【2024年4月施行等】改正障害者総合支援法とは?
6つのポイントや障害者の就労支援を解説!

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植月・岩﨑法律事務所弁護士
2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会所属)。中小企業法務、契約法務、労働法務などを取り扱う。他士業とのセミナー共催多数。東洋経済オンライン記事執筆、独占禁止法等の法律書籍監修、国家戦略特区東京圏雇用労働相談センター相談員、慶應義塾大学法科大学院助教(~2022年)、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」出演。
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この記事のまとめ

障害者総合支援法は、障害者および障害児の日常生活や社会生活の支援、福祉の増進障害の有無にかかわらず安心して暮らすことのできる地域社会の実現などを目的とした法律です。

障害者等の地域生活や就労の支援の強化等によって、障害者等の希望する生活を実現するため、障害者総合支援法は2022年に改正されました。改正のポイントは以下の6つです。
1|障害者等の地域生活の支援体制の充実
2|障害者の就労支援および障害者雇用の質の向上の推進
3|精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備
4|難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化
5|障害者・難病等についてのデータベースに関する規定の整備
6|その他

この記事では、改正の概要と、特に2点目の「障害者の就労支援の強化」について、分かりやすく解説します。

ヒー

人事から障害者雇用について相談がありました。法定雇用率のことと一緒に、2022年の改正障害者総合支援法についても説明してほしいと言われています。ポイントは何でしょうか?

ムートン

障害者総合支援法では、障害者や難病の方の地域生活や就労の支援のための改正が行われています。企業にも障害者雇用の面で関係する箇所がありますので、よく確認しておきましょう。

※この記事は、2023年4月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 障害者総合支援法…障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律

障害者総合支援法とは

障害者総合支援法は、障害者および障害児の日常生活や社会生活の支援、福祉の増進、障害の有無にかかわらず安心して暮らすことのできる地域社会の実現などを目的とした法律です。2005年に障害者自立支援法として成立した法律が、2012年の改正で障害者総合支援法に改称されました。

改正の目的

障害者総合支援法は、障害者等の地域生活や就労の支援の強化等によって、障害者等の希望する生活を実現するため、2022年に改正されました。これに合わせて、関連する法律(「障害者の雇用の促進等に関する法律」・「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」・「難病の患者に対する医療等に関する法律」等)も改正されています。

公布日・施行日

改正の根拠となる法令は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第104号)です。

公布日と施行日は、以下のとおりです。

公布日・施行日

公布日|2022年12月16日
施行日|2024年4月1日※
※一部を除く

企業の担当者にとって確認が必要な「就労選択支援」については、公布後3年以内の政令で定める日、とされています。今のうちに準備をしておきましょう。

2022年改正の内容|6つのポイント

2022年改正法の内容は、大きく6つのポイントがあります。

1|障害者等の地域生活の支援体制の充実

1つ目は、障害者等の地域生活の支援体制の充実です。
共同生活援助(グループホーム)の支援内容を法律上明確化することや、地域の障害者や精神保健に関する課題を抱える人を支援する拠点の整備等が定められました。

2|障害者の就労支援および障害者雇用の質の向上の推進

2つ目は、障害者の就労支援および障害者雇用の質の向上の推進です。
「就労選択支援」の創設、短時間労働者に対する実雇用率算定、障害者雇用調整金等の見直しと助成措置の強化が定められました。

ムートン

2022年改正法のなかでも事業者への影響が大きい部分ですので、後ほど詳しく解説します。

3|精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備

3つ目は、精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備です。
医療保護入院の見直し、入院者訪問支援事業の創設、精神科病院における虐待防止に向けた取り組みの一層の推進が定められました。

4|難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化

4つ目は、難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化です。
症状が重症化した場合に円滑に医療費支給を受けられる仕組みの整備や、登録者証の発行等による難病患者等の療養生活支援の強化が定められました。

5|障害者・難病等についてのデータベースに関する規定の整備

5つ目は、障害者、難病等についてのデータベースに関する規定の整備です。
障害福祉サービスや療養生活の質の向上に資するため、第三者提供の仕組み等の規定が整備されました。

6|その他

6つ目は、その他として、地域のニーズを踏まえた障害福祉サービス事業者指定の仕組みの導入や居住地特例の見直しが定められました。

事業者への影響|ポイント2に注目

ここからは、2022年改正法のなかでも事業者への影響が大きい、2つ目のポイントである、障害者の就労支援および障害者雇用の質の向上の推進について、詳しく解説します。

①「就労選択支援」とは

2022年改正法では、就労選択支援という新たな制度が導入されます。

就労選択支援の導入の背景

これまで障害者が就労を希望する場合、就労能力や適性については、就労系障害福祉サービスの利用開始の段階で把握する仕組みがありました。しかし、それらを踏まえた働き方や就労先の選択に結びつかなかったり、必ずしも質が担保されていないという課題がありました。

