消費者契約法とは?
民法との関係性・取消権の概要・
クーリングオフとの違いなどを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

消費者契約法」とは、消費者と事業者が締結する契約(=消費者契約)において、情報交渉力で劣る消費者を保護するルールを定めた法律です。

消費者契約法は、主に、以下3つの規制を設けています。

1|不当勧誘による契約の取り消し
事業者による不当な勧誘が行われ、その結果として消費者契約が締結された場合、取り消しの対象となります。
2|不当条項の無効
消費者にとって一方的に不利益な消費者契約の条項は、無効となります。
3|適格消費者団体による差止請求
事業者の不当な勧誘や不当条項に対して、適格消費者団体が不特定多数の消費者の利益を擁護するために、行為の停止などを求めることができる制度です。

事業者は、消費者契約法に違反する不当勧誘を行ったり、消費者契約に不当条項を定めたりすることがないよう注意しなければなりません。

今回は消費者契約法について、基本を分かりやすく解説します。

ヒー

消費者契約法は、どのような企業が気を付けるべきでしょうか。

ムートン

BtoCビジネスを展開している企業は、必ず対応する必要があります。まずは、この記事で概要を勉強してきましょう。

※この記事は、2023年1月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

消費者契約法とは

消費者契約法」とは、消費者と事業者が締結する契約(=消費者契約)について、情報交渉力で劣る消費者を保護するルールを定めた法律です。

消費者契約法と民法の関係性・違い

消費者契約法は、民法の「特別法」として位置づけられています。

ヒー

特別法って何ですか?

ムートン

一定の期間・地域・対象だけに、特別の定めをした法令のことです。対義語として、一般法(一般的な定めをした法令)があります。

消費者契約法が適用される消費者契約は、私人間の契約であるため、基本的には民法の規定全般が適用されます。

ただし消費者契約法には、消費者保護の観点から、民法の規定を拡充した規定が設けられています。

例えば、民法では、
・重大な勘違いによる場合(錯誤
・騙された場合(詐欺
・脅された場合(強迫
に該当する場合は、契約が取り消しになると定めています。

そして消費者契約法は、事業者が不当な方法で契約をさせた場合にも、消費者は契約を取り消すことができると定め、民法よりも手厚く消費者を保護できるようなルールを定めています。

【民法と消費者契約法の整理】

消費者契約法の目的

消費者契約法の目的は、消費者契約に関して、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と、国民経済の健全な発展に寄与することです(同法1条)。

一般に消費者と事業者の間には、情報の量や質、交渉力において格差があると考えられます。事業者がノウハウ・資金力・人員などに優れている一方で、個人である消費者は取引に関する知識が乏しく、資金も少なく、相談相手もいないケースが多いからです。

ムートン

消費者契約法は、このような格差があることを前提として、消費者が事業者により不当に搾取されないように、消費者を保護するルールを定めています。

「消費者」「事業者」の定義

消費者契約法において、個人は原則として「消費者」に該当します。ただし、事業の一環で契約当事者となる個人は、消費者ではなく「事業者」に該当します(同法2条1項、2項)。

(例)個人事業主の場合

・発注元の企業と締結する事業上の契約
→「事業者」として締結

・個人的に視聴する動画サイトのサブスクリプションに関する契約
→「消費者」として締結

一方、株式会社などの法人その他の団体は全て「事業者」に該当します(同条2項)。

消費者契約法が適用される「消費者契約」の定義・例

消費者契約法が適用される「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいいます(同法2条3項)。

消費者契約の例

・個人が不動産会社から購入する不動産の売買契約
・個人が締結するサブスクリプションサービスの利用契約
・個人が締結するオンラインサロンへの加入契約
・個人が締結する通信教材の購読契約
など

※いずれも個人が事業の一環として締結するものを除く

消費者契約法とクーリングオフの違い

消費者を保護するための制度として、「クーリングオフ」という制度があります。

クーリングオフとは

契約の申し込みや契約締結から一定期間内であれば、無条件で、申し込みの撤回または解除ができる制度

大変便利な制度ですが、クーリングオフが定められているのは、消費者契約法ではなく、特定商取引に関する法律(特定商取引法)です。

特定商取引法も消費者契約法と同様に、消費者保護を目的としています。

消費者契約全般に適用される規制を定めたのが消費者契約法ですが、特定商取引法は、訪問販売など特に消費者とトラブルを生じやすい取引類型を対象に、一定の規制を定めています。

ムートン

特定商取引法も併せて勉強したい方は、以下の記事を参照ください。

消費者契約法の全体像|主な規制内容

消費者契約法における規制内容は、主に以下の3つに分類されます。

1|不当な勧誘による消費者契約の取り消し
2|消費者契約の条項の無効
3|適格消費者団体による差止請求

各規制の概要について見ていきましょう。

1|不当な勧誘による消費者契約の取り消し|取消事由・効果・行使期間

消費者契約法は、消費者契約の「取消事由」(取り消しの対象となる事実)として、一定の不当な勧誘行為を挙げており、これらに該当する勧誘により締結された消費者契約は、後から取り消すことができると定めています。

