生成AIと著作権の関係を
基本から分かりやすく解説

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シティライツ法律事務所弁護士
慶應義塾大学大学院法務研究科修了 2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2012~15年小松製作所(コマツ)の経営企画部門で主にクロスボーダーM&Aの法務を担当。2015~19年Baidu Japan(百度日本法人)にて法務部長と経営企画部長を兼任。百度の国際部門における法務責任者も兼務。その後現職。 2020年~株式会社ワンキャリア監査役。
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この記事のまとめ

昨今、生成AI(Generative Artificial Intelligence)が急速に発展・普及しつつあります。

そしてその中で
・生成AIが生成した創作物著作権保護対象となるのか
・生成AIの学習用データとして著作物を用いることは可能なのか
といった、さまざまな議論がなされています。

本記事では、まず、著作権の基本・著作権侵害の認定プロセスなどを確認し、その後、生成AIと著作権に関するQ&Aを解説します。

ヒー

昨今のAI技術の進歩はめざましいですよね。著作権との関係がどう整理されているのか気になるところです。

ムートン

法整備がまだ追いついていない部分もありますが、文化庁が生成AIと著作権に関する資料やセミナーを公開したりして、論点の整理が行われていますよ。

※この記事は、2023年7月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 法…著作権法

著作権とは

著作権法は、著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、文化の発展に寄与することを目的とする法律です(法1条)。このため、著作権法は著作者等の権利保護のみを重視するものではなく、文化の発展のため、著作物等の利用を円滑にすることとのバランスを大事にしています。

著作権とは、人間の創作活動の成果に権利としての法的保護を与えたものです。著作権の保護の対象は、以下のとおり、多岐にわたります。

・文章
・絵画
・イラスト
・写真
・彫刻
・音楽
・映画
・演劇
・ソフトウェア
など

※法10条1項が著作物の例を挙げていますが、そこに挙げられた「小説」や「音楽」などの典型例に限られるものではなく、人間の創作的関与が認められるものは原則として著作物としての保護を受けます。

著作権は単なるアイデアやコンセプトを保護するものではなく、創作的な表現としてアウトプットされていなければ保護の対象になりません。

また、特許権等の産業財産権と異なり、著作権はその保護のために登録等の手続きを必要とせず、創作と同時に権利が発生します(無方式主義)。一方で、権利の発生の過程に審査が介在しないことから、事後的な法律判断により著作物性が否定されることもあります。すなわち、保護される、されないの外延が産業財産権と比較すると曖昧であることも著作権の特徴といえます。

【著作権の特徴】

著作権の種類

著作権は、以下のとおり分類できます。

著作者人格権…著作者の人格的な利益を保護するもの
  ├①公表権
  ├②氏名表示権
  └③同一性保持権

著作財産権(いわゆる支分権)…著作者の財産的な利益を保護するもの
  ├①複製権
  ├②上演権・演奏権
  ├③上映権
  ├④公衆送信権・公衆伝達権
  ├⑤口述権
  ├⑥展示権
  ├⑦頒布権
  ├⑧譲渡権
  ├⑨貸与権
  ├⑩翻訳権・翻案権等
  └⑪二次的著作物の利用に関する原著作者の権利

著作権者はこれらの権利を専有(独占的に保有)しています(法21~28条)。

そして、著作財産権(支分権)として専有されている行為を行うことを「支分権該当行為」といいます。

【支分権該当行為の例】

支分権によって専有されない行為は、著作権者以外の者も自由に行うことができます。

例えば、小説を読んで楽しむこと(享受)は支分権該当行為ではありませんから、著作権者の許諾なく行うことができます。しかし、その小説をコピーしたり(複製)、その小説を元に映画を作ったりすることは(翻案)、支分権該当行為ですから、著作権者の許諾なく行うことはできません。

支分権該当行為は、著作権者からその著作物の利用の許諾(法63条1項)を受けなければ行うことができないのが原則です。

ただし、著作権法はさらに、支分権該当行為であっても著作権者の許諾なく行うことができる場合を定めています(法30条以下)。これを権利制限規定といい、代表的なものとして私的使用のための複製(法30条)や引用(法32条)があります。

権利制限規定のいずれにも該当しない場合であって、支分権該当行為について著作権者の許諾を得ていないときは、著作権侵害の可能性を検討する必要があります。

著作権侵害の認定プロセス

著作権侵害の認定には①類似性②依拠性が必要とされます。

創作された物が、既存の著作物に単に①類似するのみならず、②依拠した、すなわち、既存の著作物に接する等して自らの作品の中に用いたといえることが必要です。

①類似性

まず①類似性の是非は法的判断であり、印象として「似ている」という事のみをもって判断されるものではありません。

既存の著作物と類似しているとは、当該既存の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」をいいます。

