詐欺罪とは?
構成要件・窃盗罪や横領罪との違い・
被害に遭った企業の対処法などを
分かりやすく解説!

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不祥事を防ぐ!内部通報体制の作り方
この記事のまとめ

詐欺罪」とは、人を欺いて財物や財産上不法の利益を得る行為などに成立する犯罪です。財物を交付させる類型は「1項詐欺罪」、財産上不法の利益を自ら得るまたは他人に得させる類型は「2項詐欺罪(詐欺利得罪)」と呼ばれます。

詐欺罪の構成要件は、
① 人を欺く行為(欺罔行為)
② 被害者の錯誤
③ 被害者による交付行為
④ 財物または財産上の利益の移転
の4つであり、これらの間に一連の因果関係が存在することが必要です。一連の因果関係が認められない場合は、詐欺未遂罪が成立するにとどまります。

詐欺罪は、同じく財産犯である「窃盗罪」や「横領罪」と比較されることもよくあります。

企業が関与する詐欺罪の例としては、以下のパターンなどが挙げられます。
・代金を払う気がないのに商品を発注した
・欠陥品であることを隠して商品を売った
・倒産状態であることを隠して融資を受けた

これらの詐欺被害に遭った起業は、刑事告訴や契約の解除・損害賠償請求などを行いましょう。

この記事では詐欺罪について、窃盗罪や横領罪との違い・構成要件・被害に遭った企業の対処法などを解説します。

ヒー

企業でも詐欺被害に遭うことってありますよね。もしそんなことになった場合、どうしたらいいのでしょうか…。

ムートン

相手の行為が「詐欺」と言えるかを確認して、迅速な対応を行いましょう。詐欺罪について解説していきます。

※この記事は、2023年11月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

詐欺罪とは

詐欺罪」とは、人を欺いて財物や財産上不法の利益を得る行為などに成立する犯罪です。

詐欺罪の種類|1項詐欺罪と2項詐欺罪

詐欺罪は、「1項詐欺罪」と「2項詐欺罪」の2種類に分類されます。

1項詐欺罪(刑法246条1項)は、人を欺いて財物を交付させる行為について成立します。例えば他人を騙して粗悪品を買わせて代金をだまし取る、「運用してあげる」などと偽って投資用資金を集めて使い込むなどの行為が、1項詐欺罪の典型例です。

2項詐欺罪(刑法246条2項)は、人を欺いて財産上不法の利益を得る行為について成立します。他人に得させた場合も同様です。2項詐欺罪は「詐欺利得罪」とも呼ばれます。例えば、代金を支払う気がないのにサービスを受けて踏み倒すなどの行為には、2項詐欺罪が成立します。

詐欺罪の法定刑

詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。窃盗(刑法235条)や恐喝(刑法249条)など、他人の財物を不当に奪う行為と同等の法定刑が設定されています。

詐欺罪の成立要件|4つの構成要件と一連の因果関係

詐欺罪は、以下の4つの構成要件をすべて満たし、かつ4つの間に一連の因果関係が存在する場合に成立します。

① 人を欺く行為(欺罔行為)
② 被害者の錯誤
③ 被害者による交付行為
④ 財物または財産上の利益の移転

人を欺く行為(欺罔行為)

人を欺く行為」とは、財物または財産上の利益を交付する者(=被害者)の錯誤を引き起こす行為、すなわち騙す行為です。「欺罔行為(ぎもうこうい)」とも呼ばれます。

人を欺く行為(欺罔行為)は、物または利益を「交付」させるためのものでなければなりません。
例えば嘘を言って相手の注意を逸らせて、その隙に所持品を持ち去った場合は、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立します(嘘が交付行為に向けられたものではないため)。

なお、積極的に嘘をつかなくても、相手が錯誤に陥っていることを知りながら黙っていた場合にも、人を欺く行為(欺罔行為)は認められることがあります(=不作為による欺罔)。
ただし、不作為による欺罔が認められるためには、不作為者に告知義務が存在することが必要です(例:生命保険契約を締結する際の疾患の告知義務、不動産売買契約を締結する際の抵当権に関する告知義務など)。