消費者契約の取消事由

消費者契約の取消事由は、以下の3つに分類されます。

誤認類型
困惑類型
過量契約

①誤認類型とは

誤認類型とは、事業者の行為によって消費者が誤認をした状態で、契約締結の意思表示をする類型です。(同法4条1項、2項)

ムートン

具体的には、以下の行為が、誤認類型に該当します。

不実告知(4条1項1号)

重要事項について事実と異なることを告げる行為

断定的判断の提供(4条1項2号)

将来における変動が不確実な事項について、確実であると告げる行為

不利益事実の不告知(4条2項)

消費者の不利益となる重要な事実を故意に告げない行為

困惑類型

困惑類型とは、事業者の行為によって消費者が困惑した状態で、契約締結の意思表示をする類型です。(同法4条3項)

ムートン

具体的には、以下の行為が、困惑類型に該当します。

不退去(4条3項1号)

消費者が事業者に対し、退去するよう意思表示をしたが、事業者がずっと居座り続ける行為

退去妨害(4条3項2号)

消費者が退去する旨の意思表示を示したが、消費者を帰らせない行為

不安をあおる告知(4条3項3号)

消費者が抱いている不安を知りながら、事業者がその不安をあおって勧誘する行為

恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用(デート商法)(4条3項4号)

消費者の抱いている恋愛感情等につけ込んで勧誘する行為

判断力の低下の不当な利用(4条3項5号)

加齢等により判断力が低下し、現在の生活の維持に不安を抱いていることを事業者が知りながら、不安をあおり勧誘する行為

霊感等による知見を用いた告知(霊感商法)(4条3項6号)

霊感等の特別な能力により、消費者にそのままでは重大な不利益が生じると不安をあおり、勧誘する行為

契約締結前に債務の内容を実施(4条3項7号)

契約締結前に、サービスを提供し原状回復を困難にさせる行為

契約を目指した事業活動の実施による損失補償請求等の告知(4条3項8号)

契約締結前にサービスを提供し、正当な理由がないのに、契約を締結しなければ損失補償を請求する旨を告げる行為

③過量契約(同法4条4項)

過量契約とは、事業者が、契約の目的物の分量などが、消費者にとって必要な量を著しく超えていることを知りながら勧誘し、契約締結の意思表示をさせる類型です。

例えば、一人暮らしであまり外出せず、日常的に着物を着ることがない高齢の消費者に対し、そのことを事業者が知りながら、その消費者を勧誘し着物を何十着も販売したといった行為が、過量契約に該当します。

ムートン

上記で挙げたほか、2023年6月1日施行の消費者契約法改正により、新たに、以下の3つが取消事由に追加されるので、注意しましょう。

・消費者を任意に退去困難な場所に同行し勧誘
・契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害
・契約目的物の現状変更

より詳しく確認したい方は、以下を参照ください。

消費者契約を取り消した場合の効果

上記で述べた不当な勧誘により契約をしてしまった場合、消費者は後から消費者契約を取り消すことができます。

取り消された消費者契約は、当初に遡って無効となります。この場合、事業者と消費者は原則として、相手方から受け取った商品や料金などを互いに返還しなければなりません(原状回復)。

ただし消費者は、事業者から給付を受けた当時、契約締結の意思表示を取り消せることを知らなかった場合には、現存利益を返還すれば足ります(消費者契約法6条の2)。

取消権の行使期間

消費者契約の取消権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(消費者契約法7条1項)。

追認できる時から1年間(霊感商法については3年間)
②消費者契約の締結の時から5年間(霊感商法については10年間)

2|無効となる消費者契約の条項

消費者の利益を不当に害されることを防ぐため、一定の条項は消費者契約法に基づき無効となります。無効となる消費者契約の条項は、以下のとおりです。

・事業者の損害賠償責任を免除する条項等
・消費者の解除権を放棄させる条項等
・事業者に対し、後見開始の審判等による解除権を付与する条項
・消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等
・消費者の利益を一方的に害する条項

ムートン

それぞれ詳しく見てきましょう。

事業者の損害賠償責任を免除する条項等

消費者契約法8条により、以下の条項は無効となります。

事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項
例:甲(事業者)は乙(消費者)に対して、本契約に基づく損害賠償責任を一切負わないものとする。

故意・重過失による損害賠償責任の一部を免除する条項
例:本契約に基づき、甲(事業者)が乙(消費者)に対して負う損害賠償責任は、請負代金の限度に限定される。

事業者に損害賠償責任の有無を決定する権限を付与する条項
例:甲(事業者)が乙(消費者)に対して損害を与えた場合、甲が適当と認める金額の損害賠償を行う。

消費者の解除権を放棄させる条項等

消費者契約法8条の2により、以下の条項は無効となります。

①事業者が契約を守らない場合でも、消費者側からの契約解除を認めない条項(解除権を放棄させる条項)
例:乙(消費者)は、甲(事業者)による債務不履行が生じた場合でも、本契約を解除できないものとする。

②事業者に消費者の解除権の有無を決定する権限を付与する条項も無効
例:乙(消費者)は、甲(事業者)による債務不履行が生じ、かつ甲が承諾した場合に限り、本契約を解除できるものとする。

