物権的請求権とは?
3つの種類・具体例・要件・請求方法などを
分かりやすく解説!
※この記事は、2024年10月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
物権的請求権とは
物権的請求権とは、自らがもつ物権を妨害された者や妨害されそうな者が、妨害者に対して、その妨害を排除したり予防するために必要な行為を請求できる権利をいいます。
物上請求権とも呼ばれます。
物権とは
物権とは、物を直接的に支配する権利をいいます。
物権は、物を直接支配する権利ですから、排他的であり、同一の物に同一の内容の物権が並立することはありません。
また、物権は債権よりも優先されます。
(物権の性質)
① 直接支配権
② 排他性(一物一権主義)
③ 優先的効力
物権の種類は、原則として民法に定められており、主に以下のようなものがあります(物権法定主義)。
- 物権の種類
-
① 所有権
② 占有権
〈用益物権〉
③ 地上権
④ 永小作権
⑤ 地役権
⑥ 入会権
〈担保物権〉
⑦ 留置権
⑧ 先取特権
⑨ 質権
⑩ 抵当権
物権的請求権の根拠|民法の条文には書いていない?
物を所有している人は、法律の制限内でその物を他人に邪魔されることなく支配し、自由に利用・処分する権利を持っています。
その権利を保つため、物の所有者には、他人の不当な干渉により物に対する自由な支配を妨害されている場合には、妨害を排除し、所有権を実現するための救済手段が与えられます。
これが、物権的請求権です。
物権的請求権は、民法上に規定はありませんが、物権を実効性あるものとするために必要な権利ですから、物権の性質から当然に認められるものです。
物権的請求権は、基本的には所有権を根拠としていますが、用益物権や担保権についても、その物権の性質に応じ、認められています。
物権的請求権の法的性質
物権的請求権は、自分が有する物権の実現を妨害された時に、妨害した他人に対して発生する権利であり、物権から派生した権利です。
そこで、物権とは分けて、物権的請求権だけを他人に譲渡することはできません。
また、物権的請求権だけが物権と別に消滅時効にかかることもありません。
契約上の請求権との関係
物権と契約上の請求権は別の権利ですから、一つの事案に対して物権に基づく請求権と契約上の請求権が同時に発生することがあります。
例えば、AさんがB君に自転車を貸したけれど、期限をすぎても返してくれなかった場合、Aさんは、B君に対して、以下のような性質が異なる2つの請求権に基づき自転車の返還を求めることができます。
①所有権に基づく物権的請求権としての返還請求権
②賃貸借契約に基づく債権的請求権としての返還請求権
この2つの請求権は、例えば、①には消滅時効がないが、②には消滅時効があるなど、性質が異なりますが、その2つの権利の間に優先劣後はなく、いずれの権利も行使できます(請求権競合)。
占有訴権との違い
物権的請求権に似たものとして、占有訴権があります。
占有訴権は、占有を妨害された者や妨害されそうな者が、自己の占有を守るために行使することができる権利です。
占有訴権は民法に定められており、以下の3種類があります。
① 占有保持の訴え(民法198条)
占有者が、その占有を侵奪以外の方法で妨害された場合にその妨害の停止と損害賠償を請求する権利
② 占有保全の訴え(民法199条)
占有者が、その占有を妨害されるおそれがある場合に、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求する権利
③ 占有回収の訴え(民法200条)
占有を奪われた者が占有物の返還と損害賠償を請求する権利
占有訴権と物権的請求権は似た権利ですが、例えば、以下のような違いがあります。
- 占有回収の訴えの場合、「占有者の意思に反して占有が奪われた」場合に限って請求することができる
- 占有回収の訴えは、占有が奪われてから1年以内に訴え提起をしなければならないなど、占有訴権では訴えることができる期間が限られる(民法201条)
物権的請求権と占有訴権は別の権利ですから、一つの事案に対して2つの権利が同時に発生することがあります。
例えば、CさんがD君に自転車を盗られた場合、Cさんは、D君に対し、物権的請求権としての返還請求権と占有回収の訴えとしての返還請求権の2つの請求権を有しています。
この2つの請求権は、同時に行使することができます(民法202条1項)。
逆に、所有権と占有訴権が対立する場面もあります。
例えば、EさんがF君に自転車を貸していたが期限を過ぎても返してくれないのでむりやり自転車を取り戻した場合、F君は占有訴権に基づきEさんに対し返還請求をすることができます。
