合併とは?
買収との違い・種類・メリット・デメリット・
手続き・注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

合併」とは、複数の会社が一つの会社になることをいいます。「吸収合併」と「新設合併」の2種類があり、それぞれ会社法上の手続きに従って行います。

合併にはシナジー効果やスピーディな市場拡大などのメリットがある反面、簿外債務を引き継ぐリスクや、期待外れに終わった場合の株価下落リスクなどが懸念されます。

合併は大規模な取引であるため、特に買い手側においては、デューデリジェンスをきちんと行うなど慎重な検討を行うべきです。

この記事では合併について、買収との違い・種類・メリット・デメリット・手続き・注意点などを分かりやすく解説します。

ヒー

合併も検討して事業を大きくしていきたい、と経営者から相談が来ています。合併にはどんな注意点があるでしょうか?

ムートン

合併やM&Aに関するリスクやそのチェック方法、手続き上の注意点など、取りこぼしてはいけない点が多いです。基本から確認しましょう。

※この記事は、2024年7月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

合併とは

合併」とは、複数の会社が一つの会社になることをいいます。

吸収合併と新設合併

合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。

① 吸収合併
既存の会社が別の会社を吸収する形で合併します。
吸収母体となる会社を「吸収合併存続会社」、吸収によって消滅する会社を「吸収合併消滅会社」といいます。

② 新設合併
既存の会社が新たな会社に統合される形で合併します。
合併前の会社はいずれも消滅するため、「新設合併消滅会社」と呼ばれます。また、新たに設立される会社は「新設合併設立会社」と呼ばれます。

合併と買収の違い

合併複数の会社が一つの会社になる手続きであるのに対して、「買収」はある会社が別の会社の経営権を取得することをいいます。

買収は法人格の消滅を伴わない、事業譲渡や株式譲渡などの方法によって行うこともできます。

その一方で、吸収合併の方法によって買収を行うことできるため、合併と買収は重なり合う部分があります。

合併以外のM&A手続き|会社分割・事業譲渡・株式譲渡など

会社法では、合併以外にも以下のようなM&A手続きが認められています。

合併以外のM&A手続き

① 会社分割
既存の会社の一部を分割して切り離し、別の会社と統合する手続きです。
分割した部分を別の既存会社に吸収させる「吸収分割」と、新たな会社として設立する「新設分割」があります。

② 事業譲渡
会社の事業の全部または一部を、別の会社に承継させる手続きです。
包括承継である合併や会社分割とは異なり、契約や資産などは個別に承継します。

③ 株式譲渡
会社の株式をオーナーから別の者に移転し、経営権を譲渡します。
他のM&A手続きとは異なり、会社組織が温存され、手続きも比較的シンプルなのが大きな特徴です。

合併のメリット

合併には、主に以下のメリットがあります。

① シナジー効果が期待できる
② 既存の販路や技術を活用して、スピーディに新規市場へ進出できる
③ 包括承継によってスムーズに事業を引き継げる
④ 売り手側は対価を得られる

シナジー効果が期待できる

複数の企業が持つ資源・技術・ノウハウなどを統合することにより、単に個々の企業を合わせたよりも大きな付加価値を生み出せるようになることを「シナジー効果」といいます。

互いの事業に親和性がある企業同士が合併すれば、シナジー効果によってさらに企業価値を高められる可能性があります。

既存の販路や技術を活用して、スピーディに新規市場へ進出できる

企業が新規市場への進出を目指す際には、すでにその市場においてシェアを持っている企業や、進出に必要な技術を持った企業を吸収合併することが有力な選択肢となります。

吸収合併消滅会社の販路や技術を活用すれば、吸収合併存続会社はスピーディに新規市場へ進出することができます。

包括承継によってスムーズに事業を引き継げる

合併をすると、消滅会社の権利義務は自動的に存続会社(または新設会社)へ承継されます。個々の権利義務について逐一承継手続きを行う必要がないので、スムーズに事業を引き継ぐことができます。

