【2025年6月施行】拘禁刑とは?
懲役や禁錮との違い・刑法改正の背景・
更生プログラムの例などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役(ちょうえき)と禁錮(きんこ)を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されます。
従来の懲役と禁錮は、刑務作業の義務があるか否かによって区別されていました。懲役の受刑者には刑務作業が義務付けられる一方で、禁錮の受刑者は刑務作業が任意とされています。
新設される拘禁刑では、刑務作業を行わせるかどうかは受刑者ごとに決定されます。さらに、受刑者の特性に応じた更生プログラムが行われます。懲役と禁錮が拘禁刑に一本化される背景には、実態として懲役と禁錮の差がなくなっている事情があります。禁錮の受刑者は懲役に比べて非常に少なく、また大部分の禁錮の受刑者が刑務作業を任意で行っているためです。
また、拘禁刑によって従来よりも柔軟な処遇を可能とし、受刑者の特性に応じた更生プログラムを実施して再犯予防を図りたいという意図も存在します。この記事では、2025年6月1日から新設される拘禁刑について、懲役や禁錮との違い・一本化される理由・更生プログラムの例などを解説します。
※この記事は、2024年11月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 改正刑法…2022年6月17日公布の「刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)」による改正後の「刑法」
- 改正刑事収容施設法…上記改正後の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」
- 刑事収容施設法…上記改正前の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」
- 刑事収容施設規則…「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する規則」
目次
拘禁刑とは
「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役(ちょうえき)と禁錮(きんこ)を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されます。
改正刑法によって懲役・禁錮が拘禁刑へ一本化
従来の刑法では、受刑者を刑事施設(刑務所など)に収監する刑罰として「懲役(ちょうえき)」と「禁錮(きんこ)」の2種類が定められていました。
しかし改正刑法の施行後は、懲役と禁錮が「拘禁刑」へと一本化されます。各犯罪について定められている法定刑も、懲役や禁錮から拘禁刑へと変更されます。
- 改正刑法の反映の例
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<改正前>
(住居侵入等)
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。引用元 │刑法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
<改正後>
(住居侵入等)
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
なお、従来の懲役・禁錮の受刑者も、改正刑法の施行に伴って拘禁刑へと移行します。
公布日・施行日
拘禁刑を新設する改正刑法の公布日および施行日は、以下のとおりです。
- 公布日・施行日
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公布日|2022年6月17日
施行日|2025年6月1日
拘禁刑と懲役・禁錮の違い
拘禁刑と懲役・禁錮は、いずれも受刑者を刑事施設(刑務所など)に拘置する刑罰です。
従来の懲役と禁錮は、刑務作業の義務があるか否かによって区別されていました。
これに対して拘禁刑では、刑務作業の要否は受刑者ごとに決定され、さらに受刑者の特性に応じたトレーニングや更生プログラムが行われることになっています。
懲役の特徴|刑務作業が義務付けられている
刑法
刑法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(懲役)
第12条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
懲役の特徴は、受刑者に刑務作業が義務付けられている点です(刑法12条2項)。
刑務作業とは、刑務所内において受刑者が行う作業で、以下の4種類があります。
- 刑務作業の種類
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① 生産作業
物品を製作する作業、および労務を提供する作業です。刑務所内に設置された工場などで働きます。② 社会貢献作業
労務を提供する作業であって、社会に貢献していることを受刑者が実感することにより、その改善更生および円滑な社会復帰に資すると刑事施設の長が特に認めるものです。
近年では、新型コロナウイルスの感染予防を目的として、民間の医療機関に提供するアイソレーションガウンが製作されました。③ 職業訓練
出所後の就労に役立つ免許や資格を取得させたり、職業に必要な知識や技能を習得させたりするための訓練です。介護福祉・建設・自動車整備・IT・溶接など、多様な分野の職業訓練が行われています。④ 自営作業
炊事や洗濯など、受刑者が刑事施設内で生活するために必要な作業です。建物の簡単な修繕や、畳替えなどを行うこともあります。
懲役の受刑者は、矯正指導の時間と合わせて、原則として1日につき8時間を超えない範囲で刑務作業を行います(刑事収容施設規則47条1項)。
刑務作業を行った受刑者に対しては、出所後の生活資金の扶助として作業報奨金が支給されます。2022年度の作業報奨金の平均支給額は、1人1カ月当たり約4,537円です。
禁錮の特徴|刑務作業は任意
刑法
刑法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(禁錮)
