【2020年10月施行】
建設業法改正とは?改正ポイントを解説!
(新旧対照表つき)
- この記事のまとめ
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改正建設業法(2020年10月1日施行)のポイントを解説!!
「建設業法及び入契法の一部を改正する法律」(2019年6月12日公布)では、働き方改革の促進・建設現場の生産性の向上をめざして、建設業法が改正されました。
施行日は、改正点に応じて異なるものとなっています。
この記事では、主に、2020年10月1日に施行される改正点について解説します。
法改正に対応した「建設工事請負契約」のレビューポイントは、こちらの記事をご覧ください
※この記事は、2021年7月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・建設業法…2020年10月施行後の建設業法(昭和24年法律第100号)
・旧建設業法……2020年10月施行前の建設業法(昭和24年法律第100号)
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目次
2020年10月施行の改正建設業法とは?
改正の目的
今回の法改正の背景について、国土交通省は次のように述べています(ハイライトは筆者が付しました)。
建設業は、我が国の国土づくりの担い手であると同時に、地域の経済や雇用を支え、災害時には最前線で地域社会の安全・安心を確保するなど、「地域の守り手」として、 国民生活や社会経済を支える上で重要な役割を担っています。
国土交通省ウェブサイト
一方で、建設業においては、長時間労働が常態化していることから、 工期の適正化などを通じた「建設業の働き方改革」を促進する必要があります。
また、現場の急速な高齢化と若者離れが進んでいることから、 限りある人材の有効活用などを通じた「建設現場の生産性の向上」を促進する必要があります。
さらに、平時におけるインフラの整備のみならず、災害時においてその地域における復旧・復興を担うなど 「地域の守り手」として活躍する建設業者が今後とも活躍し続けることができるよう事業環境を確保する 必要があります。
このため、 「建設業の働き方改革の促進」「建設現場の生産性の向上」「持続可能な事業環境の確保」 の観点から、建設業法・入契法を改正しました。
すなわち、今回の改正の目的は、次の3点です。
- 建設業法の改正の目的
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①建設業の働き方改革の促進
②建設現場の生産性の向上
③持続可能な事業環境の確保
以下、それぞれの目的について解説します。
①建設業の働き方改革の促進
2020年4月働き方改革関連法の施行に伴い、労働基準法が改正されたことを受けて、建設業界においても、2024年4月から時間外労働の上限が設けられるようになりました。 さらに、建設業法も、建設業の働き方改革を促進させる内容に変更されることとなりました。
②建設現場の生産性の向上
現在、60歳以上の高齢の建設技能労働者は、約82万人いるとされています。 これは、全体の建設技能労働者数のおよそ25%を占める人数です。 他方で、30歳未満の建設技能労働者は、約36万人しかいません。
将来、高齢の建設技能労働者が、大量に離職することが想定されますが、これを補う若手の建設技能労働者の人数は追いついていません。 今後、建設業界における人手不足の問題は深刻になっていくことが想定されます。 そこで、数に限りのある人材を有効的に活用するための施策が必要とされています。
③持続可能な事業環境の確保
近年、全国的に相次ぐ災害に見舞われました。 建設業は、そのような災害時において、地域を復旧・復興させて、国民の生活の安全・安心を確保する役割を担ってきました。 今後も、建設業は、いわゆる地域の「守り手」として活躍されることが期待されており、建設業者が活躍しやすい事業環境を整えることが必要とされています。
公布日・施行日
改正の根拠となる法令名は、 「建設業法及び入契法の一部を改正する法律」(令和元年法律第30号) です。
この法令によって、建設業法だけでなく、入契法も改正がなされました。 施行日は、改正点によって、異なりますので注意しなければなりません。
公布日と施行日は、それぞれ次のとおりです。
目的 | 改正された内容 | 施行日 | |
---|---|---|---|
建設業の働き方改革の促進 | 中央建設審議会が、工期の基準を作成するルールを新設する | 34条 | 2019年9月1日 |
