故意・過失とは?
両者の違い・民法と刑法の定め・
法律上問題となる場面などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

故意」とは、結果が発生することを認識していながら、あえてその行為をすることをいいます。
過失」とは、結果の発生を予見し、かつその発生を防止する注意義務を負っていたにもかかわらず、注意義務を怠って結果を発生させてしまうことをいいます。

故意は意図的・意識的であるのに対して、過失は不注意によるものである点が異なります。ただし、故意と同視すべき重大な注意義務違反については、「重大な過失(重過失)」として故意と同等の責任が発生することがあります。

故意・過失は、民法刑法の双方において問題となります。
民法上、故意・過失が問題になるのは主に「不法行為」または「債務不履行」の場面です。不法行為・債務不履行をした者は、相手方に対して損害賠償責任などを負います。
刑法上の犯罪については故意犯が原則とされていますが、一部の犯罪は過失による行為についても処罰するものとされています。

過失責任は注意義務違反によって発生しますが、注意義務の内容や程度は、当事者の立場によって異なり得る点に留意すべきです。

この記事では故意・過失について、両者の違いや法律上問題となる場面などを解説します。

ヒー

この間、会社でうっかり花瓶を倒して、書類を水浸しにしてしまいました…。

ムートン

それは「過失」ですね。場合によっては、弁償(損害賠償)が必要になることもあります。「故意」と「過失」について、確認していきましょう。

※この記事は、2024年1月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

故意・過失とは

故意」と「過失」は、いずれも法律上の責任の根拠となる主観的状態です。民事責任・刑事責任についてはいずれも原則として、故意または過失の存在が要件とされています。

故意とは

故意」とは、結果が発生することを認識していながら、あえてその行為をすることをいいます。

ムートン

例えば、他人の物であると知っていながらその物を売却して、所有者に損害を及ぼす行為は故意によるものです。

過失とは

過失」とは、結果の発生を予見し、かつその発生を防止する注意義務を負っていたにもかかわらず、注意義務を怠って結果を発生させてしまうことをいいます。

ムートン

例えば、車を運転中にハンドルの操作を誤り、他の車と衝突して相手車両の運転者にケガを負わせる行為は過失によるものです。

故意と過失の違い

故意は意図的・意識的であるのに対して、過失は不注意によるものである点が異なります。

道義的には、故意の方が過失よりも強く非難されるべきです。
法的にも、刑事責任については原則として故意を必要とし、過失犯の処罰は例外であるという差が設けられています。

これに対して、民事責任については故意・過失のいずれによるかを問わず、相手方が被った損害額によって損害賠償責任の大きさが決まります。ただし、一部の民事責任については故意が要件とされているほか、契約の定めによって故意が責任要件とされる場合があります。

重過失(重大な過失)と軽過失の違い

過失は、「重過失(重大な過失)」と「軽過失」に区別されることがあります。両者の違いは以下のとおりです。

重過失と軽過失の違い

① 重過失(重大な過失)
わずかな注意を払えば違法な結果が避けられたにもかかわらず、その注意を怠ったことをいいます。重過失によって違法な結果を引き起こした場合には、故意と同視すべきものとして、故意がある場合に準じた法的責任を負うことがあります。

② 軽過失
重過失に当たらない過失です。具体的には、立場に応じた通常の注意を払えば違法な結果が避けられたにもかかわらず、その注意を怠ったことをいいます。

法律や契約の条文において、単に「過失」と記載されている場合は重過失と軽過失の両方を指します。これに対して、敢えて「重大な過失」や「過失(重大な過失を除く)」と明記して、重過失または軽過失のいずれか一方だけを指示するケースもあります。

民法・刑法の条文に見る故意・過失

民法・刑法の条文の中で、故意・過失が定められているものを紹介します。

民法上の故意・過失

民法では、不法行為の条文において「故意」「過失」が明記されています(民法709条)。

民法
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

また、条文上「故意」「過失」とは明記されていませんが、債務不履行責任についても故意・過失が問題になります(民法415条1項)。「債務者の責めに帰することができない事由による」とは、債務者に故意・過失がない(=責任がない)ことを意味します。

民法
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 略

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刑法上の故意・過失

刑法では、故意を「罪を犯す意思」と定義し、故意がない行為は原則として罰しない旨を定めています(刑法38条1項本文)。

刑法
(故意)
第38条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

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「ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」(刑法38条1項但し書き)という文言は、過失犯を想定したものです。すなわち過失犯については、刑法その他の法律に特別の規定がなければ処罰されません

一例として、過失傷害罪・過失致死罪・業務上過失致死傷罪が処罰の対象とされています(刑法209条~211条)。

刑法
(過失傷害)
第209条 過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

(過失致死)
第210条 過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

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故意・過失が法律上問題となる場面・具体例

民法・刑法の規定との関係で、実際に故意・過失が問題となる場面の具体例を紹介します。

債務不履行

債務不履行」とは、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないこと、または債務の履行が不能であることをいいます。
債務不履行が債務者の責めに帰すべき事由(=故意・過失)による場合には、債務者は債権者に生じた損害賠償しなければなりません(民法415条1項)。

債務不履行の例

・借りたお金を期限までに返さなかった。
・依頼した工事を約束の期日までに完了しなかった。
・契約に従って提供すべきサービスを提供しなかった。
など

ムートン

ざっくりいうと、「契約を守らなかった・守れなかった」というのが「債務不履行」ですね。

なお、債務者が債務を履行しない場合、債権者は履行を催告した後に契約を解除できます(民法541条)。また、無催告解除が認められる場合もあります(民法542条)。
契約の債務不履行解除については、債務者の責に帰すべき事由(=故意・過失)は不要とされています。

