有休消化とは?
年5日の取得義務・退職時はできる?
労働基準法のルールなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「有休消化」とは、労働者が有給休暇を取得することをいいます。
退職直前の時期に有給休暇を取得することを特に「有休消化」と呼ぶケースが多いですが、退職の予定がない時期における通常の有給休暇の取得も「有休消化」と呼ばれることがあります。有休消化の申請を受けた企業は、原則として拒否することができません。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に有給休暇を与えることができます(=時季変更権)。
有休消化を理由に、使用者が労働者を不利益に取り扱うことは違法です。また、使用者には、年5日の有給休暇を取得させる義務があります。この記事では有休消化について、労働基準法のルールや企業の注意点などを解説します。
※この記事は、2025年2月6日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
有休消化とは
「有休消化」とは、労働者が有給休暇を取得することをいいます。
退職直前の時期に有給休暇を取得すること(残っている有給休暇を使い切ること)を特に「有休消化」と呼ぶケースが多いですが、退職の予定がない時期における通常の有給休暇の取得も「有休消化」と呼ばれることがあります。
有給休暇(有休)とは
有給休暇(有休)とは、勤続年数などに応じて労働者に付与される有給の休暇です。雇入れから6カ月が経過した時点で最初に付与され、その後は1年ごとに付与されます。
有給休暇が認められているのは、労働者が心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を送れるようにするためです。労働者は原則として、付与された有給休暇を自由に取得(消化)することができます。
使用者には、年5日の有給休暇を取得させる義務がある
使用者は、1年間に付与される有給休暇の日数が10日以上である労働者に対し、最低でもそのうち5日間の有給休暇を与える義務があります(=時季指定義務)。有給休暇の取得率が低い状況を改善するため、2019年4月から施行された規定です。
以下の日数の合計が5日に満たない労働者については、使用者が時季を指定して不足日数分の有給休暇を与えなければなりません(労働基準法39条7項・8項)。
- 労働者が自ら請求して取得した有給休暇の日数
- 労使協定によって時季が指定された有給休暇の日数
有休消化は労働者の権利|使用者は拒否できない
有休消化をすることは、労働者の権利です。使用者は原則として、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければなりません(労働基準法39条5項本文)。
後述するように、例外的に時季変更権が認められるケースもありますが(同項但し書き)、あくまでも請求された有給休暇の時季を変更できるだけです。有休消化そのものを拒否することはできません。
労働者の判断で有休消化をしないのはOK|ただし権利放棄の強制はできない
有休消化は労働者の権利であるところ、使用者に時季指定義務がある5日間を除き、労働者の判断によって有休消化をしないことは問題ありません。
ただし、使用者が労働者に圧力をかけて、有休消化をさせないようにすることは違法です。
「繁忙期だから」「人が足りないから」などの事情があったとしても、時季変更権(後述)が認められるケースを除き、請求されたとおりの時季に有給休暇を与えなければなりません。
有給休暇の付与対象者・付与日数・時効
有給休暇については、労働基準法によってルールが定められています。その中でも基本的なポイントとして、有給休暇の付与対象者・付与日数・時効について解説します。
有給休暇の付与対象者|6カ月間継続勤務・出勤率8割以上
有給休暇が付与されるのは、雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者です(労働基準法39条1項)。
正社員だけでなく、パートやアルバイトにも付与される
有給休暇は、「6カ月間継続勤務」「出勤率8割以上」の要件を満たした全ての労働者に付与されます。
正社員に限らず、非正規社員にも有給休暇が付与されます。パートやアルバイトも、上記の要件を満たせば有給休暇の付与対象となります。
出勤率の計算上、出勤したものとみなされる期間
出勤率の計算に当たっては、実際に出勤した日のほか、以下の期間も出勤したものとみなされます(労働基準法39条10項)。
- 労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
- 育児休業をした期間
- 介護休業をした期間
- 産前産後休業をした期間
有給休暇の付与日数
有給休暇が付与される日数は、以下の要素によって決まります。
- フルタイム労働者か、パートタイム労働者か
- 継続勤務期間
- (パートタイム労働者の場合)所定労働日数
フルタイム労働者に付与される有給休暇の日数
以下のいずれかに該当する労働者は、有給休暇との関係でフルタイム労働者として扱われます。
- 有給休暇に関するフルタイム労働者の要件
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① 1週間の所定労働日数が5日以上
② 1年間の所定労働日数が217日以上
③ 1週間の所定労働時間が30時間以上
フルタイム労働者に付与される有給休暇の日数は、継続勤務期間に応じて以下のとおりです(労働基準法39条2項)。
継続勤務期間 | 付与される有給休暇の日数 |
---|---|
6カ月 | 10日 |
1年6カ月 | 11日 |
2年6カ月 | 12日 |
3年6カ月 | 14日 |
4年6カ月 | 16日 |
5年6カ月 | 18日 |
6年6カ月以上 | 20日 |
パートタイム労働者に付与される有給休暇の日数
フルタイム労働者の要件にいずれも該当しない場合は、有給休暇との関係でパートタイム労働者として扱われます。
パートタイム労働者に付与される有給休暇の日数は、継続勤務期間と所定労働日数に応じて以下のとおりです(労働基準法39条3項、労働基準法施行規則24条の3第3項)。
1週間の 所定労働日数 | 4日 | 3日 | 2日 | 1日 | |
---|---|---|---|---|---|
1年間の 所定労働日数 | 169日以上 216日以下 | 121日以上 168日以下 | 73日以上 120日以下 | 48日以上 72日以下 | |
継続勤務期間 | 6カ月 | 7日 | 5日 | 3日 | 1日 |
1年6カ月 | 8日 | 6日 | 4日 | 2日 | |