すなわち、創作的表現において共通性が見られることが必要であり、創作性のない部分において共通性が見られるとしてもそれは「類似している」とは評価されません。またアイデアや単なる事実のみを共通にすることも「類似」とはいえません。

②依拠性

さらに②依拠性ももちろん法的概念です。

依拠とは、既存の著作物に接して、それを自らの作品の中に用いることをいいます。依拠性の判断にあたっては既存の著作物を、

  • 参照したか
  • 参照する機会があったか
  • 著名な著作物であり当然知っていたと考えられるか

等が考慮されます。

また、共通性の程度も考慮され、誤記等含めて共通している場合は依拠性が認められやすくなります。逆に、類似性が認められていてもその類似が偶然の一致にすぎない場合には、依拠性が認められず、著作権侵害が否定されます。

 このように、著作権侵害は以下の複数のステップを踏んで判断されます。生成AIと著作権の関係を考えるにあたり、まずこの枠組みを理解しましょう。

  1. (既存の作品等が)著作物といえるか
  2. 支分権該当行為か
  3. 著作権者の許諾を得ているか、または、権利制限規定に該当するか
  4. 類似性と依拠性が認められるか

【著作権侵害か否かを判断するフロー図】

生成AIと著作権の関係

文化庁の見解

2023年5月15日、内閣府AI戦略チームの第3回会合において、「AIと著作権の関係等について」と題する1ページのスライド資料(以下「令和5年文化庁資料」)が提示されました。本資料には、著作権法を所管する文化庁の、本件に対する基本的な考え方が示されています。

とはいえ、本資料は生成AIの登場によって著作権法の解釈が変わったということを述べているわけではありません。むしろ、生成AIの時代にあっても、「創作」や「著作権侵害」に対する考え方の基本は変わらないのだ、ということを示しています。

令和5年文化庁資料は、生成AIと著作権の関係について「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」を分けて考え、以下のとおり整理しています。

  • AI開発・学習段階:法30条の4の権利制限規定が及びうる
  • 生成・利用段階:従来の著作物侵害の判断における考え方が原則としてそのまま当てはまる

これまで、生成AIと著作権の関係を考えるにあたっては、法30条の4が情報解析等における著作物の利用を認めている、だから日本の著作権法は機械学習に”優しい”、という話が独り歩きするきらいにあったのですが、それは、「AI開発・学習段階」のことを言っているにすぎない、ということを改めて強調した点に、令和5年文化庁資料の意義があります。

なお、文化庁は2023年6月19日に「AIと著作権」と題するオンラインセミナーを開催し、その資料とアーカイブ動画を公開しています。このオンラインセミナーは、令和5年文化庁資料の考え方をより丁寧に説明するものになっているといえます。

生成AIと著作権をめぐる議論の経緯

生成AIに関する社会・政府の動向

日本では2010年代後半からAIを産業発展の起爆剤として期待する議論があり、

をはじめ、AI開発を推進するための枠組みが論じられてきました。

一方、AIの危険性についても政府の「人間中心のAI社会原則」(2019年)において、プライバシー、公正競争、透明性などの問題に配慮すべきことが指摘されていたものの、まだ一般の世論を喚起するには至らないものでした。

AI開発を後押しする立法的な動きとして、日本では2018年に改正著作権法が成立しました。新たに設けられた「柔軟な権利制限規定」のひとつである法30条の4により、情報解析の用に供する場合等、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用行為は原則として著作権者の許諾なく行えることが明示されました。

ムートン

これにより、AIの教師データに既存の著作物を利用することが容易になり、AI技術の発展への道筋が開かれました。

ところが、2022年に画像生成AIのMidjourneyやStable Diffusion、対話型生成AIのChatGPTが相次いで登場すると、AIがはらむ「可能性」と「危険性」が盛んに論じられるようになります。2023年3月にはアシロマAI原則で知られるFuture of Life Instituteが「巨大AI実験の停止」と題する公開書簡を発表し、GPT-4を超えるAIの開発を最低6カ月間停止することを提案しました。

AI技術と各種法令との関係

急成長するAI技術への懸念は著作権法に限った問題ではありません。個人情報保護や消費者保護など多岐にわたる分野において、AIがもたらす影響が論じられるようになっています。

