不正競争防止法の営業秘密とは?要件や事例などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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不正競争防止法の営業秘密を解説!!
不正競争防止法は、不正競争行為にあたる類型の一つとして、事業者の「営業秘密を侵害する行為」を定めています。
この記事では、不正競争防止法における、営業秘密の保護について解説します。
※この記事は、2021年2月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
不競法…不正競争防止法(平成5年法律第47号)
目次
不正競争防止法とは?
不競法は、他人の技術開発、商品開発等の成果を冒用する行為等を不正競争として禁止しています。
具体的には、ブランドの表示の盗用、商品の形態模倣等とともに、営業秘密の不正取得・使用・開示行為等を規制しており、差止めや損害賠償の対象としています。
不正競争防止法については、以下の関連記事で解説しています。
不正競争防止法上の営業秘密とは?
不競法上の営業秘密とは、①秘密として管理されている(秘密管理性)、 ②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報(有用性)であって、 ③公然と知られていないもの(非公知性)をいいます(不競法2条6項)。
- 不競法の「営業秘密」
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①秘密管理性:秘密として管理されている
②信用性:生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報
③非公知性:公然と知られていないもの
以下では、①秘密管理性、②有用性、③非公知性について、詳しく解説します。
秘密管理性
秘密管理性とは、営業秘密について、従業員、外部者から、認識可能な程度に客観的に秘密の管理状態を維持することをいいます。
この点、「営業秘密」として法的保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示すものとして、 「営業秘密管理指針」が経済産業省により策定されています。
この指針によれば、秘密管理性要件が満たされるためには、 「営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、 当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある」とされています。
秘密管理措置の対象は、「当該情報に合理的に、かつ、現実に接することができる従業員等」である。
この秘密管理措置は、「対象情報(営業秘密)の一般情報(営業秘密ではない情報)からの合理的区分」と 「当該対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置」とで構成されます。
- 秘密管理措置
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・一般情報(営業秘密ではない情報)からの合理的区分
・営業秘密であることを明らかにする措置
「合理的区分」とは、「営業秘密が、情報の性質、選択された媒体、機密性の高低、情報量等に応じて、一般情報と合理的に区分されること」をいいます。
企業の規模、業態等に応じて、営業秘密を含むのか、一般情報のみで構成されるものか、従業員が判別できる状態となっていればよいとされています。
具体的には、紙であればファイル、電子媒体であれば社内LAN上のフォルダ等のアクセス権に着目して、区別・管理がなされることが多いです。
合理的区分に加えて、情報に接することができる従業員にとって、当該情報が「営業秘密であることを明らかにする措置」が必要です。
これは、従業員において「当該情報が秘密であって、一般情報とは取扱いが異なるべきという規範意識が生じる程度の取組であること」が必要です。
営業秘密であることを明らかにする措置の例としては、以下が挙げられます。
- 営業秘密であることを明らかにする措置の例
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✅ 営業秘密となる情報の種類・類型のリスト化
✅ 秘密保持契約等による対象の特定[紙媒体の場合]
✅ ファイルへのマル秘表示
✅ 施錠可能なキャビネットや金庫等に保管する方法[電子媒体の場合]
✅ 記録媒体へのマル秘表示
✅ 電子ファイル名・フォルダ名へのマル秘表示
✅営業秘密たる電子ファイルを開いた場合に端末画面上にマル秘である旨が表示されるように、当該電子ファイルの電子データ上にマル秘を付記(ドキュメントファイルのヘッダーにマル秘を付記等)
✅ 営業秘密たる電子ファイルそのもの又は当該電子ファイルを含むフォルダの閲覧に要するパスワードの設定
✅ CDケース等の記録媒体を保管するケースや部品等の収納ダンボール箱等の箱に、マル秘表示
✅ (外部のクラウドを利用する場合)階層制限に基づくアクセス制御