売り手側は対価を得られる

オーナー経営者は、金銭または存続会社(または新設会社)によって合併対価を得ることができます。
経営から退いて資金を確保したいオーナー経営者にとっては、合併に応じることが有力な選択肢となるでしょう。

合併のデメリット

合併には、以下のデメリットがあることに注意が必要です。

① 手続きが大規模・煩雑である
② 簿外債務を引き継ぐリスクがある
③ シナジー効果が期待を下回ると、株価が下落するリスクがある

手続きが大規模・煩雑である

合併を行う際には、会社法上の手続きを経る必要があります。

後述するように、会社法で定められた合併の手続きは非常に大規模かつ複雑です。手続きをシンプルに済ませたい場合は、株式譲渡など別の方法を検討すべきでしょう。

簿外債務を引き継ぐリスクがある

吸収合併・新設合併のいずれにおいても、存続会社(または新設会社)は消滅会社全体を吸収します。

仮に消滅会社が簿外債務を負っていた場合、存続会社(または新設会社)は簿外債務も引き継いでしまいます。合併を実行した際には把握していなかった簿外債務が判明すると、予期せぬ損害を被ることになりかねません。

簿外債務を引き継ぐリスクを回避するには、徹底的にデューデリジェンス(後述)を行うことが大切です。また、事業譲渡会社分割などを選択して、簿外債務のリスクがある部門を切り離した上で買収することも検討すべきでしょう。

シナジー効果が期待を下回ると、株価が下落するリスクがある

上場会社が合併する際には、合併による株価への影響も考慮する必要があります。
合併当初はシナジー効果への期待によって株価が上昇しても、結局期待外れに終わってしまった場合は、株価が急落するリスクがある点に注意が必要です。

合併の手続きの流れ

合併の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。

① 合併に関するマッチング・交渉
② 基本合意書の締結
③ デューデリジェンス
④ 合併契約の締結・本店での備置
⑤ 株主総会特別決議による合併契約の承認
⑥ 反対株主の株式買取請求等
⑦ 債権者異議手続き
⑧ 合併の効力発生
⑨ 合併に関する書面等の備置・閲覧

合併に関するマッチング・交渉

まずは、合併当事者のマッチングを行います。
合併の場合、いずれかの当事者が他方を指名して交渉に入ることが多いですが、M&A仲介業者を通じてマッチングがなされることもあります。

マッチング後は、当事者間で情報を交換した上で、合併対価などの基本的な契約条件に関する交渉が行われます。

基本合意書の締結

合併に関する基本的な契約条件についておおむね合意できたら、当事者間で基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding、LOI:Letter of Intentを締結します。

基本合意書には合併対価などの契約条件が定められますが、基本合意書上の契約条件には法的拘束力を持たせないのが一般的です。
実際の契約条件は、デューデリジェンスが完了した後に締結する合併契約(本契約)において確定します。

基本合意書には基本的な契約条件のほか、デューデリジェンスのスケジュールや協力義務、独占交渉権などが定められます。

デューデリジェンス

M&A取引において、買い手側が対象会社の状態を知るために行う調査を「デューデリジェンス」といいます。吸収合併では存続会社側が、新設合併では両当事者がデューデリジェンスを行います。

デューデリジェンスは、M&Aの実行後に予期せぬリスクが判明して、大損害を被る事態を避けるための重要なプロセスです。財務・法務・税務・人事労務・不動産など、さまざまな観点からデューデリジェンスを行う必要があります。

デューデリジェンスによって新たなリスクが判明した場合には、その内容を踏まえて契約条件が変更されたり、合併自体が取りやめになったりすることがあります。

合併契約の締結・本店での備え置き

デューデリジェンスの完了後に再度の契約交渉を行い、最終的な契約条件が確定した段階で、合併契約を締結します。
合併契約には会社法上の規定事項(吸収合併について会社法749条・751条、新設合併について会社法753条)を定める必要があるほか、当事者間で合意したその他の契約条件を定めます。