個人情報保護の分野では、2023年6月2日、個人情報保護委員会がOpenAI社に対し、要配慮個人情報の取得等に関し注意喚起を行ったとして、「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」と題する文書を公表しています。

消費者保護の分野では、2023年4月25日、米国FTC等4機関が共同声明のかたちで、AIの利用により雇用や住居、融資などの分野で差別的取り扱いが生ずる可能性を指摘しています。

著作権法の分野では、現時点では、既存の著作権法の枠組みの中で、生成AIモデルの学習のためにできる行為、生成AIモデルを利用してできる行為の整理が試みられています。上述した令和5年文化庁資料はその一例です。

一方、立法論としては生成AIの発展とクリエイターの権利擁護の調整を図る方向性が論じられています。特に、LoRA(Low-Rank Adaptation)と呼ばれるファインチューニングにより、特定の画家の「画風」を模倣した画像を生成できることが示されたことがきっかけとなり、「AIによる創作行為の代替」が現実的な危機として感じられるようになりました。

そのような中で、俳優等の団体からは、AI生成物の元データ開示、クリエイターへの対価支払い義務などを求める要望が出されています。

ムートン

2023年5月9日、一般社団法人日本芸能従事者協会が、国に対し、AIを使ったコンテンツ生成などに際し、生成物の元データ開示、クリエイターへの対価支払い義務などを求める要望書を提出したとの報道があります。

日本のAI規制と海外のAI規制

欧州の動向

AIの規制に関する議論は、欧州、とりわけ欧州連合(EU)欧州評議会(CoE)によってリードされてきたといえます。

EUは2021年4月にAI規則案を公表しています。EU法上の法形式としては、EU加盟国に直接適用される「規則(regulation)」が選択されています。これは、2015年に策定されたEUの「デジタル単一市場(Digital Single Market)」戦略を念頭に、EU加盟国で共通の規制が行われるべきであり、かつ、それはこれまでAI規制に関して採用されてきた倫理原則的なアプローチではなく、「禁止」を含む強い法的強制力をもって規制されなければならない、というハードロー的なアプローチを採るという決断を示すものです。

EUのAI規則案の構成上の特徴は、リスクベース・アプローチを採っている点にあります。すなわち、さまざまなAI活用技術をその内容や利用シーンに従って

  • 禁止されるAI(許容できないリスクがあるAI)
  • ハイリスクAI
  • 透明性義務を伴うAI(限定的なリスクがあるAI)
  • 低リスクAI

に区分し、それぞれについて異なるアプローチを採ることとしています。

「禁止されるAI」には、人間の無意識下に働きかけて行動を変容させるAIや、公的機関によるソーシャルスコアリングシステムなどが挙げられています(AI規則案5条)。

また、欧州評議会は2019年よりAIに関するアドホック会合(CAHAI)を設立し、AIの開発、設計、適用のための法的枠組みの検討を開始しました。そして、CAHAIにおける検討結果を受けて、AIに関する委員会(CAI)が「AI条約」の最初の草案(ゼロドラフト)を作成し、公表しています。AI条約ゼロドラフトは、条約加盟国による立法作業をもって実効化される「枠組条約」であり、また、公的機関の義務に重点を置くなどの点でEUのAI規則とは異なりますが、リスクベース・アプローチを採用する点で共通しています。

中国の動向

一方、中国では、2023年4月11日に中国インターネット情報弁公室が「生成AIサービス管理弁法(意見募集稿)」とする規制案を公表しています(以下「弁法」。英訳)。

この規制案は、生成AIの生成するコンテンツは「他人のプライバシー、知的財産権等の侵害の禁止」などの基本原則を確認する一方、「社会主義の革新的価値を体現し」、「国家政権の転覆、社会主義制度の転覆、国家分裂の扇動、国家統一の破壊」等の内容を含んではならない、という特有の規定を有しています(弁法4条1号)。

この規定は、「インターネット安全法」をはじめとする従前の情報統制を生成AIにも適用する意図を現すものでしょう。もっとも弁法20条が定める罰金額(1万人民元以上10万人民元以下)が、巨大IT企業に課すものとしては安すぎることから、中国政府の意図は生成AIの開発を萎縮させることにはなく、むしろ促進したい意図がみえる、との香港大学アンジェラ・チャン准教授の指摘もあります。

生成AIと著作権に関するQ&A

生成AIの学習用データとして著作物を用いることは、著作権者の承諾なくできますか?