- 秘密管理性が肯定された事例
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[東京地判平成12年10月31日]
代表者以外の者が営業秘密に触れないように管理しており、従業員が営業秘密を使用する場合には、 代表者のみが保有する書庫の鍵を使用するか、代表者が管理するパスワードを用いて代表者用のコンピューターを使用しなければならず、 また、営業秘密が第三者に知られないよう、従業員に誓約書を提出させたり、就業規則を作成する等していた事例について、秘密管理性を肯定した。[大阪高判平成14年10月11日]
派遣就業情報に関して、オフコン(小型のパソコン)で集中管理され、業務時間外は施錠され起動できない状況となっており、 また、派遣就業情報が記載された契約書、請求書控え、給与明細書控えについては、履歴書等の書面と異なり、場所的に隔離されたキャビネット内に施錠の上保管され、 直接にオフコンあるいは契約書、請求書控え、給与明細書控えに接することのできる従業員も限定されており、 営業担当社員が派遣就業情報を知る必要がある場合には、オフコン操作の許された社員に尋ねるという管理がなされていた事例について、秘密管理性を肯定した。
- 秘密管理性が否定された事例
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[東京地判平成15年3月6日]
取引先名簿に関して、それがコンピュータソフトに搭載され、そのソフトを起動させるためのパスワードを知るものが限定されていたものの、 これをプリントアウトしたものが営業担当者に1人1冊ずつ配布され、各人これを施錠されていない机の中に保管していた事例について、 管理者以外の者に営業秘密であることを認識できるような措置は取られていなかったとして、秘密管理性を否定した。[東京地判平成16年9月30日]
顧客情報名簿等に関して、その外観において、「部外秘」等の記載によって営業秘性が表示されているということはなく、 また、保管場所を施錠したり、立ち入る者を制限する等してアクセスできる者が一部の従業員に限定されているということもなかった事例について、秘密管理性を否定した。[東京地判平成15年5月15日]
会員情報に関して、管理の仕方が無造作で、これにアクセスできる者は特に制限されておらず、事務所にいる者であれば誰でも持ち出したりすることができ、 また、電話での問い合わせにも特に制限なく会員情報が伝えられ、これらの者との間に秘密保持契約も締結されていなかった事例について、秘密管理性を否定した。
有用性
「有用性」とは、その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用であることをいいます。
この「有用性」の要件は、脱税情報や有害物質の垂れ流し情報等の公序良俗に反する内容の情報を、法律上の保護の範囲から除外することに主眼を置いた要件です。
- 有用性を肯定した事例
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[東京地判平成12年10月3日]
仕入先関連情報に関して、生産者に中国野菜の栽培方法等を指導する等して取得してきた情報であり、 顧客関連情報は、中国野菜の需要に関する情報を収拾する等して取得してきた情報であって、 いずれも効率的に営業するために有用な情報であるとして、有用性を肯定した。
なお、直接ビジネスに利用されていなくてもよく、 過去に失敗した実験データというようなネガティブ・インフォメーションも、潜在的な価値があるため、有用性が認められます。
非公知性
最後に、非公知性とは、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことをいいます。
具体的には、「情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない、公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析されない等、 保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態」をいいます。
雑誌に記載されてしまった場合(東京地判平成10年11月30日)、パンフレットや取扱説明書に掲載して配布された場合(東京地判平成14年3月19日) も非公知性に欠けることになります。
営業秘密における「非公知性」の解釈は、特許要件の1つである「発明の新規性」を判断する際の「公知」(特許法29条)の解釈とは一致しないため、注意が必要です。
特許法29条の「公知」は、特定の者しか情報を知らない場合でも、当該者に守秘義務がない場合は公知となりますが、 営業秘密における「非公知性」については、特定の者しか情報を知らない場合、当該者が事実上秘密を維持していれば、 当該者に守秘義務がなくても非公知と判断される可能性があります。
なお、公知情報の組合せによって近い情報が得られる情報であっても、その組合せの容易性や情報の取得にかかるコストに鑑み、 一般的に入手できないと判断される場合は、非公知性が認められることがあります。
不正競争防止法に違反する行為とは?
