【2024年4月より順次施行】
医師の働き方改革とは?
ポイントを分かりやすく解説!

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よつば総合法律事務所弁護士
2009年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。事業承継を受けたクリニックの経営経験や医療系スタートアップのCLOの立場を活かし、医療機関の顧問に特化。クリニックの労務問題や厚生局による個別指導に対応している。
この記事のまとめ

2021年5月28日、医師の働き方改革を進めるべく、「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」が公布され、2024年4月から順次施行される予定です。

医師の働き方改革のポイントは、以下の3つです。
①時間外労働の上限規制
②追加的健康確保措置(医師の健康を確保するための措置)の実施
③医療機関勤務環境評価センターの設置

この記事では、医師の働き方改革について、ポイントを分かりやすく解説します。

※この記事は、2022年8月2日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

【2024年4月より順次施行】医師の働き方改革とは?

医師の働き方改革とは、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進する観点から、医師の健康確保と長時間労働の改善を行う一連の法改正のことを言います。

一般企業における働き方改革については、2018年7月に公布、2019年4月より順次施行の働き方改革関連法により、長時間労働の改善などが図られているところです。

しかし、医師の働き方改革については、業務の特殊性に鑑みて5年の猶予期間が設けられ、規制の適用は2024年4月からとされています。

医師の働き方改革が行われる背景

医師の働き方改革が行われる背景としては、医療介護ニーズは増加していく一方で、長時間労働などが問題となり深刻な医師不足に陥っていることが挙げられます。

私は、医療機関の顧問業務をしつつ、医療系スタートアップでCLO(最高法務責任者)として働いています。その中で、若い医師の「医師としてのキャリア」や「医師としての働き方」に対する考え方が変わってきていると感じています。

医療機関で医師として勤務することの意義は理解しつつも、その過酷ともいえる勤務状況から、違ったキャリアを模索するという医師が増えています。今後こうした流れが加速すると、医師不足はますます深刻になっていくと考えられます。

また、これまで、医療現場をささえる医師の長時間労働は、当たり前のものとされてきました。実際、時間外労働が年1860時間を超えると推定される医師がいる病院の割合は、2016年の調査によると、

と極めて高い状況です(厚生労働省「医師の働き方改革について」)。

客観的な勤務時間の管理がなされている場合はまだいいのですが、医療機関によってはタイムカードを利用するなどの客観的な勤務時間管理がなされてないところもあります。

一方で、2025年には団塊の世代が75歳を迎え、医療介護のニーズが最大化することが予想されています。必要な人員を確保するためには、医師の働き方改革は必須のものといえるでしょう(2017年度の調査でも、医師の所定外労働が発生する原因として「人員が足りないため」という回答が31.8%になっています(厚生労働省「平成29年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」)。

このような状況を打開すべく、2021年5月28日に医師の働き方改革を目指し、「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます。)が公布されました。

公布日・施行日

公布日・施行日は以下のとおりです。

公布日・施行日

公布日│2021年5月28日
施行日│2024年4月1日

改正法を遵守するため、各医療機関は、変革を迫られることになります。これまでの医師の長時間労働に依存してきた体制を一気に変革しようというものですから、現場の「痛み」は並大抵のものではないでしょう。現場の理解を得つつ取組みを進めていくことが重要です。

医師の働き方改革のポイント

医師の働き方改革のポイントは、大きく以下の3つです。

以下それぞれ詳しく解説します。

①時間外労働の上限規制

まずは、時間外労働の上限規制についてみていきたいと思います。

時間外労働の上限について、労働基準法は、36協定により時間外労働をさせられるのは原則月45時間・年360時間と規定されていたものの、医師は当該上限規制の適用外でした。

しかし、2024年4月以降、

に制限されることになるため、医療機関は改めて36協定等の自己点検をする必要があります。

ただし、時間外労働が年1860時間を超える医療機関も多い中、年間960時間・月100時間未満の上限規制を一律に適用すると、医療現場の機能不全を引き起こしたり、結果的に上限規制が守られなかったりという結果になりかねません。

そこで、都道府県の指定を受けた特定労務管理対象機関(以下のいずれかに指定された機関)であれば、時間外労働の上限規制が緩和され、上限が年間1860時間・月100時間未満になるという制度設計になっています。

ただし、指定を受けるためには、医師の労働時間短縮のための計画(医師労働時間短縮計画)の案を都道府県に提出しなければなりません(2022年7月13日現在、厚生労働省から「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン」が示されています。)。

特定労務管理対象機関に指定された後は、遅滞なく医師労働時間短縮計画を定めることが必要です。

それに加え、一定期間で医師労働時間短縮計画見直しのための検討を行う必要もあり、特定労務管理対象機関であっても、将来的に労働時間短縮を求められることになるでしょう。

