です。例えば、振り込め詐欺の「受け子」として働けば、詐欺による利益の一部を支払うという内容の契約は、公序良俗違反によって無効となります。
また、犯罪をしないことの対価として金銭を支払う内容の契約も、公序良俗に反して無効であると解されています。金銭が契約どおりに支払われなかった場合は犯罪を容認するという、社会的妥当性を欠く内容に解釈され得るからです。
例えば、暴力を振るわないことを条件として金銭を払う内容の契約は、公序良俗違反によって無効となります。
取締規定に違反する契約
「取締規定」とは、行政上の目的から一定の行為を禁止し、または制限する法律の規定をいいます。
取締規定には、私法上の行為の法的効力を否定する効果はないと解されています。ただし、取締規定に反する行為は社会的妥当性を欠くと思われるため、公序良俗違反によって無効となる余地があります。
例えば過去の裁判例では、以下のような行為が取締規定違反であることなどを考慮して、公序良俗違反によって無効と判断されています。
- 食品衛生法で禁止されている有毒物質が混入したアラレを販売した行為(最高裁昭和39年1月23日判決)
- 不正競争防止法および商標法に違反する、米国企業のメンズウェアの類似商品を販売した行為(最高裁平成13年6月11日判決)
- 投資取引で約束した運用利率を達成できなかった場合に、証券会社が損失を補てんする契約(最高裁平成9年9月4日判決)
契約条項が公序良俗違反により無効となった場合のリスク
契約書の条項が公序良俗違反によって無効になると、当事者である企業は以下のリスクを負うことになります。
① 契約の一部が無効となった場合|予期せぬルールが適用される
② 契約の全部が無効となった場合|取引中止・原状回復義務など
契約の一部が無効となった場合|予期せぬルールが適用される
公序良俗の規定は、契約における各条項に対して個別に適用されます。したがって、契約全体は有効に存続するものの、そのうち一部の条項だけが公序良俗違反によって無効となることもあり得ます。
無効となった契約条項に関する事項については、契約上の規定が存在しないため、民法などの法律の規定が代わりに適用されます。その結果、当事者が予期しなかったルールが適用されると、契約条項全体のバランスが不適切になったり、業務上のフローに支障が出たりするおそれがあるので注意が必要です。
契約の全部が無効となった場合|取引中止・原状回復義務など
契約の根幹をなす条項が公序良俗違反によって無効となった場合は、それに伴って契約全体が無効となることもあります。
公序良俗違反によって契約が無効になれば、その契約に基づく取引は全て中止しなければなりません。また、契約に基づいてすでに行われた給付については、原状回復を行う必要が生じます。
自社にとって無効となった取引が重要なものであれば、取引の中止によって被る損害は甚大です。また、原状回復に大がかりな対応を要する場合は、人員やコストの負担が重くのしかかります。
このように、公序良俗違反による契約の無効は、当事者にとって大きな影響を及ぼす可能性が高いので注意が必要です。
公序良俗違反による契約の無効を避けるためのポイント
公序良俗違反によって契約の全部または一部が無効となることを避けるためには、特に以下の2点に注意しましょう。
① 取引に適用される法令のルールを確認する
② 自社が強い立場でも、相手方を不当に搾取しない
取引に適用される法令のルールを確認する
会社が関与する取引に適用される法令のルールを確認することは、コンプライアンスの観点から当然に重要ですが、公序良俗違反による無効を防ぐためにも大切といえます。
これまで解説したように、犯罪を内容とする契約はもちろんのこと、行政上の取締規定に違反する契約についても、公序良俗違反によって無効となる可能性があります。したがって、自社が関与する取引に関する取締規定を正しく把握し、その内容に違反しないように取引を行うことが大切です。
法令のルールを正しく把握するためには、取引の都度情報収集を行うことに加えて、日頃から情報収集に努めることが効果的です。関連部署を対象とした従業員研修を定期的に行うことも、取引の取締規定違反を防ぐことに繋がるでしょう。
自社が強い立場でも、相手方を不当に搾取しない
前述のとおり、いわゆる暴利行為や、相手方にとって著しく不利益な内容の取引は、公序良俗違反によって無効となる可能性があります。
取引において、営利団体である会社が利潤を追及するのは当然であり、そのために相手方の利益が害されることはある程度仕方がないでしょう。
ただし、公正な取引の範疇を超えて、相手方を不当に搾取した場合は、公序良俗違反による無効のリスクが高まります。特に下請事業者に対する元請けなど、相手方に対して強い立場にある企業は、相手方を不当に搾取しないように努めることが大切です。
力関係に差がある当事者間において、力の強い側がどのように自社を律するべきかについては、独占禁止法における優越的地位の濫用に関する規定や、下請法の規定が参考になります。自社の交渉力を濫用することなく、適正な取引条件の設定に努めましょう。
独占禁止法および下請法の詳細については、以下の各記事を併せてご参照ください。
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