被害者の錯誤

錯誤」とは、交付行為者(被害者)の認識と事実が異なっている状態をいいます。

例えば違法な資産運用業者が、集めたお金を使い込む目的で、「運用してあげる」と偽って被害者から投資用資金を集めたとします。
この場合、被害者は「業者に運用してもらえる」と思ってお金を預けていますが、実際には業者は集めたお金を使い込む目的を有しており、被害者の認識と事実が異なっているので錯誤が認められます。

被害者による交付行為

詐欺罪が成立するには、被害者によって物または財産上の利益が交付されることが必要です。

交付」とは、行為者の意思に基づいて物または財産上の利益を移転することをいいます。
被害者は錯誤に陥っているため、その意思には瑕疵が存在するものの、ともかく被害者の意思に基づく物・財産上の利益の移転が生じたことが要件とされています。

これに対して、被害者の意思によらずに物または財産上の利益の移転が生じた場合は、物であれば窃盗罪の成否が問題となり、財産上の利益であれば不可罰となります。

財物または財産上の利益の移転

被害者の交付行為により、物または財産上の利益の加害者への移転完了したことをもって、詐欺罪は既遂となります。

例えば、詐欺によって騙された被害者が加害者に金銭を交付しようとしたものの、その場で加害者が取り押さえられて金銭を受け取れなかった場合は、財物の移転が完了していないので詐欺未遂罪が成立するにとどまります。

上記一連の因果関係

人を欺く行為(欺罔行為)・被害者の錯誤・被害者による交付行為・財物または財産上の利益の移転の4つが、一連の因果関係で繋がっている場合に限り、詐欺罪は既遂となります。

(例)
違法な資産運用業者が、集めたお金を使い込む目的で、「運用してあげる」と偽って出資を勧誘する(=人を欺く行為

被害者が騙されて「運用してもらえる」と勘違いする(=錯誤

「運用してもらえる(=錯誤)」と思ったため、被害者が違法業者に投資用資金を渡す(=交付行為

被害者から交付された投資用資金を、違法業者が受け取る(=財物の移転

これに対して、4つの構成要件の間の因果関係が1箇所でも途切れている場合は、詐欺罪は既遂とならず、詐欺未遂罪が成立するにとどまります。一例として、被害者は加害者の言動に騙されなかったものの、憐みの情から金銭を交付した場合には、詐欺未遂罪が成立します。

詐欺罪と窃盗罪・横領罪の違い

詐欺罪は、同じく財産犯である「窃盗罪」や「横領罪」と比較されることがよくあります。詐欺罪と窃盗罪・横領罪の違いは、それぞれ以下のとおりです。

詐欺罪と窃盗罪の違い

窃盗罪(刑法235条)は、被害者の意思に反して財物を奪う犯罪です。これに対して詐欺罪は、被害者が自ら財物等を交付することが要件とされています。

また、窃盗罪では財産上の利益の窃盗(=利益窃盗)が不可罰とされていますが、詐欺罪では財産上の利益を不法に得る行為も処罰の対象です。

詐欺罪と横領罪の違い

横領罪(刑法252条)は、他人から占有を委託された物を横領する犯罪です。

詐欺罪は被害者側が占有する物を交付させる行為について成立しますが、横領罪は加害者側が占有する物を横領する行為について成立し、両者の間では占有の所在が異なります。

横領罪については、自分が物を占有している状態であるため、誘惑的な要素が存在することを考慮し、詐欺罪よりも法定刑が軽く設定されています(5年以下の懲役)。
ただし、加害者の占有が業務上の原因による場合は、委託信任関係を裏切る行為の悪質性を踏まえて、「業務上横領罪」(刑法253条)として詐欺罪と同等の刑が科されます(10年以下の懲役)。

企業が関与する詐欺罪の具体例

ヒー

企業が詐欺に遭うのには、どんなパターンがあるでしょうか? 特殊な例ですよね?