不法行為|契約締結上の過失を含む

不法行為」とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害することをいいます(民法709条)。不法行為をした者は、相手方が被った損害賠償しなければなりません。

不法行為の例

・相手を殴ってけがをさせた。
・インターネット上で誹謗中傷をした。
・他人の著作物を無断で盗用した。
など

ムートン

ざっくりいうと、「法を破って、他人に不利益を与えた」というのが「不法行為」です。

なお、まだ契約を締結していない段階でも、具体的な交渉段階に入って特別の信頼関係が生じた場合には、契約締結を不当に拒否しない信義則上の注意義務が発生すると解されています。

このような注意義務に違反することは「契約締結上の過失」と呼ばれており、不法行為に基づく損害賠償責任が発生します。

その他、民法上故意・過失が問題となる場面

上記のほか、民法では以下の規定において故意・過失が要件とされています。

故意
・故意に条件の成就を妨げたとき(民法130条1項)
→相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる

故意または過失
・弁済をするについて正当な利益を有する者(=代位権者)がある場合において、債権者が故意または過失によって担保を喪失し、または減少させたとき(民法504条1項)
→代位権者は、担保の喪失・減少によって償還を受けることができなくなる限度で責任を免れる

・解除権者が故意もしくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、もしくは返還できなくなったとき、または加工もしくは改造によって他の種類の物に変えたとき(民法548条)
→解除権は消滅する

・故意または過失によって一時的に責任能力を欠いたとき(民法713条)
→原則どおり不法行為責任を負う

過失
・錯誤が表意者の重大な過失によるものであるとき(民法95条3項)
→錯誤による意思表示の取り消しが認められない

・錯誤、詐欺または強迫によって意思表示を取り消す場合において、第三者がその原因について善意かつ過失がないとき(民法95条4項・96条3項)
→取り消しを第三者に対抗できない

・無権代理であることについて、第三者が過失により知らなかったとき(民法109条1項・112条1項・117条2項2号)
→表見代理が成立せず、無権代理人の責任も追及できない

・所有の意思をもって、平穏に、かつ公然と他人の物を占有した者が、占有開始時に善意かつ過失がなかったとき(民法162条2項)
→10年間占有を継続すれば時効取得できる(過失があった場合は20年間)

など

刑法上の犯罪|故意犯が原則、過失犯は例外

前述のとおり、刑法上の犯罪については、原則として故意が要件とされています(刑法38条1項)。

故意犯の例

傷害罪(刑法204条)
名誉毀損罪(刑法230条)
窃盗罪(刑法235条)
詐欺罪(刑法246条)
横領罪(刑法252条)
器物損壊罪(刑法261条)
など

過失犯を処罰するためには、法律上の規定が必要です。刑法では、以下の犯罪について過失行為を処罰するものと定められています。

過失犯の例

業務上失火等罪(刑法117条2項・117条の2)
過失建造物等浸害罪(刑法122条)
過失往来危険罪(刑法129条1項)
過失傷害罪(刑法209条)
過失致死罪(刑法210条)
業務上過失致死傷罪(刑法211条)
など

ヒー

なんだか重大な犯罪が並んでいますね…。

ムートン

「過失」でも処罰しなければならない犯罪行為は限られているといえます。

過失責任のボーダーライン|注意義務の内容・程度は立場によって変わる

法律上の過失責任は、「違法な結果を予見した上で回避する」という注意義務違反したことによって発生します。
注意義務の内容程度は、行為者の立場によって異なる点に注意が必要です。

例えば、専門的知識を有する人が行う業務上の行為については、高度の注意が要求されます。これに対して、一般の人が善意でする行為については、高度の注意を義務付けることは酷であるため、要求される注意義務の水準は低くなります。

実際に訴訟において過失責任の成否が争われる際には、裁判所は行為者の注意義務の内容や程度を具体的に認定した上で、注意義務違反の有無を判断しています。
相手方の過失を理由に、不法行為や債務不履行に基づく損害賠償請求する際には、相手方がどのような内容・程度の注意義務を負っていたかを具体的に主張することが大切です。

損害賠償責任の過失相殺について

債務不履行に基づく損害賠償責任については、債権者側にも過失がある場合には、過失相殺を行って損害賠償減額するものとされています(民法418条)。

不法行為についても同様に、被害者側の過失による過失相殺が認められています(民法722条2項)。不法行為についての過失相殺は任意ですが、実務上は、被害者側の過失が認められる場合は過失相殺が行われるケースが大半です。

ムートン

過失相殺は損害賠償額に大きな影響を与えることが多いので、損害賠償を請求する側・される側のいずれにおいても慎重な検討が必要です。

故意・過失が要件とされていない法的責任の例

法律上の責任は故意または過失によって発生するのが原則ですが、例外的に以下の責任などについては、故意・過失がなくても発生します(=無過失責任)。

無過失責任の例

・無権代理人の相手方に対する履行責任または損害賠償責任(民法117条)
・委任者の受任者に対する損害賠償責任(民法650条3項)
・工作物責任(民法717条)
・取締役が自己のためにした取引に関する損害賠償責任(会社法428条)
・製造物責任(製造物責任法)
など

ムートン

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