そこで、障害者本人の希望や能力に沿った、よりきめ細かい支援を提供できるような制度が定められました。

これまでも、就労アセスメントという、障害者の就労能力や就労意欲を把握して適性を評価する方法がありましたが、その就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った就労先、働き方が選択できるよう支援する新たなサービスが創設されました。
この新たなサービスを「就労選択支援」といいます。

就労選択支援の具体的な流れ

就労選択支援の具体的な流れとしては、まず、就労を希望する障害者の就労アセスメントを実施します。
就労アセスメントでは、本人の就労能力や適性、本人の強みや課題、就労に当たって必要な支援や配慮を整理します。そして、障害者本人と協同して就労アセスメント結果を作成したり、本人への情報提供、実際の作業場面を活用した状況把握、多機関連携によるケース会議などを行うことが想定されています。

ハローワーク・障害者職業センターは、就労選択支援を受けた者に対して、アセスメント結果を参考に職業指導等を実施するものとされました。

ムートン

就労アセスメント結果は、事業者等との連絡調整を通じて、就労に向けた訓練の場面や、働き始めた後の職場への定着などの場面でも活用されることになっています。

厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案の概要」

その他のサポート

また、障害者が企業等で働き始めるに当たって勤務時間を段階的に増やしていく場合や、休職からの復職を目指す場合に、障害者が企業等で就労しているときであっても、就労系障害福祉サービスを利用できることが定められました。

さらに、企業等での就労への意向や定着をより一層推進するため、市町村や障害福祉サービス事業者等の連携先として、障害者就業・生活支援センターについての規定が明示されました。

②短時間労働者の実雇用率算定

障害者総合支援法と同様に、障害者の就労や自立を支援する法律として、障害者雇用促進法があります。
障害者雇用促進法では、事業主に障害者の雇用義務を課すことによって障害者の自立支援を目指していますが、障害者の自立を促進するという法の趣旨から、雇用義務が課せられているのは週所定労働時間が20時間以上の長時間勤務をする労働者のみでした。

他方で、障害のため長時間の勤務が難しく、週所定労働時間が20時間未満での雇用を希望する障害者も多く存在していました。

そこで、週20時間未満の労働時間であれば働ける障害者の雇用機会の拡大を図るため、2022年改正法では短時間労働者実雇用率算定の仕組みが導入されました。

具体的には、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者については、事業主が雇用した場合に、雇用率において算定できるようになりました。

雇用率の算定においては、上記対象者1人につき、週所定労働時間20時間以上30時間未満の労働者0.5人分としてカウントすることになります。

厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案の概要」

あわせて、これまで週所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者を雇用する事業主に対し、雇用障害者数に応じて支給されていた特例給付金廃止されます。

③障害者雇用調整金等の見直しと助成措置の強化

社会連帯の理念に基づき、全ての事業主は障害者に雇用の場を提供する共同の責務があると考えられています。この理念の下、障害者の雇用に伴う経済的負担を調整するとともに、障害者を雇用する事業主に対する助成を行うため、事業主の共同拠出による納付金制度が整備されています。

もっとも、障害者を雇用する事業者に対する助成金等も、雇用する障害者の「によって評価する調整金や報奨金の支出がほとんどで、雇用の「質」の向上のための支援を行う助成金の支出は限られているのが現状でした。

そこで、限られた納付金の財源を効果的に運用し、雇用の「」の向上に向け、事業主による障害者の職場定着等の取り組みに対する支援を充実させるため、2つの見直しがなされました。

1つは、事業主が一定数を超えて障害者を雇用する場合における、超過人数分の調整金や報奨金の支給単価の引き下げです。

もう1つは、雇い入れや雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助の支援と、加齢に伴い職場への適応が困難となった障害者への雇用継続の支援について、事業主の取り組みを支援するための新たな助成金が設けられます。

いずれも、事業主が障害者を雇用する「」を増やすだけでなく、雇用の「」の向上に向けた取り組みが図られるよう促すものになっています。

事業者の対応

従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める障害者の割合を法定雇用率(現行は2.3%)以上にする義務があります
法定雇用率を未達成の企業のうち、常用労働者100人超の企業は、障害者雇用納付金を徴収されます。あわせて行政指導・勧告・公表などを受ける可能性もあります。

法定雇用率を未達成の事業者は、2022年改正に関連して、以下の対応が考えられます。

  • 短時間労働(週所定労働時間10時間以上20時間未満)の精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者を雇用する
  • 長時間の就労を継続できない精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者に、短時間化の選択肢によって就労継続してもらう
  • 助成金を活用して雇い入れや雇用継続支援のための取り組みを実施する
ムートン

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