ムートン

そうとも言い切れません。よくあるパターンをご紹介しましょう。

企業が関与する取引について詐欺罪が成立するケースとしては、以下の例が挙げられます。

① 代金を払う気がないのに商品を発注した
② 欠陥品であることを隠して商品を売った
③ 倒産状態であることを隠して融資を受けた

代金を払う気がないのに商品を発注した

企業が他社に対して商品を発注したときは、当然ながら代金を支払う義務を負います。

企業間の取引においては、いわゆる「掛け払い」がよく行われています。
本来であれば、売主は買主により代金が支払われるまで商品の引渡しを拒めますが(=同時履行の抗弁。民法533条)、実際には取引上の信頼関係に基づいて商品を先に引き渡し、代金を後払いとするケースが多いです。

こうした商慣習を悪用して、代金を払う意思がないのに商品を発注する企業が存在します。
このような発注行為は「人を欺く行為(欺罔行為)」に当たり、代金を払う意思があると信じた相手方から実際に商品の交付を受けた場合には詐欺罪(既遂)が成立します。
また、相手方が騙されなかった場合や、商品の交付を受けるに至らなかった場合には詐欺未遂罪が成立します。

欠陥品であることを隠して商品を売った

商品の売買契約を締結した売主は、買主に対して契約内容に従った商品を引き渡す義務を負います。

例えばジャンク品のように、欠陥品であることを売主も買主も織り込み済みで売買するケースもありますが、通常の売買契約においては、欠陥がない商品が売買の対象として想定されています。

したがって、売主が欠陥品であると知りながら、それを隠して買主に商品を売る行為は「人を欺く行為(欺罔行為)」に当たります。
この場合、欠陥がないと信じた買主から代金を受け取った場合は詐欺罪(既遂)が成立します。
また、買主が騙されなかった場合や、代金の支払いを受けるに至らなかった場合には詐欺未遂罪が成立します。

倒産状態であることを隠して融資を受けた

企業が融資を受ける際には、金融機関に対して財務状況などを正直に申告しなければなりません。

申告した財務状況について誤りがあった場合、金融機関は適正に融資審査を行うことができません。その結果、融資すべきでない企業に対して融資を行ってしまい、不当な貸し倒れリスクを負うおそれがあります。

特に悪質なのは、倒産状態であることを隠して融資を受けるようなケースです。この場合、借主である企業は金融機関を騙して融資金を受け取ったことになるため、詐欺罪が成立します。
仮に金融機関が騙されずに融資を受けられなかったとしても、詐欺未遂罪が成立します。

詐欺被害に遭った企業がとるべき対応

詐欺被害に遭ってしまった企業は、加害者の処罰を求めるため、または会社の損害を最小限に食い止めるため、迅速に以下の対応を行いましょう。

企業の詐欺被害対応

被害届または告訴状を提出する
契約解除する
不当利得返還請求または損害賠償請求を行う

被害届または告訴状を提出する

詐欺被害について捜査をしてもらうためには、警察署に対して被害届を提出しましょう。警察には強制捜査の権限があるため、早期に被害届を提出すれば、犯人の特定や返金等につながる可能性が高まります。

また、犯人の処罰を強く希望する場合には、検察官または警察官に対して告訴状を提出することも考えられます。被害届とは異なり、告訴状には「犯人の処罰を求める」意思表示が含まれているのが大きな特徴です。
刑事告訴を行えば、捜査の速やかな進展が期待できるほか、起訴処分または不起訴処分がなされた際に通知を受けることができます(刑事訴訟法260条)。また、不起訴処分がなされた際には、検察官に対してその理由の告知を請求することも可能です(同法261条)。

契約を解除する

取引相手による詐欺が判明したら、その取引に関する契約を直ちに解除しましょう。契約の解除は、その後の不当利得返還請求や損害賠償請求などの前提となる手続きです。

契約を解除する際には、解除した旨およびその日付などを明確化するため、内容証明郵便を送付するなど記録が残る方法をとりましょう。

不当利得返還請求または損害賠償請求を行う

詐欺の加害者との契約を解除した後は以下の請求を行って、詐欺により被った損害の回復を図りましょう。

①不当利得返還請求

契約の解除に伴い、不当利得として支払い済みの代金・引渡し済みの商品・実行済みの融資などの返還を請求できます。
詐欺の加害者は悪意の受益者に当たるため、不当利得として受けた利益に利息を付して返還しなければなりません(民法704条)。

②損害賠償請求

契約違反(債務不履行)または不法行為に基づき、詐欺によって被った損害の賠償を請求できます(民法415条1項・709条)。
不当利得の返還とは別に、詐欺被害への対応に要したコストや、業務上の信用が毀損された場合にはその代償など、幅広い事項について損害賠償を請求可能です。

ムートン

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