注文者に、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止する | 19条の5 | 2020年10月1日 | |
注文者に、工期に影響を及ぼす事項について、事前の情報提供義務を課す | 20条の2 | ||
建設業者に、工程の細目を明らかにして見積もりを行う努力義務を課す | 20条 | ||
元請に、下請代金のうち「労務費相当分」を現金払いとする義務を課す | 24条の3 | ||
請負契約の書面の記載事項に、「工期を施工しない日・時間帯」の定めを追加する | 19条 | ||
建設現場の生産性の向上 | 工事現場の技術者(元請の監理技術者・下請の主任技術者)のルールを合理的にする | 26条,26条の3 | |
認可行政庁が、建設資材製造業者に対して、改善勧告・命令ができるようになる | 41条の2 | ||
持続可能な事業環境の確保 | 許可要件から「5年以上の経験者」を除外し、経営業務管理責任者に関するルールを合理的にする | 7条 | |
合併・事業譲渡等に際して、事前認可手続きを新設し、円滑に事業承継できる仕組みを構築する | 17条の2,17条の3 | ||
その他 | 下請が元請の違法行為を密告したときに、元請が、下請を不利益に取り扱うことを禁止する | 24条の5 | |
工事現場における下請の建設業許可証掲示義務を緩和する | 40条 | ||
建設業者に、建設工事に必要な知識・技術の向上の努力義務が課される | 25条の27 | 2019年9月1日 | |
建設業者に、災害時における公共団体等と連携する努力義務が課される | 27条の40 | ||
技術検定の見直し等 | – | 2021年4月1日 |
建設業法改正の概要
概要は、大きく次の11つのポイントとなります。
- 改正ポイント(11つ)
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ポイント1
ポイント2
注文者に、工期に影響を及ぼす事項について、事前の情報提供義務を課す
ポイント3
建設業者に、工程の細目を明らかにして見積もりを行う努力義務を課す
ポイント4
元請に、下請代金のうち「労務費相当分」を現金払いとする義務を課す
ポイント5
請負契約の書面の記載事項に、「工事を施工しない日・時間帯」の定めを追加する
ポイント6
工事現場の技術者(元請の監理技術者・下請の主任技術者)のルールを合理化する
ポイント7
認可行政庁が、建設資材製造業者に対して、改善勧告・命令ができるようになる
ポイント8
許可要件から「5年以上の経験者」を除外し、経営業務管理責任者に関するルールを合理化する
ポイント9
合併・事業譲渡等に際して、事前認可手続きを新設し、円滑に事業承継できる仕組みを構築する
ポイント10
下請が元請の違法行為を密告したときに、元請が、下請を不利益に取り扱うことを禁止する
ポイント11
改正のポイント
11のポイントについて、一つ一つ解説します。
ポイント1│注文者に、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止する
今回の改正では、注文者に、通常必要と認められる期間に比して「著しく短い工期」による請負契約を締結することが禁止されます。
「著しく短い工期」とはどのように判断されるのでしょうか??
工期は、工事の内容や従事する作業員の数、利用される資材の種類によって変わるものです。 <建設を行うときには、これらを勘案して、工期を定めることになります。
そこで、国交省では、 認可行政庁(国土交通大臣/都道府県知事)が次の事項を個別に判断する ものと示しています(番号は筆者が付しました)。
①休日や雨天による不稼働日など、中央審議会建設業において作成した工期に関する基準で示した事項が考慮されているかどうかの確認
国土交通省「新・担い手三法について~建設業法・入契法・品確法の一体的改正について」P.12
②過去の同種類似工事の実績との比較
③建設業者が提出した工期の見積もりの内容の精査
中央審議会建設業において作成した工期に関する基準とは?
では、「著しく短い工期」を判断するときに参照される 「中央審議会建設業において作成した工期に関する基準」 とはどのようなものでしょうか??
これは、2019年9月1日施行の改正により、中央建設審議会が作成することになった「工期に関する基準」のことです(建設業法34条2項)。 現在、中央審議会では、ワーキンググループが設置され、基準を検討しています(2020年7月30日現在)。 なお、国交省では、策定する基準のイメージをまとめています。
違反した場合、どうなるか?