第13条 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、1月以上20年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(禁錮受刑者等の作業)
第93条 刑事施設の長は、禁錮受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この節において同じ。)又は拘留受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。)が刑事施設の長の指定する作業を行いたい旨の申出をした場合には、法務省令で定めるところにより、その作業を行うことを許すことができる。
懲役とは異なり、禁錮の受刑者には刑務作業が義務付けられていません(刑法13条2項)。
しかし、禁錮の受刑者が希望する場合には、刑事施設の管理運営上支障を生じるおそれがある場合や、正当な理由なく刑務作業を怠ったことがある場合を除き、刑務作業が許可されることになっています(刑事収容施設法93条、刑事収容施設規則56条1項)。
拘禁刑の特徴|受刑者に応じた刑務作業・更生プログラムなど
刑法(改正後)
刑法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(拘禁刑)
第12条 拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする。
2 拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(改正後)
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(受刑者の作業)
第93条 刑事施設の長は、受刑者に対し、その改善更生及び円滑な社会復帰を図るため必要と認められる場合には、作業を行わせるものとする。ただし、作業を行わせることが相当でないと認めるときは、この限りでない。
拘禁刑の受刑者に対しては、受刑者の改善更生や円滑な社会復帰を図るために必要と認められる場合に限り、刑務作業を行わせるものとされています(改正刑法12条3項、改正刑事収容施設法93条)。したがって、刑務作業を行うかどうかは受刑者ごとに異なります。
矯正指導と刑務作業の合計時間は、従来の懲役と同様に、原則として1日8時間以内とされています。刑務作業が免除または軽減された受刑者については、受刑者の特性に応じた更生プログラムの実施が予定されています(後述)。
拘禁刑が新設された理由
従来の懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたのは、主に以下の理由によります。
① 懲役と禁錮を区別する必要性が乏しいため
② 刑罰の目的として、再犯防止がより強調されるようになったため
懲役と禁錮を区別する必要性が乏しいため
法務省の『犯罪白書』によると、2022年の入所受刑者のうち、懲役は1万4410人(99.7%)、禁錮は44人(0.3%)、拘留は5人となっています。
また、2023年3月末現在において、禁錮受刑者の86.5%が刑務作業に従事しています。
このように、禁錮の受刑者は懲役の受刑者に比べて非常に少なく、その多くが刑務作業に従事しており、懲役と禁錮を区別する必要性が乏しくなっています。このような刑務所における状況は、懲役と禁錮を拘禁刑に一本化する契機の一つとなりました。
刑罰の目的として、再犯防止がより強調されるようになったため
犯罪者に対して科す刑罰には、犯した罪に対してペナルティを与えることに加えて、将来の犯罪を抑止するという目的があります。前者は「応報刑論」、後者は「目的刑論」という考え方を反映したものです。
特に目的刑論のうち、犯罪者に対して直接的に措置を講じることで、当該犯罪者による再犯を防止しようとする考え方は「特別予防論」と呼ばれています。
今回の刑法改正によって新設された拘禁刑は、受刑者の特性に応じた更生プログラムを、従来よりも柔軟に行うことができるのが大きな特徴です。この変化は特別予防論に沿ったもので、刑罰の目的として再犯防止がいっそう重視されるようになったことが反映されたと考えられます。
拘禁刑の受刑者に対して行われる更生プログラムの例
拘禁刑の受刑者に対しては、以下のような更生プログラムの実施が予定されています。具体的な更生プログラムの内容は、受刑者の特性に応じて個別に決定されます。
① 福祉支援課程|知的障害者・精神障害者の社会復帰を促す
② 依存症回復課程|薬物依存・ギャンブル依存などからの脱却を促す
③ 若年課程|学力向上・就労技術習得を促す
④ 新たな形の刑務作業|対人スキルの向上などを促す
福祉支援課程|知的障害者・精神障害者の社会復帰を促す
知的障害や精神障害のある受刑者に対しては、社会復帰などを支援するためのプログラムが実施される予定です。
例えば、脳を活性化して認知機能を高めるトレーニング、精神状態を安定させるために花を栽培するトレーニング、自分の考えを伝える練習として刑務所の職員と自由に会話するトレーニングなどが挙げられます。
依存症回復課程|薬物依存・ギャンブル依存などからの脱却を促す
薬物犯罪をした人や、ギャンブル依存が原因となって犯罪行為をした人に対しては、薬物依存やギャンブル依存からの脱却を促す更生プログラムが実施される予定です。
現在でも依存症回復に向けた更生プログラムは実施されていますが、拘禁刑への移行によって刑務作業の時間が調整しやすくなるため、さらに効果的な更生プログラムの実施が期待されます。
若年課程|学力向上・就労技術習得を促す
おおむね26歳未満で犯罪傾向の進んでいない若年受刑者に対しては、出所後の社会復帰に役立てるため、学力向上や就労技術習得を促す更生プログラムが実施される予定です。
少年院での矯正教育の手法や知見を活用した対話ベースの処遇を基本としつつ、個別面接や日記指導、複数の若年受刑者から成る小集団を単位としたユニット指導などが想定されています。
新たな形の刑務作業|対人スキルの向上などを促す
刑務作業についても、単純な工程を黙々とこなす従来型の作業だけでなく、改正刑法の施行に向けて新たな内容が試行されています。
例えば高松刑務所では、受刑者同士が議論して対人スキルを養う刑務作業などが実施されています。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 内部通報制度に関する研修資料 |