権利主体とは?権利能力の発生要件・
意思能力や行為能力との違い・
事業者の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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契約などによって権利を取得し、義務を負うことができるのは、権利能力を有する者のみです。
具体的には存命中の人(自然人)と法人が権利能力を有し、契約締結等を行うことができます。これに対して、組合や権利能力なき社団は権利能力を有さず、契約当事者になれない点に注意が必要です。
事業者が契約を締結する際には、相手方が実在の会社(または個人)であることを必ず確認しましょう。また、組合や権利能力なき社団の名義による契約締結は、当事者が誰であるか曖昧になるので避けるべきです。
この記事では、契約等の権利主体について、権利能力の発生要件や企業の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年5月23日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
権利主体とは
「権利主体」とは、法的に権利能力を有する者をいいます。権利主体は、契約などに基づいて権利を取得し、または義務を負うことができます。
例えば事業について原材料の仕入れをする場合、その原材料について売買契約を締結します。このとき、売買契約の当事者になることができるのは、権利能力を有する者(=権利主体)のみです。
後述するように、個人事業主や会社は権利主体であるため、売買契約の当事者になれます。これに対して、組合や権利能力なき社団は権利主体でないため、売買契約の当事者になれません。
特にビジネスの場面では、契約(取引)や不法行為(権利侵害)の相手方が誰であるかを確定する上で、権利主体であるか否かを意識する必要があります。
権利能力を有する者・有しない者
権利能力を有する者・有しない者は、民法などによって以下のように整理されています。
●権利能力を有する者
・人(自然人)
・法人
●権利能力を有しない者
・組合
・権利能力なき社団
・人間以外の動物
・胎児(例外あり)
・亡くなった人
など
権利能力を有する者
権利能力を有するのは、「人(自然人)」と「法人」です。
人(自然人)
生物である人間は、法律上は「人」または「自然人」と呼ばれます。
人(自然人)は、皆平等の権利能力を有するというのが民法の原則です。このことは、「私権の享有は、出生に始まる」(民法3条1項)という規定で端的に表現されています。
知的能力の高低に関わらず、人であれば皆等しく権利能力を有します。
ただし外国人については、法令または条約の規定によって、一部の権利能力が制限されます(同条2項。例えば、日本の船舶や航空機の所有が制限されているなど)。
法人
「法人」が成立した場合には、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内で権利能力を獲得します(民法34条)。
法人とは、自然人以外の者であって、法律により権利義務の主体となり得る資格を認められたものです。日本では、例えば以下のような法人が認められています。
- 法人の例
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・会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)
・一般社団法人
・公益社団法人
・一般財団法人
・公益財団法人
・宗教法人
・学校法人
・弁護士法人
・税理士法人
・司法書士法人
・特定非営利活動法人(NPO法人)
など
権利能力を有しない者
権利能力を有しない者は、「組合」や「権利能力なき社団」、さらに人間以外の動物・胎児・亡くなった人などです。
組合
事業を営むなどの目的で、個人または法人の間で組合契約を締結することがあります。この場合、契約当事者間の関係性は「組合」「任意組合」「パートナーシップ」などと呼ばれます。
しかし、組合には権利能力が認められていません。
そのため、組合自体が契約当事者になることはできません。組合が関わる契約を締結する際には、組合の構成員を当事者とする必要があります。
また、組合の財産は構成員の合有(共有状態の一種、各構成員に持分が認められる)と解されており、組合自体が所有するわけではありません。
権利能力なき社団
「権利能力なき社団」とは、代表者の行為によって構成員全体のために権利を取得し、義務を負担する社団です(最高裁昭和39年10月15日判決参照)。判例上は、以下の要件を満たす団体が権利能力なき社団であると解されています。
- 権利能力なき社団の要件
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① 団体としての組織を備えていること
② 多数決の原則が行われていること
③ 構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること
④ 代表の方法・総会の運営・財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること
権利能力なき社団には、その呼称のとおり権利能力がありません。権利能力なき社団の代表者の行為によって権利を取得し、義務を負うのは各構成員です。
また、権利能力なき社団の財産は構成員の総有(共有状態の一種、各構成員に持分は認められない)と解されており、権利能力なき社団自体に所有権はありません。
人間以外の動物
人間以外の動物には、権利能力が認められていません。
例えば犬におもちゃをプレゼントしたとしても、そのおもちゃは犬の所有物ではありません(飼主などの所有物です)。
胎児・亡くなった人
人の権利(私権)は出生に始まり、死亡によって終了すると解されています。
したがって、出生前の胎児と亡くなった人には権利能力がありません。ただし後述するように、胎児については例外的に権利能力が認められる場合があります。
権利能力の始期・終期
人(自然人)・法人の権利能力の始期(発生する時期)と終期(終了する時期)は、それぞれ以下のとおりです。
●人(自然人)
始期:出生時
終期:死亡時(失踪宣告による場合を含む)
●法人
始期:成立時
終期:清算結了時
権利能力の始期
権利能力の始期は、自然人の場合は出生時(民法3条)、法人の場合は成立時とされています。
「出生」の時期については、民法上は全部露出説が通説です。すなわち、胎児の身体が母体から全部露出した時点で「出生」となり、その時点から権利能力を獲得します。
出生前の胎児にも、権利能力が認められる場合がある