時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則

なお、改正法の施行後に、時間外労働の上限規制に違反すると、一般の企業と同様、以下の罰則が科されるおそれがあります。

【医療機関の種別と内容】

種別内容
通常の医療機関
(A水準対象機関)
診療従事勤務医が対象
特定労務管理対象機関特定地域医療提供機関
(B水準対象機関)
救急医療や居宅等における医療等を提供する医療機関
連携型特定地域医療提供機関
(連携B水準対象機関)
他の医療機関に医師の派遣を行うなどしている医療機関
技能向上集中研修機関
(C-1水準対象機関)
臨床研修医・専攻医が、研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を修得する際に適用
特定高度技能研修機関
(C-2水準対象機関)
医籍登録後の臨床従事6年目以降の者が、高度技能の育成が公益上必要な分野について、指定された医療機関で診療に従事する際に適用

②追加的健康確保措置

月の上限を超えて勤務する医師に対しては、医療機関が面接指導を行い、必要に応じて、労働時間の短縮、宿直の回数の減少等、必要な措置を講じる必要があります。

正当な理由なく面接指導を行わない場合や必要な措置を講じていない場合には、都道府県知事が、改善に必要な措置をとるべきことを命じることができるようになっています。

また、医師の健康確保を確実なものとするため、

といった規制も導入されました。

通常の医療機関(時間外労働が年間960時間・月100時間未満)においては、上記①~③は努力義務ですが、特定労務管理対象機関においては、医療機関の法的義務となるため、注意が必要です。

【医療機関の種別と規制の概要まとめ】

種別時間外労働の上限追加的健康確保措置
通常の医療機関
(A水準対象機関)
年間960時間
月100時間未満
・面接指導
・就業上の措置
→法的義務

・連続勤務時間制限28時間
・勤務間インターバル9時間
・代償休息
→努力義務
特定労務管理対象機関特定地域医療提供機関
(B水準対象機関)
年間1860時間
月100時間未満
・面接指導
・就業上の措置
→法的義務

・連続勤務時間制限28時間
・勤務間インターバル9時間
・代償休息
→法的義務
連携型特定地域医療提供機関
(連携B水準対象機関)
技能向上集中研修機関
(C-1水準対象機関)
特定高度技能研修機関
(C-2水準対象機関)

③医療機関勤務環境評価センターの設置

今回の改正法により「医療機関勤務環境評価センター」が設置されることになります(厚生労働大臣が指定)。2022年7月13日時点では公益社団法人日本医師会が指定されています。

同センターは、医療機関における勤務医の労働時間短縮のための取組み等を評価するという業務を行います。また、都道府県が特定労務管理対象機関を指定する際、同センターによる評価の結果を踏まえることとされています。

医師の働き方改革に向けて検討すべきこと

応招義務との関係

医療現場において、時間外労働の上限規制と応招義務との関係が問題になるケースも想定されます。

この点について、厚生労働省の通知(「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号 令和元年12月25日))では、以下のとおり記載があります。

勤務医が、医療機関の使用者から労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等を受けた場合に、結果として労働基準法等に違反することとなることを理由に医療機関に対して診療等の労務提供を拒否したとしても、(中略)応招義務違反にはあたらない。

「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」医政発1225第4号 令和元年12月25日

もちろん、上記の記載は「勤務医が応招義務違反にならない」という点を明確化したもので、医療機関として応招義務違反にならないかは別途検討する必要があります。

このような場合、時間外労働の上限規制を理由に、勤務医が診療を拒否するような状況がある、つまり、医療機関として患者に対して十分な医療を提供することができないと判断できます。とすれば、医療機関として、上記を理由に診療を拒否したとしても、原則として応招義務違反とはならないと考えるべきでしょう。

適切な分業体制(いわゆるタスク・シフト/シェア)の整備

医師の長時間労働の原因として、人員不足以外にも

といった事情があげられています(厚生労働省「平成29年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」)。

医師でなくとも対応可能な業務を洗い出し、適切な分業体制を組んでいく必要があるでしょう(もちろん、結果として、看護職を含めた他業種の長時間労働が生じてしまっては本末転倒ですが)。

この記事のまとめ

先にも述べたように、時間外労働の上限規制をはじめとする「医師の働き方改革」は、医師の長時間労働に支えられていた現状を大きく変えるものであって、他業種を含めた現場のコンセンサスがカギになります。

医師労働時間短縮計画を作成する必要がある特定労務管理対象機関だけでなく、同計画作成のガイドライン等を参照して、一般の医療機関でも勤務体制の見直しを図っていくべきでしょう。

参考文献

厚生労働省「医師の働き方改革について」

厚生労働省「平成29年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」