事業者に対し、後見開始の審判等による解除権を付与する条項

消費者が後見・保佐・補助開始審判を受けたことのみを理由として、事業者に解除権を付与する条項は原則無効です(消費者契約法8条の3)。

例:乙(消費者)について後見開始・保佐開始・補助開始の審判がなされた場合、甲(事業者)は本契約を解除できるものとする。

ただし、消費者が事業者に対して、消費者契約の目的となる物品・権利・サービスを提供する場合は、例外的に上記の条項も有効となります。

消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等

消費者が支払う損害賠償の額または違約金を定める条項は、以下の金額を超える部分について無効となります(消費者契約法9条)。

・同種の消費者契約の解除に伴い、事業者に生ずべき平均的損害の額
遅延損害金(金銭の支払いを滞納した場合に損害を賠償する目的で支払われるお金)につき、年利14.6%を超える部分の金額

消費者の利益を一方的に害する条項

以下の要件をいずれも満たす消費者契約の条項は、不当条項として無効となります(消費者契約法10条)。

①法令中の公の秩序に関しない規定(=任意規定)に比べて、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重するものであること
②信義則に反して消費者の利益を一方的に害すること

3|③適格消費者団体による差止請求

個々の被害額は少額であるものの、被害者が多数に及ぶのが消費者契約におけるトラブルの特徴です。このような特徴を踏まえ、消費者契約法は、適格消費者団体による差止請求を認めています。

ヒー

適格消費者団体による差止請求って何ですか?

ムートン

適格消費者団体が、「不当な勧誘」「不当な契約条項」「不当な表示」などの、事業者の不当な行為をやめるように求めることです。

適格消費者団体とは

適格消費者団体」とは、消費者契約法に基づく差止請求権を行使するのにふさわしい消費者団体として、内閣総理大臣(消費者庁)の認定を受けた法人です(消費者契約法2条4項)。

認定を受けている適格消費者団体は、消費者庁のウェブサイトに掲載されています。

適格消費者団体による差止請求の要件

適格消費者団体は、以下のいずれかに該当する場合に差止請求を行うことができます(消費者契約法12条)

・事業者が、不特定かつ多数の消費者に対して、消費者契約法が禁止している「不当な勧誘」を行っている、または行うおそれがあるとき
・事業者が、不特定かつ多数の消費者に対して、「不当な契約条項」を含む消費者契約を行っている、または行うおそれがあるとき

ただし、不正な目的(相手方に損害を与えたいなど)による差止請求や、紛争の蒸し返しに当たる差止請求は認められません(同法12条の2)。

また、適格消費者団体は、不特定かつ多数の消費者の利益のために適切に差止請求権を行使し、濫用しないことが義務付けられています(同法23条1項、2項)。

2023年6月施行|改正消費者契約法のポイント

2023年6月1日から改正消費者契約法が施行され、以下の5点について変更が行われます。

①契約の取消権
②解約料の説明の努力義務
③免責の範囲が不明確な条項の無効
④事業者の努力義務の拡充
⑤適格消費者団体の要請

重要なところでは、消費者契約の取消事由や、契約条項の無効事由が追加されます。改正消費者契約法の変更ポイントについては、以下の記事を併せて参照ください。

消費者契約法に関する事業者の注意点

消費者向けにサービスを展開する事業者は、消費者契約法に関して以下の各点に注意しましょう。

・消費者に対する不当な勧誘を行わない
・契約に不当条項が含まれていないかチェック

消費者に対する不当な勧誘を行わない

消費者契約法に抵触する不当な勧誘行為をすると、消費者契約が取り消されるおそれがあります。

特に
・重要事実の不告知
・断定的判断の提供
・不利益事実の不告知
などは、自社の商品・サービスを良く見せたい思いのあまり、勧誘担当者はついやってしまいがちです。

ムートン

自社でこのような勧誘が行われないよう、消費者契約法に関する従業員研修などを実施し、勧誘時の注意点を担当者にインプットしましょう。

契約に不当条項が含まれていないかチェック|特に利用規約(約款)は要確認

消費者契約に無効な条項が含まれていると、事業者にとって予期せぬかたちに契約が変更されてしまいます。

消費者契約法は、これまでに何度も改正が行われ、無効事由も追加されてきています。古い利用規約(約款)などをそのまま利用している場合、最新の消費者契約法によれば無効となる条項が含まれている可能性が高いです。

ムートン

特に、事業者の故意・重過失により消費者に損害を与えた場合の免責規定が、一部免責であっても無効となる点は見落とされがちなので、自社の利用規約などを改めて見直しましょう。

この記事のまとめ

消費者契約法の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

消費者庁ウェブサイト「消費者契約法」

消費者庁ウェブサイト「消費者団体訴訟制度」

目黒区ウェブサイト「消費者契約法とは?」

中田邦博、鹿野菜穂子編『基本講義 消費者法[第4版]』日本評論社、2020年

安達敏男・吉川樹士著『第2版 消費者法実務ハンドブック 消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法の実務と書式』日本加除出版、2021年