この場合、Eさんは所有者ではありますが、民法では、占有訴権に対し、自分に所有権があるから返還義務はないという抗弁を出すことはできないと定められており、F君の返還請求が認められます(民法202条2項)。
このように、占有訴権は、自力救済の禁止を担保するための制度としての意義も有しています。
3種類の物権的請求権とは|具体例・要件
物権的請求権には、以下の3種類があります。
- 物権的請求権の種類
-
① 返還請求権
② 妨害排除請求権
③ 妨害予防請求権
1|返還請求権とは
返還請求権の内容
返還請求権とは、第三者が占有権限がないにもかかわらず物を占有している場合に、所有者が占有者に対し、その返還を求める請求権です。
返還請求権の具体例
返還請求権の具体例としては、以下のようなものがあります。
- 空き家になっていた建物に勝手に住みついた者に対し、所有者が明け渡しを請求する
- 自転車を盗んだ者に対し、所有者が自転車の引き渡しを請求する。
- 盗まれた自転車が第三者の敷地内に放置された場合に、所有者が敷地所有者に対し自転車の引き渡しを請求する。
返還請求権が認められる要件
返還請求権が認められるための要件は、以下のとおりです。
① 自分が、物の所有権を有していること
② 相手が占有権限がないにもかかわらずその物を占有していること
物権的請求権は、物権が侵害されたことに対する救済措置ですから、自分が物に対する権利を持っており、相手が自分の持つ物権を権限なく妨害している状態にあれば、請求が認められます。
相手方がその状態を作り出したかどうかや、故意・過失があるかは関係ありません。
例えば、Aさんの自転車を盗んだ犯人が、使い終わった自転車をB君の敷地内に放置した場合、B君は、自転車を権限なく占有している状態にありますが、自転車窃盗には関与しておらず、故意や過失もありません。
このような場合、B君には故意や過失はないので、AさんはB君に対し、不法行為に基づく請求はできませんが、物権的請求権に基づき返還請求をすることができます。
2|妨害排除請求権とは
妨害排除請求権の内容
妨害排除請求権とは、物を占有する以外の方法で物権の妨害が生じている場合に、妨害された物権の保有者が、妨害者に対し、その妨害を排除することを請求する権利です。
妨害排除請求権の具体例
妨害排除請求権の具体例としては以下のようなものがあります。
- 自分の土地に隣接地から土砂が流入したため、隣接地の所有者に土砂の除去を請求する。
- 自分の土地の上に無断で建物を建てられたため、その建物の収去を請求する。
- 自分の土地が他人の登記名義となっているため、抹消登記請求をする。
また、以下の場合など、騒音等の生活妨害や日照妨害に対して、所有権に基づく妨害排除請求としての差止請求が認められる場合があります。
大音量が生じるカラオケボックスを営業している者に対し、近隣家屋の所有者が、受容限度を超えた生活妨害があるとして、物権的請求権に基づき、深夜の営業の差し止めを請求する。
さらに、以下の場合など、所有権以外の物権に基づく妨害排除請求が認められる場合もあります。
抵当権を有する建物を不当に占拠している者に対し、不当占拠により抵当権の価値が損なわれるとして抵当権に基づく妨害排除請求としての明け渡しを請求する。
妨害排除請求権が認められるための要件
妨害排除請求の認められる要件は以下のとおりです。
① 対象である物に対し物権(所有権・抵当権等)を有していること
② 自分の有する物権の行使が権限なく妨害されること
妨害排除請求も、返還請求と同じく、自分の物権の行使が妨げられる状態であれば認められ、相手方に故意や過失があるかは関係ありません。
3|妨害予防請求権とは
妨害予防請求権の内容
妨害予防請求権とは、将来、物権侵害が生じる可能性が強い場合に、妨害の予防を請求する権利です。
返還請求や妨害排除請求が、物権侵害が生じた後の手段であるのに対し、妨害予防請求権は、損害を未然に防ぐことを目的としています。
妨害予防排除請求権の具体例
妨害予防請求権の具体例としては以下のようなものがあります。
- 隣地の所有者が土地を深く掘り下げたため、自己の所有土地が崩れるおそれが生じた場合に、がけ崩れが生じないための措置を請求する
- 隣地の家が傾いており、自己の所有地に倒壊してくるおそれが生じた場合に、倒壊を防止する措置を請求する
妨害予防請求権が認められるための要件
妨害予防請求の認められる要件は以下のとおりです。
① 対象である物に対し物権(所有権・抵当権等)を有していること
② 自分の有する物権の行使が権限なく妨害されるおそれがあること