学習用データとして既存の著作物を用いることは、原則として、著作権者の承諾なくできると考えられています。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合がないかどうか、個別具体的な検討が必要です。

2019年に文化庁が公表した「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(2019年10月24日、以下「令和元年文化庁考え方」)では、AIが学習用データを学習する行為は、法30条の4第2号の「情報解析」にあたる、としています(令和元年文化庁考え方問11、10ページ)。

条文の構造上、「情報解析」にあたる場合は非享受的利用にあたりますので、AIの学習用データとして著作物を用いることは、ただし書の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にあたらない限り、権利制限規定によって著作権者の承諾なくできる行為にあたります(※)。

(※)令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」の講演資料(以下「令和5年セミナー資料」)では、法30条の4に関し「主たる目的は、情報解析の用に供する場合のような非享受目的であるものの、これに加えて享受する目的が併存しているような場合は、このような利用行為には本条は適用されません。」とされています(38ページ)。しかし、法30条4の条文の構造上、2号「情報解析」に該当する場合は、柱書の「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」にあたる、と解釈できるため、情報解析行為が法30条の4の提供を受けない場合とは、享受目的が併存する場合というより、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にあたる場合、と筆者は考えます。

問題となる「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」については、個別具体的な判断がなされると考えられます。上述の令和元年文化庁考え方には、以下のとおり記載があります。

例えば、大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為は、当該データベースの販売に関する市場と衝突するものとして「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当するものと考えられる。

文化庁「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(問9、9ページ)

もっとも、これ以外にいかなる場合に「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」といえるのかは、個別具体的に判断となります。令和5年セミナー資料では、以下のとおり記載があります。

ただし書に該当するか否かは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するかあるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、最終的には司法の場で個別具体的に判断されます。

文化庁「令和5年度著作権セミナー AIと著作権」40ページ(下線部は原文ママ)

生成AIを利用して作成した生成物に著作権は認められますか?認められるとすれば、著作者は誰になりますか?

作成プロセスの全てがAIによって担われているとすれば、そのような生成物に著作権は認められないと考えられます。

しかし実際上は、作成プロセスの一部に人間の関与がある場合も多いと考えられ、人間が担うプロセスが創作的寄与といえる場合には、その人の著作権が認められる余地があります

生成AIを利用して作成された生成物が、既存の作品と類似しています。既存の作品のクリエイターは、それに対して何か異議申立てができないのでしょうか?

生成・利用段階の行為については、通常の著作権侵害の枠組みで判断されるものの、後述のとおり、特にAI生成物における「依拠性」についてどのような判断枠組みをもつべきか、議論の途上にあります。

まず、前提として、生成AIを利用してAI生成物を作成する行為は、令和5年文化庁資料の分類に従えば「生成・利用段階」の行為ですから、「情報解析」(法30条の4第2号)にはあたりません。したがって通常の著作権侵害の枠組みで判断することになります。

前述の枠組みを、AI生成物の生成・利用段階について再度、整理します。

①(既存の作品等が)著作物といえるか
②AI生成物の生成・利用が支分権該当行為か
③AI生成物の生成・利用について著作権者の許諾を得ているか、または、権利制限規定に該当するか
④AI生成物に、既存の著作物との類似性と依拠性が認められるか

まず、①クリエイターが創作した既存の作品の著作物性は認められる前提で考えますと、最初に、②AI生成物の生成・利用が支分権該当行為かどうかを検討することになります。この点、既存の著作物との関係でみれば複製または翻案にあたる行為と考えられますから、支分権該当行為であることは認めてよいでしょう。

次に、③著作権者の許諾はないとしますと、権利制限規定に該当するかどうかを検討する必要があります。問題になりそうな権利制限規定としては私的使用のための複製(法30条)があります。AI生成物の生成・利用が、例えば私的に鑑賞する目的での複製と認められれば、適法ですが、そうでなければ(例えば、インターネット上で公開することを目的にAI生成物を生成・利用する場合は)、私的使用のための複製とは認められません。

そうすると結局、AI生成物についても①類似性と②依拠性の枠組みによって(iv)著作権侵害の有無を判断することになります。

類似性については、AI生成物についても既存の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できるか」という従来の考え方が当てはまります。既存の著作物のうち創作性が認められない部分を共通にしていても類似とはいえないことや、単なるアイデアや事実を共通にすることも類似とは認められないことも同様です。

依拠性については、AI生成物の生成・利用プロセスに鑑みた判断が必要と考えられます。すなわち生成AIの利用者が「既存の著作物に接して、それを自らの作品の中に用いた」といえるのは、いかなる場合か、という論点です。この点は議論が定まっておらず、

