【2022年5月・2023年6月施行】
著作権法改正とは?
図書館関係の権利制限規定
(31条)の見直しを分かりやすく解説!

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10分で読める!2024年施行予定の法改正まとめ
この記事のまとめ

著作物の公正な利用を確保するため、著作権法は、例外的に、著作権者の許諾なく著作物を利用できる場合を定めており、これは一般に「権利制限規定」と呼ばれます。

さまざまな権利制限規定のうち、著作権法31条(図書館関係の権利制限規定)が、2021年6月2日に公布された改正著作権法により改正されました。

具体的には、2022年5月1日より、国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信が認められるようになり、利用者はリモートで絶版等資料(絶版の資料や入手困難な資料)を取得できるようになりました。

そして、2023年6月1日からは、各図書館等による図書館資料のメール送信等が認められるようになる予定で、調査研究を行う方にとってはさらに利便性が向上します。

今回は、図書館関係の権利制限規定の見直しに関して、著作権法改正の内容を詳しく解説します。

ヒー

コロナの影響で、図書館の利用に関するルールが見直されると聞きました。

ムートン

国民の生活スタイルが変わったことに伴い、図書館資料の閲覧などを柔軟にできるよう、複数の改正が行われます。

※この記事は、2023年2月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・著作権法…著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)第2条による改正後の著作権法
・旧著作権法…著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)第1条による改正後、同法第2条による改正前の著作権法
・著作権法施行令…著作権法施行令の一部を改正する政令(令和4年政令第405号)による改正後の著作権法施行令

【2022年5月・2023年6月施行】著作権法改正とは|図書館関係の権利制限規定(31条)の見直し

2021年6月2日に公布された改正著作権法には、著作権の対象となる図書館資料の利用について、公益の観点から著作権に制限を加える新規定が盛り込まれました。

改正法による主な新規措置は以下の2点で、①は2022年5月に施行済み、②は2023年6月から施行される予定です。

①国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信
→国立国会図書館が保管している絶版等資料の一部につき、利用者宛のデータ送信が可能となりました。

②各図書館等による図書館資料の公衆送信
→各図書館等に保管されている資料につき、調査研究目的かつ一定の要件を満たす場合には、データによる取得および全部の複製が可能となります。

改正著作権法の公布日・施行日

改正の根拠となる法令名は、「著作権法の一部を改正する法律」です。公布日と施行日は、以下のとおりです。

公布日・施行日

公布日|2021年6月2日
施行日|
①国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信(第1条関係)
→2022年5月1日
②各図書館等による図書館資料の公衆送信(第2条関係)
→2023年6月1日

改正点①|国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信

改正法によって新たに設けられた措置の1つ目は、国立国会図書館が保管している絶版等資料の一部につき、利用者宛のデータ送信を可能とするものです。

「絶版等資料」とは

絶版等資料」とは、絶版その他これに準ずる理由により、一般に入手することが困難な図書館資料をいいます(著作権法31条1項3号)。

ムートン

「絶版」はあくまでも例示に過ぎず、現に「一般に入手することが困難」といえるか否かによって、絶版等資料に該当するか否かが判断されます。

絶版等資料に該当するものの例

・紙の書籍が絶版となっており、電子出版などもされていないもの
・将来的な復刻などの構想があるが、現実化していないもの
・最初からごくわずかな部数しか発行されていないもの(大学紀要、郷土資料など)

絶版等資料に該当しないものの例

・紙の書籍が絶版となっているが、電子出版などがされているもの
・値段が高く、経済的な理由で購入が困難であるに過ぎないもの
・海外から取り寄せる必要があるなど、入手までに一定の時間を要するが、入手自体は可能なもの

従来の制度の問題点|絶版等資料の閲覧が困難な場合があった

従来の著作権法でも、国立国会図書館が公共図書館や大学図書館に対して、絶版等資料のデータを送信することは認められていました。

しかし、利用者宛の直接送信は認められていなかったため、利用者が絶版等資料のデータを閲覧するためには、公共図書館や大学図書館等に足を運ばなければなりませんでした。こうした従来の制度については、以下の場合に絶版等資料の閲覧が困難となる問題点が指摘されていました。

・感染症対策などのために図書館が休館している場合
・病気などで図書館に行けない場合
・近隣に図書館が存在しない場合

感染症対策等のために図書館が休館している場合

2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行により、全国各地の図書館が相次いで休館に追い込まれました。

感染症対策などのために近隣の図書館が休館している状況では、絶版等資料のデータを閲覧する場所がなく、事実上閲覧の機会が奪われていました。

病気などで図書館に行けない場合

脚が不自由・寝たきり・高齢などの理由で、図書館に足を運ぶことが困難な方もいますが、従来の制度では、このような方が絶版等資料のデータを閲覧することは事実上不可能でした。

近隣に図書館が存在しない場合

過疎地域では、そもそも近隣に図書館が存在しない場合もあります。遠方の図書館へ足を運べば絶版等資料のデータを閲覧することはできますが、時間的・経済的に大きな負担を利用者に強いている状況でした。

著作権法改正による変更点

今回の著作権法改正により、絶版等資料のデータ利用については以下の変更が行われ、利用者にとっての利便性が向上しました。

①特定絶版等資料につき、利用者宛データ送信が可能に
②一定の限度で利用者による複製・公の伝達が可能に

特定絶版等資料につき、利用者宛データ送信が可能に

国立国会図書館は、以下の要件をいずれも満たすことを条件として「特定絶版等資料」のデータの自動公衆送信を行えるようになりました(旧著作権法31条4項・著作権法31条8項)。

①あらかじめ国立国会図書館に氏名・連絡先などの情報を登録している者(=事前登録者)に対して提供する目的であること
②自動公衆送信の受信者が、受信の際に事前登録者であることを識別するための措置を講じていること(ID・パスワードによるログインを想定)