民事措置(損害賠償等)の対象となる行為
以下では、こちらの図の「不正競争行為の対象」について、各類型毎に説明します。
営業秘密の不正取得・使用・開示
窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得又はその取得行為により取得した営業秘密を使用し、 若しくは開示する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項4号)。
- 不競法2条1項4号
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・不正取得行為
・営業秘密の使用
・営業秘密の開示
「不正取得行為」とは、窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段で営業秘密を取得する行為をいいます。
営業秘密の不正取得は、実際には、会社役員や従業員が退職に伴って行う事例が多いです。
「営業秘密の使用」とは、営業秘密を自らの事業活動に活用することをいいます。
具体的には、製品の製造、販売その他の事業活動の実施のために営業秘密を直接使用する行為、研究開発、 商品開発その他の事業活動の実施のために営業秘密を参考とする行為等をいいます。
「営業秘密の開示」とは、公然と知られるものとして、または秘密の状態のままで、他の特定の者に知らせることをいいます。
具体的には、不正手段によって営業秘密を得た者が、営業秘密を第三者に売却をすること、または、営業秘密を不特定の者に暴露すること等をいいます。
不正取得された営業秘密の悪意転得・使用・開示
営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、 又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項5号)。
- 不競法2条1項5号
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不正取得後の営業秘密について・・・
・悪意又は重過失で(不正取得を知り、又は重過失により知らないで)取得
・営業秘密の使用
・営業秘密の開示
具体的には、不正に持ち出された顧客名簿を、不正に持ち出されたことを知りながらそれを利用して営業活動を行う行為等が該当します。
不正取得された営業秘密の善意転得後の悪意使用
営業秘密を(不正取得されたことを知らずに)取得した後に、その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知り、 または重大な過失により知らないで、その取得した営業秘密を使用し、または開示する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項6号)。
- 不競法2条1項6号
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不正取得後の営業秘密について、善意(重過失なし)で取得した後に不正取得を事後的に知った又は重過失により知らずに・・・
・営業秘密の使用
・営業秘密の開示
具体的には、元の保有者から警告を受けて事実を知ったり、産業スパイ事件が大々的に報道されて事実を知ったにもかかわらず、 取得した営業秘密を使用し、または開示するような行為等が該当します
営業秘密の(正当取得後の)図利加害目的での使用・開示
営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を与える目的で、 その営業秘密を使用し、又は開示する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項7号)。
- 不競法2条1項7号
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正当に取得した営業秘密について・・・
・図利加害目的で、営業秘密を使用
・図利加害目的で、営業秘密の開示(不正開示)
具体的には、営業秘密を保有する事業者(保有者)から、営業秘密が従業員や下請企業、ライセンシー等の契約相手に対して正当に提供された場合に、 営業秘密を取得した従業員等が両者の信頼関係に著しく反して当該営業秘密を使用・開示するような行為等が該当します。
不正開示された営業秘密の悪意転得・使用・開示
その営業秘密について不正開示行為であること、もしくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、 もしくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、またはその取得した営業秘密を使用し、もしくは開示する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項8号)。