ただし例外的に、以下の場合には出生前の胎児にも権利能力が認められます。
① 不法行為
胎児が母体にいる間に、不法行為によって損害を受けた場合には、胎児が加害者に対する損害賠償請求権を取得します(民法721条)。
(例)妊娠中の女性が暴行を受け、胎児に障害が残った場合
② 相続
胎児が母体にいる間に相続が発生した場合、胎児も相続権を取得できます(民法886条)。
(例)胎児が母体にいる間に、胎児の父親が死亡した場合
③ 遺贈
胎児を受遺者とする遺贈(遺言による贈与)も認められています(民法965条)。
(例)これから生まれてくる胎児に財産を与える旨の遺言をする場合
なお、胎児の権利能力については「停止条件説」が判例・通説となっています(大審院昭和7年10月6日判決)。
すなわち、胎児が存命で生まれてくれば、上記の事由が発生した時に遡って権利を取得します。これに対して、胎児が死産となった場合には、最初から権利能力が発生しなかったことになります。
権利能力の終期
権利能力の終期は、自然人の場合は死亡時(失踪宣告による場合を含む)、法人の場合は清算結了時です。
自然人は死亡によって権利能力を失うので、亡くなった人には権利能力がありません。例えば亡くなった人に対して「お世話になったから」と高価な品を供えても、それは亡くなった人の所有物ではなく、遺族などの所有物となります。
なお、行方不明等により死亡の事実が確認できない場合を想定して、失踪宣告の制度が設けられています。
不在者の生死が7年間(危難に遭遇した場合は1年間)明らかでないときは、利害関係人の請求によって家庭裁判所が失踪宣告の審判を行います(民法30条)。失踪宣告の審判がなされた場合、その者は死亡したものとみなされ、権利能力を失います(民法31条)。
もし失踪者が生存していた場合、権利能力を回復するためには、家庭裁判所に請求して失踪宣告取消しの審判を受けなければなりません(民法32条)。
法人については、権利能力の終期は解散時ではなく、清算結了時とされています。解散後は財産の処分・債務の弁済・残余財産の分配など、権利能力を前提とする手続きがまだ残っているからです。
権利能力と意思能力・行為能力の関係性・違い
権利能力以外に、法律上の「能力」として挙げられるのが「意思能力」と「行為能力」です。
権利能力と意思能力の関係性・違い
「意思能力」とは、法律上有効な意思表示をする能力のことです。意思能力を有するか否かは、自分自身の行為の結果を判断し得る精神状態・精神能力があるか否かによって判断されます。
意思能力がない状態でなされた法律行為は無効です(民法3条の2)。
ただし、意思能力のない人も人(自然人)であるため、権利能力を有します。法定代理人や成年後見人などが代わりに法律行為をすれば、意思能力のない人でも権利を取得し、義務を負うことができます。
権利能力と行為能力の関係性・違い
「行為能力」とは、法律行為を単独で確定的かつ有効に行うことができる能力です。
実質的な能力の有無によって判断される意思能力とは異なり、行為能力の有無は類型的に決まります。具体的には、以下の者(=制限行為能力者)は行為能力が制限されています。
① 未成年者(民法4条・5条)
18歳未満の者です。
未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければなりません。法定代理人の同意がない未成年者の法律行為は、取り消すことができます。
② 成年被後見人(民法7条)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるとして、家庭裁判所によって後見開始の審判を受けた者です。
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができます(日常生活に関する行為を除く)。その代わりに、サポート役である成年後見人が、成年被後見人を代理して法律行為を行います。
③ 被保佐人(民法11条)
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であるとして、家庭裁判所によって保佐開始の審判を受けた者です。
被保佐人が一定の重要な法律行為をする際には、保佐人の同意を得なければなりません。保佐人の同意がない場合、当該行為を取り消すことができます。
④ 被補助人(民法15条)
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分であるとして、家庭裁判所によって補助開始の審判を受けた者です。
被補助人が家庭裁判所の審判で個別に定められた法律行為をする際には、補助人の同意を得なければなりません。補助人の同意がない場合、当該行為を取り消すことができます。
制限行為能力者も人(自然人)であるため、権利能力を有します。上記のとおり、必要な同意を得るなどして法律行為をすれば、制限行為能力者も有効に権利を取得し、義務を負うことが可能です。
権利主体(権利能力)に関する事業者の注意点
事業者は、取引先との間で契約を締結するに当たって、権利主体(=権利能力を有する者)が誰であるかを意識すべき場合があります。
相手方が実在の会社であることを確認する
事業者が契約を締結する際には、必ず相手方が実在の会社であることを確認しましょう。相手方が架空の会社や法人格を有しない団体などである場合、その相手方は契約当事者になることができないからです。
相手方が実在の会社であることを確認するためには、全部事項証明書の提示を求めることなどが考えられます。
組合や権利能力なき社団の名義による契約締結は避ける
取引の相手方から、組合や権利能力なき社団の名義による契約の締結を求められることがあるかもしれません。
しかし前述のとおり、組合や権利能力なき社団には権利能力がないため、契約当事者になることができません。代表者を定めてその者が構成員全員の代理人となることは可能ですが(民法670条の2)、その場合も組合自体が登記の主体となることはできません。
もし組合や権利能力なき社団(またはその代表者)を相手方とする契約を締結した場合、法的には構成員全員との間に契約関係が生じると考えられます。しかし、それでは非常に煩雑ですし、契約上の義務の履行を請求することも困難になってしまいます。
取引に関する契約は、基本的には権利主体である法人または個人と締結すべきです。やむを得ず組合等(の構成員)と契約を締結する場合には、締結者の代理権を委任状等によって確認し、さらに組合員全員が契約上の債務を連帯して負担する旨を明記するなど、契約に関するリスク管理を徹底しましょう。
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