合併契約については原則として、承認決議(後述)をする株主総会の日の2週間前から効力発生日の6カ月後まで、契約内容のうち法定事項を記載・記録した書面または電磁的記録を、当事者である各会社の本店に備え置かなければなりません(会社法782条・794条・803条)。

株主総会特別決議による合併契約の承認

合併契約については、原則として当事者である各会社において、株主総会特別決議により承認を受ける必要があります(会社法783条・795条・804条・309条2項11号)。
ただし、吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合や、合併対価が存続会社の資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会特別決議による承認が不要となることがあります(会社法784条・796条)。

なお、当事者が持分会社である場合は、合併契約につき原則として総社員の同意を得る必要があります(会社法802条・813条)。

反対株主の株式買取請求等

合併については、反対株主に株式買取請求権が認められています

合併を承認する株主総会に先立って、会社に対して合併に反対する旨を通知し、かつ実際に株主総会で反対の議決権を行使した株主は、会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(会社法785条・786条・797条・798条・806条・807条)。

また、吸収合併消滅会社および新設合併消滅会社においては、新株予約権についても同様の反対株主による買取請求が認められています(会社法787条・788条・808条・809条)。

買取価格は原則として会社と反対株主の協議によって決めますが、協議が調わないときは裁判所に対する価格決定の申立てが認められています。

債権者異議手続き

合併の当事者である会社の債権者は、合併について異議を述べることができます(会社法789条・799条・810条)。

合併の当事者である会社は、合併に関する事項および債権者が異議を述べることができる旨を公告し、かつ知れている債権者に対しては個別に催告しなければなりません。
異議を述べた債権者に対しては、その債権者を害するおそれがない場合を除いて、弁済・担保提供・信託のいずれかを行う必要があります。

合併の効力発生

吸収合併の場合は、吸収合併契約で定められた効力発生日において、合併の効力が生じます(会社法750条1項・752条1項)。
吸収合併の効力発生により、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の権利義務を自動的に承継します

新設合併の場合は、新設会社が成立した日(=登記申請の日)に合併の効力が生じます(会社法754条1項)。
新設合併の効力発生により、新設合併設立会社は、新設合併消滅会社の権利義務を自動的に承継します

合併に関する書面等の備え置き・閲覧

吸収合併存続会社・新設合併設立会社は、合併の効力発生日後遅滞なく、合併に関する事項を記載・記録した書面または電磁的記録を作成し、効力発生日から6カ月間本店に備え置かなければなりません(会社法801条・815条)。

吸収合併存続会社・新設合併設立会社の株主および債権者は、営業時間内であればいつでも、合併に関する書面・電磁的記録の閲覧や謄本等の交付を請求することができます。

企業が合併する際の注意点

企業が合併する際には、特に以下の2点に注意して手続きを進めましょう。

① 会社法の規定に沿って手続きを行う
② デューデリジェンスをきちんと行う

会社法の規定に沿って手続きを行う

会社法で定められた手続きを漏れなく行わないと、合併無効の訴えを提起されるおそれがあります(会社法828条1項7号・8号)。
会社法上の規定を確認した上で、必要な手続きを漏れなく行い、その内容や過程を記録化しておきましょう。

デューデリジェンスをきちんと行う

合併によって予期せぬリスクを負担する事態を避けるためには、デューデリジェンスをきちんと行うことが大切です。

吸収合併であれば存続会社側、新設合併であれば両当事者において、相手方の財務状態や経営状態などをしっかり調査しましょう。
少しでも疑問があれば、経営陣に対する質問(=マネジメント・インタビュー)などを通じて詳細を明らかにすべきです。その上で、判明したリスクを契約条件に反映するか、またはリスクが深刻な場合は合併の取りやめも検討しましょう。

ムートン

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