不正開示行為とは、正当に取得した営業秘密を図利加害目的で営業秘密を開示する行為(不競法2条1項7号)又は、 秘密を守る法律上の義務に違反して営業秘密を開示する行為、をいいます(不競法2条1項8号)。
- 不競法2条1項8号
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不正開示された営業秘密について・・・
・悪意又は重過失で(不正開示を知り、又は重過失により知らないで)取得
・営業秘密の使用
・営業秘密の開示
具体的には、転職した従業員が、元の企業の営業秘密を無断で持ち出した場合、転職先の企業がそれを知りながら、その営業秘密を使用する行為等が該当します。
不正開示された営業秘密の善意転得後の悪意使用
その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、 又は重大な過失により知らないで営業秘密を使用し、又は開示する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項9号)
- 不競法2条1項9号
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不正開示された営業秘密について、善意(重過失なし)で取得した後に不正開示を事後的に知った又は重過失により知らずに・・・
・営業秘密の使用
・営業秘密の開示
具体的には、営業秘密を取得した後に、元の保有者から警告を受けて不正開示行為が 介在していた事実を知りながら、営業秘密を使用または開示するような行為等が該当します。
不正使用行為によって生じた物の譲渡行為
不正取得行為により製造された物品を製造した者が譲渡等する行為、又は当該物品を譲り受けた者が、その譲り受けた時に、 その物が営業秘密侵害品であることにつき悪意若しくは重過失であった場合に、その物を譲渡等する行為は不正競争として禁じられています(不競法2条1項10号)。
- 不競法2条1項10号
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不競法2条1項4号~9号における「営業秘密の使用」(不正使用行為)により生じた物を・・・
・譲渡
・引渡し
・譲渡・引渡しのために展示
・譲渡・引渡しのために輸出
・譲渡・引渡しのために輸入
・電気通信回線を通じて提供
具体的には、ある薬の組成物質の配合割合に関する営業秘密が不正取得され、 それを用いて製造された薬や、ある車の組立技術に関する営業秘密が不正取得され、それを用いて製造された車を、譲渡する行為等が該当します。
営業秘密を侵害されたときに行う民事的措置を解説
営業秘密の持ち出しなどが発覚した場合、会社は以下の手段を用いて、営業秘密の侵害による損害の回復を図ることができます。
・差止請求(不正競争防止法3条1項、2項) →営業秘密の侵害をやめるように請求できます。具体的には、営業秘密の不正開示や不正利用の停止・予防、侵害行為に関わる物の破棄、設備の除却などを求めることができます。 ・損害賠償請求(同法4条) →顧客リストやノウハウなどの流出によって、会社に具体的な損害が生じた場合には、侵害者に対して損害賠償を請求できます。損害額については推定規定が設けられており(同法5条)、訴訟に発展した場合における会社側の立証責任が緩和されています。 ・信用回復措置請求(同法14条) →営業秘密の流出によって、会社の信用が毀損された場合、営業上の信用を回復するために必要な措置を講ずることを請求できます。信用回復措置の具体例としては、謝罪広告の掲載などが挙げられます。 |
侵害者が上記の各請求を拒否する場合、訴訟を通じて請求を行います。ただし差止請求については、会社に著しい損害が生じる場合・差し迫った危険を避けるために必要な場合に限り、裁判所に仮処分の申立てを行うことも可能です(民事保全法23条2項)。
刑事罰の対象となる行為
「営業秘密の侵害」として、不競法に違反する行為については民事上の差止請求や損害賠償請求の対象となりますが、 その中でも特に違法性が高いと認められる営業秘密の侵害については、刑事罰の対象となります(不競法21条1項)。
また、営業秘密が外国に流出した場合、流出した営業秘密を元とした営業活動や研究・開発活動が当該外国で行われる可能性が高く、 営業秘密の流出が国内に留まる場合に比して、我が国に与える悪影響が大きいといえます。
そこで、国外における営業秘密の不正使用行為等の一定の行為について、その他の営業秘密侵害罪に比べて重い法定刑とする海外重罰規定 (不競法21条3項)が置かれています。
以下、営業秘密侵害罪に該当する各行為を概説した上で、海外重罰規定についても説明します。
図利加害目的での取得・使用・開示(不競法21条1項1号・2号)
不正の利益を得る目的(図利目的)で、又はその保有者に損害を加える目的(加害目的)で、詐欺等行為又は管理侵害行為により営業秘密を取得した者は、 刑事罰の対象となります(不競法21条1項1号)。