「元の著作物がAIの学習に用いられていれば、依拠性を認めてよい」という見解

や、

「AI生成物が、学習に用いられた元の著作物の表現と類似していれば、依拠性ありと推定してよく、その後はAI利用者の側が、元の著作物がAI生成物の作成に寄与していないことを立証すべき」であるとする見解

さらには

「AI利用者自身の独自創作であることに加えて、AI自体が学習対象の著作物をそのまま出力するような状態になっていないこと(AIの独自作成であること)」の両方がいえない限りは依拠性ありと考えるべき」という見解

まであります(令和5年セミナー資料、48ページ)。

依拠性の有無について、最終的には今後の司法判断をまつべきものであるものの、文化庁も今後、考え方の整理を進めていくとのことです(同・49ページ)。

あるクリエイターの「画風」を追加学習させた生成AIを用いて、当該クリエイターが創作したことのない「新作」を生成することは、当該クリエイターの著作権を侵害していることになりますか?

画風=アイデアのみが類似するAI生成物は、著作権侵害とはなりません。

しかし、AI生成物が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるものであり(類似性)、かつ、それに依拠して(依拠性)創作されたものである場合は、原則として著作権侵害となります(私的使用のための複製(法30条)等の権利制限規定に該当する限定的なケースを除く)。

大規模で汎用的なモデルを、より特化されたモデルへとファイン・チューニングする行為はLoRA(Low-Rank Adaptation)と呼ばれます。画像生成AIにおけるLoRAの利用の典型例として、ある汎用的なモデルに対して、特定のクリエイターの作品を多数、「追加学習」として与えることにより、特定の画家の画風を模倣した新たな画像を生成できるモデルを作成する行為があります。

ところで絵画の「画風」は法的概念ではありませんので、筆者なりに定義を試みます。ここでは仮に以下のとおり定義します(具象的なモティーフの存在しない抽象画においても「画風」が観念できるとすれば、この定義は狭すぎる可能性がありますが)。

特定のモティーフ(対象)との関係で、いかなる色彩、形態、技法等を選択するかに関するひとつのアイデアまたは複数のアイデアの組み合わせであって、観衆をして当該創作者の美術作品と他の創作者の美術作品とを区別する手がかりとされているもの

筆者の定義に従えば「画風」はアイデアですから、既存の著作物と画風のみを共通にするAI生成物には著作権法上の類似性が認められず、著作権侵害にはなりません。

しかし「特定のモティーフをどう書くか」という画風のみの模倣にとどまらず、「特定のモティーフを描いた絵画の表現の本質的特徴」の類似に至っているものであれば、それは、著作権法上も類似性を認めるべきと判断されることになりましょう。

そうしますと次に、AI生成物の依拠性を判断することになります。前述のとおりAI生成物についていかなる場合に依拠性を認めるべきかは議論が定まらない状態にあります。仮に「元の著作物がAIの学習に用いられていれば、依拠性を認めてよい」という見解や、「元の著作物の表現と類似していれば、依拠性ありと推定してよい」という見解を採った場合は、LoRAの利用行為に依拠性が認められる可能性は高いといえるでしょう。

おわりに

本記事では、生成AIと著作権との関係について、著作権法の基本的な判断枠組みがAI生成物にも適用されることを確認しました。

令和5年文化庁資料の分類によれば「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」のそれぞれについて、前者は「情報解析」の権利制限規定(法30条の4第2号)の適用場面であるが、後者は支分権該当行為(複製ないし翻案)であると考えられ、従来通りの著作権侵害の枠組みで判断されるべき問題であることを述べました。

とはいえ、著作権侵害における依拠性の要件について、生成AI利用行為に特有の判断過程が持ち込まれる可能性があり、それは未だ議論の途上であることも上に述べたとおりです。

他方で、現行の著作権法では解決できない問題も残されています。現行の著作権法では、著作権者に、生成AIの学習用データとして自分の作品が利用されたかどうかを知る権利は保障されていません。

また、著作権者は、生成AIの学習用データとして自分の作品を利用されることを拒否し、あるいは、既に作成された学習済みデータから自分の作品を除去するよう求める権利も有していません。

さらに、学習用データとして自分の作品が利用された著作権者に、その対価を補償金として支払う制度もありません。これらはみな、立法論としてその必要性を求める声はあるものの、現行の法30条の4が予定していない場面です。

しかし、最初に述べたように、著作権法は著作者等の権利保護と著作物等の円滑な利用とのバランスを取るためのシステムですので、現行の制度が生成AIの隆盛の時代にあって著作権者の権利保護が弱すぎるのであれば、将来的にはその方向での制度変更も検討される可能性が考えられます。

ムートン

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