注文者は、 請負代金が500万円(建築一式工事では1500万円)以上である場合 (施行令5条の8)、著しく短い工期による請負契約を締結したときに、認可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)から勧告を受けることになります(建設業法19条の6第2項)。
この勧告に従わない場合は、企業名を公表されることになります(同条3項)。
ポイント2│注文者に、工期に影響を及ぼす事項について、事前の情報提供義務を課す
改正により、注文者は、建設工事について、「工期等に影響を及ぼす事項」があるときは、 請負契約を締結するまでに、建設業者に必要な情報を提供しなければなりません。
「工期等に影響を及ぼす事項」については、今後、国土交通省令で定められる予定です。 国土交通省では、想定される事項を資料にまとめています。
ポイント3│建設業者に、工程の細目を明らかにして見積もりを行う努力義務を課す
改正により、建設業者は、工程の細目を明らかにして、工程ごとの作業日数を明らかにして見積もりを行うよう努めなければなりません。
ポイント4│元請に、下請代金のうち「労務費相当分」を現金払いとする義務を課す
改正により、元請負人は、下請代金のうち、「労務費相当分」を現金払いで支払わなければなりません。
現金を手渡しするだけでなく、銀行振り込みや銀行振出小切手による支払いであっても、現金払いとして扱われます。
ポイント5│請負契約の書面の記載事項に、「工事を施工しない日・時間帯」の定めを追加する
改正により、建設業者と注文者は、「工事を施工しない日・時間帯」を定めるときは、これを建設工事請負契約に記載なければなりません。
契約に定める方法は、こちらの記事で解説しています。
ポイント6│工事現場の技術者(元請の監理技術者・下請の主任技術者)のルールを合理化する
元請の監理技術者のルールの合理化
旧法では、建設工事の代金額が3500万円(一式工事の場合は、7000万円)以上である場合、現場に、 専任の監理技術者を置かなければなりませんでした。 監理技術者は、一つの現場にのみ配置され、2つ以上の現場を兼務することができませんでした。
新法では、建設現場の生産性を向上させるために、監理技術者は、一定の要件をみたす補佐する者を現場に置いたときは、複数の現場を兼務することができることになりました。
補佐する者の要件は、 主任技術者要件を満たす者であって、監理技術者の職務に係る基礎的な知識・能力を有すること です(建設業法施行令28条)。 また、兼務できる現場の数は、最大2つとなっています(同令29条)。
下請の主任技術者のルールの合理化
旧法では、下請け業者は、工事現場に、主任技術者を置く義務がありました。 そのため、次のような場合であっても、再下請先は、主任技術者を置かなければなりませんでした。
・元請が、一次下請に再下請けした場合
・一次下請が、二次下請・三次下請に再下請けした場合
しかしながら、主任技術者は、工事が技術的に適正に施工されるように管理する役割を担うものです。
そのため、再下請する側の主任技術者が、再下請先の施工管理を担うのであれば、再下請先が主任技術者を置く必要はないはずです。
新法では、「特定専門工事」については、当事者間で「一次下請の主任技術者が、再下請の技術上の施工管理を行うこと」を合意したときは、再下請先が主任技術者を置く必要はないことになりました。
「特定専門工事」とは、建設業法施行令に定められており、下請代金の合計額が3500万円未満の鉄筋工事・型枠工事となります(同令30条)。
ポイント7│認可行政庁が、建設資材製造業者に対して改善勧告・命令ができるようになる
従来、施工不良が発生した場合、認可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)は、建設業者に対して指示を行っていました。 これは、施工不良の原因が、工事に使われていた資材にあった場合であっても同様です。
そのため、 資材の欠陥があった場合であっても、認可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)は、資材の製造業者に対して、 何ら改善勧告・命令を行うことができませんでした。