また、不競争21条1項1号の実行行為によって不正に取得した後に、図利加害目的をもってその営業秘密を不正に使用又は開示した者は刑事罰の対象となります(不競法21条1項2号)。
これを図に示すと以下のようになります。
不競争21条1項1号の要件の意義は以下の通りです。
「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗又は信義則に反する形で不当な利益を図る目的のことをいいます。
具体的には、金銭を得る目的で第三者に対し営業秘密を不正に開示する行為や、外国政府を利する目的で営業秘密を外国政府関係者に不正に開示する行為等がこれに該当します。
「保有者に損害を加える目的」とは、営業秘密の保有者に対し、財産上の損害、信用の失墜その他の有形無形の不当な損害を加える目的のことをいいます。
具体的には、保有者に営業上の損害を加えるため、またはその信用を失墜させるため、営業秘密をインターネット上の掲示板に書き込む行為等がこれに該当します。
「詐欺等行為」とは、人を欺くこと、人に暴行を加えること、又は人を脅迫することを意味し、刑法上の詐欺罪、強盗罪、恐喝罪の実行行為である、欺罔行為、暴行、脅迫に相当します。
「管理侵害行為」とは、財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為その他の保有者の管理を害する行為をいいます。
不競法21条1項2号に特有の要件としては、「使用」と「開示」があります。
「使用」とは、営業秘密の本来の使用目的に沿って行われ、当該営業秘密に基づいて行われる行為として具体的に特定できる行為を意味します。
具体的には、自社製品の製造や研究開発のために、他社製品の製造方法に関する技術情報である営業秘密を直接使用する行為や、事業活動のために、 同業他社が行った市場調査データである営業秘密を参考とする行為等が挙げられます。
「開示」とは、営業秘密を第三者に知られる状態に置くことをいいます。
具体的には、営業秘密を口頭で伝えたり、営業秘密が記録された電子データを特定の第三者に送信したり、ホームぺージに営業秘密を掲載したりする行為や、 営業秘密が化体された有体物の占有を移転することで他者に営業秘密を通知する行為等が挙げられます。
図利加害目的での領得・使用・開示(不競法21条1項3号・4号)
営業秘密を保有者から示された者が、図利加害目的をもって、その営業秘密の管理に係る任務に背いて、横領等の方法により、その営業秘密を領得した者は刑事罰の対象となります(不競法21条1項3号)。
また、不競法21条1項3号の実行行為によって営業秘密を領得した後に、図利加害目的をもってその営業秘密を不正に使用又は開示するという行為をした者は刑事罰の対象となります(不競法21条1項4号)。
これらを図に示すと以下のようになります。
不競争21条1項3号・4号の要件の意義は以下の通りです。
「保有者から示された」とは、その営業秘密を不正取得以外の態様で保有者から取得した場合を意味しています。
具体的には、保有者から営業秘密を口頭で開示された場合や、営業秘密へのアクセス権限を与えられた場合、営業秘密を職務上使用している場合等をいいます。
「営業秘密の管理に係る任務」とは、「営業秘密を保有者から示された者」が、保有者との委任契約や雇用契約等において一般的に課せられた秘密を保持すべき任務や、 秘密保持契約等によって個別的に課せられた秘密を保持すべき任務を意味します。
「横領等」は、「横領」の他、「複製を作成すること」(不競法21条1項3号ロ)、「消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること」(不競法21条1項3号ハ)を含みます。
なお、「横領」(不競法21条1項3号イ)とは、「「保有者から預かった営業秘密が記録された媒体等(営業秘密記録媒体等)又は営業秘密が化体された物件」を自己の物のように利用・ 処分する(ことができる状態に置く)ことをいいます。
具体的には、営業秘密が記録されたファイルであって持ち出しが禁止されたものを無断で外部に持ち出す行為等が該当します。
「複製を作成する」(不競法21条1項3号ロ)とは、印刷、撮影、複写、録音その他の方法により、「営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録又は営業秘密が化体された物件」と 同一性を保持するものを作成することをいいます。
具体的には、営業秘密が記録されたデータであって複製が禁止されたものを無断でコピーする行為や、営業秘密である電子データのファイルをメール送付するために添付する行為等が該当します。
「消去すべきものを消去せず」(不競法21条1項3号ハ)とは、営業秘密を消去すべき義務がある場合において、これに違反して営業秘密を消去しないことをいいます。
「当該記載又は記録を消去したように仮装すること」とは、実際には記載等を消去していないにもかかわらず、既に消去されているかのような虚偽の外観を作出することをいいます。