2年6カ月 | 9日 | 6日 | 4日 | 2日 | |
3年6カ月 | 10日 | 8日 | 5日 | 2日 | |
4年6カ月 | 12日 | 9日 | 6日 | 3日 | |
5年6カ月 | 13日 | 10日 | 6日 | 3日 | |
6年6カ月以上 | 15日 | 11日 | 7日 | 3日 |
有給休暇は付与日から2年後に時効消滅する
労働者に付与された有給休暇は、付与日から2年が経過すると時効によって消滅します(労働基準法115条)。
例えば2024年4月1日に付与された有給休暇は、2026年3月31日まで取得可能です。
なお、有休消化の期間を2年間よりも短縮することは認められません(労働基準法13条)。これに対して、就業規則などで独自のルールを定め、有休消化の期間を2年間よりも延長することは認められます。
退職時の有休消化に関するルール
労働者が退職する際には、残っている有給休暇を消化する権利があります。有休消化期間中は出勤したものとみなされ、使用者は労働者に対して賃金を支払わなければなりません(労働基準法39条9項)。
「引継ぎが済んでいないから」などの理由で、労働者に有休消化をさせないようにすることは違法です。引継ぎが必要であるならば、引継ぎの期間と有休消化の期間を見越して退職日を決める必要があります。
また、退職直前の有休消化については、使用者は時季変更権(後述)を行使することができません。退職日より後に有給休暇を取得することはできないため、有休消化そのものを事実上拒否していることになるからです。
有休消化について、企業が注意すべきルール
労働者による有休消化に関して、企業は特に以下の2点に注意しましょう。
- 有休消化は拒否できない|ただし時季変更権が認められることがある
- 有休消化を理由とする不利益な取り扱いは禁止
有休消化は拒否できない|ただし時季変更権が認められることがある
有休消化は労働者の権利であり、使用者が有休消化そのものを拒否することはできません。
しかし、事業運営上の都合により、労働者に有給休暇を取得されたら困ってしまうというケースもあり得るでしょう。そのような場合には、使用者は「時季変更権」を行使できることがあります。
「時季変更権」とは、労働者から有給休暇の取得申請を受けた際、使用者側の都合によってその時季を変更することができる権利です(労働基準法39条5項但し書き)。
労働者が有給休暇を取得できる日を確保しつつ、使用者の事業運営にも支障を来さないような調整を行うことができるように、使用者に時季変更権が認められています。
使用者が時季変更権を行使できるのは、労働者が請求した時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合のみです。
時季変更権の行使が認められるケースと、認められないケースの具体例をそれぞれ紹介します。
時季変更権の行使が認められるケース
以下に挙げるようなケースにおいては、使用者による時季変更権の行使が認められると考えられます。
- 時季変更権の行使が認められるケース
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・代替人員を確保できない場合
→有給休暇の請求が直前に行われたなどの理由で、代替人員を確保することができない場合は、時季変更権を行使して別の日に有給休暇を与えることができます。・同じ時期に有給休暇の取得希望者が重なった場合
→複数の労働者が同時期に有給休暇を取得することにより、担当者がいなくなって業務が停滞してしまう場合は、時季変更権を行使して有給休暇の時季をずらすことが認められやすいです。・本人の参加が欠かせない業務がある場合
→労働者本人がいなければ行うことができない、または性質上本人の参加がきわめて重要である業務が生じる日に有給休暇の請求を受けた場合は、時季変更権を行使して取得日を変更することができます。
一例として、従業員研修の講師をする予定となっている場合や、責任者として担当していたプロジェクトが重大局面を迎えている場合などが挙げられます。・有給休暇が長期間にわたる場合
→事前の調整を適切に行うことなく、長期間にわたる有給休暇を請求された場合は、時季変更権を行使できる可能性が高いと思われます。
例えば、請求された有給休暇のうち一部を認めたうえで、残りを別の時季に与えるなどの対応が考えられます。
時季変更権の行使が認められないケース
これに対して、以下に挙げるようなケースにおいては、使用者による時季変更権の行使は認められません。
- 時季変更権の行使が認められないケース
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・時季変更の理由が漠然としている場合
→「繁忙期だから」「仕事が多くなりそうだから」など、有給休暇の時季を変更すべき理由が漠然としている場合は、時季変更権の行使は認められません。
時季変更権を行使できるのは、事業の正常な運営を妨げる具体的な事情がある場合のみです。・退職直前の時期である場合
→労働者が退職する場合、退職日までに残っている有給休暇を消化する権利があります。
退職直前の時期に有給休暇の取得申請を受けた場合、使用者は時季変更権を行使できません。退職後に有給休暇を取得することはできないところ、労働者に取得の機会を保障する必要があるためです。
有休消化を理由とする不利益な取り扱いは禁止
使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他の不利益な取り扱いをしてはいけません(労働基準法附則136条)。
例えば、以下のような不利益な取り扱いが禁止されます。
- 有休消化を理由とする不利益な取り扱いの具体例
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・賃金を減額する
・有給休暇を取得したことを、賞与査定のマイナス要素として考慮する
・有給休暇を取得したことを理由に、皆勤手当を不支給とする
・解雇する
など
なお最高裁平成5年6月25日判決では、有休消化を理由とする不利益な取り扱いをしても、その効力が直ちに否定されるわけではないと述べられています。
しかしその一方で、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、労働者にその権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合には、不利益な取り扱いが公序良俗違反によって無効となり得ることを示唆しています。
また、有休消化を理由とする不利益な取り扱いをしていることが判明すると、労働基準監督署から是正勧告などを受ける可能性がある点にも十分ご注意ください。
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