「特定絶版等資料」とは、絶版等資料であって、国立国会図書館の館長が著作権者等の申出を受け、当該申出のあった日から起算して3カ月以内に絶版等資料に該当しなくなる蓋然性が高いと認めた資料ではないものをいいます(旧著作権法31条6項・7項、著作権法31条10項・11項)。

例えば、絶版となって電子出版などもされていなかったものの、3カ月以内の再出版が決まった書籍は、実際に出版されるまでは「絶版等資料」に当たるものの、「特定絶版等資料」には当たりません。したがってこのような書籍については、国立国会図書館からデータ送信を受けることはできません。

一定の限度で利用者による複製・公の伝達が可能に

国立国会図書館から特定絶版等資料のデータの自動公衆送信を受信した者は、以下の行為を行うことができます(旧著作権法31条5項・著作権法31条9項)。

①自動公衆送信された著作物を、自ら利用するために必要と認められる限度で複製すること
②非営利・無償などの要件の下で、ディスプレイなどを用いて、自動公衆送信された著作物を公に伝達すること

改正点②|各図書館等による図書館資料の公衆送信

改正法によって新たに設けられる2つ目の措置は、各図書館等に保管されている資料につき、一定の条件下でメール送信等や全部の複製を可能とするものです。

従来の制度の問題点|調査研究資料の簡易・迅速な入手が困難

旧著作権法31条1項1号では、国立国会図書館や公共図書館・大学図書館等は、利用者の調査研究のため、公表された著作物の一部分を複製・提供することが認められています。

しかし、旧著作権法に基づく調査研究資料の複製・提供については、以下の問題点が指摘されていました。

・著作物の一部分しか複製できない
・メールなどでの送信は不可|即時性に欠ける

著作物の一部分しか複製できない

旧著作権法において、調査研究目的で著作権者の許諾なく複製が認められるのは、著作物の「一部分」のみとされています。

実務運用上、著作物全体の半分までは複製が認められていますが、全体の複製は認められていません。したがって全体を閲覧したい場合には、図書館等に足を運ぶなどの対応をとる必要がありました。

メールなどでの送信は不可|即時性に欠ける

旧著作権法の規定上、調査研究目的で複製された図書館資料を、利用者へメールなどで公衆送信することは認められていません。

したがって、調査研究目的で複製された図書館資料は図書館等の窓口で受け取るか、または郵送してもらう必要があります。

図書館等が近くになければ足を運ぶのは大変ですし、郵送は数日間のタイムラグが生じます。そのため、簡易・迅速な調査研究資料の入手が困難である問題点が指摘されていました。

著作権法改正による変更点

今回の著作権法改正により、図書館等による図書館資料の公衆送信につき、2023年6月以降は以下の変更が適用されます。この変更により、利用者は図書館等にある調査研究資料を、従来よりも簡易・迅速に入手できるようになります。

①特定図書館等による調査研究資料のメール送信等が可能に
②一定の調査研究資料については、全部の複製が可能に

特定図書館等による調査研究資料のメール送信等が可能に

特定図書館等は、氏名・連絡先等の利用者情報を登録した者の求めに応じ、調査研究のために、公表された著作物の一部につき、以下の行為を行うえるようになります(著作権法31条2項)。

①図書館資料を用いて、②の公衆送信のために必要な複製を行うこと
②図書館資料の原本または複製物を用いて公衆送信を行うこと

ただし、当該著作物の種類・用途・特定図書館等が行う公衆送信の態様に照らし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、上記の行為は認められません(同項ただし書き)。

なお「特定図書館等」とは、図書館等のうち次の要件を備えるものをいいます(同条3項)。

①公衆送信業務を適正に実施するための責任者が置かれていること
②公衆送信業務に従事する職員に対し、当該業務を適正に実施するための研修を行っていること
③利用者情報を適切に管理するための措置を講じていること
④公衆送信したデータの情報が、調査研究目的以外の目的に利用されることを防止・抑止するために必要な文部科学省令で定める措置を講じていること
⑤①~④のほか、公衆送信業務を適正に実施するための文部科学省令で定める措置を講じていること

一定の調査研究資料については、全部の複製が可能に

図書館等による、調査研究目的を有する利用者に対する著作物の複製・提供は、これまで著作物の一部分(全体の半分まで)しか認められていませんでした。

今回の法改正により、以下のいずれかに該当する著作物については、調査研究目的による全体の複製・提供が認められるようになります(著作権法31条1項1号、著作権法施行令1条の4)。

①国等の周知目的資料
②発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物
③美術の著作物・図形の著作物・写真の著作物であって、当該著作物の一部分を複製するに当たって、当該一部分と一体のものとして図書館資料に掲載されていることにより、当該一部分に付随して複製されるもの

調査研究目的による全体複製が認められる著作物の類型については、著作権法施行令1条の4で定められています。今後は関係者間でコンセンサスが得られた類型を、随時政令で追加していくことが想定されています。

調査研究資料の利用に関する補償金制度の導入

著作権者の利益を保護するため、調査研究資料のメール送信等の制度導入に伴い、これを利用する際は、相当な額の補償金を著作権者に支払うことが義務付けられます(著作権法31条5項)。

補償金の支払義務者は図書館等の設置者ですが、実際にはメール送信等の申請手数料が設定され、利用者に転嫁されるものと考えられます。

なお、具体的な補償金額については、指定管理団体が図書館等の設置者団体の意見を聴いて案を作成し、それを文化庁長官が文化審議会に諮った上で認可することになっています。

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参考文献

文化庁ウェブサイト「令和3年通常国会 著作権法改正について」