具体的には、プロジェクト終了後のデータ(営業秘密)消去義務に違反して当該データ(営業秘密)を消去せずに自己のパソコンに保管し続け、 保有者からの問い合わせに対して、消去した旨の虚偽の回答をする行為等が該当します。
役員・従業員による図利加害目的での使用・開示(不競法21条1項5号・6号)
営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業員であって、図利加害目的をもって営業秘密を不正に使用又は開示する行為をした者は刑事罰の対象となります(不競法21条1項5号)。
また、「営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業員であった者で、図利加害目的をもって、その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、 又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者」は、刑事罰の対象となります(不競法21条1項6号)。
不競法21条1項5号、6号は、現職の役員または従業員について、図利加害目的をもって営業秘密を不正に使用または開示する行為を対象とします。
これらを図に示すと以下のようになります。
不競争21条1項5号の特有の要件の意義は以下の通りです。
「役員」とは、理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいいます。
「従業者」とは、使用者と労働契約関係のある労働者、及び派遣労働者が含まれますが、請負人及びその従業者は含みません。
不競争21条1項6号の特有の要件の意義は以下の通りです。
「開示の申込み」とは、営業秘密を保有する事業者からその営業秘密にアクセスする権限を与えられていない者に対して、営業秘密を開示するという一方的意思を表示することを意味します。
「請託」とは、保有者から営業秘密を示された役員又は従業者に対し、営業秘密の保有者からその営業秘密にアクセスする権限を与えられていない第三者が、 秘密保持義務のある営業秘密を使用又は開示するよう依頼することを指します。
なお、「請託を受けて」というためには、その請託を引き受けることが必要であり、単に第三者から依頼されただけでは成立しないことに留意が必要です。
転得者による図利加害目的での使用・開示(不競法21条1項7号・8号)
営業秘密の不正開示を通じ、図利加害目的をもってその営業秘密を取得した者が、さらに図利加害目的をもってその営業秘密を不正に使用又は開示する行為を行った者は、 刑事罰の対象となります(不競法21条1項7号)。
本号は、営業秘密の不正開示によって、図利加害目的をもってその営業秘密を取得した者(二次的取得者)が、さらに図利加害目的をもってその営業秘密を使用、開示する行為を対象とします。
本号の開示は、不競法21条1項第2号と、同法21条1項第4号~6号の各号に規定されている方法、および同法21条 3項 2 号による営業秘密の不正な「開示」を指します。
また、 図利加害目的をもって、営業秘密の不正開示が介在したことを知って営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示する行為を行った者は、刑事罰の対象となります(不競法21条1項8号)。
本号は、営業秘密の最初の不正開示を通じてその営業秘密を取得した者(二次的取得者)以降の者からの不正開示を通じ、図利加害目的をもってその営業秘密を取得した者が、 さらにその営業秘密を図利加害目的をもって不正に使用、開示する行為を対象とします。
これらを図に示すと以下のようになります。
図利加害目的での、営業秘密侵害品の譲渡(不競法21条1項9号)
図利加害目的をもって、営業秘密侵害品を譲渡・輸出入等を行った者は、刑事罰の対象となります(不競法21条1項9号)。
本号は、不競法21条1項2号、4号~8号の各号、同法21条3項3号(海外重罰規定が適用される使用行為)に規定されている方法による違法な「使用」行為によって、生じた物が対象となります。
これらを図に示すと以下のようになります。
不競法21条3項1号~3号
日本国外において使用する目的で、不競法21条1項1号に規定する不正取得又は同法21条1項3号に規定する領得行為を行った者は、海外重罰の対象となります(不競法21条3項1号)。
「日本国外において使用する目的」とは、不正取得・領得した営業秘密を、日本国外で使用する目的を指します。
また、相手方が日本国外においてその営業秘密を使用する目的を有することを知って、不競法21条1項2号、4号から8号までに規定する不正開示行為を行った者も、海外重罰の対象となります(不競法21条3項2号)。
さらに、日本国内外において事業を行う保有者の営業秘密について、日本国外において不競法21条1項2号、4号から8号までに規定する不正使用行為を行った者も、海外重罰の対象となります(不競法21条3項2号)。
これらを図に示すと以下のようになります。