新法では、資材の欠陥によって施工不良が発生したときは、認可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)は、建設業者への指示のみならず、資材の製造業者に対して、改善勧告・命令ができるようになりました。
ポイント8│許可要件から「5年以上の経験者」を除外し、経営業務管理責任者に関するルールを合理化する
従来、建設業を経営するためには、「過去5年以上の経験者が役員にいること」が必要でした。
新法では、このような要件を廃止し、「事業者全体として適切な経営管理責任体制となっていること」に改めました。
ポイント9│合併・事業譲渡等に際して、事前認可手続きを新設し円滑に事業承継できる仕組みを構築する
改正ポイントは、次の2点です。
- 合併・事業譲渡に関する見直し
- 相続に関する見直し
①合併・事業譲渡に関する見直し
旧法では、建設業者が、事業の譲渡・会社の合併・分割を行った場合、新たに建設業の許可を取得する必要がありました。 そのため、新しい許可が下りるまで、建設業を営むことができないという不都合が生じていました。 新法では、このような不都合を解消するため、 事業の譲渡・会社の合併・分割を行うときの事前認可の手続きを新設し、 円滑に建設業の許可を承継させることができるように見直しました。
②相続に関する見直し
建設業者が個人事業主であった場合、旧法では、 個人事業主の死後、相続人は、建設業の許可を受けるまでは建設業を営むことができない という不都合がありました。 新法では、このような不都合を解消するため、 個人事業主の死後30日以内における相続の認可手続きを新設しました。 これにより、相続人は、個人事業主の死後30日以内に認可を申請すれば、処分(行政庁からの許可又は不許可の通知)がなされるまで、建設業の許可を受けたものとして扱われます。認可の申請に対して、許可がなされた場合、建設業を継続することができます。
ポイント10│下請が元請の違法行為を密告したときに、元請が、下請を不利益に取り扱うことを禁止する
従来、元請が違反行為を行った場合、下請は、 元請から不利に取り扱われることをおそれて、許可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)や公正取引委員会に元請の違反行為を通報することを躊躇する 傾向にありました。 新法では、下請が、許可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)や公正取引委員会に元請の違反行為を通報した場合であっても、 これを理由として、下請を不利に取り扱うことが禁止されることになりました。
具体的には、元請が、次のような違反行為を行った場合が想定されます。
- 不当に低い請負代金の禁止(建設業法19の3)
- 不当な使用機材等の購入強制の禁止(同法19の4)
- 請負代金の期間内の支払い義務(同法24条の3第1項)
- 期間内の検査や引渡しを受ける義務(同法24条の4)
- 特定建設業者の下請代金の支払い義務(同法24条の6第3項、4項)
ポイント11│工事現場における下請の建設業許可証掲示義務緩和
従来、建設業者は、必ず「建設業許可証」を現場に掲示する義務がありました。 そのため、 再下請先(元請から再下請けされた一次下請/一次下請から再下請された二次下請)も、 現場に「建設業許可証」を掲示しなければなりませんでした。 新法ではこれを廃止し、元請のみ、「建設業許可証」を掲示すれば足りるものとされました。
なお、元請は、現場に、「建設業許可証」とともに「施行体系図」を掲示する義務があります。 今後、再下請先を明らかにする必要性があることから、この「建設業許可証」と「施行体系図」の記載事項を改正することが検討されています。
【解説つき】改正前と改正後の建設業法の条文を新旧対照表で比較
それでは、改正点について、条文を確認しましょう。解説つきの新旧対照表をご用意しました。 以下のページからダウンロードできます。
〈サンプル〉
実務への影響
注文者の立場としては、相手方である建設業者が事業承継や相続をする予定があるときは、事前手続きに則っているかどうかを確認すると安全です。 建設業者の立場としては、これらの事前手続きを利用してスムーズに承継できるように準備しましょう。 また、 今回の改正は、契約に必ず定めるべき事項が追加されているため、契約書レビューで注意しなければなりません。
法改正に対応した「建設工事請負契約」のレビューポイントは、こちらの記事をご覧ください。