妨害予防請求では、侵害のおそれがあれば、妨害が現実に生じることは必要ありませんが、そのおそれは客観的に存在する必要があります。
また、原則として、返還請求や妨害排除請求と同じく、妨害のおそれは、相手方の行為によって生じる必要はありません。
ただし、隣地間の問題の場合、自然状態のがけが崩れるおそれがあるなど妨害のおそれが隣地所有者の人為的作為に基づくものではないときには、相隣関係により調整すべきといった理由により、妨害予防請求が認められにくくなっています。
物権的請求権を請求する方法
請求の相手方
請求の相手方は、請求時点で物権の妨害を行っているか妨害するおそれがある者です。
妨害がその者の行為によって生じたか否かは関係ありません。
例えば、以下のような者が相手方となります。
- 請求の相手方
-
(1)返還請求権の相手方
① 請求者の自転車を盗んで保有している者
② 請求者の自転車を盗んだ者がその自転車を他人の敷地に放置した場合のその敷地の所有者
③ 請求者の有する家に勝手に住み着いている者(2)妨害排除請求権の相手方
① 請求者の敷地に無権限で建てられた建物の所有者
② 請求者の土地について虚偽の所有権移転登記がなされている場合の所有権移転登記名義人
③ 請求者の隣地の土砂が流れ込んだ場合の隣地所有者
④ カラオケボックスの深夜営業が受任限度を超えている場合のカラオケボックスの経営者(3)妨害予防請求の相手方
① 隣地の所有者が土地を深く掘り下げたため請求者の所有土地が崩れるおそれが生じた場合の隣地の所有者
② 隣家が傾いており、自己の所有地に倒壊してくるおそれが生じた場合の隣家所有者
請求の方法
請求者が物権的請求権を行使する場合、まずは裁判外で請求を行いますが、相手方が請求を受け入れない場合には、裁判所に対し、物権的請求権に基づき具体的な行為を請求する訴訟を提起することができます。
例えば、上記「請求の相手方」記載の各例に対応する請求として、以下のような請求が考えられます。
(1)返還請求権
① 自転車の引渡請求
② 自転車の引渡請求
③ 建物の明渡請求
(2)妨害排除請求権
① 建物収去土地明渡請求
② 土地についての所有権移転登記抹消請求
③ 土砂撤去請求
④ カラオケボックスの深夜営業差止請求
(3)妨害予防請求権
① 請求者の土地が崩れないような措置としての擁壁設置請求
② 隣家が倒壊しないような措置としての家屋倒壊予防措置請求
強制執行の方法
訴訟に勝訴した場合、相手方は、請求により認められた措置を行う義務を負います。
しかしながら、相手方が自発的に義務を履行しない場合、請求者は、強制執行手続をとることにより強制的に義務を履行させることができます。
強制執行とは、相手方が義務を履行してくれない場合に、国家権力により強制的に債務を履行させる手続きをいいます。
強制執行の方法としては、i以下の3種類があります。
① 直接強制
② 代替執行
③ 間接強制
直接強制
直接強制とは、国家権力が実力で債務を直接実現させる方法をいいます。
物の引渡しなど、債務者の協力がなくとも、国家権力が実力で実行できる債務について行われる執行方法です(民事執行法168条・169条)。
上記「請求の相手方」記載の各例でみると、以下のものについては直接強制が可能です。
(1)返還請求権
① 自転車の引渡請求
② 自転車の引渡請求
③ 建物の明渡請求
代替執行
代替執行とは、裁判所の決定に基づき、債務者以外の者が債務者に代わって債務を履行し、その費用を債務者に請求する方法です(民事執行法171条)。
建物収去などの「なす」債務のうち、第三者が替わりに行うことができる債務において行われます。
上記の各例でみると、以下のものについては代替執行が可能です。
(2)妨害排除請求権
① 建物収去土地明渡請求
③ 土砂撤去請求
(3)妨害予防請求権
① 請求者の土地が崩れないような措置としての擁壁設置請求
② 隣家が倒壊しないような措置としての家屋倒壊予防措置請求
間接強制
間接強制とは,債務を履行しない債務者に対し一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを警告(決定)することで債務者に心理的圧迫を加え,自発的な債務の履行を促す方法です(民事執行法172条)。
「なす」債務のうち債務者でなければできない債務については、間接強制による必要があります。
上記の各例でみると、以下の例については、債務者にしか行うことができない債務ですから、間接強制の方法でしか、強制執行を行うことができません。
(2)妨害排除請求権
④カラオケボックスの深夜営業差止
なお、直接強制や代替執行が可能な債務についても、債権者の申立により、間接強制の方法によることも可能です(民事執行法173条1項)。